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心核の入手
026話
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遺跡を回っても、結局転移して、心核の成長に繋げられないと判断したアランは、当然のようにイルゼンにそのことを報告した。
それを聞いたイルゼンは、いつもの飄々とした様子ながらも若干残念そうにしながらレオノーラと相談し、結果的にカリナンを離れるという選択をする。
アランにしてみれば、まだ全て……どころか、数ヶ所でしか転移出来ないのかどうかを試していないのに、何故? という思いもあったのだが、心核の強化という利益が得られない以上、このままカリナンにいるのは不味いと、そうイルゼンに説得されてしまう。
実際、カリナンにおいて雲海と黄金の薔薇が泊まっている宿の周辺には、何か情報を得ようと……具体的には、遺跡で転移する秘密を盗み出そうという者が何人も集まっており、このままカリナンにいると、色々な意味で危険だという事情もあった。
特にその秘密を知っている可能性が高いと判断されているのはアランで、そのアランは心核を使わない素のままの状態では決して強い訳ではない。
いや、むしろ探索者の基準で考えれば、弱いと言ってもいいだろう。
だからこそ、そのような者たちにアランが狙われるのは困るし、もし狙われれば、アランは自分が助かるために街中でゼオンを呼び出すということになってしまうだろう。
そうならないために、雲海と黄金の薔薇はカリナンから離れるということを決めたのだ。
「で、母さん。次はどこに行くのか決まってるのか? カリナンの側だと、結局噂が伝わって俺たちが狙われるんだろうし」
「ぴ!」
アランの言葉に同意するように、カロが鳴き声を上げる。
……そう。このカロも、当然のようにアランたちがカリナンを素早く出立した理由の一つでもあった。
イルゼンやそれ以外にも何人かは、カロの存在を悟っていたのだ。
それで、この際だからということで雲海と……そして黄金の薔薇の面々にも、カロの正体を話すことになった。
アランとしては、これまでずっと一緒に暮らしてきた雲海の面々はともかく、まだ会ったばかりの黄金の薔薇の面々にカロのことを知らせたくはなかった
特に黄金の薔薇の面々は、アランがレオノーラと一緒に行動することが多く、嫉妬の視線を向けてくる者も多い。
一国の……それもある程度の規模を持つ国の王女であり、それに相応しい美貌を持ち、男好きのする身体をし、それでいて実力で黄金の薔薇を率いる。
黄金の薔薇の面々にとって、レオノーラというのは自分たちの象徴と呼ぶべき人物だ。
だからこそ、そんなレオノーラがアランと一緒にいるというのは、許すことが出来ない。
「あら、カロちゃんもこれからどこに行くのかが気になるの?」
「ぴ!」
リアの言葉に、カロは嬉しそうに鳴き声を上げる。
以前までは、アランとレオノーラのいる場所だけでしか鳴き声を上げることは出来なかったのだが、今は違う。
カロの正体を皆が知った以上、今は自由に鳴き声を上げることが出来るのだ。
それが、カロには嬉しいのだろう。
「それで、結局次はどこに行くんだよ、母さん」
「ああ、そうね。カリナンから結構離れる必要があるから……そうね、ドーレスト辺りまで行くってイルゼンさんは言ってたわね」
アランも、カリナンでこの辺の情報はそれなりに集めているので、その名前は知っていた。
いや、ドーレストの規模を考えると、それはカリナンに行く前から名前だけは知っていたというのが正しい。
「かなり規模の大きい……街じゃなくて、都市なんだよな?」
「ええ。カリナンからは、馬車で十日ちょっとといったところかしら」
この場合の馬車というのは、あくまでも雲海と黄金の薔薇が使っているような馬車での話であって、普通よりも格段に高い能力を持っている馬や馬車を使ってのことだ。
歩いてはもちろん、その辺の普通の人が使っている馬車では、場合によっては半月程度はかかるだろう。
それくらい、馬車やそれを牽く馬の性能が違うのだ。
