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外伝:神界からの脱走~自由と安眠を求めて~
罠
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「罠」と聞くと、どんな物を思い浮かべるだろうか?最もメジャーなのはやはり昔からある落とし穴だろう。
罠の歴史は古く、人類においては文明が始まる前からあると言われている。初めは狩猟などに使われていたこれはその内に人に対しても向けられるようになり、戦争の少なくなった現在でも昔に設置された罠によって命が脅かされることがある。
そして、罠というのは意外にも神などにも密接に関係することがある。例えば、須佐之男様の場合は八岐大蛇を倒す際に強い酒を飲ませることによって勝利を収めた。他にも色々あるが、実は天照大御神様もかつて罠に嵌ったことがある。それは外に嫌気がさして天の岩戸にひきこもった時だ。もう外に出ないだろうと思っていた筈なのに、あまり外が騒がしいので少し覗こうとしたらその隙を突かれて天照大御神様は天の岩戸から引きずり出されてしまった。まあ、その時は色々あったので特に考えてはいなかったが、まさしくこれも罠に嵌ったというわけだ。
それ以来、天照大御神様は罠に対しては少し敏感に反応するようになっていた。
「・・・・おかしい。」
今、私の目の前にはありえない光景が広がっていた。先程まであんなにいた神達がいた東門に、今は一柱の神もいないのだ。
須佐之男から服を奪還した後に私はすぐさま自室に帰り結界を張った。その後に他に失くなっている物はないか調べていた為、当初予定していた脱出よりも大分時間が経ってしまった。恐らく、もう他の門は包囲されているだろう。こうなったら強行突破しかないと少し武装をして東門に来てみればこの様子だ。とても閑散としており、なんの音もしない。確かに、私が居なくなった為にいつもより神の数は多かったが、ただでさえ出入りが多いこの門に神が一柱もいないというのはさすがにおかしい。
「誰もいない、他の神がここにいる気配もない。もしや、既に私が地上に降りたと思って総出で地上に降りたのか?」
私が逃げ出してからもう大分時間が経っているそう考えてもおかしくはない。ならば今こそが好機か?
「まあ、いざとなったら実力行使でいけば良いか。よし、いくか。」
そのまま一直線に東門に向かっていたその時だった。
「っ!?あ、あれは!?」
そこにはあまりにもその場所に似つかわしくない物が置いてあった。見るからに感触の良さそうなフワフワとしたそれは今の私をさせるのには十分すぎるものだった。
「くっ、な、なぜこんな所に布団が!」
そう、今まさに私が欲してやまない物がそこにあった。明らかに不自然極まりない場所にあるのにも関わらずこの圧倒的な存在感。全てを投げ出したくなるほど誘惑。そして一気に噴き出す疲れと眠気。理性が阻もうとしても、本能がそれをねじ伏せるように体を動かす。
「と、止まれ私の体!もってくれ私の理性!」
勝手に動き出した両足に反発するように力を込める。だが、それでも足は止められない。止まらない。
「なめるなっ!」
右手に小さな刀を出して右足の太ももあたりを突き刺す。それにより、やっと足が理性を取り戻した。
「くっ、危なかった。後少しで目の前の誘惑にかられ、仕事場引き戻される所だった。」
だが、私は勝った。そう勝ったのだ。数々の難関を乗り越えついにここまでたどり着いたのだ。もう私を阻む物などない。もう、私は自由だ。
ついに私は東門の扉を開けこの仕事場から抜け出せた。
という、夢を見ていた。
天照大御神様の理性は布団を目にした時、既に吹っ飛んでいたのだ。物凄い勢いで布団に突っ込むとまさに刹那の速さで眠りに落ちた。
「やった~、自由だ~、もう何にも縛られない。私は自由になったんだ~」
幸せそうな寝顔で嬉しそうに呟く寝言はまるで子供のように無邪気になものだった。
「まったく、我が娘ながら甘いのぉ」
そんな幸せそうに眠る天照大御神様を覗く一柱の男神がいた。伸びた顎髭を手で何度もなぞりながら呆れたようにため息を吐く。
「はぁ。今はお主が主神なのじゃからお主がいなくなってはこの国は滅んでしまうであろう。まあ、仕事量については同情するがな」
そう一言呟くと、その男神は他の神に天照大御神様の居場所を伝えてそのままどこかに消えてしまった。
