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メルリアナへ
290話
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やってしまった。
それが、アランが現在感じている正直な思いだった。
ゴドフリーや獣人たちが、馬車の中に誰かを匿っているというのは分かっていた。
移動する際に、馬車に乗っている獣人がほとんどいなかったためだ。
それでいながら、アランたちと一緒に行動するというのに馬車から降りてきて挨拶をする様子もない。
つまりそれは、アランたちに馬車の中にいる人物のことを教えたくなかったと、そういうことなのだろう。
それは分かっていたのだが、それでもアランとしては何かを言うつもりはなかった。
元々ゴドフリーたちにも何らかの事情が……正規の街道を通らず、後ろ暗いところのある者が通る裏の街道を通っているという時点で、何か訳ありだというのが分かっていたからだ。
分かっていただけに、馬車の中にいた十歳ほどの狐の獣人の少女、それも尻尾が二本あるという、明らかに普通ではない獣人を見てしまえば、やってしまったと思ってもおかしくはない。
『……』
そしてやってしまったと思っているのは、アランだけではなくゴドフリーたちもだ。
馬車に乗っていた少女……姫の存在は、絶対に周囲に知られてはいけないものなのだから。
まさかそれをこうも簡単に見られてしまうというのは、ゴドフリーたちにとっても致命的な失敗と言ってもいい。
そして問題なのは、姫が見つかってしまった状況でアランをどうするかということになる。
「待て!」
獣人たちの纏め役の狼の獣人は、アランに襲いかかろうとした仲間の獣人に鋭く叫ぶ。
「何でだ、ロルフ! 姫様の姿を見られたんだぞ! なら、このままにはしておけない!」
「落ち着け! ……周囲を見てみろ」
不満一杯の様子で叫んだ仲間に、ロルフは冷静になるように言いながら周囲を見回す。
その視線を追った他の獣人たちは、自分たちを囲むようにしている探索者たち全員が自分たちを見ているのに気が付き、背筋が冷たくなる。
獣人たちを盗賊や日中に襲ってきた相手から守るようにと、アランたちは探索者たちの中央付近に野営地を用意した。
だが、それはもし獣人たちが妙なことを考えた場合、逃がさないようにするためという意味もあったのだ。
そして、アランは雲海や黄金の薔薇の探索者たちにとって、切り札的な存在だ。
生身での実力は高くはないが、心核使いとしての強さは突出している。
それこそ、ガリンダミア帝国軍がどのような手段を使っても仲間に引き入れようとしているくらいには。
そのアランがゴドフリーたちの世話役を任されたのだから、当然ながらアランがゴドフリーたちの所に行くときは注意してみていた。
そんな中でいきなり獣人たちが殺気だってアランを攻撃しようとしたのだから、周囲の探索者たちが臨戦態勢に入るのは当然だろう。
ロルフは素早く周囲の探索者たちの反応を察知し、仲間を止めたのだ。
そしてロルフの言葉で、他の獣人たちもようやく自分たちが置かれている現状を理解する。
「これは……」
「畜生が! 罠か!」
そんな声が聞こえてくるが、それでも獣人たちはアランに対する警戒を止めることはしない。
馬車の中にいる姫の姿を見られてしまったのだ。
それを思えば、ここは自分たちがどうにかしなければならないと、そう思っていたのだが……
「止めなさい」
凛、と。
そんな声が周囲に響く。
決して大きな声ではないのだが、その声は間違いなく周囲に……それこそ、場合によっては野営地全体に響き渡る。
その声には、アランや獣人たちはおろか、周囲にいた探索者たちの動きをすら止めるだけの何らかの力があった。
「姫様」
そんな中、口を開いたのはゴドフリー。
だが、その言葉の中には衝突を収めた賞賛と、そのためにこの場に出て来てしまったのかといった嘆きの色がある。
「ゴドフリー、ロルフ。……それに、皆。この方たちは信頼出来ます」
そう断言する姫。
本来なら、何故そんな簡単に相手を信じられるのかといったような疑問を持つのだろうが、その少女の口から出た言葉は不思議と獣人たちの意識に浸透する。
先程までは一触即発――正確には獣人たちが一方的に攻撃しようしていたのだが――だったにもかかわらず、獣人たちは落ち着き始めた。
(何だ? 何でこんなにあっさりと?)
