剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅

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心核の入手

036話

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 ドクン、と。
 何が脈動したのかは、アランにも分からなかった。
 いや、それどころではなかったというのが、この場合は正しい。
 何故なら、今のアランはいきなり襲ってきた幻……いや、誰かの記憶を体験しているようなものだったのだから。
 正確には、第三者的な立場からその記憶を見ているので、体験というよりはまるで迫力のある映画か何かを見ているような、そんな感覚。
 生まれたときから、周囲の者に可愛がられていく人物。
 だが、成長してその高い才能を示し始めると、両親はともかく兄弟姉妹からは疎まれるようになっていく。
 そんな現状が許せず、かといって何が出来るでもなく、鬱屈した日々をすごし……あるとき、城の中で一人の探索者と出会う。
 話を聞けば、その探索者は自分の父親と謁見するために城にやって来たらしい。
 何となく成り行きでその探索者から話を聞き……憧れてしまった。
 今の自分にとって、探索者という仕事は非常に魅力的に思えた。
 結果として、その日からその人物は元からあった才能に加えて努力に努力を重ね……時間が経過すると共に、その人物の周りには多くの者が集まることとなる。
 そんな中で、その人物は貴族の次男や三男といったように家督を継ぐことが出来ないような者たちを集め、クランとして行動することを思いつく。
 多くの者がその人物に好意的だったことや、このままでは自分たちの将来はあまり期待出来ないので、自分で輝かしい未来を勝ち取ろうと考えた者が共に行動するようになり……色々と苦労しながらも、立ち上げたクラン……黄金の薔薇を育てていったのだ。

(レオノーラの……記憶……?)

 アランが考えた次の瞬間、不意にレオノーラの記憶は消え、気が付けばコックピットの中にいた。

「え? あれ? ……って、おい!?」

 今の映像は夢や幻だったのかと、慌ててコックピットの中を見回すアラン。
 だが、アランはそこで自分の座っていたコックピットが、レオノーラの記憶を見るよりも前とは明らかに違うことが理解出来た。
 コックピットそのものも、記憶を見る前よりも広くなっており……何より自分の前方の少し下に黄金が見えたからだ。
 その黄金が何であるのかと、慌てて目をこらせば、その黄金が髪であることは明らかであり、太陽の光そのものが髪になったような髪を持つ人物というのは、アランが知ってる限りでも一人しかいない。

「レオノーラ……? 一体、何がどうなってるんだ?」
「ん……アラン……貴方……いえ」

 アランの方を見て何かを言おうとしたレオノーラだったが、すぐに首を横に振る。
 気を失う前に遺跡で起きた出来事……鉱石と蔦によって攻撃されていたことを思い出したのだろう。
 慌てて周囲を見回し、自分がいつの間にか黄金のドラゴンから人の姿に戻っていることに驚きつつも、瞬時に冷静さを取り戻す。

「今、何が起きてるのかは分からないけど、とにかくお互いに無事だったようで何よりね」
「あー……うん。そうだな」

 レオノーラに言葉を返しながら、アランは消えていた映像モニタのスイッチを入れる。

「きゃっ!」
「え?」

 いきなり周囲の光景が映し出されたためだろう。その口から、とてもではないがレオノーラから出たとは思えないような、可愛らしい悲鳴が出た。

(あ、そうか)

 不思議と、アランはレオノーラが驚きの悲鳴を上げた理由を察する。
 アランは日本にいたときに、ゲームやアニメ、漫画といったものでロボット物を好んでいたから、コックピットの映像モニタの類を見ても特に驚くようなことはない。
 だが、そのようなものを知らないレオノーラにしてみれば、この光景は生まれて初めて見る光景だったのだ。
 ゼオンそのものは何度となく見たことがあっても、こうして実際にコックピットに乗るのは初めてだったのだから。
 そう考え……混乱していて今まで気が付かなかったが疑問に気が付く。

「何でレオノーラがゼオンの中にいるんだ!? しかも、コックピットの中身も大分変わってるし」
「分からないわ。ただ……そう、これがゼオンの中……って、ちょっとアラン!」

 映像モニタに表示されている光景を見て、レオノーラが叫ぶ。
 半ば反射的にその視線を追ったアランは、何故レオノーラが驚いたのかを知り、同時にアランもまた驚きを露わにする。
 何故なら、そこに広がっていた光景は完全に予想外の代物だったのだから。
 まず、最初に目に入ってきたのは蔦。
 先程ゼオンや黄金のドラゴンを搦め捕っていた蔦だ。
 だが、今その蔦はゼオンに触れることすらも出来ていない。
 何故なら、ゼオンを中心として縁球状のフィールドが展開しており、蔦がそのフィールドを突破出来ずにいたためだ。

(バリアみたいなものか)

