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メルリアナへ
315話
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「……え?」
いきなり口を開いたジャスパー……いや、それだけであれば、アランも特に気にする必要はなかったのだろうが、そのジャスパーの口調が普段とは全く違うのに、アランは驚く。
ジャスパーは貴族出身だけあって、物腰は非常に丁寧だ。
それこそ、大雑把な性格をしている者が多い雲海の探索者とも仲良くなれるくらいに穏やかな性格をしている。
もちろん、探索者として相応の実力は持っているし、心核使いとしても凄腕だ。
そしてレオノーラに対しては深い忠誠心を抱いており、だからこそアランの前で今のような声を出すとは思わなかった。
「ジャスパーさん?」
「紅茶や軽食にも手を出さないように」
そうジャスパーが言えば、アランも……そしてこの部屋にいた他の者たちもその意味を理解する。
紅茶や軽食の類に、恐らくは何らかの薬が使われているのだろう。
その薬が、実際にどういう効能を持つのかは分からない。
相手を眠らせたり麻痺させるだけなのか、それとも殺すのか。
その効果が分からない以上、アランや護衛の獣人たちはテーブルの上にある紅茶や軽食から手を離し……
「一体、どういうことでしょうか? 何か失礼がありましたか?」
ジャスパーの言葉を聞いたメイドは、戸惑ったようにそう告げる。
それこそ、自分の行動の何がジャスパーの機嫌を損ねたのか分からない。
そう態度で示す様子を見れば、もしかしたらジャスパーの勘違いではないか? と思う者も出てくる。
特に、ジャスパーという存在をまだ殆ど知らない獣人の護衛たちがそうだ。
だが、アランは黄金の薔薇と一緒に行動するようになってから、それなりに時間が経っている。
ジャスパーがこのような事を言う異常、メイドたちが知ってるかどうかはともかく、紅茶や軽食に何か問題があるのは間違いなかった。
「それは私が聞きたいね。この家では、このようなもてなしをするのが常識なのかい?」
そんなメイドとジャスパーのやり取りに、獣人たちは戸惑った様子を見せる。
どちらを信じればいいのか、分からないのだろう。
ジャスパーはクラリスの護衛をしてくれた人物だけに、信用しているのは当然だ。
だが同時に、この屋敷はワストナというデルリアの有力者の屋敷で、クラリスはそのワストナに協力して貰うためにやってきたのだ。
そのような人物が、自分たちに何らかの薬を盛るというのは、信じられない。
いや、この場合は考えたくないというのが正直なところか。
だからこそ、獣人たちは戸惑った様子を見せたのだろう。
そんな獣人たちの様子を見たメイドは、一歩近付くとジャスパーに向かって頭を下げる。
さらり、と。メイドの緑の長髪がこぼれ落ちる様子は、目を奪うだけの迫力があった。
メイドも自分を魅力的に見せる見せ方……いや、魅せ方を知っているからこその行動だろう。
事実、獣人の護衛たちはそんなメイドの様子に目を奪われていたのだから。
だが……そんなメイドの様子は、ジャスパーやアランには効果がない。
何故なら、ジャスパーもアランもレオノーラという美の女神の化身とも呼ぶべきレオノーラをいつも近くで見ているのだから。
だからこそ、メイドが次の瞬間に起こした動きに対応出来たのだろう。
「っ!?」
声も発さず、最短の動きで振るわれた短剣。
その軌跡は、ジャスパーの首筋を斬り裂くようなものだったが……
「甘いですね」
その一言と共に、キンッという金属音と共に短剣が弾き飛ばされる。
メイドの動きは、鋭く素早いものだった。
だが、それはあくまでもメイドにとっての鋭く素早い一撃だ。