……もっとも、当然のようにそれらの馬や馬車は高額なのだが。
「ドーレストに行って、何かすることあったっけ?」
「一応、遺跡はあるぞ。結構大きな遺跡で、稼ぎもいいらしい」
アランの言葉に、父親のニコラスがそう告げる。
「つまり、遺跡攻略が目当てか」
「そうよ。それと、もう一つ。ドーレストの近くにある遺跡は、かなりの広さを持つわ。それこそ、かなり大きなゴーレムが行き来していて、そのゴーレムを相手にするのは探索者にとっても危険なんだけど……」
そう言われれば、アランにもリアが何を言いたいのかは分かった。
つまり、その遺跡ではアランが心核……カロを使って呼び出すゼオンで戦えると、そういうことなのだろうと。
「なるほど。けど……いいのか? それだと、ゼオンを他の探索者にも見られることになるけど」
「それはしょうがないでしょ。心核を持っているのを隠し通すのは難しい以上、しっかりとゼオンの力を見せつけて、下手に手出しを出来ないように抑止力として使った方がいいでしょうし」
そう言いながらも、やはりアランのことは心配なのか、リアの表情に晴れた様子はない。
だが、実際にゼオンのように明らかに悪目立ちする心核……それも、心核そのものがカロという自意識を持つという特別な存在である以上、下手に使わずに隠しておいていざというときにゼオンを使おうとしても、実際には使えない。
そんなことになったら、それこそ洒落にもならない。
また、クランとしては中規模の雲海、そして黄金の薔薇が一緒にいる状況で、その辺のクランが手を出してくるのかということもある。
普通なら、それこそ中規模のクラン二つを敵に回すというのは、自殺行為に等しい。
……もっとも、同規模のクランやより上位に位置するようなクランであれば、手を出してくるという可能性もないではないのだが。
その言葉に納得し、アランはカロを愛でようとするリアを抑えることに必死になりながら、この先のことを考えるのだった。
そして、ときは流れ……特に盗賊の類に襲われるといったこともなく、雲海と黄金の薔薇は順調に旅を続ける。
もちろん、順調とはいっても途中で若干の騒動があったりはした。
アランがリアと訓練しているのを見て、黄金の薔薇の何人かが馬鹿にした結果、その者たちはリアによって一方的に叩きのめされたとか、ゼオンと黄金のドラゴンによる模擬戦を行った結果、周辺が色々と酷いことになったりと、そんな騒動。
それでも全体的に見れば、平穏無事な旅路だったと言えるだろう。
……少なくても、今日までは。
「姫様、妙です!」
そんな声が聞こえてきたのは、レオノーラの専用馬車に乗っていたときだ。
その馬車に乗っているのは、レオノーラや黄金の薔薇側の心核使いたち、そして雲海からは代表のイルゼン、そして心核使いのアラン、ロッコーモ、カオグルといった面々。
人数的には結構多いのだが、意外なことに馬車の中はそれなりに快適だった。
レオノーラが乗る馬車ということで、色々と細かいところまで気を配って、快適にすごせるようにと作られているからだろう。
そんな馬車の中で、不意に御者をしていた者が鋭く声をかけたのだ。
心核についてどういう風に戦うのか、それを使う上での注意点……それらを話していた面々は、その声の鋭さに素早く気分を切り替える。
その切り替えにアランだけが数秒遅れたのは、やはり実力の差というのが大きいだろう。
「どうしたの?」
静かに、それでいて鋭い意志を込めて尋ねられた言葉に、御者は口を開く。
「向こう側から、何台もの馬車がやってきます。それも、馬が潰れてもいいというくらいの全速力で」
「それは……妙ね」
馬というのは、基本的に非常に高価な財産だ。
その財産を潰しても構わないというほどに必死になって走っているということは、明らかに何かがあったということを意味している。
それも、一台程度なら盗賊かモンスターが出たという可能性もあるが、それが何台もとなると、途端話は変わってくる。
「取りあえず、情報を集めてみた方がいいんじゃないか?」
当然のことを口にするアランだったが、そんなアランの頭を、ロッコーモは乱暴に撫でながら、口を開く。
