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逆襲
125話
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ザッカランまでの道中、ほとんど問題らしい問題はなかった。
もっとも、ザッカラン攻略のためのこの部隊は、セレモーナが率いる中でも信頼出来る相手が統率を任され、更にはメンバーの方も問題を起こす人物は極力避けている。
……中にはガーウィットのように、半ば無理矢理に参加してきたような者もいるが。
ともあれ、基本的に問題を起こすような人物は少ないので、ザッカランに向かう道中は特に何か騒動が起きるようなことはなく、順調だった。
だが……それはあくまでも、ドットリオン王国の領土内での話だ。
ザッカランのあるガリンダミア帝国の領土にアラン達が入れば、当然のようにそれは見つかる。
本来なら国境には関所の類があってもおかしくはない。
ドットリオン王国とガリンダミア帝国軍は、決して友好国ではないのだから。
いや、むしろ敵対国ですらあった。
それでも関所の類が用意されていないのは、それこそお互いにそのような物を作ろうとした場合、相手に気が付かれて相手を刺激するからというのが大きい。
……その刺激の度合いも、ドットリオン王国とガリンダミア帝国では大きく違うが。
ともあれ、両国間の間に関所の類は存在しないので、国境を越えるというのは容易に出来る。
だが……それでも、ザッカラン攻略隊がガリンダミア帝国の領土に入れば目立つ。
特にガリンダミア帝国軍は、ラリアントから撤退したときに当然のように追撃を警戒しており、もしくは何らかの報復を警戒して国境付近に見張りを置いていた。
「おいおいおいおいおい、本当に来た、来たぞ。早くザッカランに報告しないと!」
「分かってる! ほら、急ぐぞ。ここで俺達が見つかったら、洒落にならねえ!」
そう言うと、野営をしながらこの場に留まっていたガリンダミア帝国軍の兵士二人が、馬に乗ってザッカランまで急ぐ。
ザッカラン攻略隊の面々は、当然そのような動きは理解していた。
理解していたが、それでも今の状況では無理に止める必要がないとして、そんな二人を特に追撃するでもなく、放っておいた。
あの二人がザッカランに自分たちの襲来を報告すれば、間違いなくザッカランは混乱すると判断していたためだ。
もちろん、早めに自分たちの存在を報告されれば、それだけザッカランの防衛が固められるのも事実だが……
「アラン君がいるから、その辺の心配はいらないということでしょうね」
馬車の中でイルゼンがいつもの胡散臭い笑みを浮かべて、そう告げる。
なお、今日の馬車にはアランとイルゼン、レオノーラの三人のみだった。
雲海と黄金の薔薇の面々は、それぞれ日によって乗る馬車を変えている。
その中には雲海と黄金の薔薇の探索者が混ざっていることも珍しくはない。
レオノーラがラリアントを助けに来たときから、雲海と黄金の薔薇の関係は以前より近くなっている。
それは、レオノーラの気の持ちようも大きく関わっているのだろう。
「俺だけじゃなくて、レオノーラの件も関係してると思うんですけどね」
「私? ……まぁ、それは否定しないわ」
アランの言葉に、レオノーラは短くそう答える。
実際、黄金のドラゴンが自分たちが住んでいる上空を飛び回っているというのは、そこに住んでいる住人にとって恐怖以外のなにものでもないだろう。
恐怖という意味では、アランの乗っているゼオンもそうだが……この場合は、恐怖の質が違う。
ゼオンの場合は、巨大な人型機動兵器という未知の存在に対する恐怖。
無理矢理に判断するのならゴーレムという風に思うことも出来るのだろうが、それでも未知の存在に対する恐怖は間違いない。
それに対して、レオノーラが変身する黄金のドラゴンは、ドラゴンという時点でその伝説や言い伝えの数々、そして実際にドラゴンによって大きな被害を受けた者がいるということで、既知の恐怖を抱く。
