一振りの刃となって

なんてこった

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58.シーフォート(side of seturin)

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 とある船の上でとある少女、雪鱗が目前に広がる大海原を、その先に広がる中央大陸ハーモニアの東口と呼ばれる巨大な船の行き来を可能にする広大な港を有する港町シーフォート。
 その港町を深紅の瞳に収めて少女は呟く。
「ついに中央大陸に着いた、ここで一旗あげて見せるよ!みててね父さん・・・」
 その言葉と共に思い出す、彼女の故郷と自分の家族を・・・

「大丈夫なのか?」
 そういって心配そうに聞いてくるのは彼女の父、名を紅牙その姿は赤い髪を無造作に伸ばし、額や頬、腰から伸びる尻尾の鱗は赤く背中の翼は彼の巨体と呼べる体に見合う大きさで彼の角は見るだけでかなりの実力があると分かるほど立派だ、服装はマントのようなものをうまく翼のじゃまにならないように纏何かの革で出来た縞模様のズボンを穿いている。
 そしてその深紅の瞳に心配の色を混ぜて揺れている。
 早くに母親を亡くした雪鱗を男手で育てた紅牙は小さいころから体があまり強い方じゃない雪鱗のことが心配で仕方がない。
「大丈夫!それに今回の下山で一緒に降りるメンバーはそれなりに腕がいいのが多いしウチだって父さん仕込みの槍術があるんだから!」
 そういって腰に手を当て翼を広げエッヘンと胸を張る防具を付けてても割と大きめの胸が盛大に主張する・・・その様に男親は余計心配になるようだが。
「そうは言うがお前も年頃の娘なんだから悪い奴に騙されたりしないか心配でしょうがない!やはりワシが一緒に行くべきではないだろうか」
「いやいや父さん、それはさすがにそれは雪鱗を心配しすぎですよ」
と 父を止めるのは雪鱗の兄である紅角その姿は父とほぼ一緒だが体格が一回り父に及ばないようだ。
「だが心配なものは心配なのだ!こんなに可愛い娘にどんな獣が寄ってくるのか分かったものじゃない、仕来りなんぞがなければワシの息がかかった手下を何人か連れていかせたというのに!」
「父さん、さすがに代々続けられた仕来りにそのような物言いはしない方がいいと思いますよ?それにそのことについては半分は父さんが悪いのですし」
「黙れ紅角!貴様はそこらのガキどもに大事な妹が嫁に行ってもいいというのか?」
「確かに腹が立ちます、何より雪鱗のこの鱗の色の事でいじめてきたやつらに妹をやるなんてできません・・・考えてたら腹が立ってきました、アイツらのせいで雪鱗が旅立たなければいけないのに・・・父さんすみませんがちょっと出かけてきます」
 と紅角はどこぞに飛び立っていこうとする。
「そうか・・・ワシの分も焼き入れ頼むぞ」
「ちょっと父さん止めてよ!ウチの門出だよ?しばらく会えないんだよ?焼き入れよりちゃんと見送りの方をしてよ!焼き入れはその後でして!」
 兄を止めない父に慌てて止めるように頼む雪鱗、焼き入れしにくこと自体はとめないようだ。
「そうだなあんな奴らのせいでおまえと話せる時間が減るのも我慢ならんしな」
 などと雑談をしていても時間は進みついに出発の時間となる。
「それじゃあ父さん、兄さん行ってきます!体に気をつけてね~」
 と元気に別れを告げ飛び立つ雪鱗をとめどなく流れる涙で視界をゆがませながら見送る二人。
 この赤竜族の里の仕来り・・・それはこの里が滅びないように家の跡取り以外が年頃になっても独り身でいれば外に旅に出て外の血をこの里に招き入れる役目を担うというものである。
 ほとんどのモノは帰ってこないのだがそれでも里が存続しているのはこの仕来りのおかげでもある。
 雪鱗はせっかく旅に出るのだしどうせなら遠くまで行きたいかな?という目標を持っていた、そのためこの東大陸と呼ばれるサガックチから別の大陸に旅たってみよう!ついでに有名になってみようと決めたのである。
 ドラゴニュートの飛行能力は高くビーストの有翼種族にも引けをとらない上にその無尽蔵ともいえる体力は長時間の飛行を可能にする。
 しかし、それでも大陸間を飛んで渡などというのはさすがに無謀なために雪鱗はサガックチの港町ドラゴンポートまでたどり着くそこで雪鱗は冒険者登録もやっておいた。
 有名になるなら冒険者になった方がいい気がする!という安易な考えである、ただドラゴンポートでパーティを募集してもハーモニア大陸に行くつもりであるというと誰もが素通りしていった。
 もともとサガックチはドラゴニュートの住みやすい土地でありこの大陸にいる冒険者のほとんどがドラゴニュートである、そんな彼らがわざわざ住み慣れた地を離れて自分たちにとって未知の地に行くほどのリスクをよしとしなかったためである。
 いくら誘ってもできない仲間・・・一人でこなす依頼は日銭がせいぜい、だが家を出る時に渡されたお金で何とか船に乗れるだけの資金は足りる。
 数日間Fランクの仕事をこなす日々に見切りをつけて船に乗り込んだ雪鱗はこうしてサガックチ大陸から飛び出しハーモニア大陸へと渡る。

