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ソウルレス【SIDE: マルク】
ネイムレス・アフェクション
しおりを挟む「食事をさせてくれ」
そう頼むと、あいつはいつも、おれに身を任せてくれる。
バンパイア・ウイルスに感染して吸血鬼となったおれにとって、「食事」とは血を吸うことだ。首筋に噛みつかれて血液を奪われるのは不快だろうが、ヴァレンチンはおれを拒んだことはない。
一日に一度、おれはヴァレンチンをマットレスに押し倒す。やわらかい首筋に牙を食い込ませると、甘い血液がおれの口内に流れ込んでくる。
何もかもが最高だ。血の味も、肌のにおいも。宝石のようにきれいな瞳も、可愛らしい顔立ちも。
ぐったり横たわるその体は、鍛錬のおかげで程よく筋肉がついていて、しなやかだ。
吸血後、ヴァレンチンは十分間ほど動けなくなる。それだけ負担をかけているのかと思うと気の毒になるが、無防備に横たわっている姿は、とてもそそる。
[研究所]のリュボフ博士が言っていた。ヴァレンチンは、おれ専用の血液提供者だと。おれにぴったり合うように作られている、と。
おれが最強であり続けるためには、ヴァレンチン以外から吸血してはいけない。
おれたちは切っても切り離せないペアだ。ヴァレンチンはおれにとっての〈特別〉なのだ。
でも、たぶんそれは、恋愛感情とはまったく別物だ。
バンパイア・ウイルスに感染したおれたちは、不老不死の頑健な肉体を手に入れたが、その代わりに、一切の生殖能力を失った。バンパイアは子をなすことができない。
ヴァレンチンを独り占めにしたい、身も心もおれのものにしたい、とおれが願うのは――恋愛感情じゃない。ドナーを確保しておきたいというバンパイアの本能だ。
ときどき「愛」と勘違いしてしまいそうになるが、たぶん違う。たぶん。
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