276 / 422
逃避行
275話
しおりを挟む
ゼオンの攻撃の影響もないままに、ガリンダミア帝国軍は野営地に向かって近付いていく。
もしこれが戦争なら、戦闘が始まる前に相手に降伏勧告をしたりといった真似をしてもおかしくはない。
だが、それはあくまでも正式な戦争であればの話だ。
現在ここで起こっているのは、表向きには反乱勢力の鎮圧行動だ。
……実際、アランを助けるためとはいえ、帝城に攻撃をして乗り込み、好き放題に暴れるといった真似をしたのだから、雲海や黄金の薔薇が反乱勢力だというのは決して間違ってはいない。
そしてダーズラとしても、ガリンダミア帝国軍に被害を与えた雲海や黄金の薔薇は、倒すべき敵としか認識していない。
唯一、主のビッシュから命令されたアランだけは、何としても生け捕りにする必要があったが。
そのような理由から、降伏勧告も何もなく……ダーズラ率いるガリンダミア帝国は、野営地に向かって攻撃を始めた。
草原の中に存在する野営地だけに、見渡しは非常にいい。
そういう意味では、防衛側にとって有利ではあったのだが……同時に、数の差という圧倒的な不利もある。
「畜生! 連中、右から回り込んでくるつもりだぞ! 手の空いてる奴は、そっちに向かってくれ!」
平原だからこそ、ガリンダミア帝国軍が部隊を動かすのを見逃すといったようなことはない。
だが、その代わりに人数の差がある以上、それが分かっていても防ぐために動ける人数は決して多くはなかった。
「くそっ、俺が行く! 他にも何人か手の空いてる奴は来い!」
雲海の男がそう叫び、野営地の右側に向かう。
それを何人かの兵士が追った。
普通なら、攻撃側と防御側では防御側の方が有利と言われている。
それこそ、攻撃側が三倍以上の戦力を用意して、ようやく互角といったように。
だが……それはあくまでも防御側の設備がしっかりしている場合の話だ。
城や城塞といった場所があればこそ、防御側の方が有利と言える。
しかし、この防衛戦で雲海や黄金の薔薇が立て籠もっているのは、簡単な柵だけが存在する野営地だ。
一応柵が防御設備と言えるのかもしれないが、攻撃側にしてみれば壊そうと思えば楽に壊すことが出来る代物でしかない。
そして防御側にとってもっと不利だった理由の一つは、未だにレオノーラが気絶したままだということだろう。
死の瞳の効果によって、黄金のドラゴンから強制的に変身を解除させられたレオノーラ。
アランも同じような状況ではあったのだが、幸いにして意識はある。……身体に力が入れられないので、とてもではないが起き上がることが出来ないが。
アランは能力値が心核使いに特化しているので、生身での戦闘力は弱い。
もちろん、探索者としては何とか合格ラインといったくらいなので、その辺の兵士を相手にした場合はそれなりに戦えるのだが。
しかし……そんなアランとは違い。レオノーラは心核使いとしてもアランに近い技量を持ちながら、生身での戦闘はアランよりも圧倒的に上だ。
その上、鞭という中距離の武器を使いこなし、魔法も得意だ。
今のように少人数で戦っている場合、レオノーラという存在は非常に大きな戦力となるのだが……そのレオノーラは、現在戦力として使えない。
(くそっ、イルゼンさんはまだなのか? このままだと、野営地を突破されかねないぞ?)
