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逃避行
276話
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援軍が来た。
その言葉が野営地全体に広がり、探索者たちの士気を飛躍的に高める。
だが……そんな探索者たちとは裏腹に、ガリンダミア帝国軍の兵士たちは動揺を隠せない。
「え、援軍? 援軍って……あの連中、こんな場所にいるってのに、どこから援軍が来たってんだよ?」
兵士の一人が、慌てたように周囲を見回す。
ここは草原にある場所だけに、もし援軍が来たとなれば必ずその姿を見ることが出来るはずだからだ。
だが、こうして周囲の様子を確認しても、どこにも敵の援軍らしき姿はない。
普通なら、援軍が来たというのは劣勢を跳ね返すことが出来なくなった探索者たちが口から出任せを言ったのだと、そう思ってもおかしくはない。
事実、周囲の様子を確認してどこにも援軍がないのを確認したのだから。
しかし……何故か探索者たちの士気が落ちる様子はない。
自分たちの策略が失敗したにもかかわらず、だ。
「どうなっている? だとしたら……ぐがっ!」
そうして周囲の様子を見ているのを隙と見て……そして実際、兵士にとっては大きな隙だったのだろう。
探索者の一人が放った槍の一撃は、鎧に包まれていない喉を貫く。
一撃で喉を斬り裂かれ、骨も折られ……それどころか、槍の一撃の威力が強すぎたためか、首が千切れ……そして頭部が地面に落ちる瞬間、それこそ死ぬ瞬間、少し離れた場所を歩いている人形の姿を目にするのだった。
「何だ!? 人形!? どこから出て来た!?」
そんな人形の姿に気が付いたのは、死んだ兵士だけではない。
探索者たちと戦っている兵士のうちん、何人かもそんな存在に気が付く。
……そして、最初に人形を見つけた兵士のように、その隙を突かれて命を落とした者も多数存在した。
最初から人形を自分たちの援軍として使おうとしていることを知っていた探索者側と、自分たちの方が数は多いので、それで押し切れる……そして探索者たちには援軍の類はないと判断していたガリンダミア帝国軍。
この二つの差は、何気に大きい。
戦いの中で隙を見せるということは、多くの者に動揺を与える。
少なくない数の兵士が、人形を見たことにより驚き、その隙を突かれて殺され、もしくは怪我をした。
そして、人形はただ相手を驚かせるだけではなく、ガリンダミア帝国軍に向けて攻撃を行う。
「くそっ! この人形たちも攻撃をしてくるぞ! 気をつけろ! 弱いけど、数は多い!」
人形の突き出した槍を長剣で弾いた兵士が、そう叫ぶ。
戦場となっている野営地では、他にも同様の光景がそこら中に広がっていた。
人形は、そこまで強くはない。
ガリンダミア帝国軍の兵士が新兵なら、苦戦したかもしれないが、ここにいる兵士たちは精鋭と呼ぶべき存在だ。
それだけに、人形の一匹や二匹を相手にしても楽に勝てる。
勝てるのだが……問題なのは、相手が人形だということそのものだろう。
相手が生きているのなら、それこそダメージを負えば痛みを感じるし、恐怖や焦燥感から行動にミスが出てもおかしくはない。
だが……人形はその名の通り人の形はしているものの、生き物ではない。
自分が攻撃されて、腕が切断されようが、足が切断されようが、全く気にした様子もなく攻撃を続ける。
また、人形であり自我の類がないためか、仲間が殺されても動揺したりせずに攻撃を続けるのだ。
これは、戦っている兵士たちにしてみれば非常にやりにくい。
また、人形の大きさが兵士たちの胴体ほどしかないというのも、微妙に戦いにくい理由となっていた。
相手が人間のつもりで攻撃をしても、普段通りにはいかないのだ。
兵士になる前はゴブリンのようなモンスターを倒したことがある者たち……具体的には、冒険者や探索者だった者であれば、そのような人形に対処出来たりもするのだが、そのような経験のない者たちは人形が弱いとはいえ、手を焼いている。