ジャスパーにしてみれば、そんなメイドの動きに反応するのは難しくはなかったし、何よりもメイド服の下に隠し持っていた短剣を取り出すという動作があったために、余計にジャスパーにしてみれば対処は容易かった。
メイドは自分の攻撃に自信があったのか、呆気なく自分の攻撃が防がれたことに驚き……しかし、次の瞬間には再度攻撃をしようとして、呆気なく意識を失う。
自分の鳩尾をジャスパーの拳で殴られたのだと、そのようなことを気が付く様子もないままに。
そして当然の話だが、メイドの中でアランたちに害意を持っているのは一人だけではない。
それどころか、部屋の中にいた他の二人のメイドも自分の仲間が攻撃されたのだと判断するど、即座に行動を起こす。
太股のガーターベルトに隠し持っていた短剣を引き抜き、二人同時にジャスパーに襲いかかる。
短剣を取り出したときにメイドのガーターベルトや非常に派手な下着が見えたのだが、ジャスパーやアランはそんな光景に目を奪われることはない。
……獣人の護衛の何人かは、そんな光景に目を奪われていた様子だったが。
「私を脅威と認識しましたが。ですが……それは、彼を侮りすぎではありませんか?」
二人揃ってのメイドの攻撃を特に焦る様子も見せずに捌きながら、ジャスパーが告げる。
そんなジャスパーの言葉を理解したのかどうか、二人のメイドはまずジャスパーを倒すべきだと判断したのか、攻撃の手を緩めず……
「きゃあっ!」
だが、次の瞬間にはメイドの攻撃の隙を突いて放ったアランの一撃により、メイドの一人が吹き飛ぶ。
部屋の中なので、長剣は鞘に収まったままではあったが、それでも強力な一撃だったのは間違いない。
アランは確かにそこまで強い訳ではないが、それでも弱い訳でもない。
相手が自分よりも強いジャスパーを抑えるために集中しているのなら、そんな相手の隙を突く程度は出来る。
そうして吹き飛ばされたメイドが一人でると、元々メイドの数が少なかっただけに、すぐに戦局はアランたちが有利となる。
また、アランとジャスパーの戦いに驚いていた――あるいはメイドのガーターベルトと派手な下着に目を奪われていた――獣人たちも、戦闘に参加する。
そうなれば、ただでさえアランたちが有利だった戦局はより一層アランたちが有利となる。
結果として、数分もしないうちにメイドたちは全員倒されたのだが……それでも捕らえるだけで、殺されていないのは情報を聞き出すためか、あるいはこのメイドたちが自分たちを襲ったのにも何か理由があるかもしれないと思ったためか。
ともあれ、こうして戦いが終わってメイドたちは全員が無力化されたとところで、これからどうするのかといったことになる。
「それで、これからどうします?」
そうアランに尋ねたのは、ジャスパーだ。
アランとしては、それこそ自分がジャスパーに聞きたいことだったのだが。
「こういうときって、ジャスパーさんがこれからどうするのかを判断するんじゃないですか? ここにいる中で一番強いのはジャスパーさんですし」
アランの言葉に、獣人たちも不満を口にはしない。
ジャスパーがどれだけの実力を持っているのかは、メイドとの戦いを見れば明らかだったし……何より、腕利き揃いの雲海と黄金の薔薇の中でも強く信頼されている人物なのだと理解しているからだろう。
「ですが、クラリスさんに一番信頼されているのは、君でしょう?」
「それは……まぁ」
ここで、実はそんなことはないですなどといったことを口にしても、それは謙遜どころか嫌味でしかない。
アランもそれが分かっていたので、ジャスパーの言葉に素直に頷く。
もっとも、この場合必要なのは誰がクラリスに慕われているのかといったようなことではなく、あくまでもこのこの状況をどうにかする必要があるということなのだが。
(もしかして、レオノーラから……いや、イルゼンさん辺りから、何か言われているのか?)
