モノノケ・シークエル 〜声劇シナリオ〜

KIN@KO

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迷い込み日向ぼっこ

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探偵:ところで。
のん:へ?
探偵:二人とも、茶菓子は甘いものとしょっぱいもの、どちらが好き?
助手:私は甘いものかな。
助手:苦いお茶にしょっぱいものは合わないし。
探偵:だが古来からお茶受けは煎餅が王道だ。
探偵:それに西洋の紅茶などは大して苦くもないし。
探偵:塩っけのある食べ物も悪くはないはずだ。
助手:それでも私は、甘い方がいいの。
助手:お茶の香りと味でスッキリするのがいいんだから。
探偵:それではまるで、お茶の方がオマケみたいだよ。
助手:どっちがオマケとかじゃないでしょ。助手:互いのことを引き立て合うためにあるんだから。
探偵:煎餅では役不足かい?
助手:お煎餅でもお漬物でもいいと思うけど、そこは私との相性の問題。
助手:私にはその組み合わせを好きになるタイミングがあって、たまたま出会えただけ。
探偵:なるほど、とするのなら君が甘いものを選ぶようになったのはなるべくしてなった運命なのかもしれないね。
探偵:なぜなら、世の中には偶然めいた必然しかないんだから。
助手:もしかしたら、そうかもね。
のん:いや、あの、私の話は……。
探偵:つまりはね。モノノケだよ、お客人。
のん:え?
探偵:お客人が出会ったのは、古よりこの国に住まう人とは違う異形のもの。
探偵:月夜の路地裏でいつも僕らを見ている影。
探偵:人とは切っても切れない縁を持った存在。
探偵:運命は重なるべくして今、君と彼らを引き合わせたのさ。
 : 
0:少し前
0:町外れの探偵事務所の呼び鈴が鳴る
 : 
探偵:……おや?誰かきたね。
助手:お客さんかな?
探偵:出てあげてくれる?
助手:うん。今出まーす!
助手:よいしょ。
 :
0:居たのは背の低い女子高生。
 :
助手:あれ、その制服は……?
のん:あの!ここが不思議な事件を調べてくれる探偵事務所ですか!?
助手:え、ええ。そうですけど……。
のん:私、神郷南高(しんごうみなみこう)の日向暖(ひなたのん)って言います!調べてもらいたいことがあって……!
助手:調べてもらいたいこと?
探偵:ねぇ、とりあえず中に入ってもらってよ。
0:向かい合って座る探偵とのん
助手:はい。お茶と、これは羊羹。
のん:ありがとうございます。
のん:えーっと……。
探偵:いやまず僕から自己紹介をするのが筋だね。僕はこういう者だ。
0:名刺がのんに渡される
のん:……変わったお名前ですね。
探偵:あはは、よく言われる。
探偵:さてと。
0:探偵がお茶を飲む。
探偵:どこで知ったかはわからないが、ご存知の通り、世の中の超常現象の解決を専門としている探偵事務所。
探偵:僕はここの探偵だ。
探偵:そして彼女が……。
助手:探偵さんの友達だよ!
のん:友達?
探偵:……彼女のいうことは気にしないでいい。
探偵:……彼女は助手だ。
助手:えー。
探偵:えー、じゃないだろ。
のん:どうお呼びすれば……。
探偵:助手でいいよ。
助手:ちぇっ。
のん:はあ。あっ、私は日向暖っていいます。
助手:ねぇ、見て!あの制服!私の母校だよ!
探偵:そうだね、ちょうど君もこんな感じでやってきたんだ。
助手:懐かしいなぁ。
のん:?
探偵:ああ、わからない話ばかりすまない。
探偵:で、お客人。今日は一体なんのようかな。
のん:えっと、信じてもらえるかわからないんですけど。
助手:うん。
のん:私、街を歩いているときに猫を見かけたんです。
のん:大きな猫。
探偵:猫。
のん:でも、その猫、普通のと違って長いしっぽが何本も生えてたんです!
探偵:……!
のん:しかも、禍々しい雰囲気を纏っていて……。オーラって言えばいいのかな……。
のん:とにかく、何というか怖い感じだったんです!
のん:この世のものじゃないみたいな!
のん:ほら、あるじゃないですか!
のん:幽霊とか、怪異とか!
のん:その手のものなんじゃないかなって……。
探偵:……。
助手:……。
のん:……やっぱり信じてもらえませんよね。
のん:誰もこんな話……。
のん:わ、私帰ります!すいませんでした!
探偵:……ところで。
のん:へ?
 : 
0:そして現在へ。
 : 
のん:よ、妖怪?
