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ラリアント防衛戦
104話
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モリクからの指示を受け、アランはゼオンの掌の上に二人の男を乗せて空を飛んでいた。
ゼオンのコックピットにいるアランはともかく、その掌の上に乗っている二人は、当然のように風の影響を受ける。
そのため、アランは空いている方の手で風を遮るようにしているのだが、それでも片手だけで完全に風を遮れる訳ではい。
結果として、掌の上の二人の男たちは、風で吹き飛ばされないようにと必死になってゼオンの指に掴まっていた。
「くそっ! 空を飛ぶって聞いたときに喜んだ俺をどうにかしてやりたい!」
「そうだな! こんなに厳しいとは思わなかったよ!」
そんな風にやり取りをしているのだが、だからといってゼオンに運んで貰わないという選択肢は、男たちにはない。
今の状況を思えば、可能な限り素早く援軍の下に向かい、事情を説明しておく必要があったのだから。
何よりも厄介だったのは、ガリンダミア帝国軍が当初の戦力以外に援軍を出してきたことだろう。
本来なら、王都からやって来た援軍とラリアント軍が協力して、最初に襲ってきたディモ率いる部隊を倒すという予定だった。
だというのに、そんな中でさらにガリンダミア帝国軍に援軍がやって来てしまったのだ。
当初の予想が大きく外れてしまった今、出来るだけ早く新しい方針を決める必要がある。
……とはいえ、それが簡単に決められるはずもない。
だからこそ、こうしてまだ援軍がラリアントに到着する前に、色々と事情説明したりこれからどう戦うのかを相談するために、アランは責任者を連れて援軍のいる方に向かって飛んでいるのだ。
幸いだったのは、ゼオンの飛ぶ速度が速かったことだろう。……そのおかげで、掌の上で受ける風もより強くなったのだが。
ともあれ、ゼオンはラリアントを飛び立ってから十分も経たないうちに、王都からの援軍の下に到着する。
当然ながら、ゼオンの姿を見た援軍はそれが味方だと判別出来ないために、迎撃態勢を取る。
だが、援軍から少し離れた場所にゼオンが着地すると、掌の上に乗っていた二人の男は慌てたように援軍の方に向かう。
アランはそれを、ゼオンのコックピットの中から眺めていた。
もし万が一にも二人の男たちが攻撃されようものなら、すぐにでも助け出すつもりで。
しかし援軍の中に二人の顔を知っている者がいたのか、最初こそ迎撃態勢を取っていた援軍だったが、すぐにそれは解除される。
そうして援軍を率いてきた相手と話をする間、進軍は止まって休憩となった。
それはアランとしても問題なかったのだが、ゼオンの周囲に大勢の兵士たちが集まってくるのを見れば、何とも微妙な気分となる。
集まってきていた兵士たちにとって、ゼオンは味方であるという認識があるからこその気安さなのだろうが。
周囲に集まってきた兵士のうちの何人かが手を振っているのを見て、アランは少し迷う。
「ファンサービスも大事か。いや、ファンって訳じゃないんだろうけど」
呟き、ゼオンの手を軽く振らせる。
ざわり、と。
周囲にいた者たちが、そんなゼオンを見てざわめく。
ゼオンに手を振っていた兵士も、まさか手を振り替えしてくるとは思ってもいなかったのだろう。
とはいえ、兵士たちにしてみれば、そんなゼオンの存在は酷く頼もしい。
ガリンダミア帝国軍との戦いにおいて、心核使いというの頼れるべき存在なのだから。
……実際にはガリンダミア帝国軍の中にも大勢の心核使いがいるので、ゼオンがいるだけで勝てるといった相手ではないのだが。
と、そんな中で不意に遠巻きにゼオンを囲んで見ていた兵士たちを強引にどかしながら、数人の男たちが姿を現す。
見るからに周囲の兵士たちとは着ている防具が違う。
『そこのゴーレムの心核使い。私の前に出てこい』
男たちの中の一人……見るからに貴族と思しき二十代ほどの男が、ゼオンに向かってそう命じる。
その言葉に、アランはどうすればいいのか迷う。
自分を見下しているかのような態度を見れば分かるように、この状況で姿を現せば間違いなく何らかの面倒事が起きるだろう。
それこそ、場合によっては雲海に迷惑をかけてもおかしくないような、そんな面倒事が。
かといって、ここで出なければ出ないで、貴族の言葉を無視したといったように認識され、これはこれで問題になる。
どちらの選択をしても問題になるのだが、どちらの方が……と。
そう思ったアランが結局選んだのは、ゼオンのコックピットから出るということだった。
相手の言葉を無視すれば確実に問題になる。
だが、無視しないでこうして相手の前に出た場合、もしかしたが……万が一、億が一の確率ではあるが、もしかしたら特に問題にならないかもしれない可能性があった。
アランがコックピットから姿を現すと、再び周囲で見ていた兵士たちがざわめく。
普通の心核使いなら、モンスターへの変身を解除すれば、すぐに人の姿に戻る。
だが、こうしてアランが姿を現したのに、ゼオンはそのままだったからだ。
(あれ? だとすれば、あの連中は何で俺がパイロットだって……いや、使者に事情を説明されたのか)
自分の運んできた二人がゼオンについての事情を説明して、その結果が今の状況だとすれば、思うところがない訳ではない。
だが、現在のラリアントについて説明する上で、ゼオンについて説明しないというのも、また無理だ。
何よりも今回の一件に繋がるザラクニアの一件が起きたのは、ゼオンの存在があってこそだ。
もちろん、ザラクニアも以前から反乱を起こすというのは、考えていたのだろう。
それでも本来なら、実際に反乱騒ぎを起こすのはもう少しあとのはずだった。
それを予定よりも早くことを起こしたのは、やはりゼオンの存在があってこそだ。
ザラクニアが起こした一件についての報告書は、当然のように王都にも届いているはずだ。
それを考えれば、援軍として来た者たちがゼオンについて知っていても、おかしくはない。
もっとも、知っていてもおかしくないからといって、何故こうして直接アランに会いに来たのかというのは、また疑問ではあるのだが。
「私がゼオンのパイロットをしているアランです」
コックピットを降りたアランは、相手が貴族だからということで失礼にならないようにそう告げる。
これがアランだけのことであれば、明らかに自分を下に見ている貴族と思しき相手にここまで丁寧な言葉遣いをしたりはしないのだが、ここで自分が下手な態度をとれば、雲海にも被害が及ぶ可能性があった。
それを考えれば、迂闊な行動が出来ないのは当然だろう。
「お前が? ……また、随分と予想外な奴が出て来たな。てっきり、もう少し腕の立ちそうな奴だと思ってたんだが。まぁ、いい。お前の心核を寄越せ」
「は?」
当然のように言う貴族の言葉が、アランには理解出来なかった。
そもそもの話、心核使いが変身するモンスターというのは、心核使いの根源とでも言うべきものをその身に纏い、それでモンスターに変身するのだ。
つまり、アランの持つ心核を貴族が手にしても、それで変身出来るのはゼオンではなく貴族の根源となるべき存在だ。
また、それ以前に心核使いから奪った心核はすぐに使えるという訳でもない。
……何より、ガリンダミア帝国軍にラリアントを侵略されているような今の状況で、ラリアント軍の中でも屈指の戦力であるゼオンを使えなくするということは、自殺行為でしかないはずだった。
(あ、でも実はカロの場合は普通の心核とは言えないな)
アランの持つ心核は、どのような理由かは使っている本人にも分からなかったが、意思を持っている。
意思と言っても、明確に言葉を話せる訳ではないが、それでもアランの言葉は理解出来るだけの知能は持っていた。
実際にカロと接しているアランにしてみれば、自我の類があるのではななく、どこか人工知能的な感じがしないでもなかったが。
「何でそんな真似を?」
「黙れ。私が命令してるのだ。お前はそれに素直に従え」
問答無用という表現は、こういうときに使うためにあるのか。
そんな風に思いながら、アランはどうするべきか考える。
アランも今まで何人もの貴族に会う機会はあった。
雲海はそれなりに名前の知られたクランであり、だからこそ貴族としても何らかの仕事を頼んだり、自分のパーティに呼んで雲海と近い立場にいるというのを他人に見せつけるといった真似をしてもおかしくはなかったのだ。
そのような貴族の中には、当然のように高圧的な存在もいる。
……ときには、雲海に所属する女を一晩貸せといったような者もいたので、貴族の全てではないにしろ、その多くが決して好ましい性格をしていないのは明らかだった。
なお、雲海の女を一晩貸せといった貴族は、イルゼンによって高い代償を支払うことになったのだが。
「残念ですが、そんな真似は出来ません。この心核は、ガリンダミア帝国軍を迎撃するために必要なものですから」
「……私の命令を聞けないと、そう言うのか?」
貴族はまさか自分の命令を正面から拒否されるとは思っていなかったのか、一瞬驚きの表情を浮かべるも、次の瞬間には苛立ちも露わにアランを睨む。
今まで生きてきた中で、自分よりも下の者に正面から命令に従わないということはなかったのだろう。
だが、アランにしてみれば、そんな貴族の気分に付き合うということそのものが面白くはなかった。
今はラリアントを救うため……ひいては、ゼオンを持つ自分の身柄をガリンダミア帝国軍に諦めさせるためにこの戦力が必要だからといったことや、雲海に、迷惑をかけなくないという思いから大人しくしているが、これ以上は我慢したくない。
「はい。俺は元々ラリアント軍に所属している訳でもないですし、貴方の部下という訳でもありませんから」
一人称が私から俺になっている辺り、アランが被っていた猫が剥がれてきた証だろう。
これがもっと普通の貴族であれば、もう少し上手く猫を被ることも出来たのだろうが。
「貴様っ!」
そう叫んだのは、今までアランと話していた貴族ではなく、その貴族と一緒にいた取り巻きたちだ。
その取り巻きたちは、アランのことを許せないと、武器を手にし……
「待て!」
瞬間、周囲にそんな言葉が響くのだった。
ゼオンのコックピットにいるアランはともかく、その掌の上に乗っている二人は、当然のように風の影響を受ける。
そのため、アランは空いている方の手で風を遮るようにしているのだが、それでも片手だけで完全に風を遮れる訳ではい。
結果として、掌の上の二人の男たちは、風で吹き飛ばされないようにと必死になってゼオンの指に掴まっていた。
「くそっ! 空を飛ぶって聞いたときに喜んだ俺をどうにかしてやりたい!」
「そうだな! こんなに厳しいとは思わなかったよ!」
そんな風にやり取りをしているのだが、だからといってゼオンに運んで貰わないという選択肢は、男たちにはない。
今の状況を思えば、可能な限り素早く援軍の下に向かい、事情を説明しておく必要があったのだから。
何よりも厄介だったのは、ガリンダミア帝国軍が当初の戦力以外に援軍を出してきたことだろう。
本来なら、王都からやって来た援軍とラリアント軍が協力して、最初に襲ってきたディモ率いる部隊を倒すという予定だった。
だというのに、そんな中でさらにガリンダミア帝国軍に援軍がやって来てしまったのだ。
当初の予想が大きく外れてしまった今、出来るだけ早く新しい方針を決める必要がある。
……とはいえ、それが簡単に決められるはずもない。
だからこそ、こうしてまだ援軍がラリアントに到着する前に、色々と事情説明したりこれからどう戦うのかを相談するために、アランは責任者を連れて援軍のいる方に向かって飛んでいるのだ。
幸いだったのは、ゼオンの飛ぶ速度が速かったことだろう。……そのおかげで、掌の上で受ける風もより強くなったのだが。
ともあれ、ゼオンはラリアントを飛び立ってから十分も経たないうちに、王都からの援軍の下に到着する。
当然ながら、ゼオンの姿を見た援軍はそれが味方だと判別出来ないために、迎撃態勢を取る。
