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逆襲

131話

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 ゼオンが上空に撃ったビームライフルにより、ドットリオン王国軍の進軍が始まった。
 本来なら、現在城壁の上にいる兵士たちを始めとして、他の兵士たちもドットリオン王国軍を迎撃するために準備をしなければならないはずだった。
 だが……本来ならザッカランを守る兵士たちの多くは、ゼオンの持つ圧倒的なまでの戦闘力により、心をへし折られていた者が大半だった。
 最初ドットリオン王国軍からやって来た、青い狼……ガーウィットが変身したそのモンスターは、ザッカランに残っていた心核使いの一人によって、撃退することに成功し、士気は大いに高まったのだが……その次にやってきたゼオンは、その高まった士気をあっさりへし折る。
 一度希望を掴んだところで、一気に心をへし折られたのだから、ザッカランを守っている兵士たちにしてみれば、ただ心をへし折られるよりはよっぽど凶悪な攻撃だった。
 実際にはアランも……そしてボーレスやイルゼンといった面々も、そこまで狙っていた訳ではなく、偶然このような形になったにすぎないのだが。
 ただし、イルゼンの性格や能力をよく知っているアランにしてみれば、もしかしたら……本当にもしかしたら、イルゼンはここでのことを狙っていたのではないかと、そう思ってしまうのだが。
 ともあれ、ドットリオン王国軍が来るというのに、城壁の上にいる兵士の多くはすでに反撃することを諦めていた。
 ……攻撃するように命じた途端、兵士たちを指揮していた者がゼオンによって攻撃されたというのも、この場合は関係しているのだろうが。
 そんな中……

『何をしておる! 敵は目の前にいるのだぞ! 殺せ! ザッカランにドットリオン王国軍の者など、近づけることは許さんぞ!』

 不意にそんな声をゼオンの外部マイクが捉える。
 声のした方に向けたゼオンの映像モニタに映し出されたのは、騎士を十人ほど護衛として連れている、一人の男。
 それだけの護衛を連れていることから、その人物がお偉いさんであるというのは明らかだった。
 そして何より、現在の状況から考えてそのようなお偉いさんとして思い当たる人物は、そう多くはない。

「もしかして、あれがザッカランの領主のサンドロか? いや、けど……」

 半ばそうだと確信しつつも、アランがそう断言出来ない理由としては、ザッカランの領主ともあろう者が、戦場にわざわざ出て来るのか? という疑問があった為だ。
 一体何を考えてそのような真似をしているのかは、アランにも分からない。分からないが……それでも、もし本当にゼオンの映像モニタに映っているのがザッカランの領主だとすれば、アランにとって……そしてドットリオン王国軍にとっても、非常に幸運なのは間違いない。

『何をしている貴様らっ! 敵は心核使いとはいえ、たった一人! 貴様らが命を捨てて戦えば、どうとでもなるだろう!』

 心の折れた兵士たちに向かった叫ぶサンドロ。
 その様子を眺めつつ、アランはこれからどう行動すべきなのが最善なのかを考える。
 領主のサンドラと思しき男を、ここで殺すのがいいのか。
 それとも、生かして捕らえた方がいいのか。
 ……少なくても、ここで生かしたまま逃がすという選択肢はアランの中にはなかったが。

「取りあえず、生かして捕らえるにしても、このまま殺すにしても……ああやって叫ばせておくってのは、止めた方がいいか」

 幸いにして、叫んでいる男がいる周辺には騎士だけしか存在しておらず、更には建物の類もない。
 なら、相手を怯えさせるという意味でも、ここでゼオンの力を見せつけておいた方がいいだろうと判断し、ビームライフルの銃口を男たちに向ける。
 その行為の意味することを知る者はそこまで多くはない。
 多くはなかったが、それではゼロという訳ではないのだ。

『うっ、うわあああああああああああああああああああああああっ!』

 自分のすぐ近く――それでもアランは爆発で怪我をしないようにときちんと距離を考えて撃ったのだが――で起きた爆発に、サンドロの口から悲鳴が上がる。
 サンドロは自分たちが優れており……それこそ、無条件でガリンダミア帝国の方がドットリオン王国よりも上だと信じていた。
 だからこそ、こうして戦闘の最中に外に出て来るような真似をしたのだろう。
 だが、それは当然のように大きなミス……いや、ミスという言葉で簡単に言い表せるようなものでないことは、現在の状況を見れば明らかだった。

「この武器の威力は分かったな? お前が逃げようと、もしくは近くにいる騎士たち守らせようとしても無意味だ。……死ぬか、降伏するか選べ」
『なっ……なな……』

 アランの言葉に、サンドロは言葉に詰まる。
 本来であれば、一介の心核使いが何を言おうと自分が聞く必要はない。
 必要はないのだが……同時に、すぐ側で爆発が起きたのを思えば、ここで自分が何を言っても意味はない。