「あのな、アラン。情報を集めるってのは俺も賛成だが、一体どうやって情報を集めるんだ? まさか、全速力で走っている馬車に停まって貰うのか? まぁ、強引にやろうと思えば出来ない訳じゃねえが……それは今の状況じゃ、悪手だろ」
「うっ、そう言われれば……」
馬を潰すような勢いで走ってきている相手だけに、当然それを止めるとなると非常に難しい。
ましてや、逃げているのだろうところを止められるような真似をされれば、その逃げている方は間違いなく自分たちを止めた相手を恨めしく思うだろう。
それどころか、場合によっては逃走の邪魔をしたとして、攻撃されてもおかしくはない。
「けど、じゃあどうするんだよ。俺たちも逃げるのか?」
「それも一つの手段ではあるけどな。……ただ、考えてみろ。馬車で逃げる奴がいるなら、当然のように走って逃げる相手がいてもおかしくはないだろ。なら、そっちから話を聞けばいい。馬車と違ってそいつらは走り続けなければならないって訳じゃないだろうし」
ロッコーモの言葉に、アランはなるほどと頷く。
馬車の一件だけで完全に意識をそちらに奪われていてが、言われてみれば馬車ではなく直接走って逃げている者がいるというのは納得出来ることだった。
……もちろん、それはあくまでも予想であって、実際にはその馬車に全員が乗っている、という可能性もあるのだが。
レオノーラもそんなロッコーモの言葉に異論はなかったのか、御者に突っ込んでくる馬車にぶつからないように注意しつつ、前に進むようにと告げる。
この馬車以外にも雲海と黄金の薔薇に所属する馬車は複数あったが、先頭を進んでいたレオノーラの馬車が前に進んだことで、そのあとに続く。
幸い、都市という規模のドーレストに続くこの道は広く、向こうから逃げてくる馬車の速度もそう変わらないためか、道一杯に広がって逃げる……といったようなことはなく、アランたちが乗った馬車はドーレストに向かって真っ直ぐに進む。
そうして十数分が経ち……そこで、ようやく目的の人物、走って逃げてくる集団を見つけることが出来た。
その集団を走る者たちは、この状況でドーレスト方面に向かって進む馬車に対し、鋭く叫ぶ。
「気をつけろ! モンスターのスタンピードだ! スタンピードが起きた!」
それを聞いたイルゼンは、いつもの飄々とした様子ながらも若干残念そうにしながらレオノーラと相談し、結果的にカリナンを離れるという選択をする。
アランにしてみれば、まだ全て……どころか、数ヶ所でしか転移出来ないのかどうかを試していないのに、何故? という思いもあったのだが、心核の強化という利益が得られない以上、このままカリナンにいるのは不味いと、そうイルゼンに説得されてしまう。
実際、カリナンにおいて雲海と黄金の薔薇が泊まっている宿の周辺には、何か情報を得ようと……具体的には、遺跡で転移する秘密を盗み出そうという者が何人も集まっており、このままカリナンにいると、色々な意味で危険だという事情もあった。
特にその秘密を知っている可能性が高いと判断されているのはアランで、そのアランは心核を使わない素のままの状態では決して強い訳ではない。
いや、むしろ探索者の基準で考えれば、弱いと言ってもいいだろう。
だからこそ、そのような者たちにアランが狙われるのは困るし、もし狙われれば、アランは自分が助かるために街中でゼオンを呼び出すということになってしまうだろう。
そうならないために、雲海と黄金の薔薇はカリナンから離れるということを決めたのだ。
「で、母さん。次はどこに行くのか決まってるのか? カリナンの側だと、結局噂が伝わって俺たちが狙われるんだろうし」
「ぴ!」
アランの言葉に同意するように、カロが鳴き声を上げる。
……そう。このカロも、当然のようにアランたちがカリナンを素早く出立した理由の一つでもあった。
イルゼンやそれ以外にも何人かは、カロの存在を悟っていたのだ。
それで、この際だからということで雲海と……そして黄金の薔薇の面々にも、カロの正体を話すことになった。
アランとしては、これまでずっと一緒に暮らしてきた雲海の面々はともかく、まだ会ったばかりの黄金の薔薇の面々にカロのことを知らせたくはなかった
