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獣人を率いる者
340話
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「うう……不覚……」
ロルフが心の底から深くといった具合で呟きながら、道を歩く。
クラリスの言霊によって強制的に眠らされたロルフだったが、起きるのもクラリスの言霊を使えばあっさりだった。
本来なら、クラリスは滅多に言霊を使うことはない。
だが、自分達に絡んで来た獣人だけならともかく、明らかにゴールスの味方をする気満々だった警備兵までをも相手にするとなると、それこそ面倒なことになるよりも前に、さっさと眠らせてしまった方が手っ取り早いと判断したのだろう。
今回の一件を考えると、無駄に時間を使えばそえだけ面倒なことになっていたのは間違いない。
クラリスとしては、ゴールスに会うと決めた以上は無駄な時間を使いたくはなかった。
自分の命を狙う相手。
一族の主導者としての地位を競い合う相手。
それでいながら、今までクラリスはゴールスに直接会ったことはない。
いや、クラリスが聞いた話によれば、まだ小さい頃……それこそクラリスがまだ産まれてからそう時間が経っていない頃に、何度か会ったことはあるらしい。
だが、クラリスにしてみれば、物心つく前のことで、そのような一件は全く記憶にないのだ。
そうである以上、ゴールスとはまだしっかりと会ったことがないとクラリスが考えるのは、そうおかしな話ではなかった。
「気にするなって。あんなのに逆らえる方が、おかしいぜ? ……言霊か。話には聞いてたが、とんでもない能力だってのは、事実らしいな」
落ち込んだ様子を見せるロルフに、励ますようにガーウェイが言う。
言霊という力については、知っていた。
だが、実際にそれを経験してみた身としては、心の底からとんでもない能力だと思ってしまう。
何しろ、眠れと言われた次の瞬間には、抵抗らしい抵抗もないままに眠ってしまい、次に起きたときはこちらもまたクラリスの言霊によって強制的に起こされたときだったのだ。
獣牙衆だろうがなんだろうが、何があっても全く関係はなかった。
クラリスの言葉を聞いた時点で、もう終わりなのだ。
そう考えれば、ゴールスがクラリスに会いたくないと思うのは、当然のことだった。
それこそ、ゴールスと会ったときに言霊で『自分に逆らうな』などと言われてしまえば、それは対処のしようがない。
まさに脅威と表現するのに相応しい能力だった。
(けど……)
ロルフを励ましながら、ガーウェイの視線は二人の人物に向けられる。
アランとレオノーラの二人。
双方共に、クラリスが使った言霊に抵抗し、眠らなかったと聞いている。
あの圧倒的な力に、一体どうやれば対抗出来るのか。
それは、ガーウェイにとって疑問でしかない。
あるいは、言霊に抵抗出来たのがレオノーラだけであれば、ガーウェイも納得出来たかもしれない。
しかし、言霊に耐えたのはレオノーラだけではなくアランもだ。
それも詳しい事情を聞けば、アランは最初から言霊が効かなかったのに対し、レオノーラは今日ようやく言霊に対抗出来るようになったらしい。
それはつまり、レオノーラよりもアランの方が言霊に対する抵抗力で上ということになる。
ガーウェイにとって、それはとてもではないが許容出来ないことだった。
……実際には、アランが言霊に抵抗出来たのは転生してきたアランが前世を持っているから、というのが大きい。
とはいえ、それはあくまでもアランがそうではないか? と思っているだけであって、何らかの確証がある訳ではない。
それでも今の状況を考えると、やはりアランとしては前世が理由だと考えるのは当然のことだった。
とはいえ、アランが前世を持っているというのは、アランとレオノーラだけの秘密だ。
それをガーウェイに話す訳もない。
「このあとは、邪魔者が出て来ないといいんですけどね」
ジャスパーが、周囲を警戒しながらそう呟く。
