公爵閣下の契約妻

 呪文を唱えるよりも、魔法の力を封じ込めた『魔石』を活用することが多くなった、そんな時代。

 伯爵家の次女、オフィーリナは十六歳の誕生日、いきなり親によって婚約相手を決められてしまう。
 実家を継ぐのは姉だからと生涯独身を考えていたオフィーリナにとっては、寝耳に水の大事件だった。

 しかし、オフィーリナには結婚よりもやりたいことがあった。
 オフィーリナには魔石を加工する才能があり、幼い頃に高名な職人に弟子入りした彼女は、自分の工房を開店する許可が下りたところだったのだ。

「公爵様、大変失礼ですが……」
「側室に入ってくれたら、資金援助は惜しまないよ?」
「しかし、結婚は考えられない」
「じゃあ、契約結婚にしよう。俺も正妻がうるさいから。この婚約も公爵家と伯爵家の同士の契約のようなものだし」
 
 なんと、婚約者になったダミアノ公爵ブライトは、国内でも指折りの富豪だったのだ。
 彼はオフィーリナのやりたいことが工房の経営なら、資金援助は惜しまないという。
 
「結婚……資金援助!? まじで? でも、正妻……」
「うまくやる自信がない?」
「ある女性なんてそうそういないと思います……」

 そうなのだ。
 愛人のようなものになるのに、本妻に気に入られることがどれだけ難しいことか。
 二の足を踏むオフィーリナにブライトは「まあ、任せろ。どうにかする」と言い残して、契約結婚は成立してしまう。

 平日は魔石を加工する、魔石彫金師として。
 週末は契約妻として。
 オフィーリナは週末の二日間だけ、工房兼自宅に彼を迎え入れることになる。

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