声には出さないものの、アランは現状の不味さをしっかりと理解していた。
とはいえ、今の状況において自分の出来ることはほとんどない以上、下手に言葉を発して戦いに集中している者たちの心を乱さないようにしていたのだが。
それは今のところ成功していた。
今の状況では、雲海や黄金の薔薇がかなりガリンダミア帝国軍との戦いに集中している。
「おい、防御魔法用意だ! 連中、攻撃魔法の準備をしているぞ!」
誰かがそう叫ぶと、素早く魔法が得意な者は防御魔法の準備をし……やがて、ガリンダミア帝国軍から飛んできた火球、氷の矢、風の刃、岩の槍といった攻撃が放たれるが、防御魔法によって生み出された光の膜よりってそれらを防ぎ……
「違う! 魔法だけじゃねえ! 連中、弓用意しているぞ! 対処を忘れるな!」
魔法はあくまでも、ブラフ。
アランたちに魔法を使わせ、弓矢による攻撃を隠すというものだった。
魔法の盾というのは、それぞれによって強度が違う。
強烈な一撃を防げるだけの防御力を誇るが、展開している時間が短いもの。
弱い攻撃しか防げない程度の防御力だが、展開している時間が長いもの。
もしくは、その中間。
そのように様々な性質を持つのだが、今の状況においてそれは大きな弱点となる。
魔法を防ぐという目的で魔法の盾を使っている以上、そのあとにやってくる矢……それも十本、二十本ではなく、百本単位で降り注ぐ大量の矢を防ぐというのは難しい。
「くそっ、展開時間が長い奴の周囲に集まれ! 戦ってる奴は、自分に命中しないことを祈れ!」
一人が指示を出す。
祈れというのは、普通ならとてもではないが指示とは言えない。
だが、今のこの状況においては、敵と直接戦っている者が安心なのも、間違いのない事実だった。
敵も、普通は味方に当たるような攻撃はしない。
そうである以上、矢が降り注ぐ場所は味方のいない場所……つまり、敵だけが集まっている場所となる。
(って、俺は!?)
動けない状況のアランは、当然だが魔法を使うことも出来ない。
慌てて何とかしようとするアランだったが、その行動に移すよりも前に黄金の薔薇の探索者たちがアランの側に……正確にはアランの隣で気絶したままのレオノーラを守るためにやって来る。
(助かった)
もちろん、黄金の薔薇の探索者たちはアランよりもレオノーラを重視しているが、それでもアランを見捨てるといった真似はしない。
……中には、自分たちを率いる主君とも言うべきレオノーラと何故か親密なアランに思うところがある者もいたが、だからといってここで見捨てるような真似はするはずもない。
アランに向かって不満そうな視線を向けてくる何人かに、居心地が悪くなりながら……それでもアランは、自分を守ってくれるのならと、その視線にも耐える。
そして魔法が降り注ぎ、少し遅れて大量の矢が降り注いだ。
魔法の盾を使い、それを防ぐ雲海や黄金の薔薇の者たち。
そのような時間が数十秒続く。
身動きが出来ないまま、一方的に攻撃され続けるアランとしては、数十秒どころか数十分にも感じられた時間だったが、それでも攻撃が収まれば安堵することが出来た。
「よし、反撃だ! 強力な一撃を叩き込んでやれ!」
その命令に、魔法を使える者は強力な魔法を、弓を持つ者は矢を射る。
ガリンダミア帝国軍の兵士とこの場にいる探索者では、当然の話だが探索者の方が精鋭だ。
それだに、探索者側がやったように攻撃を防ごうとした兵士たちだったが、放たれた複数の魔法はガリンダミア帝国軍側で展開された魔法の盾を貫き、もしくは射られた矢は魔法の盾の隙間を縫うように移動して相手に突き刺さる。
双方の練度の差が、如実に表れた形だった。
『うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!』
自分たちが有利だと、そう相手に示すように叫ぶ探索者たち。
それが具体的にどのくらいの効果があるのかは、それこそ雄叫びを上げた本人たちんも分からない。
分からないが、それでも今の状況を思えば少しでも相手よりも自分たちの士気を上げる必要があった。
もちろん、ガリンダミア帝国軍側もそんな相手の行動を黙って見ていた訳ではない。
「敵の数は少ない、こちらの方が圧倒的に多いぞ! 行け行け行け行け! 敵はガリンダミア帝国軍に弓引く存在、帝城を攻撃した者たちだ! 決して逃がす訳にはいかんぞ!」
ガリンダミア帝国軍の指揮官の一人が叫ぶ声。
その声に従うように、兵士たちもまた探索者にまけじと雄叫びを上げながら攻撃を行う。
「ちっ、厄介な。これだから精鋭って奴は」
探索者の一人が、敵の反応の素早さに苛立ちを覚えつつ、攻撃を再開する。
向こうが何らかの手を打てば、自分たちもそれに素早く対抗する。
だが、自分たちが何らかの手を打てば、向こうもそれに即座に対向するのだ。
アランは一進一退……と表現したいところだったが、死の瞳の力によって心核使いたちの能力が使えない以上、圧倒的に不利なのはやはり探索者側だ。