だが、援軍から少し離れた場所にゼオンが着地すると、掌の上に乗っていた二人の男は慌てたように援軍の方に向かう。
アランはそれを、ゼオンのコックピットの中から眺めていた。
もし万が一にも二人の男たちが攻撃されようものなら、すぐにでも助け出すつもりで。
しかし援軍の中に二人の顔を知っている者がいたのか、最初こそ迎撃態勢を取っていた援軍だったが、すぐにそれは解除される。
そうして援軍を率いてきた相手と話をする間、進軍は止まって休憩となった。
それはアランとしても問題なかったのだが、ゼオンの周囲に大勢の兵士たちが集まってくるのを見れば、何とも微妙な気分となる。
集まってきていた兵士たちにとって、ゼオンは味方であるという認識があるからこその気安さなのだろうが。
周囲に集まってきた兵士のうちの何人かが手を振っているのを見て、アランは少し迷う。
「ファンサービスも大事か。いや、ファンって訳じゃないんだろうけど」
呟き、ゼオンの手を軽く振らせる。
ざわり、と。
周囲にいた者たちが、そんなゼオンを見てざわめく。
ゼオンに手を振っていた兵士も、まさか手を振り替えしてくるとは思ってもいなかったのだろう。
とはいえ、兵士たちにしてみれば、そんなゼオンの存在は酷く頼もしい。
ガリンダミア帝国軍との戦いにおいて、心核使いというの頼れるべき存在なのだから。
……実際にはガリンダミア帝国軍の中にも大勢の心核使いがいるので、ゼオンがいるだけで勝てるといった相手ではないのだが。
と、そんな中で不意に遠巻きにゼオンを囲んで見ていた兵士たちを強引にどかしながら、数人の男たちが姿を現す。
見るからに周囲の兵士たちとは着ている防具が違う。
『そこのゴーレムの心核使い。私の前に出てこい』
男たちの中の一人……見るからに貴族と思しき二十代ほどの男が、ゼオンに向かってそう命じる。
その言葉に、アランはどうすればいいのか迷う。
自分を見下しているかのような態度を見れば分かるように、この状況で姿を現せば間違いなく何らかの面倒事が起きるだろう。
それこそ、場合によっては雲海に迷惑をかけてもおかしくないような、そんな面倒事が。
かといって、ここで出なければ出ないで、貴族の言葉を無視したといったように認識され、これはこれで問題になる。
どちらの選択をしても問題になるのだが、どちらの方が……と。
そう思ったアランが結局選んだのは、ゼオンのコックピットから出るということだった。
相手の言葉を無視すれば確実に問題になる。
だが、無視しないでこうして相手の前に出た場合、もしかしたが……万が一、億が一の確率ではあるが、もしかしたら特に問題にならないかもしれない可能性があった。
アランがコックピットから姿を現すと、再び周囲で見ていた兵士たちがざわめく。
普通の心核使いなら、モンスターへの変身を解除すれば、すぐに人の姿に戻る。
だが、こうしてアランが姿を現したのに、ゼオンはそのままだったからだ。
(あれ? だとすれば、あの連中は何で俺がパイロットだって……いや、使者に事情を説明されたのか)
自分の運んできた二人がゼオンについての事情を説明して、その結果が今の状況だとすれば、思うところがない訳ではない。
だが、現在のラリアントについて説明する上で、ゼオンについて説明しないというのも、また無理だ。
何よりも今回の一件に繋がるザラクニアの一件が起きたのは、ゼオンの存在があってこそだ。
もちろん、ザラクニアも以前から反乱を起こすというのは、考えていたのだろう。
それでも本来なら、実際に反乱騒ぎを起こすのはもう少しあとのはずだった。
それを予定よりも早くことを起こしたのは、やはりゼオンの存在があってこそだ。
ザラクニアが起こした一件についての報告書は、当然のように王都にも届いているはずだ。
それを考えれば、援軍として来た者たちがゼオンについて知っていても、おかしくはない。
もっとも、知っていてもおかしくないからといって、何故こうして直接アランに会いに来たのかというのは、また疑問ではあるのだが。
「私がゼオンのパイロットをしているアランです」