特に黄金の薔薇の面々は、アランがレオノーラと一緒に行動することが多く、嫉妬の視線を向けてくる者も多い。
一国の……それもある程度の規模を持つ国の王女であり、それに相応しい美貌を持ち、男好きのする身体をし、それでいて実力で黄金の薔薇を率いる。
黄金の薔薇の面々にとって、レオノーラというのは自分たちの象徴と呼ぶべき人物だ。
だからこそ、そんなレオノーラがアランと一緒にいるというのは、許すことが出来ない。
「あら、カロちゃんもこれからどこに行くのかが気になるの?」
「ぴ!」
リアの言葉に、カロは嬉しそうに鳴き声を上げる。
以前までは、アランとレオノーラのいる場所だけでしか鳴き声を上げることは出来なかったのだが、今は違う。
カロの正体を皆が知った以上、今は自由に鳴き声を上げることが出来るのだ。
それが、カロには嬉しいのだろう。
「それで、結局次はどこに行くんだよ、母さん」
「ああ、そうね。カリナンから結構離れる必要があるから……そうね、ドーレスト辺りまで行くってイルゼンさんは言ってたわね」
アランも、カリナンでこの辺の情報はそれなりに集めているので、その名前は知っていた。
いや、ドーレストの規模を考えると、それはカリナンに行く前から名前だけは知っていたというのが正しい。
「かなり規模の大きい……街じゃなくて、都市なんだよな?」
「ええ。カリナンからは、馬車で十日ちょっとといったところかしら」
この場合の馬車というのは、あくまでも雲海と黄金の薔薇が使っているような馬車での話であって、普通よりも格段に高い能力を持っている馬や馬車を使ってのことだ。
歩いてはもちろん、その辺の普通の人が使っている馬車では、場合によっては半月程度はかかるだろう。
それくらい、馬車やそれを牽く馬の性能が違うのだ。
……もっとも、当然のようにそれらの馬や馬車は高額なのだが。
「ドーレストに行って、何かすることあったっけ?」
「一応、遺跡はあるぞ。結構大きな遺跡で、稼ぎもいいらしい」
アランの言葉に、父親のニコラスがそう告げる。
「つまり、遺跡攻略が目当てか」
「そうよ。それと、もう一つ。ドーレストの近くにある遺跡は、かなりの広さを持つわ。それこそ、かなり大きなゴーレムが行き来していて、そのゴーレムを相手にするのは探索者にとっても危険なんだけど……」
そう言われれば、アランにもリアが何を言いたいのかは分かった。
つまり、その遺跡ではアランが心核……カロを使って呼び出すゼオンで戦えると、そういうことなのだろうと。
「なるほど。けど……いいのか? それだと、ゼオンを他の探索者にも見られることになるけど」
「それはしょうがないでしょ。心核を持っているのを隠し通すのは難しい以上、しっかりとゼオンの力を見せつけて、下手に手出しを出来ないように抑止力として使った方がいいでしょうし」
そう言いながらも、やはりアランのことは心配なのか、リアの表情に晴れた様子はない。
だが、実際にゼオンのように明らかに悪目立ちする心核……それも、心核そのものがカロという自意識を持つという特別な存在である以上、下手に使わずに隠しておいていざというときにゼオンを使おうとしても、実際には使えない。
そんなことになったら、それこそ洒落にもならない。
また、クランとしては中規模の雲海、そして黄金の薔薇が一緒にいる状況で、その辺のクランが手を出してくるのかということもある。
普通なら、それこそ中規模のクラン二つを敵に回すというのは、自殺行為に等しい。
……もっとも、同規模のクランやより上位に位置するようなクランであれば、手を出してくるという可能性もないではないのだが。
その言葉に納得し、アランはカロを愛でようとするリアを抑えることに必死になりながら、この先のことを考えるのだった。
そして、ときは流れ……特に盗賊の類に襲われるといったこともなく、雲海と黄金の薔薇は順調に旅を続ける。
もちろん、順調とはいっても途中で若干の騒動があったりはした。
アランがリアと訓練しているのを見て、黄金の薔薇の何人かが馬鹿にした結果、その者たちはリアによって一方的に叩きのめされたとか、ゼオンと黄金のドラゴンによる模擬戦を行った結果、周辺が色々と酷いことになったりと、そんな騒動。
