126 / 150
ニーラータラッタ編
114頁 肉塊の支配者
しおりを挟む小屋の中で肉塊発生。
なぜか火乃が見たことない姿に変化、ついでに謎の蛇とトカゲが登場。
東側の草原に超スピードで到着…。
理解不能。
「まぁ、まぁまぁまぁ、落ち着きましょうよカイトさん」
とんっ、と湯気のたつ白湯を手に椅子に腰掛けるシロ。
「あっ、シロ、テメェお茶汲み長いんだよ!!」
「お湯わくのに時間かかったんですもん、しゃあないじゃないですか!はい、こっちカイトさんの分です」
「お、サンキュ…じゃなくて!火乃がヤバそうなんだけど!!」
画面に映し出されるのは、はじめより随分と大きくなった肉の塊。グロテスクさもレベルアップ。
歩くたびに草原を溶かす自然破壊の権化である。
対するは、白鳥みたいな羽をつけた火乃と、突然登場したトカゲあんどヘビ。
うん。まったくもって理解不能である。
「あれはアスタロトって言う魔物ですよ。この世界でもわりと上位に食い込む倫理観がぶっ壊れた魔王さまだったので大昔に封印されましたけど、まれに封印の隙間を掻い潜ってこっち側を覗き見したりちょっかいを出したりしてるんです」
へ、へぇー。
「あの蛇とドラゴンは、アスタロトの一部…もしくは使い魔みたいなものでしょう。なにを思って手を貸してるのかはわかりませんけど」
「…とにかく、その、アスタロト?ってのは結構強い魔物なんだよな。じゃあ、あの肉には勝てるんだよな…?」
「うーん。そこはなんとも。火乃さんではアスタロトの能力を十分に発揮できないでしょうから、うまくアレの弱点でも見つけられれば、って感じじゃないですかねぇ」
「俺のスキルは使えないか?」
「そうですねー。あの草原まで無事に着ければあるいは、ってとこですか?彼らは足が早いからあっという間に着いてますけど、普通に歩いたら結構かかりますよ。その間に敵国に見つかったら、むしろ足手まといの極み!ですよねぇ」
ぐうの音も出ない。
けど、何もせず見ているだけって言うのも…。
第一、町中ならともかく、遠い草原まで行ったとなると火乃の精神状態が心配だ。
あんまり離れると不安定になるらしいし。
「落ち着いてくださいよ。度重なるジョブランクアップで多少は耐えられるようになってるし、火乃さんはカイトさんよりずっとずっと強いんですから、ドッシリ構えて信じていてあげるのが大将の在り方では?」
「いや、俺ボスでもなんでもないんだけど」
けど、ヘラヘラと笑うシロの姿に肩の力が少し抜ける。
そして、落ち着いて戦場に目を戻すと、戦況に変化が出ていることに気がついた。
砂粒大の大量の核による、擬似的な不死の実現。
あの肉塊の異常な再生能力の原因はそれだったわけだけど、ここで引っかかることがある。
それほどの魔力がどこから来ているのか。
いくら大量にあるとはいえ、攻撃すればその分核は減るはずだし、あんな小さな核じゃ、何度も再生するほどの魔力の貯蔵はハッキリ言ってムリ。
なのに、アレは、何度も回復し、何度も再生している。
なら、どこかに魔力の源があるはず。
目を、凝らす。
自分の魔力がまたごっそりともっていかれるのが理解った。
それと同時に、視界がクリアになる。
醜悪な体に似つかわしい、汚れた賢者の石の光。
吐き気を催す巨躯の中で、その光がある形を描いている。
円、文字、線の組み合わせ。
魔法陣。
あの小屋に描いてあったものとは少し違う模様のそれは、心臓の鼓動のように強弱をつけて光っている。
試しに肉塊の一部を抉ってみる。
肉片が吹き飛び草を溶かすとともに、膨大な魔力の塊が飛来した。
そして、その魔力で肉塊が再生する。
「なるほど、だったら…」
ボクの残りの魔力は少ない。
対して、相手の魔力の残量は未知数。
なら、魔力の供給源を先に潰しちゃった方がいいよね。
…あんまりカイトと離れたくはないけど、この状況じゃそうも言ってられないし。
「あっちに連れてって」
ドラゴンにお願いして、魔力が飛んできた方向に走ってもらう。
肉塊も、ボタボタと酸の体液を垂れ流して周囲を溶かしながら猛進してくるけど、まだドラゴンの方が足が速い。
しばらく走った先にあったのは、小さな洞窟だった。
すえた臭いが奥から漂ってくる。
肉塊と同じような臭い。
洞窟に入ると同時に、
ドンっ!