ましてや、その人形たちは自分たちだけを狙ってくるのだ。
雲海矢黄金の薔薇の探索者たちは、そんな人形を盾にし、陽動にし、使い捨ての駒とし……そうして、戦場は数で押し込まれようとしていた探索者たちが、人形を使って有利な状況に変わっていく。
「人形の相手は最低限でいい! とにかく、敵の数の減らすことを優先しろ!」
兵士を指揮している指揮官がそう叫ぶが、兵士たちは素直にその言葉だけを聞いている訳にはいかない。
人形が弱いのは事実だが、それでも人形は槍や長剣といった武器を持っており、自分たちを傷付けるには十分な攻撃力を持っているのだ。
そんな相手を放っておけば、それこそいつ自分たちが殺されてもおかしくはない。
とにかく数を減らす必要があるのだが、ガリンダミア帝国軍にとっては最悪なことに、人形たちは遺跡から続々と姿を現している。
それどころか……
「ちょっ、おい! 何だあの巨大な亀の人形! あんなのもいるのかよ!?」
人形が出て来た場所に注目していた兵士の一人が、ふざけるなと叫ぶ。
そう、ゆっくりとだが遺跡の入り口から姿を現したのは、アランたちが最初に遺跡に潜ったときに遭遇した、巨大な亀の人形だった。
もっとも、ガリンダミア帝国軍にとっては幸運なことに……そしてアランたちにとっては残念なことに、亀の人形は防御力こそ高いが、攻撃力そのものはそこまで高くはない。
それだけに、その大きさと亀という外見で相手に畏怖を抱かせることは出来るが、実際に攻撃をされた場合の被害というのは、そこまで大きくはないはずだった。
……とはいえ、それはあくまでも直接攻撃された場合の話だ。
「亀の人形を盾代わりに使いなさい! こっちの指示を聞いてくれるわよ!」
真っ先にその利用法に気が付いたのは、リア。
今までも長剣で多数のガリンダミア帝国軍の兵士を斬り殺してきたリアだったが、それでも盾代わり……いや、防壁代わりに使える亀の人形というのは非常にありがたい。
リアにとって、この野営地に攻めて来たガリンダミア帝国軍は、自分の息子を奪いに来た相手でしかない。
そのような相手を許せるはずもなく、恐らくこの戦場で最もガリンダミア帝国軍の兵士を殺したのは、リアだろう。
怒れる母親の強さを、まだ若い外見から侮った兵士たちは自分の命で支払うことになった。
そしてリアの説明を聞き、雲海と黄金の薔薇の探索者たちは、皆が亀の人形を防壁代わりに使う。
しかもその防壁は、探索者たちの指揮に従って移動するのだ。
……中には、最初にアランと一緒にこの亀の人形と戦った者もおり、そのような者たちは複雑な気分を抱いてもいたのだが。
「くそっ、この亀の人形……邪魔なんだよ! うわぁっ!」
攻撃しようとしたところで、相手が亀の人形の向こう側に向かったのを見た兵士が苛立たしげに叫ぶが、次の瞬間、亀の人形と地面の隙間から姿を現した人形に足を思い切り払われる。
革の足甲を身につけていたおかげで、足を切断させられるといったことはなかったが、代わりに兵士は地面に転んでしまい……次の瞬間、亀の人形の向こう側から姿を現した冒険者の槍によって首を貫かれ、命を落とす。
兵士の何人かは、自分の邪魔をする亀の人形を乗り越えて攻撃しようとした者もいたのだが、亀の人形はそれにタイミングを合わせるようにして身体を動かす。
乗り越えようと手を突いていた場所がいきなり動いたのだから、当然のように兵士はバランスをい崩して地面に転げ落ち……運の悪い者は、その隙を突かれて探索者の攻撃により命を落とす。
こうして人形たちが姿を現したことにより、戦況は瞬く間に逆転した。
探索者たちは人形という援軍が来たことにより、多少なりとも気の休まる時間が出来る。
そんな探索者たちに対し、ガリンダミア帝国軍の兵士たちは人形の相手をしつつ、その隙を突くように攻撃してくる探索者たちの相手もしなければならないのだから、非常に厄介だ。
また……そんな兵士たちに対し、駄目押しするように遺跡からは次々と休むことなく人形が出続けてくる。
