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第一話 生贄の運び方
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香月秋奈は、少しばかり特別な事情を持った、女子高校生だ。
身長が低いとか、外見がどう見ても小学生にしか見えないとかそういうことではなく。
彼女は数いる同年代の女子たちからしても、やはり特別な存在だった。
秋奈は、まるであやかしのような、金色の目を持って生まれた。
女の双子。金目の女は、鬼に好かれるという。
秋奈には生まれたときからいずれ鬼の贄となる運命が待ち構えていた……。
◇
ガラゴロガラゴロと車輪は鈍い音を立てて、移動している。
荷物の中に梱包されたまま、秋奈はもう既に数時間が経過しただろうことを感じ取っていた。
「いつ死に果てるのか」
言葉を発しようとして、猿ぐつわをされた口からは「イムグムグ……」といった濁音しか漏れ出て行かない。
むしろ喋ろうとすればするだけ、顔が汚れていくから、口を開けるのを止めた。
いま上下逆になった状態で、膝を抱え込むようにして両手両足を拘束された秋奈が入っているのは。
いやいや、押し込められているのは、巨大なスーツケースだろうと、秋奈は思う。
巨大? そうでもないかもしれない。
十六歳という年頃にしてはまかり間違えば、小学生と思われてしまうほどに、体型が幼く、従って身長もそれなりに低い。
150あれば願ったりで、145でもいいかなと思える程。
そんな彼女の身長は138しかなく、従ってスーツケースも大きめに分類されるものならば、身体を縮めたらすっぽりと収まることだろう。
自宅の父親の書斎で捕獲?されてしまったのは、つい今朝のことだ。
それからこの閉居な空間に囚われ、真横にされて、車のトランクに。
トランクに、と考える理由は、書斎から数分間、いまのようにガラゴロガラゴロとトランクが転がされて行き、「よいしょっ」と威勢のいい声と共に持ち上がったと思ったら、平たい所に置かれたからだ。
そのままバタンっと上から音がして、真横になったスーツケースの向こう側から聞こえてくるのは、車のエンジンがかかる音、そしてわずかな振動が走り、走行をする車両の中にいるのだ、と理解できたからだ。
そう考えたら、つい先ほどまでどこかの誰とも知れない連中が運転する車の後部座席ではなく、トランクに放り込まれたのだと推測するのが妥当だと思われた。
理由は他にもあり、後部座席ならまだ振動は座席のクッションでカバーされるはずだからだ。
しかし、スーツケースは固定もされないまま置かれただけの状態。
車が急ブレーキをかけたり、左右に曲がる時にはトランクルームの中で、スーツケースがあっちにいき、こっちにいきして、四方八方から圧力がかかる。
そのまま全身をしたたかに打ち続け、胃の中におさめた朝食が口から戻りそうになった。 吐き気と頭痛と、全身を襲う断続的な痛みのせいで気を失うことも許されない。
(こんな拷問、さっさと終わらせてよ……誰か!)
と、始終助けを必死に求めるも、荒い運転はずいぶんと長く続いた。
不思議なことに、車がどの程度の速度で走っているかということは、こんな悲惨な状況でも分かるのだ、と秋奈はどうでもいいことに感心する。
車両が、なだらかな斜面を上がり、それまでの荒い運転を見なしたように速度が緩やかになり、どこかでピッ、と音がした。
それからすぐにエンジンが唸りを上げて、速度がどんどんと上がっていく。
身長が低いとか、外見がどう見ても小学生にしか見えないとかそういうことではなく。
彼女は数いる同年代の女子たちからしても、やはり特別な存在だった。
秋奈は、まるであやかしのような、金色の目を持って生まれた。
女の双子。金目の女は、鬼に好かれるという。
秋奈には生まれたときからいずれ鬼の贄となる運命が待ち構えていた……。
◇
ガラゴロガラゴロと車輪は鈍い音を立てて、移動している。
荷物の中に梱包されたまま、秋奈はもう既に数時間が経過しただろうことを感じ取っていた。
「いつ死に果てるのか」
言葉を発しようとして、猿ぐつわをされた口からは「イムグムグ……」といった濁音しか漏れ出て行かない。
むしろ喋ろうとすればするだけ、顔が汚れていくから、口を開けるのを止めた。
いま上下逆になった状態で、膝を抱え込むようにして両手両足を拘束された秋奈が入っているのは。
いやいや、押し込められているのは、巨大なスーツケースだろうと、秋奈は思う。
巨大? そうでもないかもしれない。
十六歳という年頃にしてはまかり間違えば、小学生と思われてしまうほどに、体型が幼く、従って身長もそれなりに低い。
150あれば願ったりで、145でもいいかなと思える程。
そんな彼女の身長は138しかなく、従ってスーツケースも大きめに分類されるものならば、身体を縮めたらすっぽりと収まることだろう。
自宅の父親の書斎で捕獲?されてしまったのは、つい今朝のことだ。
それからこの閉居な空間に囚われ、真横にされて、車のトランクに。
トランクに、と考える理由は、書斎から数分間、いまのようにガラゴロガラゴロとトランクが転がされて行き、「よいしょっ」と威勢のいい声と共に持ち上がったと思ったら、平たい所に置かれたからだ。
そのままバタンっと上から音がして、真横になったスーツケースの向こう側から聞こえてくるのは、車のエンジンがかかる音、そしてわずかな振動が走り、走行をする車両の中にいるのだ、と理解できたからだ。
そう考えたら、つい先ほどまでどこかの誰とも知れない連中が運転する車の後部座席ではなく、トランクに放り込まれたのだと推測するのが妥当だと思われた。
理由は他にもあり、後部座席ならまだ振動は座席のクッションでカバーされるはずだからだ。
しかし、スーツケースは固定もされないまま置かれただけの状態。
車が急ブレーキをかけたり、左右に曲がる時にはトランクルームの中で、スーツケースがあっちにいき、こっちにいきして、四方八方から圧力がかかる。
そのまま全身をしたたかに打ち続け、胃の中におさめた朝食が口から戻りそうになった。 吐き気と頭痛と、全身を襲う断続的な痛みのせいで気を失うことも許されない。
(こんな拷問、さっさと終わらせてよ……誰か!)
と、始終助けを必死に求めるも、荒い運転はずいぶんと長く続いた。
不思議なことに、車がどの程度の速度で走っているかということは、こんな悲惨な状況でも分かるのだ、と秋奈はどうでもいいことに感心する。
車両が、なだらかな斜面を上がり、それまでの荒い運転を見なしたように速度が緩やかになり、どこかでピッ、と音がした。
それからすぐにエンジンが唸りを上げて、速度がどんどんと上がっていく。
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