剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅

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ザッカラン防衛戦

195話

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 どうする。
 ニコラスと二人の探索者を前に、ソランタたちがそう考えたのは一瞬。
 不意に兵士たちの中から、三人が走り出す。
 ソランタのスキルは、自分を中心にした場所にいる、ソランタがスキルの効果を使わせたいと思う者に効果がある。
 つまり、ソランタのスキルの有効範囲内から出ればスキルの効果は発揮されない訳で……空中の何もない場所からいきなり姿を現したように見える三人の兵士に、二人の探索者は驚く。
 二人いた探索者のうち、片方はニコラスの言葉を信じてはいたのだが、それでも何もない場所から姿を現したとなれば、その光景に驚くなという方が無理だろう。
 そんな中で、唯一驚いた様子がなかったのは当然のようにこの状況を予想していたニコラス。
 とはいえ、いきなり姿を現して真っ直ぐ自分たちのいる方に向かってきたニコラスは、当然のように魔法で迎撃するなどといった真似は出来ない。
 出来ないが……ニコラスは魔法使いだが、それ以前に探索者でもある。
 探索者が、魔法を使えない距離まで近付かれれば何も出来ない……訳がない。
 そんな三人が何を考えてそのようなことをしたのかというのは、残った兵士たちにとっては考えるまでもなく明らかだった。
 つまり、自分たちが時間を稼ぐので、今のうちにこの場から逃げて欲しいと、そう思っているのだろう。

「来たぞ!」

 探索者の一人がそう叫び、ニコラスともう一人の探索者もすぐに対応する。
 ……武器を振るう兵士たちと、それを防ぐニコラスたち。

「退くぞ!」

 ソランタの側にいる兵士が鋭く叫ぶ。
 その声には、自分の中にある苦い感情が込められている。
 分かっているのだ。
 ここで仲間を置いていくということは、残っていた者が自分から進んで捨て駒になったということなのだと。
 であれば、自分たちがここに残っているのは仲間たちの思いを無駄にすることになるからだ。
 即座に始まった戦闘を背にし、その場から離脱する。
 当然のことだが、今までのようにゆっくりと逃げるといったことが出来ない以上、アランを動かせなくしている者たちもそちらに専念するといったようなことは出来ない。

「んんんんんんんー!」

 だからこそ、何もない場所からアランの呻き声が聞こえる。
 そんな呻き声に真っ先に反応したのは、当然のようにニコラス。
 聞こえてきたのが自分の息子の呻き声だと気が付いたのだろう。
 長剣を振るってきた兵士の一撃を回避しながら、杖を鋭く突く。
 槍術……いや、この場合は杖なので杖術と呼ぶべきか。
 それも放たれたのは、杖の先端の尖っている部分。
 魔法使いが使う杖である以上、当然のようにその杖はただの杖ではない。
 それもニコラスはただの魔法使いではなく、探索者の魔法使いだ。
 敵に接近された時に武器としても使えるその杖は、魔力によって強化されており……場合によっては皮膚の厚いモンスターと戦うようなこともある。
 そのような杖だけに、長剣の一撃を受けるといったようなことも容易に出来る。
 しかし、兵士も自分の攻撃がそう簡単に通じるとは思っていない。
 長剣が甲高い金属音を立てて弾かれても、驚くことはなく……むしろ、探索者である以上はこれくらい当然だろうと考え、再度の一撃を放つ。
 当然その一撃もニコラスは防ぐが、兵士に対して致命的な一撃を放つことは出来ない。
 兵士は、ここで自分がやるべきことは仲間をここから脱出させることであって、そのためなら自分は死んでもいいと、そう思っているのだ。
 もちろんそのように思っているのは、ニコラスと戦っている兵士だけではなく、他の二人の探索者と戦っている兵士たちも同様だった。
 その思いは、本来持っている以上の実力を発揮していると言ってもいい。
 いきなりの襲撃に驚くニコラスたちだったが、その隙にソランタたちはこの場から退避しようとする。

「連中、逃げるつもりだぞ!」

 風の魔法によってそれを察知したニコラスが鋭く叫び……その瞬間、戦況が一気に変わった。
 元々の実力では、イルゼンたちの方が強いのだ。
 だが、いきなり相手が捨て身……それこそ文字通りの意味で自分を犠牲にしてでも仲間を逃すといったようなことを考え、それを実行した。
 だからこそ、意表を突かれた様子の探索者たちは一時的に劣勢になってしまったのだ。
 言うなれば、犬が獅子に向かっていきなり吠え、獅子はそれに虚を突かれて驚いた……といったところか。
 だが、ニコラスの叫びによって探索者の二人は我に返る。
 この探索者たちも、アランとは小さいときからの付き合いだ。
 当然のように親しみを感じている。
 また、それだけではなく探索者としても心核使いという一点においては、雲海でも最強の戦力と認めてもいる。
 それだけに、ここでアランを逃がすという選択肢は存在しなかった。

