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魔法塔編

83頁 カオスフロア14.とある少年side

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触手、100レベル超えてんじゃ~ん!
攻撃、防御、回復役完備の完璧なパーティじゃ~ん!
…なんて、心の中でふざけてみるものの、ステータス画面の数値に変わりはない。

せっかく時間稼ぎしたけど、こんな事なら一か八かでキメラと触手がバトってる間に通り抜けるべきだったか?

や、だって、まさか100レベ超えがそんなホイホイ出てくるとは思わねぇじゃんかよ!!仕方ない!うん!!


………部屋の中心から伸びる4本の触手。


一本一本が、防御特化、体力特化、オールラウンダー、回復役と、個性的である。


その触手たちは今、俺も、メリダも眼中になく、近くにある石のオブジェを破壊していた。

1つ壊してはまた1つ…すでに過半数は壊されている。



「な、何やってるんだ、アレ」


誰にともなく呟いた言葉に、メリダが答える。


「あの石の塔には、それぞれに封印用の魔力をまとわせていますから、封印を解くために壊してるんですよ……そろそろ追加戦力も到着するから、間に合いはすると思うんですけど」


「封印って……?」


「もぅ、どうでもいいじゃないですか、そんなこと」


メリダは、ローブの中からさらに試験管やフラスコを取り出す…そのなかには、明らかに睡眠薬とは思えない色のものもあった。


「そろそろ、諦めてください。このフロアの事を知られた以上、生かして帰すわけにはいかないですから」



薄暗い建物の上にチラリと見えた追加戦力キメラはおよそ20頭。

プラス、ちょこちょこ、ゾンビ系のモンスターも見え隠れしている……ガチモンのバイオ◯ザードじゃん。


多分、見えてないだけで、まだまだ集まってるんだろうなぁ……。



ここから逃げるにしても、エレベーターまで行き着くには、暴れ狂う触手の近くを通り抜けなければいけない。

まさに八方塞がり。


あーあ、マジかぁ、こんなところで死ぬのかぁ。


まぁ、俺は勇者って器じゃないもんな。
弱いし、バカだし、見た目も(この世界じゃ)最底クラスだし。


あ、でも、ゾンビに噛まれて死ぬのはヤダな。

どうせなら一瞬で楽になりたいわ。










軽く走馬灯が走る俺の視界に、かすかに、薄汚れた何かが映った。


小さな影。

棒のような手足を懸命に振って走っている。


………ん?

あれってもしかして……。




元は白かったであろう黒ずんだ布切れを体に巻きつけたその子は、4本の触手の中心へと、脇目も振らず駆けて行った。


う、嘘だろ!何やってんだ?!


俺は、次の瞬間、無意識に、触手の根元…魔法陣の中心へと走り出していた。






















ボクのあたまの中は、いつも声がしていた。

『イタイ、クルシイ、ユルサナイ、タスケテ、ヤメテ、ダシテ、ココカラダシテ』

その声にこたえるみたいに、

『大丈夫。私がついている。大丈夫。いつか、ここから出してあげる。大丈夫。だから、もう少し頑張っておくれ』


けど、それは、ボクにしかきこえていないみたいで、おとうさんは、そんなのきこえないって、かなしそうにボクのあたまをなでるんだ。

…ボクには、きこえるのに。



ある日、おとうさんが、いやなにおいのする肉のかたまりになった。で、しっぱい、したんだって。

ここで1番えらいヤツが、が今日のゴハンだから、食べろって…言ったんだ。

ボクは、イヤで、イヤで、イヤで、たまらなくって、食べなかった。

そしたら、ボクがその日のにつかわれることになった…けど、ボクもしっぱい、した。


しっぱいしたけど、死ななかったから、ひじょーしょくにするんだって。


その日から、ボクのあたまのなかの声は、ボクにも話しかけてくるようになった。

あの女がなんなのか、

で何をしてるのか、

そんなことを、ときどき、あたまのなかでおしえてくれた。むずかしくて、わからないところもいっぱいあったけど。

ゴハンも、水ももらえなくなってから、だんだん、おとがきこえなくなって、目のまえがかすんできて……ときどききこえる、いがい、よくわからなくなって………




……それから、何日たったのかな…?


おぼえてない、けど、気がついたら、同じにいたひとたちが、だれもいなくて、しらないひとから声をかけられた……なんでだろう、ぼやけたせかいのなかで、この人の声は、ちゃんときこえる。


「…だぁ、れ?」


久しぶりにだした声は、とってもかすれてた。


「俺はカイト…君を助けに来た」

かいと…カイト。

やさしい声のその人は、「一緒に、ここから逃げよう」っていってくれた。

おいしくて甘い水をのませてくれた。

でヒトじゃなくなった子たちを、ヒトに戻してくれた。

くさくなくて、おいしいごはんを、いっしょにたべてくれた。

ボク達をにがすために、ひとりで、バケモノとたたかってくれた………。


走って、走って…やっと着いたきもちわるい色のたてもの…えれべーたぁ、の前で、久しぶりに、あの声があたまにひびいた。


『………生き延びたいなら、ここまでおいで…』

たったひとこと。それだけ。

でも、ボクにはなんとなくわかった。
この声のぬしは、をこわすんだって。

このままふつうににげても、しんじゃうから、ボクにおしえてくれたんだって。


…………じゃあ、カイトは?

あのばしょで、まだたたかってくれてるカイトは…どうなるの?

あたまのなかが、スッとつめたくなった。

ヴィルヘルムとライナスからは、えれべーたぁにはいるように言われたけど……


「ボク…カイトのところにいく」

いかなきゃ。

「ごめんなさい…さきに、いってて。ボクは…カイトを助ける」


そう言ったボクのあたまに、また、あの声がした。


『……あの男を助けたいのかい?なら、早くここまでおいで。早くしないと、結界を全部破壊してしまうよ』

「っ!!」




あかい、血と、はらわたの間を、走って

くだける石に、あたりながら、走って、

あの女に、今にもなにかを投げつけられそうなカイトを見ながら、走って、


走って、走って走って走って走って。




やっと、ついた。


……しんこきゅう、して、あたまのなかでよびかける。


きたよ、だから、カイトをたすけて。


『…来たね…。もう一度聞くけれど、あの男を助けたいのかい?』


うん。


『もう一つ聞こう。自分とあの男、どちらが大事だい?』


カイト。


『…つまり、自分はどうなってもいいから、あの男を助けたい、と?』


うん。
おねがい、カイトがしなないように、助けて。


『……なら、キミが助けなさい』


……え?

ボク、が?

失敗作ボクに、助けられるの?


『私と会話できているということは、私と適応する体を持つ、という事……私では、この塔を壊さずに封印を壊すのは難しい…だから、私の力をキミにあげよう。私の敵を全て消せば、私はこの塔を破壊する事なく、封印から抜け出せる…結果的に、あの男も助かるだろう…ただ、絶対に適応するとは言い切れないし、痛いし、苦しいし…ヒトではなくなるかもしれないよ』


それでも、

カイトが、助かるかも知れないなら、

…やる。




『そうかい…それでは、始めるよ』





なにか、が、ボクに、流れ込んだ。







「ぁ、あ…ああああぁあああぁあ!!?!??!!」





あたまが、われるみたいに、いたい。

うでが、足が、からだじゅうが、どくむしにかじられてるようで、

目のおくに、マグマが入ったような熱を感じた。

のどの奥から、血の味がする。

……そのうち、だんだんと、意識が、はっきりして、



ああ、ボクは……、何に、なったんだろう。

けど、とっても、気分がいいや。




理解わかるね。どこに敵がいるか。私の封印に関わるもの、私の邪魔をするものを破壊するんだ』


…ああ、いろんな知識が、脳に直接叩き込まれているのを感じる。


理解わかる。

理解わかる。


イラナイ物は、石の塔だ。

イラナイ者は、賢者の石を持ったやつらだ。

イラナイモノは、この魔法陣だ。


壊す、壊す、壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す。


カイト、を、助ける、為に。


全部…破壊する。




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