剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅

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逆襲

151話

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 アランたちとアイスゴーレムとの戦いは、数十分にも及んでいた。
 戦況としてみれば、圧倒的にアランたちの方が有利だろう。
 雲海と黄金の薔薇の面々は、お互いに協力し合いながらアイスゴーレムに攻撃を叩き込む。
 とはいえ、攻撃の主役は魔法を使う者たちとメイスのような打撃武器を持っている者たちだ。
 それ以外の面々の攻撃では、ゴーレムにダメージを与えられない……訳ではないが、非常に効率が悪い。
 であれば、攻撃は確実にダメージを与えられる者たちに任せて、それ以外の面々は援護に徹した方がいいのは間違いなかった。
 そして……アランは何気にその戦闘でかなり有効な戦力として動いていた。
 長剣を持つアランは、自分では技量も力も足りず、アイスゴーレムに対して有効な一撃を与えることが出来ないというのは理解しており、だからこそ敵にダメージを与えるのではなく、敵を挑発し、自分に意識を向けさせるために長剣でアイスゴーレムの身体を叩いて攻撃する。
 もちろんそのような攻撃をしているのはアランだけではなく、他にも多くの者が魔法使いやメイスのような武器を持った者たちの攻撃を有効的に使えるように行動をしていた。
 アイスゴーレムにどこまで自我の類があるのは、アランにも分からない。
 だが、効果がないのに自分に攻撃をしてくる相手というのは、アイスゴーレムにとっても予想以上に嫌な攻撃だったのだろう。
 本命の攻撃に対処するよりも先に、アランたちを攻撃しようとしてくる。

「うおっ!」

 アイスゴーレムは巨大――ゼオンよりは小さいが――で、攻撃の方法は基本的にその氷の拳による殴り攻撃だけだ。
 当たれば当然のようにダメージは大きいだろうが、大ぶりなだけに攻撃を回避するのは難しい話ではない。
 そして、アランたちに対して攻撃を続け、回避し続けている隙を突き、メイスのように打撃用の武器や魔法を使ってアイスゴーレムのダメージは積み重なっていく。
 そして、アイスゴーレムの身体が大分削れてきたところで、不意にアイスゴーレムは動きを止め、頭の上でまで両手の拳を握り締めたまま挙げて……

「何か来る! 全員、退避!」

 アランの側にいた探索者の一人が、鋭く叫ぶ。
 その声を聞き……いや、声を聞くよりも前に、アイスゴーレムが何かをしようとしていたのは分かっていたのか、多くの者がすでにアイスゴーレムの周囲から退避していた。
 アランもまた、他の者と同様にその場から退避している。
 この辺り、アランもそれなり成長している証なのだろう。
 周囲の探索者たちが後方に下がったのと、アイスゴーレムが両手を地面に叩きつけるのはほぼ同時だった。
 そして、次の瞬間アイスゴーレムを中心として地面から氷の針――ただし太さは人の腕ほどもあり、長さは二メートルほど――が無数に生えてくる。

「うおっ!」
「きゃっ!」
「くそっ、ふざけた真似を!」

 全員がアイスゴーレムから距離をとったが、それでも攻撃範囲が広かったこともあってか、何人かの口からは苦痛の声が漏れる。
 アランがその中に入っていなかったのは、アイスゴーレムの様子から危険だと判断し、かなり後方まで下がったからだろう。
 それでも何人もが怪我をしているのを見ると、アイスゴーレムに対して思うところはある。
 ……とはいえ、アランの実力ではアイスゴーレムを一人で倒せるような実力はないので、突っ込んでいくようなことはしなかったが。

「何してやがる、てめぇっ!」

 ……アランの代わりに、オーガに変身したロッコーモがアイスゴーレムに向かって突っ込んでいく。 
 膂力という意味では、モンスターの中でも上位に入ってもおかしくはないだけのモンスターが、オーガだ。
 そんなオーガの膂力なら、その一撃は間違いなくアイスゴーレムにも有効なダメージを与えられる。
 それでもロッコーモが今まで心核を使わなかったのは、その巨体が原因で味方に被害を及ぼしかねなかったからだ。
 だが、仲間が次々に攻撃されたのを見て、ロッコーモは我慢出来なくなったのだろう。
 そうしてオーガに変身して攻撃をするロッコーモに、他の者たちも続く。

「ロッコーモを援護しろ! これ以上はアイスゴーレムの好きにやらせるな!」

 誰かの叫び声に、弓や魔法を使える者はそれぞれ援護し、それ以外の者も短剣を投擲したり……場合によっては、地面に落ちている石を投擲したりといったことをしている者もいる。
 アイスゴーレムにとって、その程度の攻撃は意味がないのだから、やられる方にしてみれば目障りなのは間違いないのか、オーガの攻撃を回避し、防御しながらも攻撃をしている者達に向かって氷柱を投擲するのだが……

「へっ、さっきみたいにこっちの不意を突くのならともかく、単発の攻撃でどうにかなると思ってるのかよ!」

 その言葉通り、叫んだ男は自分に向かって飛んできた氷柱をあっさりと回避する。
 連続して攻撃するのならまだしも、一本だけ飛んでくるのであれば、回避するのは難しい話ではない。
 だが、オーガの攻撃を受けているアイスゴーレムにしてみれば、それだけで精一杯であるというのも、また事実だった。
 そんな様子を見たオーガは、仲間に攻撃されたことに怒りってアイスゴーレムに対する攻撃をますます激しくし……

「うおおおおおっ!」

 そんな声と共に、オーガの拳はアイスゴーレムの胴体を貫き……その一撃がアイスゴーレムの核を破壊したのか、アイスゴーレムは動きを止めて地面に崩れ落ちるのだった。





「はっはぁっ! どんなもんだ! 俺にかかれば、アイスゴーレムなんてこんなもんだぜ!」

 オーガから人の姿に戻ったロッコーモは、得意げに叫ぶ。
 実際、アイスゴーレムを倒せたのはロッコーモのおかげであった以上、その言葉は間違っていない。間違ってはいないのだが……

「ロッコーモ君。僕は心核はもう少し温存するように、と。そう言いましたよね?」
「うげ」

 得意げだったロッコーモだったが、イルゼンが満面の笑みを浮かべて話しかけてきたのを見て、その顔が引き攣る。
 イルゼンは普段はそこまで怒るようなことはないが、本気になって怒った場合、かなり怖いというのを身に染みて理解しているためだろう。
 特にロッコーモは、調子に乗りやすい性格をしていることもあって、今までイルゼンに怒られたことは多い。
 そんなロッコーモだけに、イルゼンに対して強く出られるはずもない。

「いや、その、ほら。イルゼンさん。俺が頑張ったからアイスゴーレムをこんなに早く倒すことが出来たんだし……その、穏便に……」
「ほう?」

 ビクリ、と。
 イルゼンの一言でロッコーモの動きが止まる。
 このまま言い訳を続けていれば、不味いことになると思ったからだろう。
 そんなロッコーモの姿を見て、イルゼンが口を開こうとすると……

「おい、見ろあそこ! 地下十階に続く階段じゃないか!?」

 黄金の薔薇の探索者の一人が、若干棒読みでそう告げる。
 とはいえ、その言葉は出鱈目という訳ではなく、奥の方には地下に続く階段があるのは間違いなかった。
 ……何を思ってそ今のような声を発したのかは、先程の棒読みの声を聞けば明らかだったが。

「はぁ。まぁ、いいでしょう。取りあえず今回の件はあとにします」

 イルゼンの言葉に、ロッコーモは安堵の息を吐く。
 そんなロッコーモに、階段を見つけたと叫んだ黄金の薔薇の探索者は、片目を閉じる。
 元貴族らしく、その仕草は随分と慣れているように見えた。
 アイスゴーレムとの戦いにおいて、ロッコーモのおかげで助かったのは事実なのだ。
 であれば、それに感謝をするのは当然だと言わんばかりの態度。
 そんな男にロッコーモは笑みを浮かべるが……ゴホン、とイルゼンが咳払いするのが聞こえたことにより、慌てて表情を真面目なものにする。

「ともあれ、地下に続く階段が見つかった以上、そろそろ先に進みましょうか」

 イルゼンのその言葉に、一行は階段の方に向かう。
 基本的にモンスターの素材は剥ぎ取らないで進んでいたのだが、アイスゴーレムの核となる魔石は間違いなく貴重品なので、それだけは確保して。
 アイスゴーレムの身体を構成していた氷も、錬金術師や鍛冶師なら非常に重要そうな素材なのだろうというのは分かるのだが、何しろ重い。
 結局は帰りにまだ残っていたらいくらかは持っていこうということになる。
 ……ここがダンジョンであれば、死体の類は時間が経つとダンジョンに吸収される。
 だが、幸いにしてここは古代魔法文明の遺跡だ。
 もっとも、遺跡の中にもダンジョンと同じような機能を有しているものもあるので、もしかしたら戻ってくればアイスゴーレムの破片はなくなっている可能性はあったが。

「それにしても、鍾乳洞というのは大樹の遺跡という名前とは大違いですね」
「イルゼンさん、それを言うなら地下八階の砂漠はどうなるんですか」

 探索者の一人が、イルゼンの言葉に呆れたように返す。
 実際、砂漠と鍾乳洞も双方共に大樹の遺跡という名前に相応しくないのは間違いない。

「そう言われれば、そうかもしれませんね。ですが、考えてみればそれも当然かもしれません。公的には、大樹の遺跡は地下七階が最深部だったのですから。それを思えば、そこから下が砂漠や鍾乳洞になっているというのを知らず、だから大樹の遺跡という名前がついてもおかしくないですし」

 そう告げるイルゼンに、皆が納得する。
 とはいえ、何人かはそんなイルゼンの言葉にも疑問を抱いていたが。
 自分達が腕利きの探索者であるのは、間違いない。
 だがそれでも、別にこの世界でトップクラスの実力を持つ探索者である訳ではなく、上には上がいるのは間違いない。
 であれば、自分たちが今回の一件でここまでの来ることが出来たのは、何故だ? と、そんな思いを抱いてしまう。
 自分たちよりも腕の立つクランがいるのなら、砂漠や鍾乳洞に到達していてもおかしくはないのではないか、と。
 そんな風に思いつつ……それでも自分たちが最初の探索者であるという嬉しさを隠せずに、地下に続く階段を降りていくのだった。
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