アランの経験からすれば、あそこまで殺気だった者たちを相手にした場合、衝突の一つもないままに落ち着くといったことはないはずなのだが。
だが、姫様と呼ばれた人物の言葉は、間違いなく殺気立っていた者たちの気持ちを沈めた。
……そんな中で、何故かアランだけは今の声を聞いても特に心が動くようなことはない。
もっとも、獣人たちによって襲われようとしていたのはなくなったというのは、助かったのだが。
「失礼しました。この者たちも私の身を守るべく殺気立ってしまったのです。申し訳ありません」
そう言い、姫様と呼ばれた少女はアランに向かって頭を下げ……そして、顔を上げたところでアランと目が合い、何故かその顔に驚愕の表情を浮かべた。
「貴方は……」
一言呟き、しかしそれ以上先は何も言わない。
そんな相手に疑問を抱くアランだったが、今はとにかくこの状況をどうにかする必要があるのは間違いない。
「すいません、驚かせてしまいましたね。ただ、ちょっと今夜の見張りの件で話をしたかっただけなんですけど」
取りあえず、相手が子供ではあっても姫様と呼ばれていた以上は、間違いなく何らかの地位にある者なのだろうというのはアランにも予想出来たので、敬語を使っておく。
何よりも普通の獣人なら尻尾が一本しかないはずなのに、目の前の少女には二本の尻尾がある。
今までアランもそれなりの数の獣人を見てきたが、そのような人物は初めてだ。
尻尾が二本というのも、目の前の少女が姫様と呼ばれる理由なのだろうというのは、容易に予想出来た。
(というか、狐の獣人だよな? それで尻尾が二本って、もしかして……)
狐に複数の尻尾があるということでアランが思い出すのは、当然ながら前世での経験から出て来た九尾の狐だ。
そして九尾の狐というのは大抵が人間に危害を加える存在とされている。
そうである以上、この少女も今はともかく成長したら九尾の狐的な存在になるのでは?
そんな風にアランが思ってもおかしくはない。
もっとも、だからといって目の前の少女をアランがどうにかするつもりはなかったのだが。
「あら、そうですか。わざわざお知らせ下さりありがとうございます。その、貴方がアランさんでしょうか?」
「俺のことを知ってるんですか?」
「はい、ゴドフリーから聞いています。それに……馬車は外の会話が聞こえるようにもなってるんですよ」
つまり、それはアランがゴドフリーたちを話していた会話が聞こえていたと、そういうことなのだろう。
アランにしてみれば、盗み聞きされたという思いがあったのも事実だが、別に聞かれて困るような話をしていた訳でもないので、その辺は特に気にしないで頷く。
「そうだったんですか。そうなると、あまり自己紹介の必要はありませんね」
「ええ。ですがそれだと私だけが皆さんを一方的に知っているだけになりますので、自己紹介をさせて貰いますね。私はクラリスと申します。メルリアナまでの短い間ですが、よろしくお願いしますね」
そう言い、頭を下げるクラリス。
周囲で様子を見ていた獣人たちは、自分たちが姫と慕う相手が頭を下げたことが面白くなかったのか、アランに向かって鋭い視線を向ける。
それでもクラリスの面子を潰す訳にはいかないと、実際にアランに絡むような真似はしなかったが。
アランにとって唯一の救いは、ゴドフリーが申し訳なさそうにしていたことか。
獣人たちを纏めているのが人間のゴドフリーなのは微妙なところだが、それでも今の状況を思えば、もし獣人たちがアランを襲おうとしてもゴドフリーが止めるだろうと、そう思ったのだ。
「よろしくお願いします。クラリス……様」
クラリスさんと呼ぶか、クラリス様と呼ぶか迷ったアランだったが、クラリスさんと呼んだ場合の獣人たちの反応が怖かったので、取りあえずクラリス様と呼んでおく。
だが、クラリスはそんなアランの態度に子供らしく頬を膨らませて、抗議の声を上げる。
「様はいりません。クラリスと呼んで下さい!」