(亀の人形の甲羅を持ってくるとき、俺たちはかなり苦労したんだけどな。亀の人形なら、そんなのは関係ないのか)
身体をほとんど動かすことは出来ないアランだったが、何とか顔を動かして遺跡の方を見ながら、そのように思う。
亀の人形にしてみれば、自分がただ移動すればいいだけなのだから、甲羅を持って移動する……といったような面倒を気にしなくてもいいというのは大きいだろう。
(それにしても……この状況、本当に何とかならないのか? ゼオンを召喚出来れば、敵の大多数を一気に倒すことが出来るのに)
今のアランは、意識こそあれど死の瞳の力によってほとんど身動き出来ない状態だ。
それでもレオノーラと違って不思議と意識だけははっきりとしており、それだけに現在の自分の状況に思うところがあるのは間違いなかった。
(何とかする……やっぱり俺の場合はゼオンをどうにか使えるようにするしかないってことだよな)
アランも、自分のが一般的な……少なくても雲海や黄金の薔薇の探索者の平均的な能力には届いていないというのを知っている。
そんな自分の一番の利点は、やはり心核使いなのだと。
それだけに、自分の仲間たちが必死になって戦っている現状をどうにか打破するために必要なのは、やはり自分の心核で召喚するゼオンによって、ガリンダミア帝国軍を圧倒することが必要だった。
(でないと、最悪……俺だけじゃなくて、レオノーラも死にかねない)
アランにとって、それは決して許せることではない。
こうして動けずにいる間に、ガリンダミア帝国軍の兵士が野営地の中に突入して自分とレオノーラのいる場所までやって来る可能性がある。
そうなった時、今の状況ではどうしようもない。
であれば、今は何とかして少しでも行動する必要がある。
そう思い……今の状況を何とかすべく、身体を動かそうとする。
だが、死の瞳の効果によって今のアランはとてもではないが身体を動かすような余裕もなく……だが、アランはそれでも現在の状況に抗わんと身体を動かそうとし……やがてその右手は、ピクリと動くのだった。
その言葉が野営地全体に広がり、探索者たちの士気を飛躍的に高める。
だが……そんな探索者たちとは裏腹に、ガリンダミア帝国軍の兵士たちは動揺を隠せない。
「え、援軍? 援軍って……あの連中、こんな場所にいるってのに、どこから援軍が来たってんだよ?」
兵士の一人が、慌てたように周囲を見回す。
ここは草原にある場所だけに、もし援軍が来たとなれば必ずその姿を見ることが出来るはずだからだ。
だが、こうして周囲の様子を確認しても、どこにも敵の援軍らしき姿はない。
普通なら、援軍が来たというのは劣勢を跳ね返すことが出来なくなった探索者たちが口から出任せを言ったのだと、そう思ってもおかしくはない。
事実、周囲の様子を確認してどこにも援軍がないのを確認したのだから。
しかし……何故か探索者たちの士気が落ちる様子はない。
自分たちの策略が失敗したにもかかわらず、だ。
「どうなっている? だとしたら……ぐがっ!」
そうして周囲の様子を見ているのを隙と見て……そして実際、兵士にとっては大きな隙だったのだろう。
探索者の一人が放った槍の一撃は、鎧に包まれていない喉を貫く。
一撃で喉を斬り裂かれ、骨も折られ……それどころか、槍の一撃の威力が強すぎたためか、首が千切れ……そして頭部が地面に落ちる瞬間、それこそ死ぬ瞬間、少し離れた場所を歩いている人形の姿を目にするのだった。
「何だ!? 人形!? どこから出て来た!?」
そんな人形の姿に気が付いたのは、死んだ兵士だけではない。
探索者たちと戦っている兵士のうちん、何人かもそんな存在に気が付く。
……そして、最初に人形を見つけた兵士のように、その隙を突かれて命を落とした者も多数存在した。
最初から人形を自分たちの援軍として使おうとしていることを知っていた探索者側と、自分たちの方が数は多いので、それで押し切れる……そして探索者たちには援軍の類はないと判断していたガリンダミア帝国軍。
