剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅

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逆襲

124話

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「うわぁ……これ、本当に大丈夫か?」

 馬車の窓から外を見てそう言ったのは、アラン。
 現在アランを含めてガリンダミア帝国にあるザッカランを攻略する面々は、進軍していた。
 まだドットリオン王国の領土からは出ていないが、そんな中でアランがそう言ったのは、戦力の少なさからだ。
 ガリンダミア帝国軍がラリアントを攻めたときに比べると、その戦力は極端に少ない。
 それこそ、これだけの戦力で本当にラリアントと同格のザッカランを攻略出来るのかといった疑問をアランが抱くほどには。
 人数的にはそれなりに多いのだが、補給部隊が多めである以上、どうしても戦力は少ない。
 ……もっとも、ザッカランの攻略にはアランのゼオンやレオノーラの黄金のドラゴンが大きな意味を持つ以上、それも当然かもしれないが。
 また、ガリンダミア帝国軍がラリアントを攻略する際に、かなり無理をして戦力を抽出したにもかかわらず、その多くが撃退され、中には戦死した者も多い。
 また、ラリアント防衛戦から時間が経っていないということもあり、現在のザッカランは戦力的にそこまで充実していないという風に予想されていた。
 もちろん、ラリアントの攻略が失敗した以上、防御を固めているという選択肢も存在はするのだが。

「うーん、でも多分大丈夫だと思うわよ?」

 アランと一緒の馬車に乗っているリアがそう告げる。
 だが、アランとしてはリアの言葉を素直に信じる訳にはいかない。
 この母親は、外見とは違って何だかんだと大雑把なところが多い。
 今までの生活でそれを知っている以上、その言葉に素直に頷けば、後日それを後悔することになるというのは、容易に想像出来たのだ。

「母さんにはそう思えても、俺から見ると結構厳しいと思えるんだよ」
「でも、今回の主役は、あくまでもアランとレオノーラなんでしょ? 他にも心核使いは来てるし」
「あー……あいつか……」

 アランは微妙に嫌そうな表情を浮かべる。
 何故なら、あいつ……それは、ガーウィットのことだったのだから。
 多くの貴族がアランの力を見て、友好的に接しようとしてきた中で、ガーウィットのみは未だにアランに対して敵対的な態度を隠していない。
 以前セレモーナと話をした時の帰りにガーウィットと出会ったが、その後もガーウィットは何度もセレモーナに直訴し……その結果として、こうして現在アランたちと一緒にザッカランに向かっていた。
 セレモーナも、ガーウィットがアランを疎んじているのは知っているはずだった。
 にもかかわらず、こうしてザッカラン攻めに加えたのは、何らかの理由があってのものだろう。
 それはアランにも分かっているのだが、それでも……そう、それでもガーウィットと一緒に行動するというのは、面白くないものがあった。

「その辺は慣れなさい。アランも知ってると思うけど、探索者として行動していれば、貴族との付き合い避けて通ることは出来ないわ。……まぁ、クランを組まないで一人で探索者として行動して、その上でそこまで目立たなければ話は別だけど」
「あー……それはな」

 アランの場合は、ゼオンという心核を持っている時点で目立たないというのは不可能だ。
 何よりも、ガリンダミア帝国軍がアランを……ゼオンを求めてというのが今回の戦いの一因を担っているというのは、少し事情に詳しい者であれば知っている。
 そうである以上、アランが今更目立たないようにどうこうするというのは不可能に近い。
 出来るとすれば、むしろ派手に目立つことによって、自分に手を出した場合はただですまないと示すことだろう。
 そうして実力を示し、ガリンダミア帝国軍ですら退け……さらにはザッカランを奪うようなことがあった場合、それは大きな意味を持つ。
 少なくても、それだけの力を見せたアランに……そしてアランが所属する雲海や、その雲海が共に行動している黄金の薔薇に妙なちょっかいをかける者はいなくなる訳ではないだろうが、確実に数は少なくなる。

「何だかここ最近……スタンピードの一件から、探索者じゃなくて冒険者とか傭兵とかになってるような気がする」
「あははは。そうかもしれないわね。けど、黄金の薔薇の方はラリアントから離れているとき、遺跡に挑んだらしいわよ?」
「……羨ましいというか、何というか……俺たちが必死にガリンダミア帝国軍と戦っているときに……」

 不満を露わにするアランだったが、リアはそんなアランの頭を軽く叩く。

「痛っ! ちょっ、母さん。いきなり何をするんだよ!」
「何をするんだよじゃないわよ、全く。……レオノーラが一体何を考えていたのか、分かってないのかい?」
「いや、それは分かってるけど。だからこそ、ああやって最後の最後に俺たちを助けに来てくれたんだし」

 そう言いながらも、まさに絶好のタイミングでやって来たレオノーラは、まるでヒーローのように、アランには思えた。
 そうなると、そのレオノーラに助けられた自分はヒロインか何かの位置にいるのではないかと思うと、若干納得出来ないようなところがあったのは事実なのだが。

