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ソウルレス【SIDE: マルク】

バッド・ラブ

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 アキムから残りの報酬が振り込まれたのは夜だった。
 キャッシュアカウントに表示された金額を見て、ヴァレンチンとおれは同時に口笛を吹いた。

「この調子で稼げれば、すぐに二人分の戸籍が買えるな。それだけじゃない。偽の学歴や資格も……!」

 ヴァレンチンの幸福はおれに伝染した。目を輝かせているその顔を「かわいい」と思いながら、おれも微笑んだ。


 おれたちの「家」は、ヨアン川に浮かんでいる廃船だ。錆だらけのクルーザーのキャビンにマットレスを持ち込んで、ねぐらにしている。
 ゆるやかな波の上下を感じながら眠りに就くのは、悪くない。キャビンの窓からは、ノヴァヤモスクワの中心街の灯りが見える。暗闇の中で燃え上がっているように見える街の灯は、昼間の薄汚さを感じさせない。美しく、幻想的だ。

 食事をさせてくれ、とおれは宣言し、ヴァレンチンの首筋に牙を突き立てた。吸血している間、おれの腕の中でヴァレンチンの体がかすかに震えた。「支配している」と強く感じ、全身にぞくぞくする悦びが広がる。


 ヴァレンチンは、昼間のことなどなかったかのように振る舞っているが。
 おれはまだ気持ちのたかぶりがおさまっていない。昼間見た光景を思い出し、怒りで血が逆流しそうだ。
 モロゾフ組の奴らを皆殺しにしたかった。全員にとどめを刺せなかったのが残念で仕方ない。

 この形の良い唇を犯した奴がまだ生きているなんて。おれでさえ、中に入ったことがないのに。

 おれはそっとヴァレンチンにキスをした。ていねいに歯列をなぞり、歯列を割ってヴァレンチンの舌を探しにいった。熱い口内は理性がぶっ飛びそうなほど気持ちよかった。
 舌をからめると――濡れた粘膜を触れ合わせる感触が、もっと先・・・・を連想させて、ぞくぞくする。体内へ入っている、という感じがする。

 おれは、体のラインに沿って撫で上げながら、夢中で口を犯した。ヴァレンチンの口の中を全部おれの味で染め替えたかった。昼間こいつが飲まされたものの痕跡も、記憶さえも残らないように。

 我に返ると――おれは自分が夢中になりすぎていたことに気づいた。うっかりヴァレンチンのシャツを半分脱がせかけていた。吸いすぎた唇が赤く腫れていた。そして紫色の瞳が涙をためておれを見上げていた。

「やめてくれ。……あんたにまでそういう・・・・対象だと見られたくない」

 囁くような声で、はっきりとした拒絶の言葉が放たれた。

 もっともだ。

「すまん」

 おれはすぐに謝り、手を引いた。



 性欲も魂も持たない、バンパイアのおれだが。
 からっぽのはずの体内に突き上げてくる、強すぎる衝動をもてあます。

 好きだ、好きだ、好きだ。頭がおかしくなりそうだ。

 抱きたいなどと思うのは、気の迷いだ。まだおれが普通の人間だった頃のなごりだ。おれはもはや、そんな機能を備えていないのだから。
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