この二つの差は、何気に大きい。
戦いの中で隙を見せるということは、多くの者に動揺を与える。
少なくない数の兵士が、人形を見たことにより驚き、その隙を突かれて殺され、もしくは怪我をした。
そして、人形はただ相手を驚かせるだけではなく、ガリンダミア帝国軍に向けて攻撃を行う。
「くそっ! この人形たちも攻撃をしてくるぞ! 気をつけろ! 弱いけど、数は多い!」
人形の突き出した槍を長剣で弾いた兵士が、そう叫ぶ。
戦場となっている野営地では、他にも同様の光景がそこら中に広がっていた。
人形は、そこまで強くはない。
ガリンダミア帝国軍の兵士が新兵なら、苦戦したかもしれないが、ここにいる兵士たちは精鋭と呼ぶべき存在だ。
それだけに、人形の一匹や二匹を相手にしても楽に勝てる。
勝てるのだが……問題なのは、相手が人形だということそのものだろう。
相手が生きているのなら、それこそダメージを負えば痛みを感じるし、恐怖や焦燥感から行動にミスが出てもおかしくはない。
だが……人形はその名の通り人の形はしているものの、生き物ではない。
自分が攻撃されて、腕が切断されようが、足が切断されようが、全く気にした様子もなく攻撃を続ける。
また、人形であり自我の類がないためか、仲間が殺されても動揺したりせずに攻撃を続けるのだ。
これは、戦っている兵士たちにしてみれば非常にやりにくい。
また、人形の大きさが兵士たちの胴体ほどしかないというのも、微妙に戦いにくい理由となっていた。
相手が人間のつもりで攻撃をしても、普段通りにはいかないのだ。
兵士になる前はゴブリンのようなモンスターを倒したことがある者たち……具体的には、冒険者や探索者だった者であれば、そのような人形に対処出来たりもするのだが、そのような経験のない者たちは人形が弱いとはいえ、手を焼いている。
ましてや、その人形たちは自分たちだけを狙ってくるのだ。
雲海矢黄金の薔薇の探索者たちは、そんな人形を盾にし、陽動にし、使い捨ての駒とし……そうして、戦場は数で押し込まれようとしていた探索者たちが、人形を使って有利な状況に変わっていく。
「人形の相手は最低限でいい! とにかく、敵の数の減らすことを優先しろ!」
兵士を指揮している指揮官がそう叫ぶが、兵士たちは素直にその言葉だけを聞いている訳にはいかない。
人形が弱いのは事実だが、それでも人形は槍や長剣といった武器を持っており、自分たちを傷付けるには十分な攻撃力を持っているのだ。
そんな相手を放っておけば、それこそいつ自分たちが殺されてもおかしくはない。
とにかく数を減らす必要があるのだが、ガリンダミア帝国軍にとっては最悪なことに、人形たちは遺跡から続々と姿を現している。
それどころか……
「ちょっ、おい! 何だあの巨大な亀の人形! あんなのもいるのかよ!?」
人形が出て来た場所に注目していた兵士の一人が、ふざけるなと叫ぶ。
そう、ゆっくりとだが遺跡の入り口から姿を現したのは、アランたちが最初に遺跡に潜ったときに遭遇した、巨大な亀の人形だった。
もっとも、ガリンダミア帝国軍にとっては幸運なことに……そしてアランたちにとっては残念なことに、亀の人形は防御力こそ高いが、攻撃力そのものはそこまで高くはない。
それだけに、その大きさと亀という外見で相手に畏怖を抱かせることは出来るが、実際に攻撃をされた場合の被害というのは、そこまで大きくはないはずだった。
……とはいえ、それはあくまでも直接攻撃された場合の話だ。
「亀の人形を盾代わりに使いなさい! こっちの指示を聞いてくれるわよ!」
真っ先にその利用法に気が付いたのは、リア。
今までも長剣で多数のガリンダミア帝国軍の兵士を斬り殺してきたリアだったが、それでも盾代わり……いや、防壁代わりに使える亀の人形というのは非常にありがたい。
リアにとって、この野営地に攻めて来たガリンダミア帝国軍は、自分の息子を奪いに来た相手でしかない。
そのような相手を許せるはずもなく、恐らくこの戦場で最もガリンダミア帝国軍の兵士を殺したのは、リアだろう。