(実際にドラゴンと遭遇したことがある奴なんてほとんどいないんだから、既知というか、ドラゴンの場合も未知だろうけど)
レオノーラの様子を眺めつつ、アランがそんな風に考えていると……
「あら、ほら。ちょっと見てよあれ」
窓の外を見ていたレオノーラが、不意にそんなことを呟く。
そんなレオノーラの言葉に窓の外を見たアランは、何人かの冒険者や探索者と思しき者たちが馬車に乗って急速に離れていくのを確認出来た。
「あれは……ザッカランの冒険者や探索者か?」
「でしょうね。どうやらドットリオン王国から軍勢がやって来たから、それを急いでザッカランに知らせに行ったということかしら」
「それは……殺す、とまではいかないけど、捕虜にしておいた方がいいんじゃないか?」
自分たちの存在は、可能な限り隠した方がいいのではないか。
そう思って告げるアランだったが、それに答えたのはレオノーラ……ではなく、イルゼン。
「僕たちがガリンダミア帝国領内に侵入したのは、もう向こうに知られているはずですよ。恐らく、ラリアントに侵攻してきた軍勢が残していった者たちによってね」
「それでも……ここであの連中を捕らえれば、ザッカランの戦力は多少なりとも少なくなって、こっちにとっては有利になるんじゃないか?」
「……冒険者や探索者の一人や二人で、アラン君のゼオンをどうにか出来ると思いますか?」
「それは……まぁ」
アランは……いや、アランだからこそ、ゼオンの持つ攻撃力の高さは十分に理解している。
ビームライフルは当然のこと、それこそ一番攻撃力の弱い頭部バルカンでさえ、命中した場合、生身の人間ではどうしようもない威力を持つと。
それだけの威力を持つゼオンがザッカランの攻略に使われるのだから、一人や二人戦力として多くても、それは誤差の範囲内だろう。
「そんな訳で、わざわざ逃げる相手を捕らえる必要はないんですよ」
そう告げるイルゼンの言葉に、アランは素直に頷くのだった。
「馬鹿なっ! ドットリオン王国の連中、何を考えている?!」
ザッカランにある領主の館にある執務室で、領主のサンドロ・デロピタは最初その報告を聞いたときは信じられなかった。
だが、最初に報告を持ってきた者以外に、何人もが同じ報告を持ってきたとなれば、その報告を否定出来なくなる。
自分たちガリンダミア帝国がドットリオン王国に攻め入るのは当然の権利であるが、ドットリオン王国側がガリンダミア帝国に……それも自分の治めるザッカランに攻撃をしてくるのは許容出来ない。
それが、サンドロの性格だった。
自分たちの立場が上であると、そう確信しているのだ。
とはいえ、それは別に何の意味もなく無条件に自分の有利を信じている訳ではない。
実際にガリンダミア帝国というのは大国で、今現在も周辺諸国への侵攻を行っており、サンドロがそう言うだけの実力と実績は持っていた。
……もっとも、それはあくまでもガリンダミア帝国全体としての話であって、サンドロが何らかの手柄を立てた訳ではないのだが。
「サンドロ様、とにかく今は援軍を呼ぶべきかと」
執務室の中にいた男がそう言うが、そう言った瞬間に他の者に驚きの視線を向けられる。
それは、現状において言ってはいけないことだった。
もしサンドロに援軍を呼ぶようにと言うのであれば、もっと婉曲的な言い回しをする必要があった。
それこそ、今のこの状況でそのようなことを言えばどうなるか。
そえれは、男の言葉を聞いたサンドロの表情を見れば、誰もが一目で理解出来る。
「ふざけるなっ! ドットリオン王国ごときが攻めてくるからと、一戦もしないうちに援軍を呼べというのか!?」
苛立ちも露わに、サンドロが男を睨み付ける。
睨み付けられた男は、サンドロに仕え始めてから、まだそこまで時間が経っていない。
それだけに、まさかこのように理不尽に叫ばれるとは思っていなかった。
だが……それでも、ザッカランという自分の故郷を守るためであれば、ここで退く訳にはいかないのも事実。