アランにクラリス様と呼ばれたのか不満だったのか、二本の尻尾を荒ぶらせながらそう言う。
何故そこまで友好的に? とアランは疑問に思ったが、恐らく先程クラリスから放たれてた声に何の影響も受けなかったことが関係しているのだろうと、そう予想する。
……少なくても、自分が無条件に目の前の少女から好かれるとは、到底思えなかったのだ。
「分かりました」
「もっと普通にして下さい! 普通に! いいですか? こういう場合は『分かった、可愛いクラリス』と言いながら頭を撫でるんです!」
「……それはさすがに」
ここで『分かった、クラリス』と言うだけであれば、アランもそこまで抵抗はなく言えただろう。
だが、何故クラリスという名前の前に可愛いという形容詞をつけないといけないのか。
そして、何故頭を撫でないといけないのか。
アランには全く理解出来なかった。
「むぅ。しょうがないですね。じゃあ、もっと友達に接するような口調でお願いします。いいですね? それと私のことはクラリスですよ」
いいですね? と言われたアランは、そっと周囲の様子を窺う。
獣人たちの様子を確認するための行動。
もしここでクラリスの言う通り、敬語をやめて友人に話すような言葉遣いに変えて、獣人たちは納得するのか?
そんな思いがあったからだ。
実際、獣人たちはアランの視線に対して思うところはある様子だった。
だが、自分たちの大事な姫様がそう言っているだからと考えれば、アランの態度に不満を露わにすることは出来ない。
結果として、見て見ぬ振りをするという判断を下す。
アランにしてみれば、取りあえずそれでも納得してくれるのであれば……と、考えて若干渋々ではあったが、口を開く。
「クラリス」
そう呼びかけられた名前に、クラリスは嬉しそうに笑みを浮かべて返事をするのだった。
それが、アランが現在感じている正直な思いだった。
ゴドフリーや獣人たちが、馬車の中に誰かを匿っているというのは分かっていた。
移動する際に、馬車に乗っている獣人がほとんどいなかったためだ。
それでいながら、アランたちと一緒に行動するというのに馬車から降りてきて挨拶をする様子もない。
つまりそれは、アランたちに馬車の中にいる人物のことを教えたくなかったと、そういうことなのだろう。
それは分かっていたのだが、それでもアランとしては何かを言うつもりはなかった。
元々ゴドフリーたちにも何らかの事情が……正規の街道を通らず、後ろ暗いところのある者が通る裏の街道を通っているという時点で、何か訳ありだというのが分かっていたからだ。
分かっていただけに、馬車の中にいた十歳ほどの狐の獣人の少女、それも尻尾が二本あるという、明らかに普通ではない獣人を見てしまえば、やってしまったと思ってもおかしくはない。
『……』
そしてやってしまったと思っているのは、アランだけではなくゴドフリーたちもだ。
馬車に乗っていた少女……姫の存在は、絶対に周囲に知られてはいけないものなのだから。
まさかそれをこうも簡単に見られてしまうというのは、ゴドフリーたちにとっても致命的な失敗と言ってもいい。
そして問題なのは、姫が見つかってしまった状況でアランをどうするかということになる。
「待て!」
獣人たちの纏め役の狼の獣人は、アランに襲いかかろうとした仲間の獣人に鋭く叫ぶ。
「何でだ、ロルフ! 姫様の姿を見られたんだぞ! なら、このままにはしておけない!」
「落ち着け! ……周囲を見てみろ」
不満一杯の様子で叫んだ仲間に、ロルフは冷静になるように言いながら周囲を見回す。
その視線を追った他の獣人たちは、自分たちを囲むようにしている探索者たち全員が自分たちを見ているのに気が付き、背筋が冷たくなる。
獣人たちを盗賊や日中に襲ってきた相手から守るようにと、アランたちは探索者たちの中央付近に野営地を用意した。
だが、それはもし獣人たちが妙なことを考えた場合、逃がさないようにするためという意味もあったのだ。