コックピットを降りたアランは、相手が貴族だからということで失礼にならないようにそう告げる。
これがアランだけのことであれば、明らかに自分を下に見ている貴族と思しき相手にここまで丁寧な言葉遣いをしたりはしないのだが、ここで自分が下手な態度をとれば、雲海にも被害が及ぶ可能性があった。
それを考えれば、迂闊な行動が出来ないのは当然だろう。
「お前が? ……また、随分と予想外な奴が出て来たな。てっきり、もう少し腕の立ちそうな奴だと思ってたんだが。まぁ、いい。お前の心核を寄越せ」
「は?」
当然のように言う貴族の言葉が、アランには理解出来なかった。
そもそもの話、心核使いが変身するモンスターというのは、心核使いの根源とでも言うべきものをその身に纏い、それでモンスターに変身するのだ。
つまり、アランの持つ心核を貴族が手にしても、それで変身出来るのはゼオンではなく貴族の根源となるべき存在だ。
また、それ以前に心核使いから奪った心核はすぐに使えるという訳でもない。
……何より、ガリンダミア帝国軍にラリアントを侵略されているような今の状況で、ラリアント軍の中でも屈指の戦力であるゼオンを使えなくするということは、自殺行為でしかないはずだった。
(あ、でも実はカロの場合は普通の心核とは言えないな)
アランの持つ心核は、どのような理由かは使っている本人にも分からなかったが、意思を持っている。
意思と言っても、明確に言葉を話せる訳ではないが、それでもアランの言葉は理解出来るだけの知能は持っていた。
実際にカロと接しているアランにしてみれば、自我の類があるのではななく、どこか人工知能的な感じがしないでもなかったが。
「何でそんな真似を?」
「黙れ。私が命令してるのだ。お前はそれに素直に従え」
問答無用という表現は、こういうときに使うためにあるのか。
そんな風に思いながら、アランはどうするべきか考える。
アランも今まで何人もの貴族に会う機会はあった。
雲海はそれなりに名前の知られたクランであり、だからこそ貴族としても何らかの仕事を頼んだり、自分のパーティに呼んで雲海と近い立場にいるというのを他人に見せつけるといった真似をしてもおかしくはなかったのだ。
そのような貴族の中には、当然のように高圧的な存在もいる。
……ときには、雲海に所属する女を一晩貸せといったような者もいたので、貴族の全てではないにしろ、その多くが決して好ましい性格をしていないのは明らかだった。
なお、雲海の女を一晩貸せといった貴族は、イルゼンによって高い代償を支払うことになったのだが。
「残念ですが、そんな真似は出来ません。この心核は、ガリンダミア帝国軍を迎撃するために必要なものですから」
「……私の命令を聞けないと、そう言うのか?」
貴族はまさか自分の命令を正面から拒否されるとは思っていなかったのか、一瞬驚きの表情を浮かべるも、次の瞬間には苛立ちも露わにアランを睨む。
今まで生きてきた中で、自分よりも下の者に正面から命令に従わないということはなかったのだろう。
だが、アランにしてみれば、そんな貴族の気分に付き合うということそのものが面白くはなかった。
今はラリアントを救うため……ひいては、ゼオンを持つ自分の身柄をガリンダミア帝国軍に諦めさせるためにこの戦力が必要だからといったことや、雲海に、迷惑をかけなくないという思いから大人しくしているが、これ以上は我慢したくない。
「はい。俺は元々ラリアント軍に所属している訳でもないですし、貴方の部下という訳でもありませんから」
一人称が私から俺になっている辺り、アランが被っていた猫が剥がれてきた証だろう。
これがもっと普通の貴族であれば、もう少し上手く猫を被ることも出来たのだろうが。
「貴様っ!」
そう叫んだのは、今までアランと話していた貴族ではなく、その貴族と一緒にいた取り巻きたちだ。
その取り巻きたちは、アランのことを許せないと、武器を手にし……
「待て!」
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