 そしてハーモニア大陸、シーフォートに着く。
「まずは今日泊まれる宿を探そう!」
 久しぶりの陸地に感動を覚えながら宿を探す、だが行く先々で手持ちのお金が足りないという事実に困惑する。
「サガックチならこれだけあれば泊まれるのに!」
 苛立ちまぎれに愚痴をこぼすが愚痴ではお金は増えない。
「そだ!冒険者ギルドで以来受けたらいいじゃん!」
 昼頃にその発想にいたり冒険者ギルドに向かう、サガックチの冒険者ギルドに比べるとかなりきれいな建物だった。
「ほぇ~大陸違うとこうも違うもんなんだね~」
 感心しつつ内部に入る、中にはあまり人がおらず思ったよりも静かなギルドだなと雪鱗が思ってたら一人の男が目に入った。
 その男は何やら退屈そうに自分の前で受付の職員とやり取りをしている男の子を腕を組みながら見守っているようだ。
 その姿が故郷の父や兄を思い出させつい声をかけてしまった。
「なぁ~あんた、あんただよあんた」
 声をかけても無視されたのでついついムキになる。
「なぁ~なぁ~、なぁ~ったらなぁ~!もー!無視すんなよ!」
 とついつい相手の耳もとで大声を出してしまった、まぁ無視する方が悪いし!と内心で言い訳をすると、男が組んだ腕をときこちらを向いた。
「お!こっち向いたね!あんた名前は?ウチは雪鱗、あんたは?」
 一瞬男が戸惑ったように見えた、だがこちらも少し呆けた、この男の深紅の瞳が目に入ると吸い込まれるような錯覚が起きたから、呆けてるとおでこを指で軽く弾かれた。
「いた!なに!いきなり攻撃してくることないじゃん!」
 意外に痛かったからちょっと涙目になる、そしたらそいつはこれが俺の故郷のあいさつだと言ってきた!ならこっちからも挨拶せねば!
 そう思ってそいつの額めがけて指を弾く思った以上の威力に焦るがここは躱したアイツを責める!
「ちょっと!なんで躱すのさ!」
 そしたらこいつはとんでもないことを言ってきた、自分からなら挨拶で相手にし返したら求婚の意思表示だと言ってきた!
 おかげで盛大に動揺してしまう。
 その後なぜか偉そうにされたがこちらからもなぜかお礼を言ってしまう始末、完全にあっちのペースのようだ、これが父の言ってた悪い奴なんだろうかな?
 とにかく名前だけでも聞き出そうとしたらそれは言えないという、なんでよ!
 もういいかな~と諦めてきたところでそいつの後頭部を杖で小突いた女性が、冗談ばっかりしてないで名前くらい教えればいいじゃないと叱ってくれた、ナイスだ姉さん!
「ゴホン!雪鱗よおく聞けよ?俺の名前はブレド・ファルシオン、敬意と親愛を込めてレッドと呼ぶがいい!」
 レッドというらしい、自己紹介が終わって何か用があったんじゃないかと聞かれたけど実は何となく声をかけたなんて言えず少し考えてから。
「あんたウチを仲間にしない?」
と言ってみた、まぁどうせ断るんだろうなって思っていたので次に来た言葉は衝撃的だった!
「構わんが俺のパーティ全員に挨拶しとけよ?」
 この言葉を脳が認識することなくしばらく言葉をつなげる羽目になる、ボッチが長かったんだ。
 そして仲間にしてもらえるというので自己紹介を改めてしておく。
「それじゃあよろしくね!ウチは雪鱗!ランクはFだよ!」
「え?うちのパーティのランクDの昇格試験中だけどいいのかな?」
 急にレッドが額を押えて考え出した、え?ダメなの?
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