剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅

文字の大きさ
上 下
60 / 422
辺境にて

059話

しおりを挟む
 夜……雲よりも高い場所を、ゼオンは飛んでいた。
 そしてゼオンの掌には、レオノーラの姿もある。
 本来なら、このような高度に生身の人がいるというのは、自殺行為以外でしかない。
 だが、それはあくまでもアランが元いた世界であればの話だ。
 この世界においては、魔法という存在があり、レオノーラはその魔法にかんしても一流であり、風魔法を使ってこの状況でも問題なくすごすことが出来た。

(ゼオリューンになれれば、良かったんだろうけど)

 ゼオンの奥の手とも言える、ゼオリューン。
 それは、アランのゼオンとレオノーラの黄金のドラゴンが合体、もしくは融合することによって生まれる人型機動兵器だ。
 違うのは、ゼオンは明らかに科学的な人型機動兵器なのだが、ゼオリューンは黄金のドラゴンを取り込んだためか、様々な場所にドラゴンが影響したのだろう部位が存在し、半ば生体兵器や生物兵器と呼ぶに相応しい外見になることか。
 ともあれ、ゼオリューンになればコックピットも広がって、アランだけではなくレオノーラもコックピットに座ることが出来る。
 そうしてコックピットが復座になれば、レオノーラを雲よりも高い高度で生身のまま外気に晒すといった真似をしなくてもすんだのだ。
 だが、ゼオリューンはスタンピードのときに一度だけなることが出来た姿であって、それ以降はいくら試してもゼオリューンになることは出来ていない。
 あるいは、今回なら色々と切羽詰まっている状況である以上、もしかしたらという思いがなかった訳でもない。
 試してみたところ、結局駄目だったからこうしてゼオンで移動中なのだが。

「それにしても、この状況でここまで自信満々だというのは凄いな」

 映像モニタには、ゼオンの掌の上に立っているレオノーラの姿が映し出される。
 とてもではないが、これから敵の本拠地に乗り込むといったことをしようとしているようには思えない。
 そうしてアランが考えている間にもゼオンは進み……空を飛ぶのは地上を移動するよりも圧倒的に速く、やがてゼオンの映像モニタにラリアントと思しき都市が見えてくる。
 とはいえ、ゼオンが飛んでいるのは雲よりも高い場所だ。
 当然のように、雲があれば映像モニタがあっても、その下の部分をしっかりと確認することは出来ない。

「レオノーラ、この下が多分ラリアントだ。このまま闇に紛れて降下するぞ」

 外部スピーカーを使い、アランは掌のレオノーラに声をかける。
 その声に、レオノーラは頷いてから口を開く。

『いい? ラリアントに降下していけば、間違いなく結界に察知されるわ。けど……』
「結界に反応したからといって、すぐに対処出来る訳ではないから、出来るだけ早くゼオンを心核に戻す。……だろ?」

 その説明は、夜になって実際に行動に移るまでに何度も話し合っていた。
 村や小さな街であればまだしも、ある程度以上の大きさの街や、ましてやラリアントのような都市ともなれば、上空を覆う結界は確実に存在している。
 これは、モンスターの中には空を飛ぶ者は少なくないし、心核使いの中にも空を飛ぶモンスターに変身出来る者が多いからだ。
 そのような相手への対策が、結界だった。
 とはいえ、レオノーラの言葉を聞けば分かる通り、結界といっても防御フィールド……一種のバリアの類ではなく、侵入してきた相手がいればそれを察知出来るといったものが大半だ。
 結界の中にはバリアのような者もあるが、その手の結界があるのは王都のような、本当に重要な場所だけだった。

『そうなるわ。後は、仲間たちがどうなったのかを確認する必要があるけど……その辺りは、実際に行動に移してみないと分からないわね』
「だろうな。……じゃあ、そろそろ降下するぞ」
『ええ』

 レオノーラの言葉を合図に、ゼオンは地上に向かって降下していく。
 とはいえ、本当にただ真っ直ぐ降下していき、そのままラリアントに墜落をすれば、その被害は大きい。
 ザラクニアに対して思うところがあるアランだったが、それ以外の普通に暮らしている一般人に対しては、特に恨みがある訳でもない。
 そうである以上、ラリアントに被害を出さないように地上に落下する前にスラスターを使って速度を殺す必要があった。
 普通に考えれば、非常に難易度の高い操作なのだろう。
 だが、ゼオンという存在を自由に操ることが出来るアランにとって、その程度のことはそこまで難しいことではない。

