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ニーラータラッタ編

114頁 肉塊の支配者

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小屋の中で肉塊発生。

なぜか火乃が見たことない姿に変化、ついでに謎の蛇とトカゲが登場。

東側の草原に超スピードで到着…。




理解不能。




「まぁ、まぁまぁまぁ、落ち着きましょうよカイトさん」


とんっ、と湯気のたつ白湯を手に椅子に腰掛けるシロ。


「あっ、シロ、テメェお茶汲み長いんだよ!!」


「お湯わくのに時間かかったんですもん、しゃあないじゃないですか!はい、こっちカイトさんの分です」


「お、サンキュ…じゃなくて!火乃がヤバそうなんだけど!!」



画面に映し出されるのは、はじめより随分と大きくなった肉の塊。グロテスクさもレベルアップ。
歩くたびに草原を溶かす自然破壊の権化である。



対するは、白鳥みたいな羽をつけた火乃と、突然登場したトカゲあんどヘビ。


うん。まったくもって理解不能である。



「あれはアスタロトって言う魔物モンスターですよ。この世界でもわりと上位に食い込む倫理観がぶっ壊れた魔王さまだったので大昔に封印されましたけど、まれに封印の隙間を掻い潜ってを覗き見したりちょっかいを出したりしてるんです」


へ、へぇー。


「あの蛇とドラゴンは、アスタロトの一部…もしくは使い魔みたいなものでしょう。なにを思って手を貸してるのかはわかりませんけど」


「…とにかく、その、アスタロト?ってのは結構強い魔物なんだよな。じゃあ、あの肉には勝てるんだよな…?」


「うーん。そこはなんとも。火乃さんではアスタロトの能力を十分に発揮できないでしょうから、うまくアレの弱点でも見つけられれば、って感じじゃないですかねぇ」


「俺のスキル剥ぎ取りは使えないか?」


「そうですねー。あの草原まで無事に着ければあるいは、ってとこですか?彼らは足が早いからあっという間に着いてますけど、普通に歩いたら結構かかりますよ。その間に敵国ヴィスバスに見つかったら、むしろ足手まといの極み!ですよねぇ」


ぐうの音も出ない。

けど、何もせず見ているだけって言うのも…。

第一、町中ならともかく、遠い草原まで行ったとなると火乃の精神状態が心配だ。
あんまり離れると不安定になるらしいし。



「落ち着いてくださいよ。度重なるジョブランクアップで多少は耐えられるようになってるし、火乃さんはカイトさんよりずっとずっと強いんですから、ドッシリ構えて信じていてあげるのが大将ボスの在り方では?」


「いや、俺ボスでもなんでもないんだけど」


けど、ヘラヘラと笑うシロの姿に肩の力が少し抜ける。


そして、落ち着いて戦場に目を戻すと、戦況に変化が出ていることに気がついた。































砂粒大の大量のコアによる、擬似的な不死の実現。

あの肉塊の異常な再生能力の原因はそれだったわけだけど、ここで引っかかることがある。




それほどの魔力がどこから来ているのか。



いくら大量にあるとはいえ、攻撃すればその分コアは減るはずだし、あんな小さなコアじゃ、何度も再生するほどの魔力の貯蔵はハッキリ言ってムリ。


なのに、アレは、何度も回復し、何度も再生している。


なら、どこかに魔力の源があるはず。





目を、凝らす。


自分の魔力がまたごっそりともっていかれるのが理解わかった。

それと同時に、視界がクリアになる。



醜悪な体に似つかわしい、汚れた賢者の石の光。

吐き気を催す巨躯の中で、その光がある形を描いている。


円、文字、線の組み合わせ。

魔法陣。


あの小屋に描いてあったものとは少し違う模様のそれは、心臓の鼓動のように強弱をつけて光っている。



試しに肉塊の一部をえぐってみる。


肉片が吹き飛び草を溶かすとともに、膨大な魔力の塊が飛来した。

そして、その魔力で肉塊が再生する。



「なるほど、だったら…」


ボクの残りの魔力は少ない。
対して、相手の魔力の残量は未知数。
なら、魔力の供給源を先に潰しちゃった方がいいよね。

…あんまりカイトと離れたくはないけど、この状況じゃそうも言ってられないし。


「あっちに連れてって」


ドラゴンにお願いして、魔力が飛んできた方向に走ってもらう。



肉塊も、ボタボタと酸の体液を垂れ流して周囲を溶かしながら猛進してくるけど、まだドラゴンの方が足が速い。






しばらく走った先にあったのは、小さな洞窟だった。

においが奥から漂ってくる。
肉塊と同じような臭い。


洞窟に入ると同時に、


ドンっ!


と、肉塊が洞窟に突っ込んできた。


けど、狭い洞窟だから頭しか入ってない。



『急いだ方がいいぞ、こんな岩壁、すぐに溶かして入ってくるぜ』


「わかってる」


奥に進む。

奥に、奥に進む。


時に坂道を下り、時に階段を上り、奥へと進む。

罠らしい罠はない。侵入者が来ることを考えていないのか、それとも、侵入されてもいいと思っているのか…。



どうあれ、遠くからは地響きのように肉塊の迫る音がする。進む他に道はない。


そして、たどり着いた最奥の扉を開けると…。




赤い賢者の石の山。

肉塊の体内のものと同じ魔法陣。

そして、その中央に鎮座する………。




「おがえりなざィ」



「………え?」



ぐらり、と、視界が揺れた。



何かの術でも攻撃でもない。
ただ、あまりの驚きに、頭が極度の混乱を起こしたのだ。


小柄な体。

痛んだボサボサの茶髪。

ウジのわいた皮膚。



ボクは、ソレに見覚えがあった。


「おがえりなざい、ぁなダ」


ニコニコと笑ってそう言うのは、あの日、魔法塔で殺したはずのメリダ・ラッカート。

そう、この手で殺した、あいつだった。





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