そんな風に邪推してしまうのは、仕方のないことなのだろう。
実際、イルゼンは死の瞳が使われた戦場にあった遺跡において、アランに指揮を執らせて遺跡に挑ませるといったような真似をしている。
それを考えれば、イルゼンたちが別行動を取る前にレオノーラたちに何か言い聞かせておいてもおかしくはないだろう。
ともあれ、自分に判断を任せるのであればと、アランは即座に判断する。
「クラリスのところに行きましょう。このメイドたちが俺たちを暗殺しようとしてきたのが、独断ということはまずないでしょうし。だとすれば、今回の一件は間違いなくこの屋敷の主……ワストナが関係している筈でしょうし」
まさか、メイドが独断で自分たちを暗殺しようとしたなどとは、アランには思えない。
そうである以上、つまり今回の一件を仕組んだのはこの屋敷の主たるワストナで間違いなく、クラリスは現在そのワストナと面会中なのだ。
(つまり、俺たちが接触するよりも前に、ゴールスと繋がっていた訳か)
元々、クラリスが協力を求める相手ということは、当然ながら強い影響力を持つ相手だ。
そうである以上、クラリスよりも先にデルリアにいたゴールスが、ワストナと接触していないはずがない。
「分かりました。では、行きましょうか」
「ちょっと待った。ジャスパーさん、アラン、このメイドたちはこのままにしておいてもいいのか? 目を覚ましたら、また襲ってきたりするかもしれないんだが」
獣人の一人が、気絶して床に倒れているメイドを見て、そう尋ねる。
ジャスパーはそんなメイドの言葉に少し考えてから、口を開く。
「そのままにしておいて構わないでしょう。ここで縛るといったような真似をしていれば、それこそクラリスさんたちのところに辿り着くのが遅くなるでしょうから」
ジャスパーにそう言われれば、獣人たちも無理に縛ろうなどというような真似は出来なかった。
……若干、本当に若干だったが、縛るときに少しいい目を見ようと考えていたのだが。
だが、それでもクラリスの安全に関わってくるとなれば、そちらを最優先にする必要がある。
「分かりました。行きましょう」
獣人はそう判断して、部屋を出る。
そうして、クラリスが会談をしている部屋に向かう。
廊下の途中で何人かのメイドや執事に遭遇するが、そのような者たちがアランたちに攻撃をしてくる様子はない。
それに疑問を抱きつつ……これ幸いと会談をしている部屋の場所を聞いて進み……
轟! と、激しい音と共に向かっていた部屋の壁が破壊されるのだった。
いきなり口を開いたジャスパー……いや、それだけであれば、アランも特に気にする必要はなかったのだろうが、そのジャスパーの口調が普段とは全く違うのに、アランは驚く。
ジャスパーは貴族出身だけあって、物腰は非常に丁寧だ。
それこそ、大雑把な性格をしている者が多い雲海の探索者とも仲良くなれるくらいに穏やかな性格をしている。
もちろん、探索者として相応の実力は持っているし、心核使いとしても凄腕だ。
そしてレオノーラに対しては深い忠誠心を抱いており、だからこそアランの前で今のような声を出すとは思わなかった。
「ジャスパーさん?」
「紅茶や軽食にも手を出さないように」
そうジャスパーが言えば、アランも……そしてこの部屋にいた他の者たちもその意味を理解する。
紅茶や軽食の類に、恐らくは何らかの薬が使われているのだろう。
その薬が、実際にどういう効能を持つのかは分からない。
相手を眠らせたり麻痺させるだけなのか、それとも殺すのか。
その効果が分からない以上、アランや護衛の獣人たちはテーブルの上にある紅茶や軽食から手を離し……
「一体、どういうことでしょうか? 何か失礼がありましたか?」
ジャスパーの言葉を聞いたメイドは、戸惑ったようにそう告げる。
それこそ、自分の行動の何がジャスパーの機嫌を損ねたのか分からない。
そう態度で示す様子を見れば、もしかしたらジャスパーの勘違いではないか? と思う者も出てくる。
特に、ジャスパーという存在をまだ殆ど知らない獣人の護衛たちがそうだ。
だが、アランは黄金の薔薇と一緒に行動するようになってから、それなりに時間が経っている。