『ぐぬぬぬ』

 悔しさから呻く様子は、しかし周囲で様子を見ている者にしてみれば、当然のことだという思いが強い。
 そもそも、ザッカランの領主という立場にある者が、何故戦いの場に出て来るのか。
 もちろん、世の中には訓練を重ねてその辺の者たちよりもよっぽど強い力を持つ領主もいる。
 もしくは、心核使いの領主といった者もおり、そのような者たちは自分が最前線で戦うことにより、味方の士気を上げながら戦う。
 だが、それはあくまでも相応の……一定以上の強さを持つ者であればの話であり、当然のようにサンドロは特に鍛えてもいない。
 ドットリオン王国に接する一番近い都市たるザッカランを任されているのだが、そもそも自分が戦場に立つとは最初から思っておらず、それ以前にドットリオン王国軍が攻めてくるというのは、完全に考えの外にあったというのが大きい。
 だからこそ、今回の一件においては皆が何をしに出て来たといった視線を向けるのは当然だった。
 ……それだけではなく、サンドロの周囲にいる騎士たちにまで責める視線が向けられていた。
 この騎士たちは、サンドロが選んで騎士にした者たちだ。
 つまり、サンドロの意思を最優先にする。
 一応外に出る前に、騎士たちも忠告はした。
 したのだが、それでもサンドロは自分ならば大丈夫だという、そんな確信を持って外に出て……それが、現在の状況に結びついたのだ。

「どうした? 降伏しろ。それとも、このまま戦って倒されるのが望みなのか? それならそれで構わないが……どうする?」

 アランの言葉に、サンドロは再び呻く。
 サンドロも、分かってはいるのだ。
 今この状況では、すでにどうすることも出来ないと。
 それでも素直にこの状況を認めることは出来なかった。
 以前から抱いていた、ドットリオン王国はガリンダミア帝国よりも下だという認識が、この期に及んでもサンドロの中に残っており、素直に降伏するのを躊躇してしまう。
 だが……そうして躊躇した姿が、アランには抗戦の意思と受け止められる。
 そんなサンドロの様子に、アランは少しだけ意外そうな表情を浮かべる。
 最後まで自分の意思を押し通そうとしているように見えたからだ。
 サンドロに何を言ったところで、その意思を変えるようなことは出来ない。
 そう判断したアランは、ならばその思いを最後まで遂げさせてやろうと、ビームライフルのトリガーをサンドロに向け……その瞬間、サンドロはこのままでは自分が死ぬと、そう直感した。
 自分のことだけを考えて生きてきたがゆえに、死の気配を感じたのだろう。
 ゼオンの持つビームライフルのトリガーが引かれる寸前……

『降伏する!』

 そんな声がゼオンのコックピットにいるアランの耳に入ってくる。

「え?」

 アランの口から、間の抜けた声が出た。
 今までの流れから考えれば、これは全く予想出来なかったのだから当然だろう。
 てっきり、最後まで自分の意地を通すのだとばかり思っていたのだが、まさかこのようにあっさり降伏するとは思っていなかったのだ。
 勿論、実際にサンドロが戦場に出て来てからは相応に時間が経っているのだが。
 その辺の事情を思えば、やはり今のやり取りは自然なのか? と思うことも出来た。

「念のために聞くが、それは見せかけとかじゃなくて、本当に心の底から降伏すると、そう思ってもいいんだな?」
『もちろんだ。だ、だが……貴族としての、名誉ある扱いを希望する!』

 そう叫ぶサンドロに、アランは何と言うべきか迷う。
 こうもあっさりと降伏しておいて貴族の名誉云々とか正気か、とか。
 もしお前が戦場に出てこなければ、まだ防衛戦は行われていたのではないか、とか。
 ……もっとも、後者にかんしては早めに降伏したことにより、結果として死者が少なくなったのも間違いない。
 そういう意味では、もしかしたら今回の一件は決して悪いことだけではなかったのかもしれない。
 半ば無理矢理自分に言い聞かせるようにしながら、アランはザッカランに近づいて来ているドットリオン王国軍に視線を向ける。
 先程のゼオンの合図を受けて、ドットリオン王国軍はかなりの速度でザッカランに近付いてきている。
 本来なら、それこそゼオンがザッカランの防壁の上で戦いながら相手の注意を逸らし、ドットリオン王国軍が近付いてきたらビームライフルで正門を破壊して、中に招き入れる……と、そんな予定だった。
 基本的にザッカランにはなるべく被害を出さずに勝利を目指すというのが目的だったのだが、ドットリオン王国軍が入ってくる正門はどうしても破壊する必要があった。
 ……いや、他にも正門を開くための手段はいくつかあるのだが、やはり正門を破壊してしまうというのが、一番手っ取り早かったのだ。
 だからこそ、アランもそのつもりだったのだが……まさか、ザッカランの領主が自ら戦場に出て来るなどという馬鹿な真似をして、さらにはそのまま降伏に持って行けるというのは完全に予想外だった。
 とはいえ、それでかなり助かったのも事実。

「なら、正門を開けるように命令しろ。現在、ドットリオン王国軍がザッカランまで近付いてきている。降伏するのなら、それを迎え入れることを拒否はしないよな?」

 そう告げるアランの言葉に、未だにビームライフルの銃口を向けられているサンドロは頷くのだった。
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