水の都の竜麟工房

 竜の鱗にはさまざまな効能がある。
 難病を癒す治癒薬にもなれば、失われた腕を生やしたり、死の寸前の大けがを回復させる治療薬ともなり得るのだ。
 水の精霊王の庇護を受け、水運の発達した古都カルアドネには、一軒の部品屋がある。
 船に積んだ魔導エンジンの修理部品を主に扱うその店では、新たな品目として、「竜鱗」を販売しようとしていた。
 一年前、炎と水の精霊王の争いで婚約者を失った部品屋の娘マーシャ。
 彼女は、その悲しみを乗り越えるため、研修を受けて「竜鱗」の販売資格を取得したのだった。
 エンジン部品の棚がぎっしりと並ぶ店内の隅に、ちょこんと設けられたカウンターと、魔石ガラスによって厳重に警戒された巨大な真紅の竜の鱗。
 販売するには購入する相手の病状を「色」で判断しなければならない。
 新人、調鱗師マーシャは、店を訪れる人たちを癒し、交流を深めることによって、一人前に成長していく。

 公開しております短編「婚約者の死の悼(いた)み方を、彼女は知らない。」の続編となります。
 一部、被る部分もありますが、どうぞよろしくお願いいたします。
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