ジャスパーがこのような事を言う異常、メイドたちが知ってるかどうかはともかく、紅茶や軽食に何か問題があるのは間違いなかった。
「それは私が聞きたいね。この家では、このようなもてなしをするのが常識なのかい?」
そんなメイドとジャスパーのやり取りに、獣人たちは戸惑った様子を見せる。
どちらを信じればいいのか、分からないのだろう。
ジャスパーはクラリスの護衛をしてくれた人物だけに、信用しているのは当然だ。
だが同時に、この屋敷はワストナというデルリアの有力者の屋敷で、クラリスはそのワストナに協力して貰うためにやってきたのだ。
そのような人物が、自分たちに何らかの薬を盛るというのは、信じられない。
いや、この場合は考えたくないというのが正直なところか。
だからこそ、獣人たちは戸惑った様子を見せたのだろう。
そんな獣人たちの様子を見たメイドは、一歩近付くとジャスパーに向かって頭を下げる。
さらり、と。メイドの緑の長髪がこぼれ落ちる様子は、目を奪うだけの迫力があった。
メイドも自分を魅力的に見せる見せ方……いや、魅せ方を知っているからこその行動だろう。
事実、獣人の護衛たちはそんなメイドの様子に目を奪われていたのだから。
だが……そんなメイドの様子は、ジャスパーやアランには効果がない。
何故なら、ジャスパーもアランもレオノーラという美の女神の化身とも呼ぶべきレオノーラをいつも近くで見ているのだから。
だからこそ、メイドが次の瞬間に起こした動きに対応出来たのだろう。
「っ!?」
声も発さず、最短の動きで振るわれた短剣。
その軌跡は、ジャスパーの首筋を斬り裂くようなものだったが……
「甘いですね」
その一言と共に、キンッという金属音と共に短剣が弾き飛ばされる。
メイドの動きは、鋭く素早いものだった。
だが、それはあくまでもメイドにとっての鋭く素早い一撃だ。
ジャスパーにしてみれば、そんなメイドの動きに反応するのは難しくはなかったし、何よりもメイド服の下に隠し持っていた短剣を取り出すという動作があったために、余計にジャスパーにしてみれば対処は容易かった。
メイドは自分の攻撃に自信があったのか、呆気なく自分の攻撃が防がれたことに驚き……しかし、次の瞬間には再度攻撃をしようとして、呆気なく意識を失う。
自分の鳩尾をジャスパーの拳で殴られたのだと、そのようなことを気が付く様子もないままに。
そして当然の話だが、メイドの中でアランたちに害意を持っているのは一人だけではない。
それどころか、部屋の中にいた他の二人のメイドも自分の仲間が攻撃されたのだと判断するど、即座に行動を起こす。
太股のガーターベルトに隠し持っていた短剣を引き抜き、二人同時にジャスパーに襲いかかる。
短剣を取り出したときにメイドのガーターベルトや非常に派手な下着が見えたのだが、ジャスパーやアランはそんな光景に目を奪われることはない。
……獣人の護衛の何人かは、そんな光景に目を奪われていた様子だったが。
「私を脅威と認識しましたが。ですが……それは、彼を侮りすぎではありませんか?」
二人揃ってのメイドの攻撃を特に焦る様子も見せずに捌きながら、ジャスパーが告げる。
そんなジャスパーの言葉を理解したのかどうか、二人のメイドはまずジャスパーを倒すべきだと判断したのか、攻撃の手を緩めず……
「きゃあっ!」
だが、次の瞬間にはメイドの攻撃の隙を突いて放ったアランの一撃により、メイドの一人が吹き飛ぶ。
部屋の中なので、長剣は鞘に収まったままではあったが、それでも強力な一撃だったのは間違いない。
アランは確かにそこまで強い訳ではないが、それでも弱い訳でもない。
相手が自分よりも強いジャスパーを抑えるために集中しているのなら、そんな相手の隙を突く程度は出来る。
そうして吹き飛ばされたメイドが一人でると、元々メイドの数が少なかっただけに、すぐに戦局はアランたちが有利となる。
また、アランとジャスパーの戦いに驚いていた――あるいはメイドのガーターベルトと派手な下着に目を奪われていた――獣人たちも、戦闘に参加する。
そうなれば、ただでさえアランたちが有利だった戦局はより一層アランたちが有利となる。