「それでも、今の状況を思えば、ザッカランの戦力だけでドットリオン王国軍をどうにかするのは難しいというのは、サンドロ様も分かるはずです。この前のラリアント攻略戦において、ザッカランからは多くの物資を提供しました。また、兵力も同様です」
ラリアントを攻略するためにやってきたガリンダミア帝国軍は、当然のようにこのザッカランでも戦力となる兵士たちを雇った。
冒険者や探索者、傭兵といった者たちは高額の報酬を目当てに雇われ、また愛国心や士官、そしてドットリオン王国に対する敵意を利用して、義勇兵を募りもした。
そしてザッカランの戦力をも、ある程度引き抜いていったのだ。
だが……結果として、ガリンダミア帝国軍はラリアントを攻略することが出来ず、退却することとなった。
幸いにも追撃はそこまで厳しくなかったので、普通に敗戦をするよりは死者の数は少なかったが、それでも相応の死者は出た。
そして死者の中には、ザッカランからガリンダミア帝国軍に加わった者も多い。
当然その分、ザッカランを守る戦力も減っており、撤退してきたガリンダミア帝国軍もすでにザッカランから去っている。
今のような状況で、援軍もなしに攻めて来たドットリオン王国軍をどうにか出来るはずがない。
だからこそ、男はサンドロの言葉にも徹底的に反対する。
だが……それは、領主としての高い自尊心を持つサンドロにとって、許容出来ることではない。
「もう、いい。お前はとっとと消えろ。お前がいるだけで、ドットリオン王国軍の対処方法を相談出来なくなる」
苛立ちを押し殺したように、サンドロが男に告げる。
それでも怒鳴りつけなかったのは、そのような真似をすればみっともないと思っているからだろう。
そんなサンドロに、男はさらに何かを言いかけるが……これ以上言えば、サンドロの逆鱗に触れ、最悪反逆罪として捕らえられる可能性もあったので、周囲にいる他の者が必死に止める。
そうして男が出て行くと、サンドロは苛立ちを隠しもせずに口を開く。
「それで、ドットリオン王国軍の対処だ。誰か、何か意見のある者はいるか?」
そう尋ねるサンドロに、部下たちはそれぞれ意見を出すのだった。
もっとも、ザッカラン攻略のためのこの部隊は、セレモーナが率いる中でも信頼出来る相手が統率を任され、更にはメンバーの方も問題を起こす人物は極力避けている。
……中にはガーウィットのように、半ば無理矢理に参加してきたような者もいるが。
ともあれ、基本的に問題を起こすような人物は少ないので、ザッカランに向かう道中は特に何か騒動が起きるようなことはなく、順調だった。
だが……それはあくまでも、ドットリオン王国の領土内での話だ。
ザッカランのあるガリンダミア帝国の領土にアラン達が入れば、当然のようにそれは見つかる。
本来なら国境には関所の類があってもおかしくはない。
ドットリオン王国とガリンダミア帝国軍は、決して友好国ではないのだから。
いや、むしろ敵対国ですらあった。
それでも関所の類が用意されていないのは、それこそお互いにそのような物を作ろうとした場合、相手に気が付かれて相手を刺激するからというのが大きい。
……その刺激の度合いも、ドットリオン王国とガリンダミア帝国では大きく違うが。
ともあれ、両国間の間に関所の類は存在しないので、国境を越えるというのは容易に出来る。
だが……それでも、ザッカラン攻略隊がガリンダミア帝国の領土に入れば目立つ。
特にガリンダミア帝国軍は、ラリアントから撤退したときに当然のように追撃を警戒しており、もしくは何らかの報復を警戒して国境付近に見張りを置いていた。
「おいおいおいおいおい、本当に来た、来たぞ。早くザッカランに報告しないと!」
「分かってる! ほら、急ぐぞ。ここで俺達が見つかったら、洒落にならねえ!」
そう言うと、野営をしながらこの場に留まっていたガリンダミア帝国軍の兵士二人が、馬に乗ってザッカランまで急ぐ。
ザッカラン攻略隊の面々は、当然そのような動きは理解していた。
理解していたが、それでも今の状況では無理に止める必要がないとして、そんな二人を特に追撃するでもなく、放っておいた。