「あら、草原鹿の群れね」

 馬車の窓から外を見ていたリアが呟く。
 その言葉に、アランも外を見る。
 すると、リアの言葉通りそこには草原鹿の姿があった。
 草原鹿。それは、モンスターではなく、動物だ。
 普通の鹿は山の中に棲息していることが多いのだが、この草原鹿は名前通り草原を生活の場としている。
 山の中を走るのではなく、平地の草原を走るように進化した鹿で、その走る速度はかなり速く、肉の味は非常に美味いのだが、倒すのに手間取る動物として知られていたのだが……

「今夜はご馳走ね」

 兵士たちがそれぞれ草原鹿に攻撃を行い、次々と倒していく。 
 草原鹿の群れは逃げようとするのだが、ザッカラン攻略隊の中には魔法使いも多くいる。
 矢が勿体ないので、弓は使われていないが、魔法は違う。
 魔力は消耗しても自然と回復するので、こういうときは非常に使い勝手がいい。
 ……もっとも、魔法使いであれば他にいくらでも稼げる仕事があるので、魔法使いが猟師をやるということは、基本的にないのだが。
 ただ、今は違う。
 魔力を回復させることが出来る以上、ここで魔法使いが魔法を使っても問題はない。
 それどころか、草原鹿というご馳走を食べることが出来るので、むしろ魔法使いたちが競って草原鹿の群れに攻撃していた。
 草原鹿の群れは逃げ惑うが、行く先々で土の槍が地面から生えたり、風の刃が飛んできたりといった具合に、行動範囲が狭められていく。
 さらには、草原鹿が逃げる先には前もって兵士たちが待機しており、それによっても逃げられる範囲は狭まっていくのだ。
 そうして一時間がそこらで、かなりの数の草原鹿を仕留めることに成功する。
 もっとも、当然のように全ての草原鹿をという訳にはいかず、少なくない数の草原鹿が逃げ延びたが。
 ともあれ、獲物を仕留めた以上は解体をする必要がある。
 少し早いが昼食の休憩となり、解体を得意とする者は草原鹿の解体を行う。
 当然ではあるが、この場合は解体をする者にもメリットはある。
 草原鹿の内臓、痛むのが早いそれは解体をした者が食べてもいいことになっていた。
 心臓と肝臓……ハツとレバーというのが、アランには分かりやすかったが。
 ともあれ、新鮮なハツとレバーは塩を振って焼くだけでかなり美味い。
 これを目当てに、多くの者が解体を希望し……最終的にはくじ引きを行うことにすらなってしまうくらいだ。

「で、俺たちには三頭か」

 雲海の取り分として貰えたのは、三頭の草原鹿。
 全員が満足に食べることが出来る量ではないが、獲った鹿の量を考えれば十分な量だといえるだろう。
 それだけ、ザッカラン攻略隊の中で雲海が期待されているということの証だった。
 雲海が優遇されているのを面白くないと思う者もいたが、今はまだそれを直接口に出すようなことをしているものは多くはない。
 実際にラリアント防衛戦でその実力を見せつけたのが、この場合は大きかったのだろう。
 そして、雲海と同様に黄金のドラゴンとして力を見せつけたレオノーラ率いる黄金の薔薇にも、当然のように草原鹿は取り分として渡されたのだが……

「ここか? こう?」
「そうそう、ただし、くれぐれも腹を割くときは内臓を傷つけないようにな」

 雲海のメンバーの何人かが、黄金の薔薇の面々に草原鹿の捌き方を教える。
 黄金の薔薇は、家督を継げない次男、三男といった者たちや、政略結婚を嫌った女たちで結成されたクランだ。
 クランとしてある程度活動しているので、多少は動物の解体を出来る者もいるが……その人数は決して多くはない。
 だからこそ、レオノーラに頼まれ、雲海から解体が得意な者が何人かそちらに教えていた。
 レオノーラもまた、この先クランとして活動する以上、この手の作業には慣れておく必要があると、そう判断したのだろう。
 実際に今回の一件で黄金の薔薇の探索者が何人か、恐る恐るといった様子ではあったが、草原鹿の解体に挑戦していた。
 もしこれが、貴族として無意味に高いプライドを持っている者であれば、何故自分がこのような仕事をと、そう言う者もいるだろう。
 酷いのになると、自分のそのような真似をさせようとしているとして、激怒する者すらいるかもしれない。
 だが……幸いなことに、黄金の薔薇に所属している者たちの多くは、貴族ではなく探索者として生きていくことを決めた者たちだ。
 そうであるがゆえに、このくらいのことは覚える必要があると、雲海の面々にしっかりと習っていた。そして……

「では、ここを切るときは力をいれないの?」

 黄金の薔薇を率いるレオノーラもまた、アランに草原鹿の解体の仕方を習っていた。

「そうだ。ただし、力を入れすぎると身体の中の脂で手が滑ったりするから、注意が必要だけどな。ほら、こうして……」

 そう言いながら、アランはレオノーラの手に触れ、解体用のナイフを動かす。
 いきなり手を握られたことに驚いたレオノーラだったが、アランはそんなレオノーラの様子に気が付いた様子もなく、頬を赤くしたままのレオノーラの手を動かして草原鹿の解体を進めていくのだった。 
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