それでも全体的に見れば、平穏無事な旅路だったと言えるだろう。
……少なくても、今日までは。
「姫様、妙です!」
そんな声が聞こえてきたのは、レオノーラの専用馬車に乗っていたときだ。
その馬車に乗っているのは、レオノーラや黄金の薔薇側の心核使いたち、そして雲海からは代表のイルゼン、そして心核使いのアラン、ロッコーモ、カオグルといった面々。
人数的には結構多いのだが、意外なことに馬車の中はそれなりに快適だった。
レオノーラが乗る馬車ということで、色々と細かいところまで気を配って、快適にすごせるようにと作られているからだろう。
そんな馬車の中で、不意に御者をしていた者が鋭く声をかけたのだ。
心核についてどういう風に戦うのか、それを使う上での注意点……それらを話していた面々は、その声の鋭さに素早く気分を切り替える。
その切り替えにアランだけが数秒遅れたのは、やはり実力の差というのが大きいだろう。
「どうしたの?」
静かに、それでいて鋭い意志を込めて尋ねられた言葉に、御者は口を開く。
「向こう側から、何台もの馬車がやってきます。それも、馬が潰れてもいいというくらいの全速力で」
「それは……妙ね」
馬というのは、基本的に非常に高価な財産だ。
その財産を潰しても構わないというほどに必死になって走っているということは、明らかに何かがあったということを意味している。
それも、一台程度なら盗賊かモンスターが出たという可能性もあるが、それが何台もとなると、途端話は変わってくる。
「取りあえず、情報を集めてみた方がいいんじゃないか?」
当然のことを口にするアランだったが、そんなアランの頭を、ロッコーモは乱暴に撫でながら、口を開く。
「あのな、アラン。情報を集めるってのは俺も賛成だが、一体どうやって情報を集めるんだ? まさか、全速力で走っている馬車に停まって貰うのか? まぁ、強引にやろうと思えば出来ない訳じゃねえが……それは今の状況じゃ、悪手だろ」
「うっ、そう言われれば……」
馬を潰すような勢いで走ってきている相手だけに、当然それを止めるとなると非常に難しい。
ましてや、逃げているのだろうところを止められるような真似をされれば、その逃げている方は間違いなく自分たちを止めた相手を恨めしく思うだろう。
それどころか、場合によっては逃走の邪魔をしたとして、攻撃されてもおかしくはない。
「けど、じゃあどうするんだよ。俺たちも逃げるのか?」
「それも一つの手段ではあるけどな。……ただ、考えてみろ。馬車で逃げる奴がいるなら、当然のように走って逃げる相手がいてもおかしくはないだろ。なら、そっちから話を聞けばいい。馬車と違ってそいつらは走り続けなければならないって訳じゃないだろうし」
ロッコーモの言葉に、アランはなるほどと頷く。
馬車の一件だけで完全に意識をそちらに奪われていてが、言われてみれば馬車ではなく直接走って逃げている者がいるというのは納得出来ることだった。
……もちろん、それはあくまでも予想であって、実際にはその馬車に全員が乗っている、という可能性もあるのだが。
レオノーラもそんなロッコーモの言葉に異論はなかったのか、御者に突っ込んでくる馬車にぶつからないように注意しつつ、前に進むようにと告げる。
この馬車以外にも雲海と黄金の薔薇に所属する馬車は複数あったが、先頭を進んでいたレオノーラの馬車が前に進んだことで、そのあとに続く。
幸い、都市という規模のドーレストに続くこの道は広く、向こうから逃げてくる馬車の速度もそう変わらないためか、道一杯に広がって逃げる……といったようなことはなく、アランたちが乗った馬車はドーレストに向かって真っ直ぐに進む。
そうして十数分が経ち……そこで、ようやく目的の人物、走って逃げてくる集団を見つけることが出来た。
その集団を走る者たちは、この状況でドーレスト方面に向かって進む馬車に対し、鋭く叫ぶ。
「気をつけろ! モンスターのスタンピードだ! スタンピードが起きた!」
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