戦えば勝てるが、そもそも人数の多いガリンダミア帝国軍側は、戦わずに野営の中に入ろうと動いている。
だからこそ、探索者側は対処するのに必死で、そんな中で離れた場所から魔法や矢が飛んでくるのだから、そちらにも対処する必要があった。
そのような状況で、二時間近くが経過する。
普通なら、全力で二時間動くというのは非常に難しい。
しかし、ここにいるのは探索者……それも腕利きのという言葉が頭に付く探索者たちだ。
その程度のことは容易に出来る。
出来るのだが……それでも疲れるのは当然だった。
「くそっ、まだか! イルゼンさんはまだなのかよ!」
ガリンダミア帝国軍の兵士の死体を蹴りながら、叫ぶ男。
二時間も戦いが続いている関係上、当然だが兵士の死体は邪魔となる。
これが遺跡の探索であれば、探索をしているという関係上、戦いの場所は常に移動するので死体の処理に困ったりといったことはない。
しかし、ここでは非常に狭い範囲で防衛戦を行っているのだ。
当然、殺した死体はその場に残って戦闘の邪魔となる。
そんな場所での戦いだけに、探索者たちも苦労するのは当然だった。
それでも、現状ではまだ探索者たちの方が有利なのは間違いない。
何故なら、探索者たちは様々な遺跡を攻略してきている。
その中には、現在と全く同じ……とは言わずとも、似たような状況で戦った経験は少なからずあった為だ。
とはいえ、それでも戦いにくい場所で人数も圧倒的に自分たちの方が少ない状況では、不利なのは明白だ。
このままでは本当に危険だ。
何人もがそう思った瞬間……不意に、遺跡の中から数匹の人形が姿を現す。
それは……雲海や黄金の薔薇の誰もが待っていた光景。
そんな人形の姿に気が付いた一人は、思わず叫ぶ。
「援軍だ! 援軍が来たぞぉっ!」
その声は、野営地全体に響き渡るのだった。
もしこれが戦争なら、戦闘が始まる前に相手に降伏勧告をしたりといった真似をしてもおかしくはない。
だが、それはあくまでも正式な戦争であればの話だ。
現在ここで起こっているのは、表向きには反乱勢力の鎮圧行動だ。
……実際、アランを助けるためとはいえ、帝城に攻撃をして乗り込み、好き放題に暴れるといった真似をしたのだから、雲海や黄金の薔薇が反乱勢力だというのは決して間違ってはいない。
そしてダーズラとしても、ガリンダミア帝国軍に被害を与えた雲海や黄金の薔薇は、倒すべき敵としか認識していない。
唯一、主のビッシュから命令されたアランだけは、何としても生け捕りにする必要があったが。
そのような理由から、降伏勧告も何もなく……ダーズラ率いるガリンダミア帝国は、野営地に向かって攻撃を始めた。
草原の中に存在する野営地だけに、見渡しは非常にいい。
そういう意味では、防衛側にとって有利ではあったのだが……同時に、数の差という圧倒的な不利もある。
「畜生! 連中、右から回り込んでくるつもりだぞ! 手の空いてる奴は、そっちに向かってくれ!」
平原だからこそ、ガリンダミア帝国軍が部隊を動かすのを見逃すといったようなことはない。
だが、その代わりに人数の差がある以上、それが分かっていても防ぐために動ける人数は決して多くはなかった。
「くそっ、俺が行く! 他にも何人か手の空いてる奴は来い!」
雲海の男がそう叫び、野営地の右側に向かう。
それを何人かの兵士が追った。
普通なら、攻撃側と防御側では防御側の方が有利と言われている。
それこそ、攻撃側が三倍以上の戦力を用意して、ようやく互角といったように。
だが……それはあくまでも防御側の設備がしっかりしている場合の話だ。
城や城塞といった場所があればこそ、防御側の方が有利と言える。
しかし、この防衛戦で雲海や黄金の薔薇が立て籠もっているのは、簡単な柵だけが存在する野営地だ。
一応柵が防御設備と言えるのかもしれないが、攻撃側にしてみれば壊そうと思えば楽に壊すことが出来る代物でしかない。
そして防御側にとってもっと不利だった理由の一つは、未だにレオノーラが気絶したままだということだろう。
死の瞳の効果によって、黄金のドラゴンから強制的に変身を解除させられたレオノーラ。
アランも同じような状況ではあったのだが、幸いにして意識はある。……身体に力が入れられないので、とてもではないが起き上がることが出来ないが。
アランは能力値が心核使いに特化しているので、生身での戦闘力は弱い。
もちろん、探索者としては何とか合格ラインといったくらいなので、その辺の兵士を相手にした場合はそれなりに戦えるのだが。
しかし……そんなアランとは違い。レオノーラは心核使いとしてもアランに近い技量を持ちながら、生身での戦闘はアランよりも圧倒的に上だ。
その上、鞭という中距離の武器を使いこなし、魔法も得意だ。
今のように少人数で戦っている場合、レオノーラという存在は非常に大きな戦力となるのだが……そのレオノーラは、現在戦力として使えない。
(くそっ、イルゼンさんはまだなのか? このままだと、野営地を突破されかねないぞ?)
