剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅

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獣人を率いる者

330話

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 獣牙衆。
 それは、言うまでもなくクラリスの命を狙っているゴールスの手先。
 しかし獣牙衆も一枚岩という訳ではなく、中にはガーウェイのようにゴールスにいいように使われるのは面白くないとクラリスの味方をすることにした者もいるし、もしくはサスカッチのように自分を倒した相手には従うといったような者もいる。
 そのように色々と個性的……もしくは自我の強い相手はいるが、それだけに完全実力主義なだけあって、獣牙衆に所属している者は強い。
 だからこそ、この状況で襲ってくるという意味がアランには理解出来なかった。
 何故なら、ここは人があまり通らないような場所であるが、現在はアランとクラリス以外にも多くの獣人たちがいる。
 アランとクラリスに恥を掻かされた獣人が、仲間を集めて襲ってきたのだが……

「ここで来るのかよ」

 殺気を感じ、クラリスを庇うようにしながらアランが呟く。
 そんなアランのように、チンピラたちの中の一人が馬鹿にしたように言う。

「はぁ? 何を言ってるんだよ? ここに逃げ込んだのはお前だろ?」

 曲がりなりにも探索者として活動しており、殺気を感じることが出来るアランと違って、チンピラたちはこの街中で自分たちよりも弱い相手を攻撃するといったような真似をしている者たちだ。
 当然だが、アランのように殺気を感じるといったような真似が出来るはずもない。
 だからこそ、アランが何を言ってるのかといったようなことが分からなかったのだろう。

(さて、どうする? 俺と獣牙衆の戦いにこの連中が巻き込まれれば、間違いなく死人が多く出る)

 結局のところ、現在アランたちの前にいるのはチンピラでしかない。
 本当の意味で、これまで多くの戦場を潜り抜けてきたアランや獣牙衆と思しき相手と戦うとなると、どうしようもないほどの実力差がある。

「一応駄目元で言っておくけど、お前たちはこのまま帰った方がいいぞ。じゃないと、戦いに巻き込まれて怪我程度じゃなすまなくなる」
「おいおい、寝言は寝て言えよ。お前はこれから俺たちにボコボコにされるんだ。それを避けたいからって……」

 そういうチンピラの言葉に、他の者たちも嘲笑を浮かべて同意する。
 駄目だこりゃ。
 それが、チンピラたちの様子を見てアランが思ったことだった。
 正直なところ、とてもではないがこのまま帰ってくるそうにないと、そう判断したのだ。

「そうか。一応忠告したからな。後悔するなよ」

 そう言うアランだったが、このタイミングで獣牙衆を思しき相手が攻撃を仕掛けてきたということは、このチンピラたちの存在を利用しようとしてのものだというのは、明らかだ。
 つまり、もしここでアランが帰るように言ってそれをチンピラたちが素直に聞いたとしても、襲撃してきた相手はそんなことを容易に許すはずがなかった

「アランさん、私が何とかしましょうか?」

 アランとチンピラたちの様子を見ていたクラリスは、そう尋ねる。
 クラリスの提案に一瞬どうするか迷ったアランだったが、今の状況を思えばクラリスの言霊を使った方がいいのは間違いない。
 そう判断し、頷く。

「分かった、頼む」

 一瞬、何故変装しているクラリスをクラリスだと見抜いたのかといった疑問を感じたアランだったが、今はそんなことを考えるよりも前にやるべきことがあった。

「おいおい、今度はお嬢ちゃんが何かするのか? せめて、もう少し大きくなってからなら、楽しみもあるんだがな」
「げははは。もうちょっとって、こんなガキじゃちょっとやそっと大きくなったところで、変わらないだろ!」

 何を言われているのか、クラリスには正確には分からなかった。
 しかし、自分が侮辱されているというのはだけは十分に理解出来た。
 不愉快そうに眉を顰め……

「眠りなさい」

 凛、と。
 周囲にその声が響いたかと思うと、アランたちの周囲にいたチンピラたちは次々と地面に倒れ込んでいく。
 チンピラたちは、自分が何をされたのかも分からないまま、眠りについた。

「取りあえず、これで襲撃に巻き込む必要がなくなったな」
「そうですね。……でも、どうして私のことが知られたのでしょうか?」

 アランと同じ疑問を抱いたクラリスだったが、アランはそんな言葉に対して首を横に振ることしか出来ない。
 今のクラリスは、外見からではクラリスとは全くの別人に見える。
 クラリスのことをよく知っている者なら、もしかしたらクラリスであると認識するかもしれないが、獣牙衆であればとてもではないがクラリスであると見抜くのは難しいだろう。

「獣牙衆も、本物だからでしょうね」

 そんな風に声をかけてきたのは、ジャスパーだった。
 先程の殺気はアランにも感じられたのだから、当然のように密かにクラリスの護衛をしていたジャスパーにも感じることが出来たのだろう。
 そしてチンピラたちがこうして気絶したのをいい機会だと、アランたちの側までやって来たのだろう。

「やっぱり、獣牙衆だと思いますか?」

 アランのその問いに、ジャスパーは涼しげな表情で頷く。
 この状況で襲ってくる以上、それが獣牙衆以外の誰なのかと、そういう思いがあるのだろう。

「先程の殺気は、そう簡単に出せる強さじゃなかったしね。あれは、自分の実力をしっかりと把握していて、殺気を上手くコントロール出来ているから、というのが大きいだろうね」