そして、アランは雲海や黄金の薔薇の探索者たちにとって、切り札的な存在だ。
生身での実力は高くはないが、心核使いとしての強さは突出している。
それこそ、ガリンダミア帝国軍がどのような手段を使っても仲間に引き入れようとしているくらいには。
そのアランがゴドフリーたちの世話役を任されたのだから、当然ながらアランがゴドフリーたちの所に行くときは注意してみていた。
そんな中でいきなり獣人たちが殺気だってアランを攻撃しようとしたのだから、周囲の探索者たちが臨戦態勢に入るのは当然だろう。
ロルフは素早く周囲の探索者たちの反応を察知し、仲間を止めたのだ。
そしてロルフの言葉で、他の獣人たちもようやく自分たちが置かれている現状を理解する。
「これは……」
「畜生が! 罠か!」
そんな声が聞こえてくるが、それでも獣人たちはアランに対する警戒を止めることはしない。
馬車の中にいる姫の姿を見られてしまったのだ。
それを思えば、ここは自分たちがどうにかしなければならないと、そう思っていたのだが……
「止めなさい」
凛、と。
そんな声が周囲に響く。
決して大きな声ではないのだが、その声は間違いなく周囲に……それこそ、場合によっては野営地全体に響き渡る。
その声には、アランや獣人たちはおろか、周囲にいた探索者たちの動きをすら止めるだけの何らかの力があった。
「姫様」
そんな中、口を開いたのはゴドフリー。
だが、その言葉の中には衝突を収めた賞賛と、そのためにこの場に出て来てしまったのかといった嘆きの色がある。
「ゴドフリー、ロルフ。……それに、皆。この方たちは信頼出来ます」
そう断言する姫。
本来なら、何故そんな簡単に相手を信じられるのかといったような疑問を持つのだろうが、その少女の口から出た言葉は不思議と獣人たちの意識に浸透する。
先程までは一触即発――正確には獣人たちが一方的に攻撃しようしていたのだが――だったにもかかわらず、獣人たちは落ち着き始めた。
(何だ? 何でこんなにあっさりと?)
アランの経験からすれば、あそこまで殺気だった者たちを相手にした場合、衝突の一つもないままに落ち着くといったことはないはずなのだが。
だが、姫様と呼ばれた人物の言葉は、間違いなく殺気立っていた者たちの気持ちを沈めた。
……そんな中で、何故かアランだけは今の声を聞いても特に心が動くようなことはない。
もっとも、獣人たちによって襲われようとしていたのはなくなったというのは、助かったのだが。
「失礼しました。この者たちも私の身を守るべく殺気立ってしまったのです。申し訳ありません」
そう言い、姫様と呼ばれた少女はアランに向かって頭を下げ……そして、顔を上げたところでアランと目が合い、何故かその顔に驚愕の表情を浮かべた。
「貴方は……」
一言呟き、しかしそれ以上先は何も言わない。
そんな相手に疑問を抱くアランだったが、今はとにかくこの状況をどうにかする必要があるのは間違いない。
「すいません、驚かせてしまいましたね。ただ、ちょっと今夜の見張りの件で話をしたかっただけなんですけど」
取りあえず、相手が子供ではあっても姫様と呼ばれていた以上は、間違いなく何らかの地位にある者なのだろうというのはアランにも予想出来たので、敬語を使っておく。
何よりも普通の獣人なら尻尾が一本しかないはずなのに、目の前の少女には二本の尻尾がある。
今までアランもそれなりの数の獣人を見てきたが、そのような人物は初めてだ。
尻尾が二本というのも、目の前の少女が姫様と呼ばれる理由なのだろうというのは、容易に予想出来た。
(というか、狐の獣人だよな? それで尻尾が二本って、もしかして……)
狐に複数の尻尾があるということでアランが思い出すのは、当然ながら前世での経験から出て来た九尾の狐だ。
そして九尾の狐というのは大抵が人間に危害を加える存在とされている。
そうである以上、この少女も今はともかく成長したら九尾の狐的な存在になるのでは?