声には出さないものの、アランは現状の不味さをしっかりと理解していた。
とはいえ、今の状況において自分の出来ることはほとんどない以上、下手に言葉を発して戦いに集中している者たちの心を乱さないようにしていたのだが。
それは今のところ成功していた。
今の状況では、雲海や黄金の薔薇がかなりガリンダミア帝国軍との戦いに集中している。
「おい、防御魔法用意だ! 連中、攻撃魔法の準備をしているぞ!」
誰かがそう叫ぶと、素早く魔法が得意な者は防御魔法の準備をし……やがて、ガリンダミア帝国軍から飛んできた火球、氷の矢、風の刃、岩の槍といった攻撃が放たれるが、防御魔法によって生み出された光の膜よりってそれらを防ぎ……
「違う! 魔法だけじゃねえ! 連中、弓用意しているぞ! 対処を忘れるな!」
魔法はあくまでも、ブラフ。
アランたちに魔法を使わせ、弓矢による攻撃を隠すというものだった。
魔法の盾というのは、それぞれによって強度が違う。
強烈な一撃を防げるだけの防御力を誇るが、展開している時間が短いもの。
弱い攻撃しか防げない程度の防御力だが、展開している時間が長いもの。
もしくは、その中間。
そのように様々な性質を持つのだが、今の状況においてそれは大きな弱点となる。
魔法を防ぐという目的で魔法の盾を使っている以上、そのあとにやってくる矢……それも十本、二十本ではなく、百本単位で降り注ぐ大量の矢を防ぐというのは難しい。
「くそっ、展開時間が長い奴の周囲に集まれ! 戦ってる奴は、自分に命中しないことを祈れ!」
一人が指示を出す。
祈れというのは、普通ならとてもではないが指示とは言えない。
だが、今のこの状況においては、敵と直接戦っている者が安心なのも、間違いのない事実だった。
敵も、普通は味方に当たるような攻撃はしない。
そうである以上、矢が降り注ぐ場所は味方のいない場所……つまり、敵だけが集まっている場所となる。
(って、俺は!?)
