バッド・ロマンス【連作短編】

七条楓華@Unsweet(アンスイート)

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ルースエンド【SIDE: ヴァレンチン】

悪党の末路

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 ニジンスキーは、PDCで何件かメッセージを送信した後、普通に貸金取り立ての仕事に取りかかった。
 この男と組めというのが社長の命令なので、俺は後をついていくしかなかった。

 新人取り立て屋の教育係としては、ボリスラフよりニジンスキーの方がはるかに適任だ。ニジンスキーは効率よく貸金を回収して歩き、俺はただ眺めているだけだった。

「ボリスラフのおっさんを探すんじゃなかったのか?」

 こらえきれなくなって、俺は尋ねてみた。
 ニジンスキーは無表情で俺を見返した。つぎはぎだらけの顔の表情を読むのは難しいが、たぶん無表情なんだろう、と推測する。

「手は打ってある。あせるな、ヴァレンチン」

 短いが力のこもった答えが返ってきた。

「俺には伝手つてがたくさんある」

 理由はわからないが、俺はニジンスキーを信頼する気になった。この男が俺を「坊や」とか「かわいこちゃん」とか呼ばないせいかもしれない。

 七件目の取り立てが完了した頃、ニジンスキーのPDCが着信を告げた。そのメッセージを読んだ後、ニジンスキーが向かったのは、郊外にある倉庫物流センターだった。どこの街でも、人気ひとけのない広大な物流拠点は犯罪の温床だ。
 センターの奥に、古い建設機器が雑然と放置されている区域があった。

 ボリスラフは鎖でぐるぐる巻きにされて、クレーンのフックに吊り下げられていた。

 最後に見たときと同じ服装だったが、それがなければ、ボリスラフだとはわからなかったかもしれない。顔は殴られすぎて変形していた。右目がなくなっていた。目玉のあった場所は赤黒い血だまりに変わっており、そこから血の涙が何筋も流れている。残った左目は腫れ上がって開かない状態だ。両脚が妙な角度に曲がっていて、明らかに、何か所かで折られていた。
 ボリスラフはびくりとも動かずに吊られていた。死体のように見えた。

 吊られたボリスラフの足元に、地味なスーツを着た中年男が立っていた。男はニジンスキーにPDCを手渡し、「こいつのだ」とだけ言った。そしてニジンスキーがPDCを確認している間、するりと姿を消した。まるで初めからいなかったかのように。

 ボリスラフのものらしいPDCは、キャッシュアカウント画面が開いたままになっていた。
 とんでもない金額の残高が見て取れた。

「ふむ。全額、残ってるな」

 ニジンスキーはPDCを操作し、ユロージヴイ金融への送金手続を取った。

 そのとき俺は、風の音とは違う何かを聞いたような気がして、見上げた。
 ボリスラフだ。歯を砕かれた血まみれの口が動き、弱々しいうめき声を発している。
 ――まだ生きていたのか。この状態で。

 ニジンスキーが俺を振り向いた。

「おまえがやるか、ヴァレンチン」
「えっ? あ、いや……」

 とっさに答えられず、俺が口ごもっていると。
 ニジンスキーは銃を抜いて、無造作に撃った。
 左胸を撃ち抜かれたボリスラフの体は小さく震え、そして永遠に動かなくなった。
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