「っ!? 結界を通りすぎたな。……ここだ!」

 結界を通りすぎた感覚を知ることが出来たのは、やはりゼオンという高性能なロボットに乗っていたからだろう。
 そして結界を超えて数秒もしないうちに、スラスターを噴射する。
 幸い……いや、アランが狙って公園に落下していたために、スラスターを噴射しても周囲に大きな被害が出ることはなかった。
 実際には公園の近くにある建物の窓が若干割れているという可能性もあるのだが、そのくらいは許して欲しいというのがアランの正直な思いだ。
 そうしてスラスターによって地上に着地したところで、掌に乗っていたレオノーラを地面に下ろす。
 たとえ公園であろうとも、空中からゼオンのような巨大な存在がやってきたのであれば、当然のように何人もの人目についているだろう。
 それが、夜であっても。
 ましてや、結界を突破してやってきたのだから、間違いなくその存在は察知されている。
 そうなると、今は少しでも早くこの場から離れる必要があった。
 レオノーラを下ろすと、アランはすぐに自分もゼオンから下りてゼオンを心核に戻し、レオノーラと視線を合わせると、すぐにその場から走り去る。
 ここまでの、ゼオンが公園に着地してから十秒ほど。
 そのまま公園から離れていったアランとレオノーラは、誰に見つかることもなく姿を眩ますことに成功する。
 侵入者の存在を察知して、公園に警備兵がやってきたのは、アランとレオノーラが公園から消えて十分ほどが経った頃だった。
 とはいえ、これは決して警備兵たちが責められるべきことではない。
 連絡手段が基本的には伝言である以上、ゼオンの存在を察知し、侵入した場所に向かわせるといったことに時間がかかるのは当然だ。
 ましてや、馬に乗って移動するのだから、速度としてもそこまで速くはない。
 むしろ、この十分程度でよく公園に到着したと、そう褒められてもおかしくはなかった。
 だが、それでもすでに公園にアランとレオノーラの姿はない。
 ……それどころか、十分もすぎた頃には先程ゼオンが公園に着地したのを偶然見た酔っ払い達が集まってきていたこともあり、野次馬で溢れているという有様だった。

「なぁ、これ……どうする?」
「どうしようもないだろ。侵入者がここに来たというのが事実でも、これだけの人がいると、そこに紛れ込まれればどうしようもないし。かといって、まさかここにいる全員を捕らえる訳にもいかないだろ?」
「まぁ、それは……」
「なら、取りあえずこのままにしておくしかないだろ。あとは、簡単に事情を聞くくらいか」

 そう告げ、警備兵たちは公園に集まってきた者たちから事情を聞いていく。
 ……そして、事情を聞いたことにより、誰がラリアントに上空から侵入してきたのかということが、すぐに判明する。
 警備兵たちは、何者かがラリアントに侵入したということだけを聞いて公園にやって来た。
 だからこそ、公園に到着した時点ではどのような者がラリアントに侵入したのかというのは判明していなかった。
 恐らくは、現在ラリアントを経済封鎖している盗賊たちが何らかの手段でラリアントに侵入したのではないかとすら思っていた。
 だが、情報を集めれば、出て来るのは巨大なゴーレムが空から降ってきたという証言が多い。
 そして警備兵たちは、そんなゴーレムの存在に心当たりがあった。

「アランだったか? ほら、領主様に雇われた探索者の心核使いが、そんなのに変身出来るって話じゃなかったか?」

 ラリアントにおいて、兵士と警備兵というのは明確に分かれている。
 だからこそ、ここにやって来た警備兵たちは、ゼオンについての情報をほとんど知らず、侵入してきたのがアランだとは断言出来なかった。

「それって、あれだろ? 盗賊たちと繋がってこっちの情報を流していたってクランの」
「ああ。……そうなると、仲間を助けに来たんだろうな」

 ラリアントに被害を出そうとした盗賊の仲間の割には仲間思いだな。
 そう思いながら、警備兵たちは他に何か重要な情報がないのかを集めていく。
 だが、やはり一番多く集まった情報はゴーレムが落下してきたというもので、そのゴーレムを使っていた者たちがここを出てどこかに向かった……といった情報は存在しない。

「厄介なことになりそうだな」
「ああ」

 情報を聞き終わった警備兵の二人は、そのことに憂鬱そうな様子で言葉を交わす。
 ただでさえ、現在ラリアントは盗賊たちの手によって半ば封鎖されているような状況だ。
 その上で、ラリアントの内部に盗賊と繋がっている――可能性が非常に高い――者たちがいるというのは、それこそ厄介という言葉ではすまされないほどに厄介な出来事だ。
 特に問題なのは、やはり心核がゴーレムだということだろう。
 ラリアントは隣国の侵攻に備えて厚い城壁の類も存在しているが、だからといって内部で巨大なゴーレムが暴れるといったことをされれば、どうなるのかは考えるまでもない。
 それこそ、ゴーレムの行動に合わせて盗賊たちが暴れるようなことになったら……ラリアントの内部に侵入を防ぎ切れるかと言われれば、非常に難しかった。
 かといって、ゴーレム使い……アランという名前を警備兵たちはまだ知らなかったが、そのゴーレム使いをこのラリアントで見つけられるかと言われれば、答えは否だ。
 いや、完全に無理とは言い切れないが、ラリアントに住む住人の数を考えると、そう簡単にどうにか出来る問題ではない。

「明日からは、また大変な日々になりそうだな」
「……今でもたいへんだってのに」

 ラリアントの外に盗賊が我が物顔でのさばっている以上、警備兵の仕事は多い。
 だというのに、これ以上に忙しくなるのかと、警備兵たちはゴーレム使いの存在を恨めしく思うのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

処理中です...