あの二人がザッカランに自分たちの襲来を報告すれば、間違いなくザッカランは混乱すると判断していたためだ。
もちろん、早めに自分たちの存在を報告されれば、それだけザッカランの防衛が固められるのも事実だが……
「アラン君がいるから、その辺の心配はいらないということでしょうね」
馬車の中でイルゼンがいつもの胡散臭い笑みを浮かべて、そう告げる。
なお、今日の馬車にはアランとイルゼン、レオノーラの三人のみだった。
雲海と黄金の薔薇の面々は、それぞれ日によって乗る馬車を変えている。
その中には雲海と黄金の薔薇の探索者が混ざっていることも珍しくはない。
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それは、レオノーラの気の持ちようも大きく関わっているのだろう。
「俺だけじゃなくて、レオノーラの件も関係してると思うんですけどね」
「私? ……まぁ、それは否定しないわ」
アランの言葉に、レオノーラは短くそう答える。
実際、黄金のドラゴンが自分たちが住んでいる上空を飛び回っているというのは、そこに住んでいる住人にとって恐怖以外のなにものでもないだろう。
恐怖という意味では、アランの乗っているゼオンもそうだが……この場合は、恐怖の質が違う。
ゼオンの場合は、巨大な人型機動兵器という未知の存在に対する恐怖。
無理矢理に判断するのならゴーレムという風に思うことも出来るのだろうが、それでも未知の存在に対する恐怖は間違いない。
それに対して、レオノーラが変身する黄金のドラゴンは、ドラゴンという時点でその伝説や言い伝えの数々、そして実際にドラゴンによって大きな被害を受けた者がいるということで、既知の恐怖を抱く。
(実際にドラゴンと遭遇したことがある奴なんてほとんどいないんだから、既知というか、ドラゴンの場合も未知だろうけど)
レオノーラの様子を眺めつつ、アランがそんな風に考えていると……
「あら、ほら。ちょっと見てよあれ」
窓の外を見ていたレオノーラが、不意にそんなことを呟く。
そんなレオノーラの言葉に窓の外を見たアランは、何人かの冒険者や探索者と思しき者たちが馬車に乗って急速に離れていくのを確認出来た。
「あれは……ザッカランの冒険者や探索者か?」
「でしょうね。どうやらドットリオン王国から軍勢がやって来たから、それを急いでザッカランに知らせに行ったということかしら」
「それは……殺す、とまではいかないけど、捕虜にしておいた方がいいんじゃないか?」
自分たちの存在は、可能な限り隠した方がいいのではないか。
そう思って告げるアランだったが、それに答えたのはレオノーラ……ではなく、イルゼン。
「僕たちがガリンダミア帝国領内に侵入したのは、もう向こうに知られているはずですよ。恐らく、ラリアントに侵攻してきた軍勢が残していった者たちによってね」
「それでも……ここであの連中を捕らえれば、ザッカランの戦力は多少なりとも少なくなって、こっちにとっては有利になるんじゃないか?」
「……冒険者や探索者の一人や二人で、アラン君のゼオンをどうにか出来ると思いますか?」
「それは……まぁ」
アランは……いや、アランだからこそ、ゼオンの持つ攻撃力の高さは十分に理解している。
ビームライフルは当然のこと、それこそ一番攻撃力の弱い頭部バルカンでさえ、命中した場合、生身の人間ではどうしようもない威力を持つと。
それだけの威力を持つゼオンがザッカランの攻略に使われるのだから、一人や二人戦力として多くても、それは誤差の範囲内だろう。
「そんな訳で、わざわざ逃げる相手を捕らえる必要はないんですよ」
そう告げるイルゼンの言葉に、アランは素直に頷くのだった。
「馬鹿なっ! ドットリオン王国の連中、何を考えている?!」
ザッカランにある領主の館にある執務室で、領主のサンドロ・デロピタは最初その報告を聞いたときは信じられなかった。
