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囚われの姫君?
219話
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「初めまして、私はメライナといいます」
「ええ、初めまして。私はダーナよ。この城では、色々と大変なこともあると思うけど、分からないことがあったら私に聞いてね」
メイドが初めて会った先輩に挨拶をすると、その先輩も優雅に微笑みながらそう言葉を返す。
「では、メライナはダーナが仕事を教えるということでいいわね?」
「はい、メイド長。お任せ下さい」
ダーナはメイド長の言葉に、優雅に一礼する。
メイド長……という役職は、実はこの城の中では相応に高い。
ガリンダミア帝国の皇帝が住む城には多くのメイドたちがいるが、メイド長はそのメイドたちの頂点に立つ存在なのだ。
当然のように部下は多く……その辺の新人騎士よりも強い権限を持つ。
もっとも、帝城と呼ばれるこの城の業務を任されている以上、メイド長が偉ぶるようなことはない。……当然のように、仕事については厳しいが。
そんなメイド長から見てダーナは一人前のメイドで仲間の面倒見もいいと、そのように思える人物だ。
それだけに、今の新人の面倒を見させるのは、そうおかしな話ではない。
「では、仕事を頼みましたよ」
そう告げ、メイド長はその場を立ち去る。
もう五十代ではあっても、その足取りはしっかりとしており、年齢を感じさせるようなことはない。
そして当然のように耳や目も年齢不相応に鋭敏で、まだまだ現役で頑張るだろうというのが、メイド長を知っている者たちの感想だった。
「さて、じゃあ行きましょうか。まずは、部屋の掃除から教えるわね」
そう告げるダーナに、新人のメライナは真剣な様子で頷く。
まず最初に向かったのは、城の中でもそれなりの大きさの部屋だ。
ちょっとした会議をするときに使われる部屋だけに、それなりに散らかっている。
何かを書いた紙くずが丸めて捨てられていたりもされており、掃除をするという意味ではこれ以上ない場所なのは間違いなかった。
「じゃあ、まずはこの部屋の掃除からね」
「はい、分かりました」
ダーナの言葉に、メライナは素直に頷くと掃除を始める。
その後は、ダーナに細かい注意を受けつつも、メライナは真面目に掃除を行う。
そうして、掃除がある程度終わったところで……
「そう言えば、ダーナさん。ちょっと聞きたいんですが……」
ゴミを集め終わったメライナが、不意にそんな風に尋ねる。
ダーナは仕事を一段落させると、メライナを見て口を開く。
「どうしたの? 何かわからないことでもあった?」
「はい。……ダーナさんは、ドロレス地方のワインの中では、二十年くらい前のものが好きだと聞いたのですが、本当ですか?」
ピクリ、と。
ダーナはメライナの口から出た言葉に、反応を見せる。
数秒前までは、面倒見のいい先輩……それも帝城で働くメイドだけに、見目麗しいという表現が相応しかったダーナだったが、今の言葉を口にしたメライナを見る視線は厳しい。
だが、ダーナはメライナに向かって何かを口にするよりも前に、周囲の状況を入念にチェックする。
周辺には誰の姿もないのを確認してから、先程まで話していたときとは全く違う様子で、口を開く。
「あんたは誰? 鋼の蜘蛛では、あんたみたいな女は見たことがなかったけど」
並の男なら間違いなく怯むだろう鋭い視線を向けられつつも、メライナはその視線を全く気にした様子もなく、口を開く。
「私は黄金の薔薇の探索者です。現在は鋼の蜘蛛と協力関係にあります」
「……黄金の薔薇? それって、探索者のクランの……?」
メイドはその仕事の関係上、城の中の噂に詳しい。
普通のメイドであってもそうなのだから、鋼の蜘蛛から派遣されているダーナは多くの情報を集める必要がある以上、他のメイドたちよりも詳しい。
そして城の中の噂で、黄金の薔薇の名前を聞いたことは何度もある。
ガリンダミア帝国にとって、雲海と黄金の薔薇というのは色々な意味で注目すべき相手だ。
そうである以上、当然の話だが城の中でも雲海や黄金の薔薇の名前が出ることはある。
……中には、栄光あるガリンダミア帝国軍が探索者を相手に負けたということが面白くなく、その二つの名前が出ると不満を露わにする者もいたが。
「ええ。……その前に、まずはこれを」
そう言い、メライナはポケットから一通の手紙を取り出し。ダーナに渡す。
まだメライナのことを怪しみながらも、今はとにかく少しでも情報が欲しいダーナは、その手紙を受け取り……開ける前に、よく確認する。
何しろ、鋼の蜘蛛の中で唯一メイドとして城に潜入しているダーナは、その重要性故に、そう簡単に城から出ることは出来ない。
つまり、鋼の蜘蛛の仲間と連絡を取ることが出来ないのだ。
手紙の類を使えば連絡を取ることも可能だし、実際にその手段を使って連絡をとってはいるのだが、それもある程度の期間を空けなければ、疑われかねない。
そういう意味で、メライナが持ってきた手紙はダーナにとって嬉しくもあり、同時に疑わしくもあった。
……とはいえ、黄金の薔薇の名前を出し、鋼の蜘蛛の名前も出している以上、そこまで心配する必要もなかったのだが。
実際、ダーナは手紙のとある場所に鋼の蜘蛛の者だけが分かる仕掛けを確認すると、すぐに封蝋を破って手紙を開ける。
そこに書かれていたのは、現在鋼の蜘蛛は黄金の薔薇や雲海と協力態勢をとっている、ということだった。
「……なるほど」
それ以外にも色々と情報が書かれているのを、解読しながら読む。
当然の話だが、レジスタンスという集団は……それなりの実力がある鋼の蜘蛛であっても、ガリンダミア帝国軍と正面から戦った場合、勝ち目はない。
そのような可能性を出来る限り少なくするべく……この手紙の内容も、文面そのものは挨拶や最近このようなことが起こった、といったような世間話的なものが多数だ。
それを鋼の蜘蛛で使われている暗号で解読すれば、そこには色々な情報が書かれている。
協力態勢を取っている以外にも、何故そのようなことになったのかの理由も、当然のように書かれていた。
つまり、雲海のアランがこの城のどこかに捕まっている、と。
「この捕まっているアランという人物を助けたいのね?」
「ええ。それで早速ですが、帝城の地下牢について教えて貰えますか?」
実際にはアランは貴族待遇で軟禁されているのだが、捕まっているということで、恐らくは地下牢にいるだろうと、そう考えられていた。
何人かからは、自分たちに引き込みたいのに地下牢に入れるのか? といったような疑問も上がったのだが、アランの性格やガリンダミア帝国の性質、それ以外にも様々な理由で総合的に考えた場合、恐らくは地下牢だろうという結論になったのだ。
だからこそ、メライナはダーナに地下牢の場所を聞いたのだ。
「それを教えるのは構わないけど、メイドが地下牢に行くことは基本的にないわよ」
それは、当然の話だった。
地下牢に……それも、警備兵の詰め所といった場所ではなく、帝城の地下牢に閉じ込められているという者が、普通の犯罪者のはずがない。
それこそ、何らかの訳ありの犯罪者が大半で、中には貴族にとって都合の悪い事情を知っているような者だったり……皇族について都合の悪い事情を知っている者がいる可能性もある。
そのような場所である以上、当然の話だがその者たちの口から何らかの情報が漏れるのを防ぐべく、世話をするのは専門の者が行うので、メイドの出番というのは基本的にない。
何らかの理由でメイドが必要になる可能性もあるかもしれないが、そのときに必要とされるメイドも、入ったばかりの新人ではなく相応に長い間務めている……つまり信頼出来るメイドが選ばれるだろう。
「そうかもしれませんけど、地下牢の場所を知らないといざというときに行動出来ませんから」
「……そうね。じゃあ、取りあえずは掃除をしながら話をしましょうか」
本来なら、そのようなことをしている場合ではない。
だが、今の自分たちはメイドなのだ。
それこそ、話ばかりをして時間が経過し……この部屋の掃除が疎かになってしまえば、メイド長からの評価は当然のように悪いものになり、目を付けられてしまう。
