剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅

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逆襲

155話

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「畜生っ、馬鹿か俺は!」

 巨大な鷲が放った風のブレスによって大樹がダメージを受けたのを見ながらアランは自分の間抜けさ加減に苛立ちを込めて呟く。
 大樹、巨大な鷲、ゼオンという並び順であった場合、ゼオンの攻撃を巨大な鷲が回避すれば、その攻撃が大樹に命中してダメージを与えるのは間違いない。
 だからこそ、アランはゼオンと巨大な鷲の場所を入れ替えて好きなように攻撃出来るようにしたのだが……その場合、ゼオンが巨大な鷲の攻撃を回避すれば、その被害が背後にある大樹に向かうというのは当然だった。
 つまり、アランは敵に攻撃そのものをさせないか……もしくは敵が攻撃した場合、それを大樹に向かわせないようにゼオンで防ぐ必要があった。

「させるか!」

 そんな中、一瞬の考えの後にアランが選んだのは、第三の選択肢。
 非常に単純で、敵の意表を突くには十分な行動。
 ウィングバインダーと機体のスラスターを全開にして、上空に向かうというものだった。
 巨大な鷲がゼオンについてまだ何も知らない状況であればともかく、今なら……ゼオンという存在が致命的ではないにしろ、邪魔になると向こうが確信しているだろう今なら、ゼオンが背後に大樹を背負っておらず、巨大な鷲の上空に移動すれば向こうはそちらを先に排除するだろうと、そんな考え。

「よし!」

 そして実際、巨大な鷲は自分に向かって攻撃してくるゼオンの存在を嫌ったのか、上空に向かってゼオンを追って翼を羽ばたかせる。
 アランにとって予想外だったのは、巨大な鷲の飛行速度が予想していたよりも上だったこだろう。
 もちろん、ゼオンと比べればその速度は遅い。
 だがそれでも、上昇するゼオンと巨大な鷲の速度差はアランが予想していたよりも差はなく、当初の予想と比べるとそこまで距離を開くことが出来ない。

(不味い、か? ……いや……むしろこれが好機!)

 映像モニタの端に映し出された黄金のドラゴンを見て、アランは意図的に速度を緩める。
 当然のようにそうなれば巨大な鷲の速度が勝り、お互いの間合いは次第に近付いていく。
 向こうが自分だけを見ているのなら、今の状況は最善なのだ。

「頼む」

 短く呟く一声。
 すると次の瞬間、その声が聞こえたのかように、遠く離れた場所を飛んでいた黄金のドラゴンの口から、レーザーブレスが放たれる。
 幸い……いや、アランが飛ぶ速度や方向を調整したことにより、黄金のドラゴンと巨大な鷲の延長線上に大樹の姿はない。
 黄金のドラゴンがレーザーブレスを放つことが出来たのは、その点も大きい。
 そうして放たれたレーザーブレスは、巨大な鷲の胴体を貫く。
 ……ゼオンの頭部バルカンを長剣で斬り落とすだけの実力がある相手であっても、実体のないレーザーブレスを相手にしては、どうにも出来ない。
 ましてや、巨大な鷲の下から撃たれたのだ。
 いくらなんでも、そのような攻撃に対処するのは不可能だった。
 もっとも、この世界には魔法が存在するのだから、それを使えばどうにかなった可能性もあったかもしれないが、

「ついでだ、食らえ!」

 上空から下にいる巨大な鷲に向かい、ビームライフルを撃つアラン。
 その上、巨大な鷲の周囲を飛んでいたフェルスもの全てが、先端にビームソードを展開して巨大な鷲の体内に突っ込んでいく。

「グモオオオオオオオ!」

 再度上がる悲鳴。
 巨大な鷲であっても……いや。だからこそなのか、その体内をビームソードで攻撃されるというのは、我慢出来ない痛みなのだろう。
 すぐに再生するとはいえ、痛みは痛みといったところか。
 その上、上空から降り注ぐビームは次々と巨大な鷲の身体を貫いていく。
 下からは黄金のドラゴン、上からはゼオン、そして前後左右からはフェルス。
 そんな一斉攻撃を食らってしまえば、巨大な鷲にとっても対処不可能なのは当然だった。
 だが……対処不可能なのは事実だが、それでも巨大な鷲にとっては絶望という訳ではい。
 強い痛みは感じており、実際に悲鳴もその口からは出ている。
 それでも、以前頭部を切断されても生きていたように、しぶとさという意味ではかなりの能力を持つのが鷲なのだ。

「ギョガアアアアアア!」

 自分の体内を攻撃される痛みを紛らわせるように、巨大な鷲は風のブレスを放つ。
 特に狙いを付けている訳ではなく、取りあえず風のブレスを放つことそのものが、痛みを誤魔化すためなのだろう。
 狙いもつけず、そこら中に向かって風のブレスが放たれ続ける。

「うおっ!」

 狙いを付けない一撃だからこそ、いつ唐突に自分に向かって飛んでくるのかは分からない。
 ゼオンを操縦しているアランも、突然風のブレスを放たれ、スラスターを使って回避する。
 ゼオンのすぐ側を通る風のブレス。
 ……だが、巨大な鷲の上空にいるゼオンはともかく、それ以外の場所に風のブレスが放たれれば、それは当然のように被害をもたらす。

(危ないな)

 黄金のドラゴンの背中に乗っている三人の心核使いを心配し、同時に地上を大樹の方に向かって進んでいる雲海や黄金の薔薇の仲間達についても心配になる。
 巨大な鷲が、それこそ狙いも付けずに風のブレスを放っていることもあり、いつ偶然そちらに攻撃が放たれるのか分からないのだ。
 また、大樹に攻撃をさせないために引き離したというのに、好き放題に放つ風のブレスは、大樹にも相応の被害を与えている。

「ちっ、とっとと死ぬか……そこまでいかなくても、地上に墜落でもすればいいものを!」

 アランにとって運がよかったのは、巨大な鷲が放つ風のブレスは、あくまでも一方向だけでしかないということだろう。
 口から放たれているのだから当然かもしれないが、風のブレスは巨大な鷲の顔が向いている方向にしか放たれたない。
 そうである以上、空中を自由に動けるゼオンに乗っているアランにしてみれば、その攻撃を回避することは難しくはない。
 ……とはいえ、それはあくまでもゼオンだからこそ回避出来るのだ。
 黄金のドラゴンは背中に心核使いを乗せているので、ゼオンのように自由に空を移動出来る訳ではないし、大樹にいたっては自分で動くことが出来ず、その巨大さから攻撃の的になるのは当然だった。

「取りあえず、敵の攻撃をこっちに引き付けるのが一番か。……食らえっ!」

 上空から間合いを詰めながら、巨大な鷲の背中に乗っている相手にも攻撃当たるようにと狙いながら、腹部拡散ビーム砲を放つ。

『貴様ぁっ!』

 距離が近付いたからか、ゼオンのコックピットに巨大な鷲の背中に立っている相手の声……怒声が聞こえてくる。
 だが、アランも大樹を守るために必死である以上、そんな声が聞こえてきたからといって、攻撃を止める訳にはいかない。

「お前に自由に動かれると困る。から、取りあえずこれでも食らってろ!」

 そう叫びつつ、頭部バルカンのトリガーを引く。
 当然のように、布を被った相手は長剣を使って頭部バルカンの弾丸を斬り落とす。
 見るのは二度目で、凄いという思いは代わらない。
 だが同時に、最初に見たときのような驚愕がないのも事実だった。
 一度見ている以上、頭部バルカンを使えば相手はそれを防ぐために長剣を使う必要があり、そうなれば自由に動けない。
 その隙に連続して腹部拡散ビーム砲とフェルス、ビームライフルを連続して巨大な鷲に叩き込んでいく。
 まだ、下を飛んでいる黄金のドラゴンも巨大な鷲に対して攻撃の手を緩めることなく攻撃し……

「お」

 何故か黄金のドラゴンが急に巨大な鷲に近付いたのを見て、アランの口からは疑問の声が出る。
 黄金のドラゴンが近付いただけであれば、アランもそこまで驚きの声を口にはしなかっただろう。
 それこそ、手足を使った一撃や体当たり、尻尾の一撃、もしくは噛みついたりといった攻撃手段を予想した可能性もある。
 だが、違う。
 何と、黄金のドラゴンが巨大な鷲に近付いたところで、その背中から三人が……いや、心核を使って既に変身しているいじょう、三匹と数えるべきモンスターが巨大な鷲の背中に飛び移ったのだ。
 オーガに白猿、リビングメイルという、三匹のモンスターが。
 アランのゼオンとレオノーラの黄金のドラゴンは、双方共に巨大だ。
 それに比べると、飛び移った三匹のモンスターは、誰もがゼオンや黄金のドラゴンと比べると小さい。
 ……オーガは何気に人と比べると結構大きいのだが、それでも全高十八メートルのゼオンと比べれば圧倒的に小さかった。
 そんな三匹だけに、汎用性という意味では明らかにゼオンよりも上なのだ。
 今もまた、その汎用性を活かして巨大な鷲の背に移動すると、そのまま背の上を走って目的の……最初から巨大な鷲の背にいた、布を被った相手に向かって近付く。
 巨大な鷲にどのような攻撃をしても再生するのであれば、それを操っていると思われる相手を倒す。
 そう判断しての行動だろう。
 それで本当に巨大な鷲を倒せるのかどうかは、分からない。
 分からないが、それでも何もしないよりはマシという判断だろうし、実際それを見ているアランとしても悪くない選択肢だと思う。
 ……だが、当然のように問題もあった。
 巨大な鷲の背中を心核で変身した三匹のモンスターが動き回っているとなると、ゼオンや黄金のドラゴンが迂闊に攻撃出来なくなるのだ。
 特に腹部拡散ビーム砲のように、撃っている本人ですら具体的にどのような場所にビームが放たれるのかが分からないような武器は、絶対に使えない。

(下手に威力が高いだけに、仲間に誤射とか冗談じゃないよな)

 拡散している分だけ、ビームライフルのビームに比べれば威力は弱い。
 だが、それでもビームという極めて攻撃力の高い武器である以上、命中すれば心核使いでモンスターになった者ですら致命傷を受ける可能性があった。
 その辺の事情を考えれば、やはりここは仲間に対する誤射がないようにして、動く必要がある。 そう判断したアランは、三人の仲間がいない場所に向けてビームライルフルやフェルスで攻撃しつつ、空いてる方の手でビームサーベルを引き抜くのだった。 
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