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第九話
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それは彼も感じていたらしく、「世間話をしている暇はないのでは?」と逆に尋ねられる始末。
この現状を誰が生み出したと思っているのですか、と強く叫びたくなったが、我慢する。
とりあえず、学院を出よう。
このまま、殿下の元にもどる方法もある。
待っているのは、反逆罪と暴漢の逃亡ほう助の罪を盾に、私を断罪する未来だろうけれど。
「賢い判断だ」
「あなた様にはもう無関係のことです。お早く、安全な場所にお逃げ下さいませ」
このよく分からない、通りすがりの貴公子には大したお礼はできないけれど、このくらいの挨拶は許されるだろう。
この時ばかりは、淑女らしく、きちんとした一礼をしてその場で踵を返した。
もう追いかけては来ないだろう。
それがお互いの為だと、彼も理解しているはずだから‥‥‥。
と、思っていたのに。
「どうして付いてくるのですか」
「君が俺の行く方角を目指しているだけだ」
「祖父の弟子になるような有能な魔導師なら、転移の呪文でも唱えて、ここから去れば良いではありませんんか」
出口に進むにつれて、生徒たちの数が減り、代わりに門扉まで続く幾つかの入り口の側に立つのは、学院が雇っている衛士たちだ。
学院内は治外法権。
例え王族といえども、この衛士たちに命令はできない。
学院長がそう命じない限り、彼らが敵にも味方にもなることはない。
「おもどりですか、侯女様」
「ええ、本日は早退します。学院長には、後日。父を通して連絡いたしますと、伝えなさい」
「かしこまりました。お気をつけてお戻りくださいませ」
そんなやりとりが数度交わされ、その度に、分厚い木製の扉であったり、鉄の門扉であったりが開かれていく。
我が家の御者が待つ馬車溜まりまで足を向けることには、成功した。
後は、ここから馬車を走らせて、お父様の元に向かうまで。
本日は、役宅にて仕事に励んでいるはずだった。
「ところで、あなた。いつまでいらっしゃいますの? 魔導師ならば、魔導師らしく、空でも飛んで消えたらいかがですか?」
そうなのだ。
さっきから、この栗色の髪をした赤銅色の肌の大男は、ずっと私の側から離れようとしないのだ。
それどころか、衛士たちに挨拶をし、まるで私専属のボディーガードのように振る舞う始末。
まるで理解が追いつかない。
「それは無理だ。ここの敷地内では、魔法を行使することが禁じられている。唱えても発動しないように、封じる結界まで張られているからな。出たら、そうすることにしよう」
「……出たらッて。私をこの敷地内から出るための道具にするおつもり?」
「いやいや、そんな気はないが。しかし、それは名案だな」
「……最っ低!」
もう、本当にどうにかして欲しいと思い始めていた。
あんな嫌な目にあったばかりで、信じていた男性にも裏切られたばかりなのに!
ここまで振り回す気ならば、恩人だと思っていても、もう関係はない。
御者たちの待合室で談話を楽しんでいた下男を呼び出し、そのまま我が家の四頭建ての馬車に乗り込もうとして―ー私の足は、嫌なものを見つけてしまい、ぴたりと止まった。
いや、待ち伏せされていた、というべきだろうか……。
そこには、あのミザリーと、その取り巻きたちが待ち構えていたからだ。
品のないごろつきのような顔をした、貴族の次男、三男たちが十数人。
私をその目に認めると、いやらしげな顔をして、こちらに向けて微笑みかけてきた。
この現状を誰が生み出したと思っているのですか、と強く叫びたくなったが、我慢する。
とりあえず、学院を出よう。
このまま、殿下の元にもどる方法もある。
待っているのは、反逆罪と暴漢の逃亡ほう助の罪を盾に、私を断罪する未来だろうけれど。
「賢い判断だ」
「あなた様にはもう無関係のことです。お早く、安全な場所にお逃げ下さいませ」
このよく分からない、通りすがりの貴公子には大したお礼はできないけれど、このくらいの挨拶は許されるだろう。
この時ばかりは、淑女らしく、きちんとした一礼をしてその場で踵を返した。
もう追いかけては来ないだろう。
それがお互いの為だと、彼も理解しているはずだから‥‥‥。
と、思っていたのに。
「どうして付いてくるのですか」
「君が俺の行く方角を目指しているだけだ」
「祖父の弟子になるような有能な魔導師なら、転移の呪文でも唱えて、ここから去れば良いではありませんんか」
出口に進むにつれて、生徒たちの数が減り、代わりに門扉まで続く幾つかの入り口の側に立つのは、学院が雇っている衛士たちだ。
学院内は治外法権。
例え王族といえども、この衛士たちに命令はできない。
学院長がそう命じない限り、彼らが敵にも味方にもなることはない。
「おもどりですか、侯女様」
「ええ、本日は早退します。学院長には、後日。父を通して連絡いたしますと、伝えなさい」
「かしこまりました。お気をつけてお戻りくださいませ」
そんなやりとりが数度交わされ、その度に、分厚い木製の扉であったり、鉄の門扉であったりが開かれていく。
我が家の御者が待つ馬車溜まりまで足を向けることには、成功した。
後は、ここから馬車を走らせて、お父様の元に向かうまで。
本日は、役宅にて仕事に励んでいるはずだった。
「ところで、あなた。いつまでいらっしゃいますの? 魔導師ならば、魔導師らしく、空でも飛んで消えたらいかがですか?」
そうなのだ。
さっきから、この栗色の髪をした赤銅色の肌の大男は、ずっと私の側から離れようとしないのだ。
それどころか、衛士たちに挨拶をし、まるで私専属のボディーガードのように振る舞う始末。
まるで理解が追いつかない。
「それは無理だ。ここの敷地内では、魔法を行使することが禁じられている。唱えても発動しないように、封じる結界まで張られているからな。出たら、そうすることにしよう」
「……出たらッて。私をこの敷地内から出るための道具にするおつもり?」
「いやいや、そんな気はないが。しかし、それは名案だな」
「……最っ低!」
もう、本当にどうにかして欲しいと思い始めていた。
あんな嫌な目にあったばかりで、信じていた男性にも裏切られたばかりなのに!
ここまで振り回す気ならば、恩人だと思っていても、もう関係はない。
御者たちの待合室で談話を楽しんでいた下男を呼び出し、そのまま我が家の四頭建ての馬車に乗り込もうとして―ー私の足は、嫌なものを見つけてしまい、ぴたりと止まった。
いや、待ち伏せされていた、というべきだろうか……。
そこには、あのミザリーと、その取り巻きたちが待ち構えていたからだ。
品のないごろつきのような顔をした、貴族の次男、三男たちが十数人。
私をその目に認めると、いやらしげな顔をして、こちらに向けて微笑みかけてきた。
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