動けない状況のアランは、当然だが魔法を使うことも出来ない。
慌てて何とかしようとするアランだったが、その行動に移すよりも前に黄金の薔薇の探索者たちがアランの側に……正確にはアランの隣で気絶したままのレオノーラを守るためにやって来る。
(助かった)
もちろん、黄金の薔薇の探索者たちはアランよりもレオノーラを重視しているが、それでもアランを見捨てるといった真似はしない。
……中には、自分たちを率いる主君とも言うべきレオノーラと何故か親密なアランに思うところがある者もいたが、だからといってここで見捨てるような真似はするはずもない。
アランに向かって不満そうな視線を向けてくる何人かに、居心地が悪くなりながら……それでもアランは、自分を守ってくれるのならと、その視線にも耐える。
そして魔法が降り注ぎ、少し遅れて大量の矢が降り注いだ。
魔法の盾を使い、それを防ぐ雲海や黄金の薔薇の者たち。
そのような時間が数十秒続く。
身動きが出来ないまま、一方的に攻撃され続けるアランとしては、数十秒どころか数十分にも感じられた時間だったが、それでも攻撃が収まれば安堵することが出来た。
「よし、反撃だ! 強力な一撃を叩き込んでやれ!」
その命令に、魔法を使える者は強力な魔法を、弓を持つ者は矢を射る。
ガリンダミア帝国軍の兵士とこの場にいる探索者では、当然の話だが探索者の方が精鋭だ。
それだに、探索者側がやったように攻撃を防ごうとした兵士たちだったが、放たれた複数の魔法はガリンダミア帝国軍側で展開された魔法の盾を貫き、もしくは射られた矢は魔法の盾の隙間を縫うように移動して相手に突き刺さる。
双方の練度の差が、如実に表れた形だった。
『うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!』
自分たちが有利だと、そう相手に示すように叫ぶ探索者たち。
それが具体的にどのくらいの効果があるのかは、それこそ雄叫びを上げた本人たちんも分からない。
分からないが、それでも今の状況を思えば少しでも相手よりも自分たちの士気を上げる必要があった。
もちろん、ガリンダミア帝国軍側もそんな相手の行動を黙って見ていた訳ではない。
「敵の数は少ない、こちらの方が圧倒的に多いぞ! 行け行け行け行け! 敵はガリンダミア帝国軍に弓引く存在、帝城を攻撃した者たちだ! 決して逃がす訳にはいかんぞ!」
ガリンダミア帝国軍の指揮官の一人が叫ぶ声。
その声に従うように、兵士たちもまた探索者にまけじと雄叫びを上げながら攻撃を行う。
「ちっ、厄介な。これだから精鋭って奴は」
探索者の一人が、敵の反応の素早さに苛立ちを覚えつつ、攻撃を再開する。
向こうが何らかの手を打てば、自分たちもそれに素早く対抗する。
だが、自分たちが何らかの手を打てば、向こうもそれに即座に対向するのだ。
アランは一進一退……と表現したいところだったが、死の瞳の力によって心核使いたちの能力が使えない以上、圧倒的に不利なのはやはり探索者側だ。
戦えば勝てるが、そもそも人数の多いガリンダミア帝国軍側は、戦わずに野営の中に入ろうと動いている。
だからこそ、探索者側は対処するのに必死で、そんな中で離れた場所から魔法や矢が飛んでくるのだから、そちらにも対処する必要があった。
そのような状況で、二時間近くが経過する。
普通なら、全力で二時間動くというのは非常に難しい。
しかし、ここにいるのは探索者……それも腕利きのという言葉が頭に付く探索者たちだ。
その程度のことは容易に出来る。
出来るのだが……それでも疲れるのは当然だった。
「くそっ、まだか! イルゼンさんはまだなのかよ!」
ガリンダミア帝国軍の兵士の死体を蹴りながら、叫ぶ男。
二時間も戦いが続いている関係上、当然だが兵士の死体は邪魔となる。
これが遺跡の探索であれば、探索をしているという関係上、戦いの場所は常に移動するので死体の処理に困ったりといったことはない。
しかし、ここでは非常に狭い範囲で防衛戦を行っているのだ。
当然、殺した死体はその場に残って戦闘の邪魔となる。
そんな場所での戦いだけに、探索者たちも苦労するのは当然だった。
それでも、現状ではまだ探索者たちの方が有利なのは間違いない。
何故なら、探索者たちは様々な遺跡を攻略してきている。
その中には、現在と全く同じ……とは言わずとも、似たような状況で戦った経験は少なからずあった為だ。
とはいえ、それでも戦いにくい場所で人数も圧倒的に自分たちの方が少ない状況では、不利なのは明白だ。
このままでは本当に危険だ。
何人もがそう思った瞬間……不意に、遺跡の中から数匹の人形が姿を現す。
それは……雲海や黄金の薔薇の誰もが待っていた光景。
そんな人形の姿に気が付いた一人は、思わず叫ぶ。
「援軍だ! 援軍が来たぞぉっ!」
その声は、野営地全体に響き渡るのだった。
0
お気に入りに追加
163
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる