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第七話 怒りのイライザ
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「イライザ様、どうかこちらに」
「先生、私も容疑者扱いですか?」
イライザはいたずらっぽく講師をからかってみせる。
思いがけない不幸に晒された彼女の精一杯の強がりだった。
講師は警備兵とともに、先に連行された二人とは別室にイライザを案内する。
そこからは長い長い取り調べの時間の始まりだった。
王室、裁判所、検察省などから専任の係官がやってきては、エレンとローザの発言した内容と本当にイライザの不貞があったのかどうか。
詮議し尋問され、最後は神殿から派遣された神官長の持ち込んだ宝珠による判定となった。
虚偽の発言をしたら、途端に発覚するという、神代の時代から使われている代物。
使い方によっては白も黒に塗り替えられかねないので、いまの法律では使用することが禁止されていた。
「そんなものを使ってまで、殿下の名誉を守りたいのですか。巻き添えを食う善良な人々がどれほどいると思っているのです!」
やってきた神官長が恭しく取り出した宝珠を見て、イライザの発言は毒を帯び、彼の顔を渋面にする。
テーブルの上に設置されようとしているそれをじっと見つめ、腕組みをして待つこと数分。
「……どうせ、死刑は決定なんだから」
と、数名配置されたその密室の中で、誰かがイライザの見えない後方からぼそっとつぶやいた。
「色は虹色ならば無罪。漆黒ならば有罪です」
手をかざして、身の潔白を証明しろ、と神官長は述べる。
イライザの我慢と怒りは頂点に達しようとしていた。
宝珠に両手をべったりと張り付けて、望み通りの宣言をしてやる。
「エレン殿下とローザは肉欲に溺れました!」
「公女イライザ様、何を言われますか!」
宝珠が虹色の光で満たされる。
神官長以下数名があっけにとられるなか、イライザは宝珠を奪うように抱え込み、更に叫んでやった。
「私は清廉潔白ですわ! 身も心も! ええ、この身を捧げた男性もいなければ、他人と口づけを交わしたことも、愛を伝えたこともありません! 殿下一筋に生きてまいりましたわ!」
宝珠は王国法が制定されてからほとんど使用されることがなかったからか、憂さを晴らすかのようにこれもでか、と凄まじい光を放ち続ける。
煌々と輝くその眩さに室内の人々がたじろぐなか、イライザは天高く宝珠を抱え上げた。
「あっ、おい、やめろ!」
「貴様、何するつもりだ! それは神器――」
(こんな違法性しかないものなんて、無くなってしまえばいいのよ――っ!)
「えええっいっ――――!」
イライザは怒り心頭だった。
いわれもない罪状を並べ立てられ、婚約者をあんな女に奪われたことに対する思いで、心が煮えたぎるマグマのように沸騰して収まらない。
宝珠はそんなイライザの想い反映するかのようにさらに明るく輝く。イライザは渾身の力を込めて、宝珠を大理石の床に目掛け叩きつけてやった。
「先生、私も容疑者扱いですか?」
イライザはいたずらっぽく講師をからかってみせる。
思いがけない不幸に晒された彼女の精一杯の強がりだった。
講師は警備兵とともに、先に連行された二人とは別室にイライザを案内する。
そこからは長い長い取り調べの時間の始まりだった。
王室、裁判所、検察省などから専任の係官がやってきては、エレンとローザの発言した内容と本当にイライザの不貞があったのかどうか。
詮議し尋問され、最後は神殿から派遣された神官長の持ち込んだ宝珠による判定となった。
虚偽の発言をしたら、途端に発覚するという、神代の時代から使われている代物。
使い方によっては白も黒に塗り替えられかねないので、いまの法律では使用することが禁止されていた。
「そんなものを使ってまで、殿下の名誉を守りたいのですか。巻き添えを食う善良な人々がどれほどいると思っているのです!」
やってきた神官長が恭しく取り出した宝珠を見て、イライザの発言は毒を帯び、彼の顔を渋面にする。
テーブルの上に設置されようとしているそれをじっと見つめ、腕組みをして待つこと数分。
「……どうせ、死刑は決定なんだから」
と、数名配置されたその密室の中で、誰かがイライザの見えない後方からぼそっとつぶやいた。
「色は虹色ならば無罪。漆黒ならば有罪です」
手をかざして、身の潔白を証明しろ、と神官長は述べる。
イライザの我慢と怒りは頂点に達しようとしていた。
宝珠に両手をべったりと張り付けて、望み通りの宣言をしてやる。
「エレン殿下とローザは肉欲に溺れました!」
「公女イライザ様、何を言われますか!」
宝珠が虹色の光で満たされる。
神官長以下数名があっけにとられるなか、イライザは宝珠を奪うように抱え込み、更に叫んでやった。
「私は清廉潔白ですわ! 身も心も! ええ、この身を捧げた男性もいなければ、他人と口づけを交わしたことも、愛を伝えたこともありません! 殿下一筋に生きてまいりましたわ!」
宝珠は王国法が制定されてからほとんど使用されることがなかったからか、憂さを晴らすかのようにこれもでか、と凄まじい光を放ち続ける。
煌々と輝くその眩さに室内の人々がたじろぐなか、イライザは天高く宝珠を抱え上げた。
「あっ、おい、やめろ!」
「貴様、何するつもりだ! それは神器――」
(こんな違法性しかないものなんて、無くなってしまえばいいのよ――っ!)
「えええっいっ――――!」
イライザは怒り心頭だった。
いわれもない罪状を並べ立てられ、婚約者をあんな女に奪われたことに対する思いで、心が煮えたぎるマグマのように沸騰して収まらない。
宝珠はそんなイライザの想い反映するかのようにさらに明るく輝く。イライザは渾身の力を込めて、宝珠を大理石の床に目掛け叩きつけてやった。
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