苦労して城の中にメイドといて潜り込むことに成功したダーナにしてみれば、そのような真似は絶対に避けたいと思うのは当然のことだった。
メライナもそのことは理解しているのか、ダーナの言葉に頷いて掃除を再開する。
ダーナは掃除の途中、何度かメライナの持ってきた手紙に意識を向けていたが、それを読み直したい……仲間の存在を感じていたいという思いを何とか殺しながら、掃除を続けていた。
今ここで迂闊に手紙を読んでいる光景を、メライナ以外の者に見られた場合、問題になる可能性が高いからだ。
ダーナも鋼の蜘蛛に所属するレジスタンスである以上、メイドらしいお淑やかな外見とは裏腹に、相応に強さには自信がある。……もっとも、黄金の薔薇の探索者たるメライナには当然のように劣るのだが。
それ以外にも、当然のようにレジスタンスとして強さには自信があっても、ガリンダミア帝国軍の騎士……ましてや、奥の手とも言うべき心核使いを相手に勝利出来るだけの自信はない。
そもそも、ガリンダミア帝国は周辺諸国を武力で倒して占領し、従属国にしているのだ。
当然のように、その実力はかなり高い。
正面から戦って、ダーナに勝ち目があるはずもない。
そうして、お互いが無言で部屋の掃除を続ける。
本来なら、新人のメライナにはダーナが色々と教えなければならないのだが、メライナは黄金の薔薇の探索者……つまり、元貴族だ。
もちろん、貴族だからといってメイドの仕事を完全にこなせる訳がないのだが、メライナの実家は貴族とは名ばかりの貧乏貴族で、それこそ貴族の令嬢たるメライナもメイドと一緒に仕事を行っていた。
そんな中で、父親が自分を政略結婚……いや、政略結婚ですらなく、六十代の金貸しに妾として差しだそうとしてるのを知り、家を出たのだ。
その後、紆余曲折あったのだが、最終的にはレオノーラの目にとまり、今ではこうして黄金の薔薇の探索者となっていた。
そんなメライナだけに、メイドとしての技量も否応なく身につけている。
……それが理由で、こうしてレオノーラの役に立っているのだから、本人に不満はなかったのだが。
「ええ、初めまして。私はダーナよ。この城では、色々と大変なこともあると思うけど、分からないことがあったら私に聞いてね」
メイドが初めて会った先輩に挨拶をすると、その先輩も優雅に微笑みながらそう言葉を返す。
「では、メライナはダーナが仕事を教えるということでいいわね?」
「はい、メイド長。お任せ下さい」
ダーナはメイド長の言葉に、優雅に一礼する。
メイド長……という役職は、実はこの城の中では相応に高い。
ガリンダミア帝国の皇帝が住む城には多くのメイドたちがいるが、メイド長はそのメイドたちの頂点に立つ存在なのだ。
当然のように部下は多く……その辺の新人騎士よりも強い権限を持つ。
もっとも、帝城と呼ばれるこの城の業務を任されている以上、メイド長が偉ぶるようなことはない。……当然のように、仕事については厳しいが。
そんなメイド長から見てダーナは一人前のメイドで仲間の面倒見もいいと、そのように思える人物だ。
それだけに、今の新人の面倒を見させるのは、そうおかしな話ではない。
「では、仕事を頼みましたよ」
そう告げ、メイド長はその場を立ち去る。
もう五十代ではあっても、その足取りはしっかりとしており、年齢を感じさせるようなことはない。
そして当然のように耳や目も年齢不相応に鋭敏で、まだまだ現役で頑張るだろうというのが、メイド長を知っている者たちの感想だった。
「さて、じゃあ行きましょうか。まずは、部屋の掃除から教えるわね」
そう告げるダーナに、新人のメライナは真剣な様子で頷く。
まず最初に向かったのは、城の中でもそれなりの大きさの部屋だ。
ちょっとした会議をするときに使われる部屋だけに、それなりに散らかっている。
何かを書いた紙くずが丸めて捨てられていたりもされており、掃除をするという意味ではこれ以上ない場所なのは間違いなかった。
「じゃあ、まずはこの部屋の掃除からね」
「はい、分かりました」
ダーナの言葉に、メライナは素直に頷くと掃除を始める。
その後は、ダーナに細かい注意を受けつつも、メライナは真面目に掃除を行う。
そうして、掃除がある程度終わったところで……
「そう言えば、ダーナさん。ちょっと聞きたいんですが……」
ゴミを集め終わったメライナが、不意にそんな風に尋ねる。
ダーナは仕事を一段落させると、メライナを見て口を開く。
「どうしたの? 何かわからないことでもあった?」
「はい。……ダーナさんは、ドロレス地方のワインの中では、二十年くらい前のものが好きだと聞いたのですが、本当ですか?」
ピクリ、と。
ダーナはメライナの口から出た言葉に、反応を見せる。
数秒前までは、面倒見のいい先輩……それも帝城で働くメイドだけに、見目麗しいという表現が相応しかったダーナだったが、今の言葉を口にしたメライナを見る視線は厳しい。
だが、ダーナはメライナに向かって何かを口にするよりも前に、周囲の状況を入念にチェックする。
周辺には誰の姿もないのを確認してから、先程まで話していたときとは全く違う様子で、口を開く。
「あんたは誰? 鋼の蜘蛛では、あんたみたいな女は見たことがなかったけど」
並の男なら間違いなく怯むだろう鋭い視線を向けられつつも、メライナはその視線を全く気にした様子もなく、口を開く。
「私は黄金の薔薇の探索者です。現在は鋼の蜘蛛と協力関係にあります」
「……黄金の薔薇? それって、探索者のクランの……?」
メイドはその仕事の関係上、城の中の噂に詳しい。
普通のメイドであってもそうなのだから、鋼の蜘蛛から派遣されているダーナは多くの情報を集める必要がある以上、他のメイドたちよりも詳しい。
そして城の中の噂で、黄金の薔薇の名前を聞いたことは何度もある。
ガリンダミア帝国にとって、雲海と黄金の薔薇というのは色々な意味で注目すべき相手だ。
そうである以上、当然の話だが城の中でも雲海や黄金の薔薇の名前が出ることはある。
……中には、栄光あるガリンダミア帝国軍が探索者を相手に負けたということが面白くなく、その二つの名前が出ると不満を露わにする者もいたが。
「ええ。……その前に、まずはこれを」
そう言い、メライナはポケットから一通の手紙を取り出し。ダーナに渡す。
まだメライナのことを怪しみながらも、今はとにかく少しでも情報が欲しいダーナは、その手紙を受け取り……開ける前に、よく確認する。
何しろ、鋼の蜘蛛の中で唯一メイドとして城に潜入しているダーナは、その重要性故に、そう簡単に城から出ることは出来ない。
つまり、鋼の蜘蛛の仲間と連絡を取ることが出来ないのだ。
手紙の類を使えば連絡を取ることも可能だし、実際にその手段を使って連絡をとってはいるのだが、それもある程度の期間を空けなければ、疑われかねない。
そういう意味で、メライナが持ってきた手紙はダーナにとって嬉しくもあり、同時に疑わしくもあった。
……とはいえ、黄金の薔薇の名前を出し、鋼の蜘蛛の名前も出している以上、そこまで心配する必要もなかったのだが。
実際、ダーナは手紙のとある場所に鋼の蜘蛛の者だけが分かる仕掛けを確認すると、すぐに封蝋を破って手紙を開ける。
そこに書かれていたのは、現在鋼の蜘蛛は黄金の薔薇や雲海と協力態勢をとっている、ということだった。
「……なるほど」
それ以外にも色々と情報が書かれているのを、解読しながら読む。
当然の話だが、レジスタンスという集団は……それなりの実力がある鋼の蜘蛛であっても、ガリンダミア帝国軍と正面から戦った場合、勝ち目はない。
そのような可能性を出来る限り少なくするべく……この手紙の内容も、文面そのものは挨拶や最近このようなことが起こった、といったような世間話的なものが多数だ。
それを鋼の蜘蛛で使われている暗号で解読すれば、そこには色々な情報が書かれている。
協力態勢を取っている以外にも、何故そのようなことになったのかの理由も、当然のように書かれていた。
つまり、雲海のアランがこの城のどこかに捕まっている、と。
「この捕まっているアランという人物を助けたいのね?」
「ええ。それで早速ですが、帝城の地下牢について教えて貰えますか?」
実際にはアランは貴族待遇で軟禁されているのだが、捕まっているということで、恐らくは地下牢にいるだろうと、そう考えられていた。
何人かからは、自分たちに引き込みたいのに地下牢に入れるのか? といったような疑問も上がったのだが、アランの性格やガリンダミア帝国の性質、それ以外にも様々な理由で総合的に考えた場合、恐らくは地下牢だろうという結論になったのだ。
だからこそ、メライナはダーナに地下牢の場所を聞いたのだ。
「それを教えるのは構わないけど、メイドが地下牢に行くことは基本的にないわよ」
それは、当然の話だった。
地下牢に……それも、警備兵の詰め所といった場所ではなく、帝城の地下牢に閉じ込められているという者が、普通の犯罪者のはずがない。
それこそ、何らかの訳ありの犯罪者が大半で、中には貴族にとって都合の悪い事情を知っているような者だったり……皇族について都合の悪い事情を知っている者がいる可能性もある。
そのような場所である以上、当然の話だがその者たちの口から何らかの情報が漏れるのを防ぐべく、世話をするのは専門の者が行うので、メイドの出番というのは基本的にない。
何らかの理由でメイドが必要になる可能性もあるかもしれないが、そのときに必要とされるメイドも、入ったばかりの新人ではなく相応に長い間務めている……つまり信頼出来るメイドが選ばれるだろう。
「そうかもしれませんけど、地下牢の場所を知らないといざというときに行動出来ませんから」
「……そうね。じゃあ、取りあえずは掃除をしながら話をしましょうか」
本来なら、そのようなことをしている場合ではない。
だが、今の自分たちはメイドなのだ。
それこそ、話ばかりをして時間が経過し……この部屋の掃除が疎かになってしまえば、メイド長からの評価は当然のように悪いものになり、目を付けられてしまう。
苦労して城の中にメイドといて潜り込むことに成功したダーナにしてみれば、そのような真似は絶対に避けたいと思うのは当然のことだった。
メライナもそのことは理解しているのか、ダーナの言葉に頷いて掃除を再開する。
ダーナは掃除の途中、何度かメライナの持ってきた手紙に意識を向けていたが、それを読み直したい……仲間の存在を感じていたいという思いを何とか殺しながら、掃除を続けていた。
今ここで迂闊に手紙を読んでいる光景を、メライナ以外の者に見られた場合、問題になる可能性が高いからだ。
ダーナも鋼の蜘蛛に所属するレジスタンスである以上、メイドらしいお淑やかな外見とは裏腹に、相応に強さには自信がある。……もっとも、黄金の薔薇の探索者たるメライナには当然のように劣るのだが。
それ以外にも、当然のようにレジスタンスとして強さには自信があっても、ガリンダミア帝国軍の騎士……ましてや、奥の手とも言うべき心核使いを相手に勝利出来るだけの自信はない。
そもそも、ガリンダミア帝国は周辺諸国を武力で倒して占領し、従属国にしているのだ。
当然のように、その実力はかなり高い。
正面から戦って、ダーナに勝ち目があるはずもない。
そうして、お互いが無言で部屋の掃除を続ける。
本来なら、新人のメライナにはダーナが色々と教えなければならないのだが、メライナは黄金の薔薇の探索者……つまり、元貴族だ。
もちろん、貴族だからといってメイドの仕事を完全にこなせる訳がないのだが、メライナの実家は貴族とは名ばかりの貧乏貴族で、それこそ貴族の令嬢たるメライナもメイドと一緒に仕事を行っていた。
そんな中で、父親が自分を政略結婚……いや、政略結婚ですらなく、六十代の金貸しに妾として差しだそうとしてるのを知り、家を出たのだ。
その後、紆余曲折あったのだが、最終的にはレオノーラの目にとまり、今ではこうして黄金の薔薇の探索者となっていた。
そんなメライナだけに、メイドとしての技量も否応なく身につけている。
……それが理由で、こうしてレオノーラの役に立っているのだから、本人に不満はなかったのだが。
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