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囚われの姫君?

237話

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「うおおおおおおおおおっ!」

 レジスタンスの者たちが、雄叫びを上げながら帝城の中を進む。
 黄金のドラゴンによって結界が破壊され、帝城の者たちは動揺し……その隙を突くように城に近付いてみれば、そこでは通用門が開かれていた。
 レジスタンスの中でも鋼の蜘蛛の者たちは、そこに残された目印から、それを行ったのが帝城に潜入していたダーナとメライナの仕業だと知る。
 それがあったからこそ、他のレジスタンスたちにこれが罠ではないと説明し、帝城の中に突入したのだ。
 そして帝城の中に入ることが出来れば、あとはこれが自分たちの仕業だと示すために暴れる必要があった。
 ……実際には、アランとカロの救出こそが最大の目的だったのだが、鋼の蜘蛛のメンバーはともかく、それに協力している者たちは一種の数合わせ的な存在だ。
 大事なことは教えられておらず、砦の一件の失態を取り戻すべく帝城の中で暴れ回っていた。
 中には価値のある物だろうと、壺や絵を奪っているような者もいたが。
 ただし、前もってメイドや使用人のような一般人には手を出さないようにと言ってあったので、そちらの被害はほとんどない。
 ほとんどであって、ゼロではないのは……

「ぐわぁっ! てめえ、何をする!」

 そう叫んだのは、殴り飛ばされたレジスタンスの一人。
 床には、メイド服を破かれて白い肌を晒しているメイドの姿がある。
 それを見れば、殴られたレジスタンスが何をしようとしたのかは一目瞭然だろう。
 だからこそ、雲海の探索者にして心核使いのロッコーモは、苛立ちの視線を怒っているレジスタンスの男に向けていた。

「一般人には手を出すな。前もってそう言われていたはずだろう? なのに、お前は何をしてるんだ? それがレジスタンスとか名乗ってる連中のやることか?」
「ぐ……」

 その言葉に、殴られたレジスタンスの男は何も言えなくなる。
 これが、その辺の相手であれば、関係ないだろうと突っぱねるような真似も出来るのだが……相手が腕利きの探索者にしてオーガに変身する心核使いとなれば、話は違う。
 それこそ、ここで下手にロッコーモに攻撃しても、あっさり返り討ちにあってしまうのは明らかだ。

「はっ、やってられねえぜ!」

 そう叫び、レジスタンスの男はその場を走り去る。

「鋼の蜘蛛はレジスタンスとして規律が取れてるって話だったが……そんな鋼の蜘蛛が声をかけた連中は、必ずしもそうじゃねえってことか」

 面倒臭そうに呟き、今でこの状況である以上は、他にも同じようなことをしている者がいそうだなと思いつつ、ロッコーモはメイド服を破られた女に声をかける。

「大丈夫か? 今の城の中は危険だから、どこかの部屋に隠れていた方がいいぞ。次に同じような目に遭ったりしても、止めることが出来るとは限らねえからな」
「は、はい……」

 メイドはロッコーモの言葉に急いで頷き、破られたメイド服を手に、どうにか肌を隠してその場から走り去る。
 中途半端に白い肌が露出している分、もしかしたら余計に男の情欲を刺激するのではないか? とロッコーモも思わないではなかったが、今のロッコーモにはやるべきことがある。
 動揺している帝城の者たちが立ち直るよりも前に、アランの救出とカロの奪還を行う必要があるのだ。
 帝城の中には、先程のレジスタンスや鋼の蜘蛛のの面々以外にも、雲海と黄金の薔薇の探索者が入り混んでいる。
 ロッコーモも、今は取りあえずカロを目指して研究所がある区画に向かっていた。
 ……本来なら、アランを救出した方がいいと思うのだが、そちらには怒れる母親や父親、それに黄金の薔薇のレオノーラも向かっている以上、自分はカロを取り返すという行為を優先する必要があった。
 問題なのは、カロがある研究区画がどこにあるのか、はっきりと分からないことだろう。
 鋼の蜘蛛のダーナか、黄金の薔薇のメライナと会うことが出来れば、その辺りの詳しい情報も貰えるのだろうが……残念ながら、今のところそんな二人とは会っていない。
 とはいえ、ロッコーモはメライナの顔は知っているのだが、ダーナとは会ったことがないので、もし目の前にダーナがいても気が付かないのだが。

「ともあれ、帝城の中が混乱している今のうちに、素早く動く必要があるな。……とはいえ、今の状況ではどこにいけばいいのか分からないが」

 そんな風に呟きつつ、ロッコーモは走って通路を移動する。
 当然の話だが、そんなロッコーモの姿は見る者にはすぐに怪しい存在だと映る。
 帝城の中が混乱している今の状況であっても、ロッコーモほどに存在感のある者は、どうしても目立ってしまうのだろう。

「おい、貴様! 城の者ではないな? 侵入者か!」

 黄金のドラゴンが出たということで、そちらに移動しようとしていた騎士の一人が、ロッコーモの姿を見咎めて、そう叫ぶ。
 ……だが、ロッコーモは当然そんな言葉に素直に答えるはずもなく、勢いを付けたままで一気に間合いを詰めて、殴り飛ばす。
 アランであれば。騎士を相手にしてこうも簡単に勝つような真似は出来ないが、それはあくまでもアランだからだ。
 アランと同じ心核使いであっても、ロッコーモはアランと違って生身の戦いでの実力という点ではアランよりも明らかに上であり……騎士もまた、グヴィスのように特に選抜された腕利きの騎士という訳ではない以上、この結果は当然だったのだろう。
 一撃で鎧を着ている騎士を吹き飛ばして気絶させらロッコーモは、そのまま城の通路を進み……やがて、兵士が何人か護衛についている扉の前に到着する。