ジャスパーにしてみれば、ここで敵が出て来るというのは面白くない。
だからこそ、ゴールスの拠点に到着するまで、もう敵には出て来て欲しくないと思っているのだろう。
「多分、向こうもそう戦力は残ってないでしょうね。……いえ、正確には戦力はあるけど、今は手元にないというのが正しいと思うわ」
レオノーラのその言葉に、ジャスパーは少し考え、頷く。
「そうですね。ゴールスには獣牙衆という精鋭集団が従っていますが、それでも獣牙衆の全てが常にゴールスの側にいるとは考えられません。普通に考えれば、やはり護衛として腕利きを数人……といったところですか」
獣牙衆という精鋭を自由に扱えるようにすれば、厄介なのは間違いない。
だが、それはあくまでもそのようにした場合での話だ。
ゴールスの性格を考えると、数人くらいは自分の護衛として近くに置いているだろうが、残りは自分の近くにはいないと、そうレオノーラは予想する。
レオノーラが集めた情報の限りでは、ゴールスは強い猜疑心を持ち合わせ、同時に粗暴な性格でもある。
その辺りの事情を考えれば、恐らく問題ないだろうと思える。
……また、仮にゴールスの近くに多数の獣牙衆がいたとしても、それこそクラリスの言霊を使えば無力化出来るのは、先程のガーウェイの件を見れば明らかだった。
そうして話ながら進み続け……すると、やがて目的の場所が見えてくる。
当然ながら、ゴールスの方でもアランたちが自分たちのいる場所に向かっているのは情報を知らせに来た者の件で知っていた以上、迎撃の準備は整っていた。
先程アランたちに絡んで来た獣人や、ゴールスの支配下にある警備兵でどうにか出来れば、それでよし。
もしそれが無理でも、ここで戦力を結集して迎え撃つ。
そういうつもりで、ゴールスは準備をしていたのだろう。
つまり、向こうは最初から戦うつもりでこうして待ち受けていたのだ。
「どうするの? 誰か、聞いてみる? 私たちは戦いに来たんじゃなくて、ゴールスと話をしに来たんです、と言って」
レオノーラがそう告げるも、誰もがその言葉に頷くような真似はしない。
もし話しかけようものなら、即座に攻撃されるというのを理解しているためだろう。
事実、屋敷の前にいる者たちは手に武器を持ち、殺気の籠もった視線をアランたちに向けている。
その中には獣人が多いが、獣人以外に普通の人間やエルフ、ドワーフといったような者たちもいて、武器を構えていた。
とてもではないが、話しかけても友好的に接することが出来る相手だとは思えない。
「クラリスの力で、また眠らせるか?」
それが一番手っ取り早いと判断して尋ねるアランだったが、クラリスはその言葉に首を横に振って否定する。
「いいえ、ここまで来たら、まずはしっかりとこちらの意思を伝えることが重要です。……私が話してみますから、護衛をお願いします」
「え? おい、ちょ……待てって」
アランに自分が話すと言うと、クラリスは返事も待たず、屋敷の前にいる相手に向かって近付いていく。
「え……?」
そんなクラリスの姿を見て、ゴールスの屋敷を守っていた中の誰かがそんな戸惑った声を上げる。
当然だろう。
ゴールスの命を狙っている者たちがやってくると聞かされていたのに、実際に近付いてきたのはクラリスのような子供だったのだ。
そんな相手を見れば、戸惑うのも当然だろう。
とはいえ、それでもゴールスを守るという仕事を任されている以上、相手がクラリスのような子供であってもそのまま屋敷に近づける訳にはいかない。
「近付くな!」
鋭く叫ぶ声。
その声が響くと同時に、アランを含めた他の護衛たちも、何かあったらすぐにクラリスのいる場所に向かうことが出来るように準備を整える。
だが、クラリスはそんな背後の様子に手を振って近付いてこないようにと指示した。
もちろんクラリスが拒否をしたとしても、危険があったら即座に駆けつけるだろう。
そのような真似をしながら、アランはじっと様子を見る。
「私はクラリスといいます。この屋敷にいるゴールスに会いたいのですが、通していただけますか?」
クラリスの堂々とした態度に、護衛の兵士たちは戸惑い……やがて、その中から一人が進み出た。
自分がここにいる者の代表であると示し、クラリスと話をしようというのだろう。
三十代ほどの、熊の獣人。
見るからに頑強な身体をしており、見ている者に強烈な威圧感を与える。
それこそ、本来ならクラリスのような年代の少女が見れば、悲鳴を上げて泣き出してもおかしくないほどの、そのような強面だ。
しかし……当然ながら、クラリスはそのような相手を前にしても特に怖がったりといった様子を見せることはない。
「ここを通して貰えますか?」
「俺を見ても怖がらねえのか。随分と豪胆なお嬢ちゃんだな。……だが、そんな真似は出来ねえ。命令があるまで、ここには誰も通すなって言われてるんだ」
その強面の外見に似合わず、自分の仕事はしっかりとやるといったタイプだったらしい。
しかし、当然ながらクラリスの性格を考えれば、ここで退くような真似はしない。
「それでは、強引にでも通らせて貰います。それで構いませんか?」
「いやいや、それは困るな。……というか、向こうにいる何人かならともかく、お嬢ちゃんにそんな真似が出来るのか?」
クラリスの力を知らないのか、それとも知っていてもここで力を使うことはないと思っているのか。
その辺りの理由は、二人の会話を見ているアランにも分からなかったが、熊の獣人がクラリスを警戒していないということだけは十分に理解出来た。
(いやまぁ、実際に普通に戦おうとしたら、クラリスに勝ち目がないけど)
言霊を使えば、それこそ問答無用でクラリスが勝てるだろう。
だが、クラリス本人がここでは言霊を使わないと、そう言ったのだ。
そうである以上、クラリスの性格を考えれば、ここで言霊を使うとは思えない。
だとすれば、一体何を?
そうアランが考えていると、不意にクラリスは手を伸ばす。
攻撃するような一撃という訳ではなく、握手を求めるかのような手の伸ばし方だ。
「……何を考えている?」
熊の獣人はそんな疑問の声を上げつつ、ここで逃げたと言われないためにクラリスの手を握り……
「おわっ!」
次の瞬間、クラリスの三倍はあろうかという巨体は、地面に転ぶのだった。
ロルフが心の底から深くといった具合で呟きながら、道を歩く。
クラリスの言霊によって強制的に眠らされたロルフだったが、起きるのもクラリスの言霊を使えばあっさりだった。
本来なら、クラリスは滅多に言霊を使うことはない。
だが、自分達に絡んで来た獣人だけならともかく、明らかにゴールスの味方をする気満々だった警備兵までをも相手にするとなると、それこそ面倒なことになるよりも前に、さっさと眠らせてしまった方が手っ取り早いと判断したのだろう。
今回の一件を考えると、無駄に時間を使えばそえだけ面倒なことになっていたのは間違いない。
クラリスとしては、ゴールスに会うと決めた以上は無駄な時間を使いたくはなかった。
自分の命を狙う相手。
一族の主導者としての地位を競い合う相手。
それでいながら、今までクラリスはゴールスに直接会ったことはない。
いや、クラリスが聞いた話によれば、まだ小さい頃……それこそクラリスがまだ産まれてからそう時間が経っていない頃に、何度か会ったことはあるらしい。
だが、クラリスにしてみれば、物心つく前のことで、そのような一件は全く記憶にないのだ。
そうである以上、ゴールスとはまだしっかりと会ったことがないとクラリスが考えるのは、そうおかしな話ではなかった。
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落ち込んだ様子を見せるロルフに、励ますようにガーウェイが言う。
言霊という力については、知っていた。
だが、実際にそれを経験してみた身としては、心の底からとんでもない能力だと思ってしまう。
何しろ、眠れと言われた次の瞬間には、抵抗らしい抵抗もないままに眠ってしまい、次に起きたときはこちらもまたクラリスの言霊によって強制的に起こされたときだったのだ。
獣牙衆だろうがなんだろうが、何があっても全く関係はなかった。
クラリスの言葉を聞いた時点で、もう終わりなのだ。
そう考えれば、ゴールスがクラリスに会いたくないと思うのは、当然のことだった。
それこそ、ゴールスと会ったときに言霊で『自分に逆らうな』などと言われてしまえば、それは対処のしようがない。
まさに脅威と表現するのに相応しい能力だった。
(けど……)
ロルフを励ましながら、ガーウェイの視線は二人の人物に向けられる。
アランとレオノーラの二人。
双方共に、クラリスが使った言霊に抵抗し、眠らなかったと聞いている。
あの圧倒的な力に、一体どうやれば対抗出来るのか。
それは、ガーウェイにとって疑問でしかない。
あるいは、言霊に抵抗出来たのがレオノーラだけであれば、ガーウェイも納得出来たかもしれない。
しかし、言霊に耐えたのはレオノーラだけではなくアランもだ。
それも詳しい事情を聞けば、アランは最初から言霊が効かなかったのに対し、レオノーラは今日ようやく言霊に対抗出来るようになったらしい。
それはつまり、レオノーラよりもアランの方が言霊に対する抵抗力で上ということになる。
ガーウェイにとって、それはとてもではないが許容出来ないことだった。
……実際には、アランが言霊に抵抗出来たのは転生してきたアランが前世を持っているから、というのが大きい。
とはいえ、それはあくまでもアランがそうではないか? と思っているだけであって、何らかの確証がある訳ではない。
それでも今の状況を考えると、やはりアランとしては前世が理由だと考えるのは当然のことだった。
とはいえ、アランが前世を持っているというのは、アランとレオノーラだけの秘密だ。
それをガーウェイに話す訳もない。
「このあとは、邪魔者が出て来ないといいんですけどね」
ジャスパーが、周囲を警戒しながらそう呟く。
ジャスパーにしてみれば、ここで敵が出て来るというのは面白くない。
だからこそ、ゴールスの拠点に到着するまで、もう敵には出て来て欲しくないと思っているのだろう。
「多分、向こうもそう戦力は残ってないでしょうね。……いえ、正確には戦力はあるけど、今は手元にないというのが正しいと思うわ」
レオノーラのその言葉に、ジャスパーは少し考え、頷く。
「そうですね。ゴールスには獣牙衆という精鋭集団が従っていますが、それでも獣牙衆の全てが常にゴールスの側にいるとは考えられません。普通に考えれば、やはり護衛として腕利きを数人……といったところですか」
獣牙衆という精鋭を自由に扱えるようにすれば、厄介なのは間違いない。
だが、それはあくまでもそのようにした場合での話だ。
ゴールスの性格を考えると、数人くらいは自分の護衛として近くに置いているだろうが、残りは自分の近くにはいないと、そうレオノーラは予想する。
レオノーラが集めた情報の限りでは、ゴールスは強い猜疑心を持ち合わせ、同時に粗暴な性格でもある。
その辺りの事情を考えれば、恐らく問題ないだろうと思える。
……また、仮にゴールスの近くに多数の獣牙衆がいたとしても、それこそクラリスの言霊を使えば無力化出来るのは、先程のガーウェイの件を見れば明らかだった。
そうして話ながら進み続け……すると、やがて目的の場所が見えてくる。
当然ながら、ゴールスの方でもアランたちが自分たちのいる場所に向かっているのは情報を知らせに来た者の件で知っていた以上、迎撃の準備は整っていた。
先程アランたちに絡んで来た獣人や、ゴールスの支配下にある警備兵でどうにか出来れば、それでよし。
もしそれが無理でも、ここで戦力を結集して迎え撃つ。
そういうつもりで、ゴールスは準備をしていたのだろう。
つまり、向こうは最初から戦うつもりでこうして待ち受けていたのだ。
「どうするの? 誰か、聞いてみる? 私たちは戦いに来たんじゃなくて、ゴールスと話をしに来たんです、と言って」
レオノーラがそう告げるも、誰もがその言葉に頷くような真似はしない。
もし話しかけようものなら、即座に攻撃されるというのを理解しているためだろう。
