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ニーラータラッタ編
108頁 海神の肖像2
しおりを挟む淡い光の中でもハッと目を引く黄色い髪。
月の光を閉じ込めたような目。
芸術の天才が全力を尽くして作り上げたかのようなムダの一切ないしなやかな肢体と美貌。
短髪でもなお美しさがかけらも損なわれない、絶世の美女がそこにいた。
その美女に相対するのは、こちらも神の手による作品のような絶世の美男子。
彼女が月の化身とするならば、こちらは青い宝石の具現。
青い髪と目を持った龍人、藍斗である。
今にも手を取り合いダンスでも始めそうな優雅な雰囲気。
一幅の絵画のごとき光景だ。
……半月刀と日本刀を互いに突きつけていなければ。
「…やれやれ、絵を引っぺがして来いって言われて来てみりゃ…なんだい、こりゃ。探してた災害児がいて?他にもワラワラと羽虫が群がってやがる…ったく、めんどくさいねぇ。そーゆーのはアーシ以外の時にやってほしいもんだ」
女がさらに言葉を続ける。
「さて、痛い目にあう前に大人しくついてくるんだね。さもなくば…そこの非戦闘員どもを殺すよ」
「……やれるものならやってみろ」
洞窟全体に、ピリピリとした空気が満ちる。
水滴の音、もしくは、誰かの呼吸音。
何かしらを皮切りに、今にも戦闘が……。
「ちょおっとおまちなさーい!!戦闘するなら外で!!ここで始めたら肖像に傷がつくでしょう?!」
始まらなかった。
……シロ、お前…俺より勇者に向いてるんじゃないか?
「…………っふ。ふふふ、あはははは!」
一瞬の沈黙の後、女が突然笑い出した。
「いやぁ、参った参った。この状況でそんなん言う奴がいるとはねぇ。たしかに、ここでおっぱじめるのはアーシとしてもマズい。止めてくれてありがとよお嬢ちゃん」
大笑いによる涙をワイルドに拭いながら、女は剣を腰に下げ直した。
「……今日、アーシは何も見なかった。ここには誰も来ていない…肖像に関しては、ムリヤリ取ろうとしたらぶっ壊れそうだったから、いったん諦めたとでも報告するさ…それでどうさね、災害児?」
藍斗はチラリと俺たちの方を振り返り、また正面に向き直った。
「まぁ…いいだろう。それと、その災害児とか言う言い方はやめてくれ。俺には藍斗という名がある」
「これは失礼。あいと、あいとね。アーシはエレノア。お見知り置きを、ってね…さて、アーシは戻るとするよ。アンタらはちょっと時間を置いて出てきな…次に会った時は手加減なしで行くからね」
黄色い龍人、エレノアはクルリと踵を返して洞窟を戻っていった。
罠…とかじゃないよな。
「………ぷはぁあ!緊張しましたねっ!!」
額を拭う仕草をして、シロが息を吐いた。
「今のところ殺気も感じない…気配もすでに遠いな。罠ではなさそうだ」
あ、そうなんだ。
「おおかた、今の状況を不利と見て退散したんだろう。意外と冷静なやつだ」
確かに非戦闘員に見えても4対1だし、傷つけちゃダメな肖像画もあるし、洞窟だから狭くて滑って戦い辛いだろう。
日と場所を改めるのは賢明な判断なのかも。
ただ、怪しい侵入者を放置していくのはどうかと思う。
「とにかく、終わりよければなんとやら。さっさとランクアップして退散しましょう!」
ま、それもそうだな。
藍斗が海神の肖像の前に立つ。
『ランクアップ、成功。職業 勇者の刀 草薙剣が、職業 勇者の刀 天之尾羽張になりました』
……ん?なんか聞きなれない言葉が…。
「……よし、ランクアップ完了だ」
ランクアップ自体は無事に終わってるみたいだし…まぁいっか。
「んじゃ、確認は宿に戻ってからだな」
ってな訳で戻ってきました、ウミドリ亭。
道中も静かに進んだおかげか、アンデッドには見つかることなく帰還。はぁ、ヒヤヒヤした。
店主さんには話を通してあったので、また入口の厳重な鍵をオープンしてもらい、中に入る。
「……よくもまぁ、生きて帰ってきたな、あんたら」
と、呆れ口調で言いつつも、人数分のジョッキに水を入れて持ってきてくれる優しい店主さんである。
「こんな遅い時間まで起きててもらってすみません」
「いいさ。どうせアンデッドどもの音で満足に寝られやしねぇんだ」
そう言って、店主さんは厨房に入った。
「じゃ、とりあえずはステータスの確認だな」
ーステータスー 「藍斗」 LV15078
職業 勇者の刀
種族 龍人
HP99999 MP99999
攻99999 防99999
跳躍9999 飛行9999
スキル
『秘技 一刀両断』『秘技 竜巻斬り』『秘技 無双千斬』『帰還の魔法』『パッシブ 龍の血脈』『パッシブ 神の加護』『パッシブ 妖刀村正』『パッシブ 草薙剣』『パッシブ 天之尾羽張』
さてさて、どんなパッシブだ?
『パッシブ 天之尾羽張』
神系の魔物に対して攻撃力が増加する。
火属性の魔物に対して攻撃力が増加し、普通攻撃に確率で即死効果が付与される。
火属性はともかく……神系の魔物とはなんぞや…?
「あ、そのパッシブは結構レアなやつですよ!!」
そう言えば製作者いたな。
「これ、どんなパッシブなんだ?」
「そうですね。この天之尾羽張っていうのが、神殺しの剣なんですよ。まぁ、そのあと殺した神から何柱もの神が産まれるんで一概には言えないかもですけど、この世界では神様特攻付けてます。で、その殺した神様が火の神だったんで、火属性特攻も付けました……あ、神系魔物って言うのは、神の名を冠する魔物のことで、有名どころではロキとかゼウスとかオーディンとかシヴァとか……まぁ、その辺に特攻がつくわけです」
「なるほどね」
神の名前が元ネタの魔物ならそれなりに強いんだろうし、結構いいパッシブかもな。
「よし、ランクアップも終わりましたし、そろそろ作戦会議と行きましょう!」
「作戦会議?」
「ええ。前にも見せましたトゥルーエンドへのヒントですけど…」
「ああ、肖像の保護と、龍人の無力化と、アンデッドのボス格の全撃破だっけ?」
「そうですそうです。あれ、正直肖像の保護と言っても外せない、運べない状態じゃどうしようもなくないですか?」
「あー、確かに。ずっと洞窟で守っとくわけにもいかないしな」
そんなことしたら、ほか2つの条件が満たせなくなる。
「ですので、私としては、龍人か魔王の討伐をさっさとやっちゃえばいいんじゃないかなー、と思うんですよね。ニーラータラッタの王様が健在である以上、王位継承の儀を行うには手段は2つ。1つは、王様の寿命まで待つこと。もう1つは、魔法塔辺りの特殊な魔法で魂ごと消すこと…けど、後者の手段を取ってないってことは、王様が生きてるうちは絵が外れないことを知らないって事でしょうから、このイベント中は絵が動かせる自体になることはまず無いでしょうし」
「うーん、なるほど。なら、どっちから攻めるか、だな」
「……同時攻略はダメなのか?」
「同時攻略?どういうことだ、藍斗」
「俺と火乃が、龍人とアンデッドを別々に叩く。下手に連携しようとして各個撃破にこだわると、逆にやりづらい気がするんだ」
「あー……」
確かに、今までの戦いでも連携とってバトルって言うよりかは個人技でやってたし、慣れない連携するよりは個人で戦う方がやりやすいのかもな。
「それに、攻略に時間をかけすぎたら町に被害が出る可能性もある」
「………そうだな。じゃあ、藍斗はあの龍人3人を相手して、火乃はアンデッドをとにかく倒す。俺とシロは…」
「お留守番ですね。私たちが出てったところで足手まといにしかなりませんし」
ぐうの音も出ない正論。
「ま、私がモニターあんど実況はしますんで、ご安心くださいな!と、言うことで、明日の朝からヒッソリと住民の皆さんを避難させつつ、避難完了次第で攻め込む!って感じでいかがです?」
…うん。俺の頭でいくら考えてもそれ以上のアイデアは浮かばなそうだ。
「…ま、仕方ないか。藍斗、火乃、頼むな」
「ああ、任せろ」
「ボク、頑張る」
と、話がひと段落ついたところで、店主が近寄ってきた。
「……まさか、アンタら…本当にあのアンデッドらとやりあうつもりか?いや、アンデッドを倒してくれと言ったのは俺だが…」
「大丈夫っすよ、店主さん。コイツら強いんで!」
俺たち、と言えないところが辛いものである。
店主さんは、いろんな感情がないまぜになったような表情になり…最終的に、その表情のまま、ポンっと俺たちの肩を叩いた。
「……頼んでおいてあれなんだが…ムリはするなよ」
「もちろんです!」
「それでは、今日はしっかり体を休めて、決行は明日!店主さんも、住民の避難、手伝ってくださいね」
「ああ、協力させてもらう」
住民の避難なら俺も手伝えるな。
…よし、明日に備えて寝るか。
「じゃあ、みんなおやすみ。また明日な」
2階の部屋へ向かい、ベッドに潜り込む。
………それにしても、あの黄色い龍人…エレノアが言ってた災害児ってなんのことだったんだろう…。
それも、トゥルーエンドに行けたら分かるのかねぇ。
「カイトさん、明かり消しますね」
「ああ、おやすみ」
「おやすみなさい」
昼寝もしていたが、なんだかんだで疲れていたのだろう。
真っ暗な天井を見ているうちに…だんだん……ねむ、く。
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