探偵:ああ。
助手:鼻の長い赤い顔とか、鋭いツノとか……後は頭に皿を乗せているとか。きいたことはあるよね?
のん:それは、もちろんありますけど。
探偵:妖は空想上の生き物じゃない。
のん:……。
探偵:人の影に隠れながら生きていたんだ。
探偵:何百年、何千年も前からね。
助手:その猫ちゃんを見たのんちゃんなら、なんとなく信じられるんじゃない?
のん:うーん……。
探偵:人の畏れを糧に在る怪異、百鬼連なり夜を歩むものたち……。しかもお客人、君は彼らに通づる数奇な運命を持っている。
のん:えっ、運命?
助手:普通の人には妖怪の放つ力なんて見えないからね。
のん:そんな、私はただの女子高生ですよ!?
探偵:いいや、君は特別だ。
探偵:隠し通そうとしても、隠し通せないほどに。
のん:嘘だよ……。昔から霊感は強い気がしてたけど……。
助手:もし妖力が見えるなら、それは霊感なんてレベルじゃないよ。
助手:霊感って、本当は誰にでも在るものだからね。
のん:そうなんですか!?
探偵:感性の強さにわずかな違いはあれどね。
探偵:気になるなら知り合いにでも、夜、変な音を聞いたことがあるか聞いてみるといい。
探偵:大抵の人間はあると答えるよ、人ならざるものの仕業だと気づいていないだけで。
のん:知らなかった……。
探偵:古今東西ある怪事件の一端、あるいは大半を起こしているのが怪異と呼ばれるもの。
助手:そこにあるのが害意や悪意か、はたまた恨みなのか……そればかりは話してみないとわからないけど。
探偵:彼らの存在証明には他ならない。
のん:うーん、まだちょっと信じられ無いというか、実感が湧かないというか……。
助手:まあ、それはそうだよね。
助手:わたしだってそうだったし。
助手:それで?のんちゃんはさ、その子をどうしたいの?
のん:え?
探偵:お客人が本当に普通の人なら、不気味な何かを見ても見て見ぬ振りをするよ。
助手:見間違いだと思う方が楽だからね。
のん:それは……。
探偵:でも君は、ここを探してまで猫のことを知りたいと思った。
助手:この探偵事務所は変わっててね、本当に探偵くんを必要としてる人しかここまで辿り着けないの。
助手:つまりのんちゃんはその一目しか見てない猫に強い思いを持ってるんだよ。
探偵:そして君はきっと、関われば危険な目に遭うかもしれないことを察してる。
のん:……。
助手:のんちゃん、勘が鋭そうだもん。
助手:わかっていたけど、きたんだよね。
助手:勇気を振り絞って。
のん:……はい。
探偵:なら、しっかりとその願いを聞きたい。
探偵:君が、何を成したいのか。
探偵:その心が求めるものを、僕たちに教えて。
のん:……。
のん:……あの子、怪我をしてたの。
のん:野良猫同士の喧嘩じゃつかない、とっても痛そうな、怪我。
のん:本当は見かけた時近づこうとした。
のん:でも、あの子の目が怖くて。
のん:何も信じられないような、全てを恨むような瞳が、どうしようもないくらい怖くて。
のん:逃げちゃった。
のん:だから。だから今度は私!手当てをしたい!上手くできるかわからないけど、少しでもいい。少しでもいいから力になりたくて!だって、誰かが触れてあげなきゃ壊れてしまいそうだったから……。
助手:……。
探偵:……。
のん:あっ……あの、これでも私、中学で保健委員をしてて!包帯の巻き方とかうまいし、絆創膏だってうまく貼れます!本当ですよ!
助手:……ぷっ、あはははは!
探偵:ふふふっ。
のん:え?
助手:そっか!そういうことなら早く見つけないとね!
探偵:まったくだ。
探偵:お客人。
のん:は、はい!
探偵:この依頼、僕らが請け負うよ。
探偵:必ずその猫を見つけよう。
助手:うん、そうだね。
のん:っ!ありがとうございます!
探偵:ただし、依頼を受けるに当たって条件がある。
のん:条件、ですか?
探偵:まず、調査には同行してもらう。
探偵:その目を見るに、ハナっからその気だろうけど。
のん:当然です!私ができることはしたいので!
探偵:ありがとう。
探偵:でも僕らについてくるということは、お客人が自分が今まで想像したことのないような怖い目に遭うかもしれないってことだ。
のん:……。
探偵:当然、僕らは最善をつくして君を守る。
探偵:けれど君自身も、自分の身は自分で守るんだ。
助手:危ないと思ったら、私たちのことは気にせずにすぐ逃げてね。
のん:……わかりました。
助手:うん、それだけは絶対約束。
助手:さっ、じゃあすぐに準備しなきゃ!
探偵:ああ。
探偵:……さて、今度の詩(うた)はどんな風に描かれるのかな。
0:探偵事務所を出て神郷町の街中にやってきた三人
助手:さて、街まで出てきたわけだけど。
助手:どうしようか。
探偵:手がかりがないんじゃ探しようがないからね。
探偵:まずは何かヒントを探そう。
のん:ヒント……。
のん:あ!あの猫を見た場所に行けば何かわかるかも!
探偵:調査の定石(セオリー)だね。
のん:こっちです!
0:街を歩く三人
探偵:何かいつにもまして賑やかだ。
助手:あー、そろそろ豊穣祭が近いからかな。
探偵:豊穣祭?
のん:神郷町に古くから伝わる土地神様を祀る日ですよ。
助手:探偵くん、知らないの?
探偵:この町にそんな風習があったとは。
のん:なんでも大昔に、神郷町がまだ小さな農村だったころ飢饉が起きて、神様に巫女様が祈りを捧げた結果飢饉が去ったそうですよ。
のん:そこからその巫女が祈りを捧げた日を豊穣祭にしたそうです。
探偵:知らなかった。
助手:意外だね、絶対知ってそうなのに。
探偵:僕はここの生まれではないし。
探偵:知らないことの方が多いよ。
のん:あっ、こっちです!
0:三人は路地に入る。
のん:この路地裏で……そう!
のん:あのドラム缶の裏にいたんです!
探偵:ふむ。
探偵:妖力は感じないけど。
助手:私も何も感じないなぁ。
のん:手がかりにはならなそうですか……?
助手:うーん……。
探偵:残り香がないあたり、かなり人の世に溶け込み慣れてるね。
のん:どうしよう……あそこに寝てるのは普通の野良猫だし……。
助手:野良猫かぁ……あっ、じゃああの子たちに話を聞いてみれば何かわかるかも。
のん:え?
探偵:名案だね。
探偵:これだけ立ち振る舞いがうまいなら、猫社会にも上手く入り込んでいるはずだ。
助手:郷に入れば郷に従えってね。
助手:よーし……。
助手:声あるあなたは私の友達、その言葉を今この耳に届けて。『鬼怪陣(きかいじん)、人獣戯画(じんじゅうぎが)』
のん:わっ!助手さんに猫の耳が……!?
助手:じゃあ聞いてくるにゃー。
探偵:いってらっしゃい。
のん:あ、あ、あれってどんなマジックなんですか!?
探偵:マジックじゃないよ、タネも仕掛けも存分にあるしね。
のん:いきなり耳がぴょこって!ぴょこって!
探偵:あはは、僕らは怪異専門の探偵だから。
探偵:少しは彼らの真似事くらいできる。
のん:あれって、もしかして助手さん、猫とお話ししているんですか?
探偵:そうだよ、あの術は体に自分の頭の中で描いた動物の能力を付与する。
探偵:今回は猫の言葉を理解するために同じ耳を発現させたんだ。
のん:それってなんでもできるってことじゃないですか!?
探偵:練度と想像力による。
探偵:明瞭な能力像を描けなければいけないし、複雑なものは維持も難しい。
探偵:想像する力と画力があって初めて画家の絵が形になるのと同じだ。
のん:うーん、やっぱりなんでもありってわけにはいかないのかぁ……。
のん:にしても……。
0:助手をじっと見る、のん。
のん:……猫とお話しできるなんて羨ましいー!
のん:私も話してみたいー!
探偵:あははは、助手くんは他人に術を施すのが上手くないから難しいだろうね。
のん:うー……残念。
0:助手が戻ってくる
助手:聞いてきたよ。
探偵:どうだった?
助手:尾が複数ある猫は見たことないって。
のん:残念……。
助手:でも、他の子なら何か知っているかもしれないから、集会に来ないかって誘われたよ!
のん:集会って……猫の?
助手:そうそう、この辺りの野良猫と飼い猫で時々集まって世間話みたいなのをするらしくて。
のん:なにそれ!行ってみたい!
探偵:お邪魔していいの?
助手:猫と喋れる人間なんて珍しいから是非来てくれって言われたにゃー。
のん:ねぇねぇ!早く行きましょうよ!
探偵:乗り気だね。
のん:だって猫ちゃん達の集会なんておとぎ話みたい!私、楽しみで!
助手:探偵さん、善は急げだにゃー。
探偵:君はいつまでその語尾なんだ。
助手:無粋なことは言わないにゃー。
探偵:……はぁ、さっさと行こうか。
のん:おー!
0:猫に言われた空き地に向かう三人
助手:確か5丁目の空き地って言ってたにゃー。
のん:どのくらい集まってるのかな。
のん:買ったご飯、足りているといいけど。
助手:あんまりあげすぎちゃだめだにゃー、飼い猫もいるだろうから。
のん:はーい!
探偵:妖怪が関わっている可能性が高いのに、なんて緊張感がないんだ。
助手:あっ、あれじゃない?
助手:おー、10匹くらいいる。
のん:本当に猫ちゃんの集会だ!!
探偵:ふむ、たしかに首輪付きも何匹かいるね。
助手:私がまず話をしてくるから、その後で来てもらってもいい?
探偵:わかった、よろしくね。
のん:わかりました!
助手:にしても探偵くんもこれ、覚えちゃえばいいのに。
助手:便利だから。
探偵:簡単に言わないでよ。
探偵:人間には得意不得意があるんだから。
助手:……まあ、そうかもね。
助手:それに、私にしかできない仕事な方がやる気出るし!
探偵:単純。
助手:うっさい。じゃあ待っててにゃー。
探偵:頑張って。
のん:楽しみですね、探偵さん!
探偵:君は猫が本当に好きみたいだね。
のん:はい!昔から大好きだし、むこうにも好かれるんですよ!
探偵:動物に懐かれるのは良いことだ、彼らは心根(こころね)でものを見るから。
探偵:きっと、温かな心の持ち主なんだろう。
のん:たまたまですよ!そんな大層なものじゃ……!
のん:後、ずっと疑問だったんですけど、助手さんって猫語は喋れるんですか?
のん:それか術?で猫語に変換してるとか……。
探偵:その必要はないんだ。
探偵:猫や犬は、人間の言葉を理解している。
探偵:こちらから話す分に普通に喋れば伝わるんだよ。
のん:へぇ……動物ってすごく賢いんですね……。
探偵:もちろん、人語(じんご)と触れ合う期間がある程度必要にはなるけど。
探偵:だから慣れに近いのかな。
のん:じゃあ滅多なこと言っちゃだめですね。
探偵:その通り。
探偵:相手が何もわかっていないと思って余計なことを言うと、停滞しっぺ返しを喰らうかもしれないから。
のん:確かに……。
助手:探偵さーん!のんちゃーん!来ていいよー!
探偵:よし、行こうか。
のん:はい!
0:二人も空き地に入っていく。
助手:とりあえず二人のことは紹介したよ。
探偵:ありがとう。
のん:みんなすごいにゃーにゃー言ってる……。
助手:ほとんどの子は知らないみたいだけど、このぶち猫さんが町外れの廃墟に入って行くのを見かけるらしいよ。
探偵:本当?
助手:うん、なんか昔からこの町に住んでたみたい。
助手:猫の界隈には殆ど関わりがないみたいだけど。
探偵:あくまで妖として、人にも動物にも寄らないか。
探偵:思ったより、長く生きてるのかもしれない。
のん:わっ!?
助手:あれ、どうかした?
のん:いや、なんかこのキジトラちゃんが急に足にすりすりしてきて……。

0:キジトラがのんに向けて何度も鳴く

のん:(しゃがみながら)うーん……ごめんね、たくさん鳴いてくれても私、猫の言葉わからなくて。
助手:えーっとね……ふむふむ。
助手:この子昔、のんちゃんに助けてもらったことがあるんだって。
助手:怪我して帰れなくなっちゃったときに拾ってもらったーって。
のん:あっ、3年前の!おっきくなってるから気づかなかった!よかったぁ、足も傷になってないし!
のん:というか、わたしってよくわかったね!
助手:匂いがするんだって。
助手:日向ぼっこしたときにする匂いとおんなじ匂いが。
のん:お日様の匂い……ってこと?
助手:多分!
探偵:あはは、素敵な縁だね。
探偵:縁はまた別の縁を呼んでくる。
探偵:もしかしたら、またすぐに旧知の誰かと会えるかもね。
のん:いやぁ……そんな簡単には会わないですよ、私知り合いも多くないし。
助手:……うんうん、ぶちから場所は聞いたからこの子が廃墟まで案内してくれるって言ってる。
助手:助けられた時のお礼をしたいみたいだよ。
のん:本当!?ありがとう!
探偵:心強いね。
探偵:どうやらお相手は、僕が思っているよりずっと強(したた)かみたいだから。
助手:そうだね、私たちも少し気を引き締めて……。
のん:みーんなー!色々教えてくれてありがどう!おやつ持ってきたから、食べてー!
助手:わっ、のんちゃん!そんなに買ってたの!?さっきも言ったけど飼い猫にはあげすぎちゃダメだからね!?
のん:わかってますよ!ほらおいでー!
探偵:……やれやれ。
探偵:まあでも、たまにはこんな仕事も悪くないかな。

0:廃墟に向かって歩いて行く三人


のん:結構歩きましたね。
探偵:そろそろ目的地かな。
助手:うん。町外れの廃墟なんて、きちんと人が寄り付かないところを住処にしてるんだね。
のん:ですね、私も噂は聞いたことありますけど行ったことないですもん。
探偵:実に妖らしいじゃないか。
探偵:ところでお客人、改めて聞いておきたいことがある。
のん:なんでしょう?
探偵:君の見た猫は、本当に尾が2本だった?
のん:うーん……実は、まじまじと見れたわけじゃないですからなんとも。
のん:一本ではなかったです。
助手:何か気になることがあるの?
探偵:動物の妖は、尾の数によって妖力や生きている年月がわかる。
探偵:今回のターゲットは残り香の消し方や身の隠し方から、つい最近生まれたものじゃないような気がするんだ。
のん:長生きだといけないんですか?
探偵:人間も同じだと思うけれど、長く生きていると世の不条理をその分知ることになる。
探偵:つまり、悲しみや憎しみを深めている恐れがあるんだ。
助手:じゃあ、下手に刺激するといきなり攻撃されかねないってことだね。
探偵:ああ。
のん:そんな……。
探偵:この世界は目に見えない遺恨に満ちている。
探偵:触れ難い過去も消えない痛みも今に繋がってるんだ。
助手:……。
探偵:そればかりはどうしようもないよ。
のん:……でも、明日は違うかも!
探偵:……!
助手:明日……。
のん:ほら、昨日の敵は今日の友って言うじゃないですか!今日じゃ無くても明日とか……誰にもこの先なんてわからないし!だったら少しでも、痛みを和らげたいんです!こんなの、やっぱり自分勝手かもしれないけど……。
探偵:……いつかの恨みは消えないよ。
のん:!
探偵:誰かにとってそのいつかは永遠で黄昏に似ている。ぼやけた輪郭はいつまでも消えないんだ。
助手:探偵さん……。
のん:……そんな。
探偵:けれど、痛みを和らげるくらいならできるかもね。
探偵:お客人の言っていた通り、包帯を巻くくらいなら。
助手:!
のん:探偵さん……!
助手:そうだね、傷は無くならなくても痛みはいつかなくなるんだから。
助手:やれるだけのことは、やってみようか!
のん:はい!
探偵:ん?見えてきたみたいだね。
 : 
0:三人は廃墟に着く。
 : 
のん:ここにあの子が……。
助手:……うんうん。
助手:キジトラさんはここまでだって。
探偵:動物の勘は鋭い。
探偵:危険を察知したね。
のん:え?
助手:ビリビリ妖力を感じる。
助手:もう私たちのことはバレてるかな。
探偵:恐らく。
探偵:お客人、ここから先は僕らから決して離れないで。
のん:わ、わかりました。
助手:さ、行こうか!
 : 
0:三人は廃墟に入っていく。
 : 
探偵:……こっちだね。
助手:隠れる気は無しみたい。
のん:お二人はなにを感じているんですか?
探偵:強い敵対心、突き放すような妖力……あまり心地の良くないものだよ。
のん:……そうなんですか?
のん:私は、トゲトゲしようと頑張ってるようにしか……。
探偵:え?
助手:二人とも、この先に多分いる。
助手:気を引き締めて。
探偵:……わかった。
のん:はい……!
助手:開けるよ。
 : 
のん(M):私はこのとき、自分の未来なんて知らなかった。
のん(M):第一、そんなものを知っている人がどれだけいるというだろう。
探偵:これは……!
助手:尾が4本!!
のん:あっ……。
のん(M):だから、この不思議な猫に興味を持ったのだって偶然だと思ってた。
のん(M):でもこの出来すぎた偶然はずっと昔から決まっていたもので。
のん(M):私は、やっと出会えただけなんだと思う。
 : 
のん:……柊(ひいらぎ)?
 : 
のん(M):いつの日にか無くした運命に。
 : 
のん(M):モノノケ・シークエル。
のん(M):迷い込み日向ぼっこ。
のん(M):エンド。
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