事実、屋敷の前にいる者たちは手に武器を持ち、殺気の籠もった視線をアランたちに向けている。
その中には獣人が多いが、獣人以外に普通の人間やエルフ、ドワーフといったような者たちもいて、武器を構えていた。
とてもではないが、話しかけても友好的に接することが出来る相手だとは思えない。
「クラリスの力で、また眠らせるか?」
それが一番手っ取り早いと判断して尋ねるアランだったが、クラリスはその言葉に首を横に振って否定する。
「いいえ、ここまで来たら、まずはしっかりとこちらの意思を伝えることが重要です。……私が話してみますから、護衛をお願いします」
「え? おい、ちょ……待てって」
アランに自分が話すと言うと、クラリスは返事も待たず、屋敷の前にいる相手に向かって近付いていく。
「え……?」
そんなクラリスの姿を見て、ゴールスの屋敷を守っていた中の誰かがそんな戸惑った声を上げる。
当然だろう。
ゴールスの命を狙っている者たちがやってくると聞かされていたのに、実際に近付いてきたのはクラリスのような子供だったのだ。
そんな相手を見れば、戸惑うのも当然だろう。
とはいえ、それでもゴールスを守るという仕事を任されている以上、相手がクラリスのような子供であってもそのまま屋敷に近づける訳にはいかない。
「近付くな!」
鋭く叫ぶ声。
その声が響くと同時に、アランを含めた他の護衛たちも、何かあったらすぐにクラリスのいる場所に向かうことが出来るように準備を整える。
だが、クラリスはそんな背後の様子に手を振って近付いてこないようにと指示した。
もちろんクラリスが拒否をしたとしても、危険があったら即座に駆けつけるだろう。
そのような真似をしながら、アランはじっと様子を見る。
「私はクラリスといいます。この屋敷にいるゴールスに会いたいのですが、通していただけますか?」
クラリスの堂々とした態度に、護衛の兵士たちは戸惑い……やがて、その中から一人が進み出た。
自分がここにいる者の代表であると示し、クラリスと話をしようというのだろう。
三十代ほどの、熊の獣人。
見るからに頑強な身体をしており、見ている者に強烈な威圧感を与える。
それこそ、本来ならクラリスのような年代の少女が見れば、悲鳴を上げて泣き出してもおかしくないほどの、そのような強面だ。
しかし……当然ながら、クラリスはそのような相手を前にしても特に怖がったりといった様子を見せることはない。
「ここを通して貰えますか?」
「俺を見ても怖がらねえのか。随分と豪胆なお嬢ちゃんだな。……だが、そんな真似は出来ねえ。命令があるまで、ここには誰も通すなって言われてるんだ」
その強面の外見に似合わず、自分の仕事はしっかりとやるといったタイプだったらしい。
しかし、当然ながらクラリスの性格を考えれば、ここで退くような真似はしない。
「それでは、強引にでも通らせて貰います。それで構いませんか?」
「いやいや、それは困るな。……というか、向こうにいる何人かならともかく、お嬢ちゃんにそんな真似が出来るのか?」
クラリスの力を知らないのか、それとも知っていてもここで力を使うことはないと思っているのか。
その辺りの理由は、二人の会話を見ているアランにも分からなかったが、熊の獣人がクラリスを警戒していないということだけは十分に理解出来た。
(いやまぁ、実際に普通に戦おうとしたら、クラリスに勝ち目がないけど)
言霊を使えば、それこそ問答無用でクラリスが勝てるだろう。
だが、クラリス本人がここでは言霊を使わないと、そう言ったのだ。
そうである以上、クラリスの性格を考えれば、ここで言霊を使うとは思えない。
だとすれば、一体何を?
そうアランが考えていると、不意にクラリスは手を伸ばす。
攻撃するような一撃という訳ではなく、握手を求めるかのような手の伸ばし方だ。
「……何を考えている?」
熊の獣人はそんな疑問の声を上げつつ、ここで逃げたと言われないためにクラリスの手を握り……
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