と、肉塊が洞窟に突っ込んできた。
けど、狭い洞窟だから頭しか入ってない。
『急いだ方がいいぞ、こんな岩壁、すぐに溶かして入ってくるぜ』
「わかってる」
奥に進む。
奥に、奥に進む。
時に坂道を下り、時に階段を上り、奥へと進む。
罠らしい罠はない。侵入者が来ることを考えていないのか、それとも、侵入されてもいいと思っているのか…。
どうあれ、遠くからは地響きのように肉塊の迫る音がする。進む他に道はない。
そして、たどり着いた最奥の扉を開けると…。
赤い石の山。
肉塊の体内のものと同じ魔法陣。
そして、その中央に鎮座する………。
「おがえりなざィ」
「………え?」
ぐらり、と、視界が揺れた。
何かの術でも攻撃でもない。
ただ、あまりの驚きに、頭が極度の混乱を起こしたのだ。
小柄な体。
痛んだボサボサの茶髪。
ウジのわいた皮膚。
ボクは、ソレに見覚えがあった。
「おがえりなざい、ぁなダ」
ニコニコと笑ってそう言うのは、あの日、魔法塔で殺したはずのメリダ・ラッカート。
そう、この手で殺した、あいつだった。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
あれ?なんでこうなった?
志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、正妃教育をしていたルミアナは、婚約者であった王子の堂々とした浮気の現場を見て、ここが前世でやった乙女ゲームの中であり、そして自分は悪役令嬢という立場にあることを思い出した。
…‥って、最終的に国外追放になるのはまぁいいとして、あの超屑王子が国王になったら、この国終わるよね?ならば、絶対に国外追放されないと!!
そう意気込み、彼女は国外追放後も生きていけるように色々とやって、ついに婚約破棄を迎える・・・・はずだった。
‥‥‥あれ?なんでこうなった?
『悪役』のイメージが違うことで起きた悲しい事故
ラララキヲ
ファンタジー
ある男爵が手を出していたメイドが密かに娘を産んでいた。それを知った男爵は平民として生きていた娘を探し出して養子とした。
娘の名前はルーニー。
とても可愛い外見をしていた。
彼女は人を惹き付ける特別な外見をしていたが、特別なのはそれだけではなかった。
彼女は前世の記憶を持っていたのだ。
そして彼女はこの世界が前世で遊んだ乙女ゲームが舞台なのだと気付く。
格好良い攻略対象たちに意地悪な悪役令嬢。
しかしその悪役令嬢がどうもおかしい。何もしてこないどころか性格さえも設定と違うようだ。
乙女ゲームのヒロインであるルーニーは腹を立てた。
“悪役令嬢が悪役をちゃんとしないからゲームのストーリーが進まないじゃない!”と。
怒ったルーニーは悪役令嬢を責める。
そして物語は動き出した…………──
※!!※細かい描写などはありませんが女性が酷い目に遭った展開となるので嫌な方はお気をつけ下さい。
※!!※『子供が絵本のシンデレラ読んでと頼んだらヤバイ方のシンデレラを読まれた』みたいな話です。
◇テンプレ乙女ゲームの世界。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇なろうにも上げる予定です。
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
魔道具作ってたら断罪回避できてたわw
かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます!
って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑)
フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる