95 / 150
魔法塔編
83頁 カオスフロア14.とある少年side
しおりを挟む触手、100レベル超えてんじゃ~ん!
攻撃、防御、回復役完備の完璧なパーティじゃ~ん!
…なんて、心の中でふざけてみるものの、ステータス画面の数値に変わりはない。
せっかく時間稼ぎしたけど、こんな事なら一か八かでキメラと触手がバトってる間に通り抜けるべきだったか?
や、だって、まさか100レベ超えがそんなホイホイ出てくるとは思わねぇじゃんかよ!!仕方ない!うん!!
………部屋の中心から伸びる4本の触手。
一本一本が、防御特化、体力特化、オールラウンダー、回復役と、個性的である。
その触手たちは今、俺も、メリダも眼中になく、近くにある石の塔を破壊していた。
1つ壊してはまた1つ…すでに過半数は壊されている。
「な、何やってるんだ、アレ」
誰にともなく呟いた言葉に、メリダが答える。
「あの石の塔には、それぞれに封印用の魔力を纏わせていますから、封印を解くために壊してるんですよ……そろそろ追加戦力も到着するから、間に合いはすると思うんですけど」
「封印って……?」
「もぅ、どうでもいいじゃないですか、そんなこと」
メリダは、ローブの中からさらに試験管やフラスコを取り出す…そのなかには、明らかに睡眠薬とは思えない色のものもあった。
「そろそろ、諦めてください。このフロアの事を知られた以上、生かして帰すわけにはいかないですから」
薄暗い建物の上にチラリと見えた追加戦力はおよそ20頭。
プラス、ちょこちょこ、ゾンビ系のモンスターも見え隠れしている……ガチモンのバイオ◯ザードじゃん。
多分、見えてないだけで、まだまだ集まってるんだろうなぁ……。
ここから逃げるにしても、エレベーターまで行き着くには、暴れ狂う触手の近くを通り抜けなければいけない。
まさに八方塞がり。
あーあ、マジかぁ、こんなところで死ぬのかぁ。
まぁ、俺は勇者って器じゃないもんな。
弱いし、バカだし、見た目も(この世界じゃ)最底クラスだし。
あ、でも、ゾンビに噛まれて死ぬのはヤダな。
どうせなら一瞬で楽になりたいわ。
軽く走馬灯が走る俺の視界に、かすかに、薄汚れた何かが映った。
小さな影。
棒のような手足を懸命に振って走っている。
………ん?
あれってもしかして……。
元は白かったであろう黒ずんだ布切れを体に巻きつけたその子は、4本の触手の中心へと、脇目も振らず駆けて行った。
う、嘘だろ!何やってんだ?!
俺は、次の瞬間、無意識に、触手の根元…魔法陣の中心へと走り出していた。
ボクのあたまの中は、いつも声がしていた。
『イタイ、クルシイ、ユルサナイ、タスケテ、ヤメテ、ダシテ、ココカラダシテ』
その声にこたえるみたいに、
『大丈夫。私がついている。大丈夫。いつか、ここから出してあげる。大丈夫。だから、もう少し頑張っておくれ』
けど、それは、ボクにしかきこえていないみたいで、おとうさんは、そんなのきこえないって、かなしそうにボクのあたまをなでるんだ。
…ボクには、きこえるのに。
ある日、おとうさんが、いやなにおいのする肉のかたまりになった。じっけんで、しっぱい、したんだって。
ここで1番えらいヤツが、それが今日のゴハンだから、食べろって…言ったんだ。
ボクは、イヤで、イヤで、イヤで、たまらなくって、食べなかった。
そしたら、ボクがその日のじっけんにつかわれることになった…けど、ボクもしっぱい、した。
しっぱいしたけど、死ななかったから、ひじょーしょくにするんだって。
その日から、ボクのあたまのなかの声は、ボクにも話しかけてくるようになった。
あの女がなんなのか、
じっけんで何をしてるのか、
そんなことを、ときどき、あたまのなかでおしえてくれた。むずかしくて、わからないところもいっぱいあったけど。
ゴハンも、水ももらえなくなってから、だんだん、おとがきこえなくなって、目のまえがかすんできて……ときどききこえる、こえいがい、よくわからなくなって………
……それから、何日たったのかな…?