「させるか!」
「いい加減、お前たちの好きにさせると思うな!」

 我を取り戻せば、探索者と兵士の間には元々の実力差が如実に現れる。
 犬と獅子では、どうあっても戦いにはならない。
 あるいは犬が群れ……多数存在していれば、もしかしたら獅子にも対処出来たかもしれないが、今ここにそれだけの数は存在しない。
 結果として、兵士たちは本気になった探索者や……そして息子が目の前にいる――ソランタの能力で見えないが――ニコラスにより、一分と経たずに倒される。
 それでいながら、あとで何らかの情報を聞き出すために兵士たちを殺していない辺り、腕利きの探索者たる証なのだろうが。
 だが……一分と経たずに倒されたということは、数十秒の時間は稼いだのだ。
 そして数十秒もあれば、ニコラスたちの前から逃げるには十分な時間だった。

「アランは!?」
「待て。……くっ、もうこちらの魔法の効果範囲から外に出ている。だが、一緒に来てくれ。最後に連中がどの方向に向かったのかは、分かる!」

 風邪の精霊を使って、いわばレーダーのような効果を発揮していたニコラスの魔法だったが、当然のようにそのような魔法をザッカラン全体に使うといった真似は出来ない。
 それどころか、この周辺一帯に使うといったことも出来ず、効果範囲は屋敷の周辺をどうにか……といった程度でしかなかった。
 この手の魔法は情報処理を自分の頭の中でしなければいけない以上、どうしても効果範囲はそこまで広くは出来ない。
 むしろ、ニコラスがこの屋敷の周辺全てを魔法の効果範囲においたという時点ですでに一流の魔法使いである証なのだ。
 ……もっとも、イルゼン本人はそんなことよりもアランを連れた兵士たちが逃がしてしまった方が重要なのだが。

「ニコラス、アランたちの方を追ってくれ。俺は屋敷に中にいる連中に、アランが逃げていった件を知らせてくる!」
「悪いが、頼む。行くぞ!」

 そう告げ、ニコラスはもう一人の探索者と共に反応の途切れた方に向かう。
 ……ここでニコラスが感謝の言葉を口にしたのは、本来なら敵を追うというのであれば、同じ探索者であっても魔法使いより戦士の方が有利なのは間違いないからだ。
 それでもニコラスに追撃を譲ったのは、もちろんアランと実の親子だから……というのもあるが、それと同時に今回のように消えている相手を見つけるのは、魔法に長けているニコラスの方が有利だからという思いもあった。
 そんな二人を追うと、この場に残った探索者は男たちを一瞥してから、取りあえず屋敷の中にいる連中に知らせる方が先だと判断する。
 兵士たち三人は意識を失っているだけである以上、もしかしたら屋敷の中にいる者たちに呼びかけて戻ってくれば、その間に意識が戻って消えている可能性もあった。
 ロープの類があれば。
 そう考える探索者だったが、もしロープがあっても兵士たちを身動き出来ないように縛るのは時間がかかる。
 であれば、結局まずは屋敷の中にいる者たちにアランを連れた者たちが煮えたということを知らせる方が先だと、そう判断するのは当然だろう。
 素早くそう考え、結局探索者は兵士たちをそのままにし、屋敷に向かう。
 一瞬……本当に一瞬だったが、ここで殺した方がいいのでは? と思わないでもなかったが、そもそも殺すのなら別にここで無理に気絶させるようなことをしなくても、戦っているときに殺せたのだ。
 そうである以上、わざわざここで殺すような必要もないと、割り切る。
 ……ニコラスやリアほどではないにしろ、やはりアランを連れ去ったという連中に苛立ちを覚えていたのだろう。
 ともあれ、男が屋敷に向かおうとしたその瞬間……不意に屋敷の扉が開いて、レオノーラとリア、ロッコーモ、それ以外にも顔を知っている何人かが姿を現す。
 いきなりの展開に驚いた探索者だったが、考えてみれば当然のことだ。
 屋敷のすぐ側で戦いが行われたのだから、腕利きの探索者としてそれが理解出来ないはずがないだろう。

「何があったの?」

 短い質問。
 だが、それを聞いた男は即座に口を開く。
 ここで口籠もるような真似をした場合、一体自分がどうなるか分からない。
 それほどの迫力を、尋ねたレオノーラも、その隣にいるリアも放っていたのだから。

「アランを連れ去った連中が屋敷から出て来たのを、ニコラスが魔法で察知したんだ」

 そう言い、男は一切の躊躇なく、この場で起きたことを話す。
 その説明を聞いたレオノーラとリアは、意識を失って地面に倒れている兵士たちを一瞥する。
 当然のようにその視線には殺気が籠もるが、レオノーラとリアも情報を得るために生け捕りにする必要があるというのは理解しているのだろう。
 結局それ以上は何か行動をする様子もないまま、ニコラスたちが向かったという方に向かって走り出す。

「ふぅ」
「……ご苦労さん」

 心労のあまり息を吐き出した男に、ロッコーモが若干ながら同情するような視線を向けてそう告げる。
 もしレオノーラやリアが生け捕りにした相手を殺そうとしたら、情報を得るために何とか止める必要があったのだ。
 幸いにして、レオノーラとリアの二人はそこまで怒りで我を忘れている訳ではなく、倒れている兵士たちに手を出すような真似をせずにニコラスを追っていった。

「そう思うなら、あの二人の殺気を何とかしてくれよ」

 その言葉に、ロッコーモはそっと視線を逸らすのだった。
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