 日本にいたときの知識から、アランはあっさりとそう納得する。
 だが、それに納得したのも束の間、次に映像モニタに表示された光景を見て、あんぐりといった様子で大きく口を開ける。
 何故なら、そこには竜鱗とでも呼ぶべき物が映し出されていたためだ。
 ゼオンの装甲は紫がベースとなっており、そこに金、銀、黒、赤といったような色によりアクセントが付けられているといったものだった。
 だが、映像モニタに表示されたのは、明らかに竜の鱗……それもただの鱗ではなく、黄金の鱗。
 それに気が付いたアランは、すぐに自分の斜め前の下に座っているレオノーラに視線を向ける。
 そう、心核を使えば黄金のドラゴンに変身するレオノーラの姿を。
 さらにゼオンの状態を調べていくと、竜鱗は一ヶ所という訳ではなく機体全体に存在しているのが分かり……それ以上に驚いたのは、何故かゼオンに尻尾が存在し、ウインバインダーはドラゴンの翼に姿が変わっていたことが判明する。
 そして、ここまで来れば、アランも現在のゼオンに何が起きているのかを理解する。
 何故なら、それはロボットのアニメや漫画、ゲームといったものではかなりありふれた展開だったのだから。つまり……

「ゼオンとドラゴンが合体した、か」

 そう呟けば、不思議なほどに納得出来る。
 普通……この世界の常識で考えれば、とてもではないが考えられないことではあるのだが、アランの存在そのものが現状では考えられない存在なのは間違いない。
 そんなアランが使っている心核と同じ場所に一緒に置かれていた心核なのだからと考えれば、それもまた納得出来てしまう。
 ましてや、アランにはその心核を使いこなし、進化させるために強制的に転移させるような、謎の存在までもが存在している。
 その辺りの特殊性を考えれば、二つの心核が合体するということはそこまで不思議ではなかった。
 もっとも、そういうので合体するのは大抵がスーパー系と呼ばれる系統のロボットで、基本的にリアル系と呼ばれるロボットを好きだったアランは、そっち方面はそこまで詳しくなかったが。

「ちょっと、合体って本当なの?」

 アランの言葉が聞こえたのか、前の席に座っているレオノーラが後ろの上にいるアランを振り返って尋ねてくる。
 合体云々というのも、日本にいた記憶があるアランだからこそ理解出来ることであり……と、そう思ったアランだったが、レオノーラが驚きはしているものの、全く何も知らないといった様子ではなく、予想外の驚きだった、といった程度の驚きしか顔に浮かべていないことに、疑問を抱く。
 とはいえ、何らかのフィールドによって守られている今の状況が、いつまでも続くとは思えない。
 今はとにかく、現状をより正確に把握し、そして打開策を考える方が先立った。
 合体についてレオノーラが何か知っているような様子を見せていたが、それについては今この場で聞かなくても、あとで聞けばいい。

(ここで生き残らないと、あとで聞くも何もないんだけどな)

 そんな風に考えつつ、アランは口を開く。

「そうだ。レオノーラがゼオンのコックピットにいるのが、何よりの証拠だろ。それより……問題なのは、これからどうするかだ」
「どうするかって言われても、あの蔦と鉱石を破壊するしかないでしょ? 今回のスタンピードの原因は、明らかにあれが原因なんだから。合体したってことは、これ……ゼオン? でいいのよね? そのゼオンも以前より強力になってるんだから、さっきのように苦戦はしないと思うわ」
「だと、いいんだけどな」

 このとき、アランはレオノーラの言葉に特に何の疑いもなく、聞き流してしまう。
 合体してパワーアップという、いわばお約束をレオノーラが知っていたにもかかわらず、アランにとってそれはお約束とも常識とも呼べるものだったので、聞き流してしまったのだ。

「そうなると、まずは機体の制御ね。こういうのは私も使ったことがないか……あら、分かるわね」

 使い方が分からないと、そう言おうとしたレオノーラだったが、そのことを意識した瞬間に、この機体をどう動かせばいいのかを理解する。とはいえ……

「私がやるのは、この機体の魔力を上手く制御するということであって、基本的な操縦は結局のところアランに任せるみたいよ」
「……そうみたいだな」

 アランもまた、ゼオンの操縦について考えたところ、その操縦の方法をすぐに理解出来た。
 それはゼオンに初めて乗ったときと同じで、アランは特に動揺することがなかった。
 ……もっとも、別のことで動揺するようにはなっていたが。

(ゼオンは完全に科学で出来たロボット――魔力で構成されてるけど――だったのに、合体したこれは、半ば生物兵器的な感じなのかよ)

 例えるのであれば、軍で作られているようなロボットがゼオンなら、ファンタジーに出て来るような巨大生物の部品を加工して作ったかのようなロボットが、現在の合体したゼオンの姿だった。
 翼や尻尾が、特にそれを強調している。
 異世界に主人公が召喚され、そこで巨大なモンスターの部品を使ってロボットを作る……というアニメを見たことがあったアランだけに、いきなりゼオンの姿が変わったことに若干驚きつつも、すぐに順応する。

「とにかく、この状況でゼオンがパワーアップしたのは、運が良かった。今は、この機体……そうだな、取りあえずゼオリューンにでもしておくか。それで、現状を乗り切るぞ。レオノーラの方は、問題ないな?」
「ゼオリューン……いえ、まぁ、アランがそれでいいならいいのだけど。こっちも魔力の調整は問題ないわ」

 アランの言葉にそう返しながら、レオノーラはその微妙なネーミングセンスに何か言いたいのを我慢して、そう返すのだった。
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