「よ~し、今度こそ寝るか~。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
第一回神界脱出作戦 失敗
罠の歴史は古く、人類においては文明が始まる前からあると言われている。初めは狩猟などに使われていたこれはその内に人に対しても向けられるようになり、戦争の少なくなった現在でも昔に設置された罠によって命が脅かされることがある。
そして、罠というのは意外にも神などにも密接に関係することがある。例えば、須佐之男様の場合は八岐大蛇を倒す際に強い酒を飲ませることによって勝利を収めた。他にも色々あるが、実は天照大御神様もかつて罠に嵌ったことがある。それは外に嫌気がさして天の岩戸にひきこもった時だ。もう外に出ないだろうと思っていた筈なのに、あまり外が騒がしいので少し覗こうとしたらその隙を突かれて天照大御神様は天の岩戸から引きずり出されてしまった。まあ、その時は色々あったので特に考えてはいなかったが、まさしくこれも罠に嵌ったというわけだ。
それ以来、天照大御神様は罠に対しては少し敏感に反応するようになっていた。
「・・・・おかしい。」
今、私の目の前にはありえない光景が広がっていた。先程まであんなにいた神達がいた東門に、今は一柱の神もいないのだ。
須佐之男から服を奪還した後に私はすぐさま自室に帰り結界を張った。その後に他に失くなっている物はないか調べていた為、当初予定していた脱出よりも大分時間が経ってしまった。恐らく、もう他の門は包囲されているだろう。こうなったら強行突破しかないと少し武装をして東門に来てみればこの様子だ。とても閑散としており、なんの音もしない。確かに、私が居なくなった為にいつもより神の数は多かったが、ただでさえ出入りが多いこの門に神が一柱もいないというのはさすがにおかしい。
「誰もいない、他の神がここにいる気配もない。もしや、既に私が地上に降りたと思って総出で地上に降りたのか?」
私が逃げ出してからもう大分時間が経っているそう考えてもおかしくはない。ならば今こそが好機か?
「まあ、いざとなったら実力行使でいけば良いか。よし、いくか。」
そのまま一直線に東門に向かっていたその時だった。
「っ!?あ、あれは!?」
そこにはあまりにもその場所に似つかわしくない物が置いてあった。見るからに感触の良さそうなフワフワとしたそれは今の私をさせるのには十分すぎるものだった。
「くっ、な、なぜこんな所に布団が!」
そう、今まさに私が欲してやまない物がそこにあった。明らかに不自然極まりない場所にあるのにも関わらずこの圧倒的な存在感。全てを投げ出したくなるほど誘惑。そして一気に噴き出す疲れと眠気。理性が阻もうとしても、本能がそれをねじ伏せるように体を動かす。
「と、止まれ私の体!もってくれ私の理性!」
勝手に動き出した両足に反発するように力を込める。だが、それでも足は止められない。止まらない。
「なめるなっ!」
右手に小さな刀を出して右足の太ももあたりを突き刺す。それにより、やっと足が理性を取り戻した。
「くっ、危なかった。後少しで目の前の誘惑にかられ、仕事場引き戻される所だった。」
だが、私は勝った。そう勝ったのだ。数々の難関を乗り越えついにここまでたどり着いたのだ。もう私を阻む物などない。もう、私は自由だ。
ついに私は東門の扉を開けこの仕事場から抜け出せた。
という、夢を見ていた。
天照大御神様の理性は布団を目にした時、既に吹っ飛んでいたのだ。物凄い勢いで布団に突っ込むとまさに刹那の速さで眠りに落ちた。
「やった~、自由だ~、もう何にも縛られない。私は自由になったんだ~」
幸せそうな寝顔で嬉しそうに呟く寝言はまるで子供のように無邪気になものだった。
「まったく、我が娘ながら甘いのぉ」
そんな幸せそうに眠る天照大御神様を覗く一柱の男神がいた。伸びた顎髭を手で何度もなぞりながら呆れたようにため息を吐く。
「はぁ。今はお主が主神なのじゃからお主がいなくなってはこの国は滅んでしまうであろう。まあ、仕事量については同情するがな」
そう一言呟くと、その男神は他の神に天照大御神様の居場所を伝えてそのままどこかに消えてしまった。
「よ~し、今度こそ寝るか~。」
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第一回神界脱出作戦 失敗
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