 ジャスパーの言葉に、アランは納得の様子を見せつつ……ふと、思う。
 もしかして、先程自分が殺気を感じたのにチンピラたちが特に何も変わった様子がなかったのは、自分とクラリスの二人だけに殺気を向けて、それ以外のチンピラには殺気を感じさせないようにしていたのか? と。

(いや、でもそれだと、ジャスパーさんが殺気を感じた理由が分からない。……もしかして、ジャスパーさんだからこそ殺気を感じたという可能性は、否定出来ないけど)

 アランにしてみれば、ジャスパーならそういう真似を出来ても不思議ではないと思う。
 自分にはとてもではないがそのような真似は出来ないが、ジャスパーであればそのような出来てもおかしくはない。

「そんな訳で、出て来たらどうです? あそこまで殺気を放つような真似をしたんだ。私たちを前に、逃げ出すといったような真似はしないでしょう?」
「そうだな」

 ジャスパーの言葉に答えるように、少し離れた場所にある建物――もう使われていない様子だが――から、狼の獣人が姿を現す。
 狼の獣人とはいえ、ガーウェイとは違う人物だというのは見れば明らかだ。
 ガーウェイよりも大きな身体をしており、速度より力を重視した戦い方をするように思える。
 それだけに、見ている者には強い迫力を感じさせた。
 それはクラリスも同様だったのか、アランの服をそっと掴む。

(まぁ、俺を狙ってきたんじゃなくて、クラリスを狙ってきたんだしな)

 そう考えれば、相手を見て怖がると思うなという方が無理だろう。
 アランはそんな風に思いつつも、腰の鞘から長剣を抜く。

「ほう。そっちの奴じゃなくて、お前が俺と戦うつもりなのか?」

 アランが長剣を引き抜いたのを見て、面白そうに言う男。
 ジャスパーは一目見ただけで強いと分かるが、アランはそれこそ一目見ただけで弱いと断言出来る。
 そんな圧倒的な実力差があるにもかかわらず、こうして攻撃をしてくるのか。
 そのように思うのは、自分の実力に自信がある者としては当然のことなのだろう。

「はっ、生憎と俺はクラリスの護衛なんでな。戦闘には参加しないよ」

 アランはそう言い、ジャスパーに視線を向ける。
 その視線を向けられたジャスパーは、当然といった様子で前に足を踏み出す。
 ジャスパーにとっても、ここで下手にアランが戦闘に参加するというのは、困る。
 アランの実力は知っているが、それはあくまでも心核使いとしての実力で、生身での戦闘力ともなれば、当然のようにそれは弱い。
 ……ゼオンの武器を召喚すれば、話は別だったが。

「ふんっ、いい判断力だ。けど……そっちの男が殺されても、そんな態度でいられるか?」

 ゆっくりと、自然な動作でジャスパーに歩み寄っていく男。
 そうして歩いている間に、手からは鋭い爪が伸びていた。
 それに応じるジャスパーも、槍を構えている。

(心核を使わないのか?)

 それはアランにとっても予想外のことだった。
 ジャスパーの心核は、リビングメイルに変身するといったものだ。
 アランのゼオンと比べると、全く目立つといったようなことはない。
 そうである以上、ここで心核を使ってもいいのでは? と、そう思うのは当然だろう。

(あるいは、心核を使わなくても勝てると思ったとか?)

 そのように思っても、何も不思議はない。
 何しろ、ジャスパーは心核使いではあるが、同時に探索者としてもしっかりとした実力を持っている。
 心核使いに特化したアランとは、違うのだ。
 もっとも、ゼオンの武器だけを召喚するといった真似が出来るのは、それこそ心核使いに特化しているからもしれないが。

「行くぞ!」

 その一言と共に、狼の獣人は地面を蹴ってジャスパーとの間合いを詰める。
 ガーウェイに比べ、速度は劣っている。
 しかし、それでも狼の獣人としての速度は平均以上のものだし、何より巨体がもたらす迫力は、相手を呑むには十分だった。
 ……ただし、それはあくまでも普通の相手ならばの話だ。
 ジャスパーのような実力者にしてみれば、この程度の迫力を持つ敵との戦いは慣れている。
 古代魔法文明の遺跡では、それこそ信じられないような強敵と戦うことも珍しくないのだ。
 そのような相手と何度も戦ってきたジャスパーにしてみれば、この程度の相手と戦うというのは慣れたものだ。
 相手の動きに合わせ、槍を突き出す。
 狼の獣人は、そんな槍の鋭さに一瞬驚いた表情を浮かべたが、それでも長年身体に染みこませた動きは、意識するよりも前に反応する。
 槍の穂先を回避し、そのまま前に出ようとしたところで……

「うおっ!」

 不意に飛んできた何かに身体を打たれ、痛みと衝撃に声を上げつつ……それでも、一度ジャスパーから距離を取る。
 一体何が?
 そう思ったのは、狼の獣人だけではなく、戦っていたジャスパーやアラン、クラリスも同様だった。

「随分と面白いというか、予想通りの展開になってるわね」

 そんな中、姿を現したのは狼の獣人を攻撃した鞭を手に持つ、レオノーラだった。
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