怒れる母親の強さを、まだ若い外見から侮った兵士たちは自分の命で支払うことになった。
そしてリアの説明を聞き、雲海と黄金の薔薇の探索者たちは、皆が亀の人形を防壁代わりに使う。
しかもその防壁は、探索者たちの指揮に従って移動するのだ。
……中には、最初にアランと一緒にこの亀の人形と戦った者もおり、そのような者たちは複雑な気分を抱いてもいたのだが。
「くそっ、この亀の人形……邪魔なんだよ! うわぁっ!」
攻撃しようとしたところで、相手が亀の人形の向こう側に向かったのを見た兵士が苛立たしげに叫ぶが、次の瞬間、亀の人形と地面の隙間から姿を現した人形に足を思い切り払われる。
革の足甲を身につけていたおかげで、足を切断させられるといったことはなかったが、代わりに兵士は地面に転んでしまい……次の瞬間、亀の人形の向こう側から姿を現した冒険者の槍によって首を貫かれ、命を落とす。
兵士の何人かは、自分の邪魔をする亀の人形を乗り越えて攻撃しようとした者もいたのだが、亀の人形はそれにタイミングを合わせるようにして身体を動かす。
乗り越えようと手を突いていた場所がいきなり動いたのだから、当然のように兵士はバランスをい崩して地面に転げ落ち……運の悪い者は、その隙を突かれて探索者の攻撃により命を落とす。
こうして人形たちが姿を現したことにより、戦況は瞬く間に逆転した。
探索者たちは人形という援軍が来たことにより、多少なりとも気の休まる時間が出来る。
そんな探索者たちに対し、ガリンダミア帝国軍の兵士たちは人形の相手をしつつ、その隙を突くように攻撃してくる探索者たちの相手もしなければならないのだから、非常に厄介だ。
また……そんな兵士たちに対し、駄目押しするように遺跡からは次々と休むことなく人形が出続けてくる。
(亀の人形の甲羅を持ってくるとき、俺たちはかなり苦労したんだけどな。亀の人形なら、そんなのは関係ないのか)
身体をほとんど動かすことは出来ないアランだったが、何とか顔を動かして遺跡の方を見ながら、そのように思う。
亀の人形にしてみれば、自分がただ移動すればいいだけなのだから、甲羅を持って移動する……といったような面倒を気にしなくてもいいというのは大きいだろう。
(それにしても……この状況、本当に何とかならないのか? ゼオンを召喚出来れば、敵の大多数を一気に倒すことが出来るのに)
今のアランは、意識こそあれど死の瞳の力によってほとんど身動き出来ない状態だ。
それでもレオノーラと違って不思議と意識だけははっきりとしており、それだけに現在の自分の状況に思うところがあるのは間違いなかった。
(何とかする……やっぱり俺の場合はゼオンをどうにか使えるようにするしかないってことだよな)
アランも、自分のが一般的な……少なくても雲海や黄金の薔薇の探索者の平均的な能力には届いていないというのを知っている。
そんな自分の一番の利点は、やはり心核使いなのだと。
それだけに、自分の仲間たちが必死になって戦っている現状をどうにか打破するために必要なのは、やはり自分の心核で召喚するゼオンによって、ガリンダミア帝国軍を圧倒することが必要だった。
(でないと、最悪……俺だけじゃなくて、レオノーラも死にかねない)
アランにとって、それは決して許せることではない。
こうして動けずにいる間に、ガリンダミア帝国軍の兵士が野営地の中に突入して自分とレオノーラのいる場所までやって来る可能性がある。
そうなった時、今の状況ではどうしようもない。
であれば、今は何とかして少しでも行動する必要がある。
そう思い……今の状況を何とかすべく、身体を動かそうとする。
だが、死の瞳の効果によって今のアランはとてもではないが身体を動かすような余裕もなく……だが、アランはそれでも現在の状況に抗わんと身体を動かそうとし……やがてその右手は、ピクリと動くのだった。
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