おぼえてない、けど、気がついたら、同じろうやにいたひとたちが、だれもいなくて、しらないひとから声をかけられた……なんでだろう、ぼやけたせかいのなかで、この人の声は、ちゃんときこえる。
「…だぁ、れ?」
久しぶりにだした声は、とってもかすれてた。
「俺はカイト…君を助けに来た」
かいと…カイト。
やさしい声のその人は、「一緒に、ここから逃げよう」っていってくれた。
おいしくて甘い水をのませてくれた。
じっけんでヒトじゃなくなった子たちを、ヒトに戻してくれた。
くさくなくて、おいしいごはんを、いっしょにたべてくれた。
ボク達をにがすために、ひとりで、バケモノとたたかってくれた………。
走って、走って…やっと着いたきもちわるい色のたてもの…えれべーたぁ、の前で、久しぶりに、あの声があたまにひびいた。
『………生き延びたいなら、ここまでおいで…』
たったひとこと。それだけ。
でも、ボクにはなんとなくわかった。
この声のぬしは、ここをこわすんだって。
このままふつうににげても、しんじゃうから、ボクにおしえてくれたんだって。
…………じゃあ、カイトは?
あのばしょで、まだたたかってくれてるカイトは…どうなるの?
あたまのなかが、スッとつめたくなった。
ヴィルヘルムとライナスからは、えれべーたぁにはいるように言われたけど……
「ボク…カイトのところにいく」
いかなきゃ。
「ごめんなさい…さきに、いってて。ボクは…カイトを助ける」
そう言ったボクのあたまに、また、あの声がした。
『……あの男を助けたいのかい?なら、早くここまでおいで。早くしないと、結界を全部破壊してしまうよ』
「っ!!」
あかい、血と、はらわたの間を、走って
くだける石に、あたりながら、走って、
あの女に、今にもなにかを投げつけられそうなカイトを見ながら、走って、
走って、走って走って走って走って。
やっと、ついた。
……しんこきゅう、して、あたまのなかでよびかける。
きたよ、だから、カイトをたすけて。
『…来たね…。もう一度聞くけれど、あの男を助けたいのかい?』
うん。
『もう一つ聞こう。自分とあの男、どちらが大事だい?』
カイト。
『…つまり、自分はどうなってもいいから、あの男を助けたい、と?』
うん。
おねがい、カイトがしなないように、助けて。
『……なら、キミが助けなさい』
……え?
ボク、が?
失敗作に、助けられるの?
『私と会話できているということは、私と適応する体を持つ、という事……私では、この塔を壊さずに封印を壊すのは難しい…だから、私の力をキミにあげよう。私の敵を全て消せば、私はこの塔を破壊する事なく、封印から抜け出せる…結果的に、あの男も助かるだろう…ただ、絶対に適応するとは言い切れないし、痛いし、苦しいし…ヒトではなくなるかもしれないよ』
それでも、
カイトが、助かるかも知れないなら、
…やる。
『そうかい…それでは、始めるよ』
なにか、が、ボクに、流れ込んだ。
「ぁ、あ…ああああぁあああぁあ!!?!??!!」
あたまが、われるみたいに、いたい。
うでが、足が、からだじゅうが、どくむしにかじられてるようで、
目のおくに、マグマが入ったような熱を感じた。
のどの奥から、血の味がする。
……そのうち、だんだんと、意識が、はっきりして、
ああ、ボクは……、何に、なったんだろう。
けど、とっても、気分がいいや。
『理解るね。どこに敵がいるか。私の封印に関わるもの、私の邪魔をするものを破壊するんだ』
…ああ、いろんな知識が、脳に直接叩き込まれているのを感じる。
理解る。
理解る。
イラナイ物は、石の塔だ。
イラナイ者は、賢者の石を持ったやつらだ。
イラナイモノは、この魔法陣だ。
壊す、壊す、壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す。
カイト、を、助ける、為に。
全部…破壊する。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
あれ?なんでこうなった?
志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、正妃教育をしていたルミアナは、婚約者であった王子の堂々とした浮気の現場を見て、ここが前世でやった乙女ゲームの中であり、そして自分は悪役令嬢という立場にあることを思い出した。
…‥って、最終的に国外追放になるのはまぁいいとして、あの超屑王子が国王になったら、この国終わるよね?ならば、絶対に国外追放されないと!!
そう意気込み、彼女は国外追放後も生きていけるように色々とやって、ついに婚約破棄を迎える・・・・はずだった。
‥‥‥あれ?なんでこうなった?
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]
ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。
「さようなら、私が産まれた国。
私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」
リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる──
◇婚約破棄の“後”の話です。
◇転生チート。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^
◇なので感想欄閉じます(笑)
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
魔道具作ってたら断罪回避できてたわw
かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます!
って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑)
フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。
お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる