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ノークライ【SIDE: ヴァレンチン】
同盟結成
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「うちの会社には、有給休暇などというしゃれたものはない。欠勤三回でクビ、それがルールだ。クビが嫌ならさっさと起きろ」
ニジンスキーのおっさんだ。わざわざこんな所まで俺を迎えに来やがったのか。
荒々しい足音と共にデッキを横切り、俺たちのいる船室へ近づいてくる。
マルクが珍しく、端正な顔を怒りに歪めた。俺から離れて立ち上がり、デッキへ通じる扉へ歩み寄った。
「帰れ! おまえにヴァレンチンは渡さん。もう二度と来るな」
「何だ、おまえは?」
ニジンスキーの声が凄みを増す。さすがはナンバーワンの取り立て屋だ。最悪のギャングや殺し屋でもビビらせる玄人の恫喝が、びりびりと空気を震わせた。
船室の扉の内と外に立って、大男たちが至近距離で睨み合った。
「くそっ、やめろ、マルク。人の仕事に口出しするんじゃねーよ。頭沸いてんのか」
俺は、マルクを止めるためマットレスから飛び出そうとして――そのまま頭から床に転げ落ちた。体を起こしたとたん、世界がぐらりと揺れ、平衡感覚を失ったのだ。撃たれた左腕と左脚は、体を支える役に立ってくれない。
マルクは扉を完全にふさぐように立ちはだかっている。誰も室内には入れない、という態勢だ。
「よくも俺のヴァレンチンに怪我をさせたな。こんな危険な目に遭わせるなんて……おまえを八つ裂きにやってもいいぐらいだ」
「アホか、引っ込んでろ。あんたには関係ない……!」
「聞いただろう、デカブツ。てめえの恋人も『引っ込んでろ』と言ってるぞ」
と、ニジンスキーが真顔で言った。俺は床に倒れたまま声を張り上げた。
「恋人じゃねえ! とんでもない誤解すんな!」
発熱で頭がぐらぐらしている状態で、二人を相手にツッコまなくてはならないのはきつい。
突然、怒鳴り合いが途切れた。数秒の沈黙の後、これまでと違う口調で、ニジンスキーが言った。
「……ヴァレンチンを撃った野郎を見つけ出して、ぐうの音も出せないほど締め上げる。それが今日の午後からの仕事だ」
マルクの背中から怒りの気配が消えた。
「その仕事は、俺がやろう」
「ふむ。兄ちゃん、ぱっと見、かなり鍛えてあるようだが……敵は殺しを何とも思ってねえサイコ野郎だぞ。そういう手合いを相手にした経験はあるか?」
「どんな奴が相手でも関係ない。ぶちのめしてやる」
マルクは力強く言い切った。
脳筋たちの間に同盟関係が成立した瞬間だった。
マルクが出発の準備を整えるのは大仕事だった。
日光に弱いマルクは、手持ちの服を重ねられるだけ重ね着して、一ミリの光も肌に届かないよう防護した。帽子、手袋に、アイシールドとマスク。今は厚着をする気候じゃないから、百パーセント怪しいだけの不審者ができあがった。
そしてマッチョ二人組は、気味悪いほど仲良くでかけていった。
「『教授』との落とし前は俺がつける。余計な真似すんな」
という俺の抗議に、奴らは耳も貸さなかった。
ニジンスキーのおっさんだ。わざわざこんな所まで俺を迎えに来やがったのか。
荒々しい足音と共にデッキを横切り、俺たちのいる船室へ近づいてくる。
マルクが珍しく、端正な顔を怒りに歪めた。俺から離れて立ち上がり、デッキへ通じる扉へ歩み寄った。
「帰れ! おまえにヴァレンチンは渡さん。もう二度と来るな」
「何だ、おまえは?」
ニジンスキーの声が凄みを増す。さすがはナンバーワンの取り立て屋だ。最悪のギャングや殺し屋でもビビらせる玄人の恫喝が、びりびりと空気を震わせた。
船室の扉の内と外に立って、大男たちが至近距離で睨み合った。
「くそっ、やめろ、マルク。人の仕事に口出しするんじゃねーよ。頭沸いてんのか」
俺は、マルクを止めるためマットレスから飛び出そうとして――そのまま頭から床に転げ落ちた。体を起こしたとたん、世界がぐらりと揺れ、平衡感覚を失ったのだ。撃たれた左腕と左脚は、体を支える役に立ってくれない。
マルクは扉を完全にふさぐように立ちはだかっている。誰も室内には入れない、という態勢だ。
「よくも俺のヴァレンチンに怪我をさせたな。こんな危険な目に遭わせるなんて……おまえを八つ裂きにやってもいいぐらいだ」
「アホか、引っ込んでろ。あんたには関係ない……!」
「聞いただろう、デカブツ。てめえの恋人も『引っ込んでろ』と言ってるぞ」
と、ニジンスキーが真顔で言った。俺は床に倒れたまま声を張り上げた。
「恋人じゃねえ! とんでもない誤解すんな!」
発熱で頭がぐらぐらしている状態で、二人を相手にツッコまなくてはならないのはきつい。
突然、怒鳴り合いが途切れた。数秒の沈黙の後、これまでと違う口調で、ニジンスキーが言った。
「……ヴァレンチンを撃った野郎を見つけ出して、ぐうの音も出せないほど締め上げる。それが今日の午後からの仕事だ」
マルクの背中から怒りの気配が消えた。
「その仕事は、俺がやろう」
「ふむ。兄ちゃん、ぱっと見、かなり鍛えてあるようだが……敵は殺しを何とも思ってねえサイコ野郎だぞ。そういう手合いを相手にした経験はあるか?」
「どんな奴が相手でも関係ない。ぶちのめしてやる」
マルクは力強く言い切った。
脳筋たちの間に同盟関係が成立した瞬間だった。
マルクが出発の準備を整えるのは大仕事だった。
日光に弱いマルクは、手持ちの服を重ねられるだけ重ね着して、一ミリの光も肌に届かないよう防護した。帽子、手袋に、アイシールドとマスク。今は厚着をする気候じゃないから、百パーセント怪しいだけの不審者ができあがった。
そしてマッチョ二人組は、気味悪いほど仲良くでかけていった。
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