だが、最初に報告を持ってきた者以外に、何人もが同じ報告を持ってきたとなれば、その報告を否定出来なくなる。
自分たちガリンダミア帝国がドットリオン王国に攻め入るのは当然の権利であるが、ドットリオン王国側がガリンダミア帝国に……それも自分の治めるザッカランに攻撃をしてくるのは許容出来ない。
それが、サンドロの性格だった。
自分たちの立場が上であると、そう確信しているのだ。
とはいえ、それは別に何の意味もなく無条件に自分の有利を信じている訳ではない。
実際にガリンダミア帝国というのは大国で、今現在も周辺諸国への侵攻を行っており、サンドロがそう言うだけの実力と実績は持っていた。
……もっとも、それはあくまでもガリンダミア帝国全体としての話であって、サンドロが何らかの手柄を立てた訳ではないのだが。
「サンドロ様、とにかく今は援軍を呼ぶべきかと」
執務室の中にいた男がそう言うが、そう言った瞬間に他の者に驚きの視線を向けられる。
それは、現状において言ってはいけないことだった。
もしサンドロに援軍を呼ぶようにと言うのであれば、もっと婉曲的な言い回しをする必要があった。
それこそ、今のこの状況でそのようなことを言えばどうなるか。
そえれは、男の言葉を聞いたサンドロの表情を見れば、誰もが一目で理解出来る。
「ふざけるなっ! ドットリオン王国ごときが攻めてくるからと、一戦もしないうちに援軍を呼べというのか!?」
苛立ちも露わに、サンドロが男を睨み付ける。
睨み付けられた男は、サンドロに仕え始めてから、まだそこまで時間が経っていない。
それだけに、まさかこのように理不尽に叫ばれるとは思っていなかった。
だが……それでも、ザッカランという自分の故郷を守るためであれば、ここで退く訳にはいかないのも事実。
「それでも、今の状況を思えば、ザッカランの戦力だけでドットリオン王国軍をどうにかするのは難しいというのは、サンドロ様も分かるはずです。この前のラリアント攻略戦において、ザッカランからは多くの物資を提供しました。また、兵力も同様です」
ラリアントを攻略するためにやってきたガリンダミア帝国軍は、当然のようにこのザッカランでも戦力となる兵士たちを雇った。
冒険者や探索者、傭兵といった者たちは高額の報酬を目当てに雇われ、また愛国心や士官、そしてドットリオン王国に対する敵意を利用して、義勇兵を募りもした。
そしてザッカランの戦力をも、ある程度引き抜いていったのだ。
だが……結果として、ガリンダミア帝国軍はラリアントを攻略することが出来ず、退却することとなった。
幸いにも追撃はそこまで厳しくなかったので、普通に敗戦をするよりは死者の数は少なかったが、それでも相応の死者は出た。
そして死者の中には、ザッカランからガリンダミア帝国軍に加わった者も多い。
当然その分、ザッカランを守る戦力も減っており、撤退してきたガリンダミア帝国軍もすでにザッカランから去っている。
今のような状況で、援軍もなしに攻めて来たドットリオン王国軍をどうにか出来るはずがない。
だからこそ、男はサンドロの言葉にも徹底的に反対する。
だが……それは、領主としての高い自尊心を持つサンドロにとって、許容出来ることではない。
「もう、いい。お前はとっとと消えろ。お前がいるだけで、ドットリオン王国軍の対処方法を相談出来なくなる」
苛立ちを押し殺したように、サンドロが男に告げる。
それでも怒鳴りつけなかったのは、そのような真似をすればみっともないと思っているからだろう。
そんなサンドロに、男はさらに何かを言いかけるが……これ以上言えば、サンドロの逆鱗に触れ、最悪反逆罪として捕らえられる可能性もあったので、周囲にいる他の者が必死に止める。
そうして男が出て行くと、サンドロは苛立ちを隠しもせずに口を開く。
「それで、ドットリオン王国軍の対処だ。誰か、何か意見のある者はいるか?」
そう尋ねるサンドロに、部下たちはそれぞれ意見を出すのだった。
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