結果として、数分もしないうちにメイドたちは全員倒されたのだが……それでも捕らえるだけで、殺されていないのは情報を聞き出すためか、あるいはこのメイドたちが自分たちを襲ったのにも何か理由があるかもしれないと思ったためか。
ともあれ、こうして戦いが終わってメイドたちは全員が無力化されたとところで、これからどうするのかといったことになる。
「それで、これからどうします?」
そうアランに尋ねたのは、ジャスパーだ。
アランとしては、それこそ自分がジャスパーに聞きたいことだったのだが。
「こういうときって、ジャスパーさんがこれからどうするのかを判断するんじゃないですか? ここにいる中で一番強いのはジャスパーさんですし」
アランの言葉に、獣人たちも不満を口にはしない。
ジャスパーがどれだけの実力を持っているのかは、メイドとの戦いを見れば明らかだったし……何より、腕利き揃いの雲海と黄金の薔薇の中でも強く信頼されている人物なのだと理解しているからだろう。
「ですが、クラリスさんに一番信頼されているのは、君でしょう?」
「それは……まぁ」
ここで、実はそんなことはないですなどといったことを口にしても、それは謙遜どころか嫌味でしかない。
アランもそれが分かっていたので、ジャスパーの言葉に素直に頷く。
もっとも、この場合必要なのは誰がクラリスに慕われているのかといったようなことではなく、あくまでもこのこの状況をどうにかする必要があるということなのだが。
(もしかして、レオノーラから……いや、イルゼンさん辺りから、何か言われているのか?)
そんな風に邪推してしまうのは、仕方のないことなのだろう。
実際、イルゼンは死の瞳が使われた戦場にあった遺跡において、アランに指揮を執らせて遺跡に挑ませるといったような真似をしている。
それを考えれば、イルゼンたちが別行動を取る前にレオノーラたちに何か言い聞かせておいてもおかしくはないだろう。
ともあれ、自分に判断を任せるのであればと、アランは即座に判断する。
「クラリスのところに行きましょう。このメイドたちが俺たちを暗殺しようとしてきたのが、独断ということはまずないでしょうし。だとすれば、今回の一件は間違いなくこの屋敷の主……ワストナが関係している筈でしょうし」
まさか、メイドが独断で自分たちを暗殺しようとしたなどとは、アランには思えない。
そうである以上、つまり今回の一件を仕組んだのはこの屋敷の主たるワストナで間違いなく、クラリスは現在そのワストナと面会中なのだ。
(つまり、俺たちが接触するよりも前に、ゴールスと繋がっていた訳か)
元々、クラリスが協力を求める相手ということは、当然ながら強い影響力を持つ相手だ。
そうである以上、クラリスよりも先にデルリアにいたゴールスが、ワストナと接触していないはずがない。
「分かりました。では、行きましょうか」
「ちょっと待った。ジャスパーさん、アラン、このメイドたちはこのままにしておいてもいいのか? 目を覚ましたら、また襲ってきたりするかもしれないんだが」
獣人の一人が、気絶して床に倒れているメイドを見て、そう尋ねる。
ジャスパーはそんなメイドの言葉に少し考えてから、口を開く。
「そのままにしておいて構わないでしょう。ここで縛るといったような真似をしていれば、それこそクラリスさんたちのところに辿り着くのが遅くなるでしょうから」
ジャスパーにそう言われれば、獣人たちも無理に縛ろうなどというような真似は出来なかった。
……若干、本当に若干だったが、縛るときに少しいい目を見ようと考えていたのだが。
だが、それでもクラリスの安全に関わってくるとなれば、そちらを最優先にする必要がある。
「分かりました。行きましょう」
獣人はそう判断して、部屋を出る。
そうして、クラリスが会談をしている部屋に向かう。
廊下の途中で何人かのメイドや執事に遭遇するが、そのような者たちがアランたちに攻撃をしてくる様子はない。
それに疑問を抱きつつ……これ幸いと会談をしている部屋の場所を聞いて進み……
轟! と、激しい音と共に向かっていた部屋の壁が破壊されるのだった。
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