そんな風にアランが思ってもおかしくはない。
もっとも、だからといって目の前の少女をアランがどうにかするつもりはなかったのだが。
「あら、そうですか。わざわざお知らせ下さりありがとうございます。その、貴方がアランさんでしょうか?」
「俺のことを知ってるんですか?」
「はい、ゴドフリーから聞いています。それに……馬車は外の会話が聞こえるようにもなってるんですよ」
つまり、それはアランがゴドフリーたちを話していた会話が聞こえていたと、そういうことなのだろう。
アランにしてみれば、盗み聞きされたという思いがあったのも事実だが、別に聞かれて困るような話をしていた訳でもないので、その辺は特に気にしないで頷く。
「そうだったんですか。そうなると、あまり自己紹介の必要はありませんね」
「ええ。ですがそれだと私だけが皆さんを一方的に知っているだけになりますので、自己紹介をさせて貰いますね。私はクラリスと申します。メルリアナまでの短い間ですが、よろしくお願いしますね」
そう言い、頭を下げるクラリス。
周囲で様子を見ていた獣人たちは、自分たちが姫と慕う相手が頭を下げたことが面白くなかったのか、アランに向かって鋭い視線を向ける。
それでもクラリスの面子を潰す訳にはいかないと、実際にアランに絡むような真似はしなかったが。
アランにとって唯一の救いは、ゴドフリーが申し訳なさそうにしていたことか。
獣人たちを纏めているのが人間のゴドフリーなのは微妙なところだが、それでも今の状況を思えば、もし獣人たちがアランを襲おうとしてもゴドフリーが止めるだろうと、そう思ったのだ。
「よろしくお願いします。クラリス……様」
クラリスさんと呼ぶか、クラリス様と呼ぶか迷ったアランだったが、クラリスさんと呼んだ場合の獣人たちの反応が怖かったので、取りあえずクラリス様と呼んでおく。
だが、クラリスはそんなアランの態度に子供らしく頬を膨らませて、抗議の声を上げる。
「様はいりません。クラリスと呼んで下さい!」
アランにクラリス様と呼ばれたのか不満だったのか、二本の尻尾を荒ぶらせながらそう言う。
何故そこまで友好的に? とアランは疑問に思ったが、恐らく先程クラリスから放たれてた声に何の影響も受けなかったことが関係しているのだろうと、そう予想する。
……少なくても、自分が無条件に目の前の少女から好かれるとは、到底思えなかったのだ。
「分かりました」
「もっと普通にして下さい! 普通に! いいですか? こういう場合は『分かった、可愛いクラリス』と言いながら頭を撫でるんです!」
「……それはさすがに」
ここで『分かった、クラリス』と言うだけであれば、アランもそこまで抵抗はなく言えただろう。
だが、何故クラリスという名前の前に可愛いという形容詞をつけないといけないのか。
そして、何故頭を撫でないといけないのか。
アランには全く理解出来なかった。
「むぅ。しょうがないですね。じゃあ、もっと友達に接するような口調でお願いします。いいですね? それと私のことはクラリスですよ」
いいですね? と言われたアランは、そっと周囲の様子を窺う。
獣人たちの様子を確認するための行動。
もしここでクラリスの言う通り、敬語をやめて友人に話すような言葉遣いに変えて、獣人たちは納得するのか?
そんな思いがあったからだ。
実際、獣人たちはアランの視線に対して思うところはある様子だった。
だが、自分たちの大事な姫様がそう言っているだからと考えれば、アランの態度に不満を露わにすることは出来ない。
結果として、見て見ぬ振りをするという判断を下す。
アランにしてみれば、取りあえずそれでも納得してくれるのであれば……と、考えて若干渋々ではあったが、口を開く。
「クラリス」
そう呼びかけられた名前に、クラリスは嬉しそうに笑みを浮かべて返事をするのだった。
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