「ここは?」

 扉の前で立ち止まって呟くロッコーモだったが、当然のように兵士たちがその言葉に答えるはずがない。
 目の前にいるのは、間違いなく敵。
 そうである以上、言葉を交わす必要もなく殺すだけだ。
 兵士たちは、手にしている槍を同時に突き出す。
 重要な場所の警護を任されている以上、兵士たちの中では腕利きの存在なのだろう。
 だが……生憎と、騎士ですら圧倒出来る実力を持つロッコーモを相手に、数人の兵士でどうにか出来るはずもない。
 突き出された槍はあっさりと回避されて懐に入られ、意識を奪われる。
 ここまで、ロッコーモが扉の前に到着してから、数秒とかかっていない。

「さて、こうして厳重に守ってる以上は何か重要な場所なんだろうが……どんな場所だろうな」

 兵士たちが扉の前にいるということは、間違いなく何らかの意味がある場所なのだろう。
 そう考え、ロッコーモは一応警戒しながら扉を開けようとして……

「うるさいな! さっきから一体何があったんだよ! こっちは実験で忙しいんだぞ!」

 そんな声と共に、ロッコーモが開くよりも前に扉が開き、やがて白衣に身を包んだ男が姿を現す。
 年齢は三十代から四十代といったところか。
 それがどのような相手なのかは、考えるまでもなくロッコーモにも分かった。
 自分の幸運に感謝しながら、ロッコーモは研究者の胸ぐらを掴んで強引に引き寄せる。

「ひぃっ!」

 研究者にしてみれば、完全に予想外だったのだろう。
 見覚えのない巨漢を前に、研究者という仕事柄、決して逞しくないその男は数秒前の強気な自分の発言も忘れた様子で、悲鳴を上げる。

「実験って言ったな? つまり、ここは研究区画でいいんだな?」
「は、はい。そうです」

 研究者が急いで頷くのを見て、ロッコーモは自分の運のよさに笑みを浮かべる。
 現在、帝城の中ではアランの軟禁されている部屋とカロが収納されている研究所を探すために、何人もが動き回っている。
 そんな中で、ロッコーモがこうして最初にこの場所を見つけたのだからう、ロッコーモにとって運がいいのは間違いなかった。

「よし。なら、中に案内してもらぞ。お前たちが捕まえている心核使いのアランが持っていた心核がここにあるってのは聞いてるんだ。それを貰おう」
「え? そんな……」

 研究者はロッコーモの言葉にすぐには頷かない。
 ゼオンという人型機動兵器を召喚するという、この世界においては非常に珍しい……いや、唯一無二と言ってもいい心核だけに、研究者としてはそれを寄越せと言われてはいそうですか頷く訳にもいかないのだろう。
 だが……ロッコーモはただでさえ巨漢と呼ぶに相応しい体格をしており、その上で粗暴な性格をしている。
 研究者が、そんなロッコーモを相手にどうにか出来るはずもない。
 いや。研究者によっては、自分が殺されても相手に屈しないといったようなことをしてもおかしくはないのだが、生憎とこの研究者はそこまで強い意志を持っていない。
 最初こそは何とかロッコーモに対抗しようとしたのだが、それも数十秒で屈してしまう。
 元々ロッコーモが強面だというのもあるが、それ以上にロッコーモにとってガリンダミア帝国の者たちは自分の家族とも言えるアランを強引に連れ去った者たちだ。
 そんな相手に手加減をするようなつもりは、一切ない。
 ……それでいながら、先程のようにメイドを助けたりといったようなことは行うのだが。

「わ、分かりました。……こっちです」

 そう言い、学者はロッコーモの研究所内に引き入れる。
 本来なら、これは当然のように禁止されている行為だ。それこそ、場合によっては死刑になってもおかしくないほどの。
 それだけ、この研究区画で行われている研究というのは、ガリンダミア帝国にとっては重要な代物なのだ。
 だが……ロッコーモの前を歩かされている研究者は、もし案内をしないと言えば、死刑になるよりも前にここで殺されてしまいかねないと思ってしまった。
 実際、その予想は決して間違っている訳ではない。
 ロッコーモが粗暴な性格をしているのは事実だし、弟分とも思っているアランを連れ去られたのだ。
 そんな相手に手加減をするなどという真似を、ロッコーモがするはずもない。
 研究区画の中には他にも大勢の研究者がいたが、ロッコーモの放つ雰囲気に何か行動出来る者はいない。
 元々研究者というのは研究をするのが仕事で、ロッコーモのような暴力の臭いをさせている相手に、何か出来るはずもない。
 実際には研究成果を実戦で試すような者もいるのだが、生憎とこの研究区画にそのような研究者はいない。
 こうして、ロッコーモは研究者を脅すことにより、無事にカロの奪還に成功し……ついでとばかりに、研究区画にある大事そうな物を手当たり次第に破壊し、研究者たちが泣き喚く声を聞きながら、研究区画から脱出するのだった。
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