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エピローグ

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「ライオネル……?」

 返事はない。
 軍服の上着を脱ぎすてより身軽になった彼は、リオーネの右胸へと手を伸ばした。

 あの夜会のときと同じようにごつごつとしたたくましい手が、うちに収まる果実を包み込む。
 掌から直接知ることのできる熱さに、つい喘いでしまう自分をリオーネははしたなく思った。

「ひっ……、ん、いっ!」

 唇に覆われた乳首が心地よく甘いしびれを伝えてくる。
 激しく音を立てて吸い上げる彼の姿が目のなかで踊り、吸い上げられた音が耳奥に響くと、リオーネの呼吸は乱れおさまりがつかない。
 舌先で膨らみを弄ばれ転がされると、それだけで鋭い心地よさが脳を支配して腰が無意識のうちにくねりだす。

「あ、ああ、うっ」
「力を抜いて、リオーネ。それじゃ舐めれないよ」
「やっ、やだ。そんなとこ、やだ」

 まるで処女のように恥じらいながら、リオーネはそれでも命じられたとおりに膝を開いてしまう。
 それは緩やかな抵抗だったが、彼の尖らせた舌先がスカートをまくり上げた太ももを這い、膝裏にキスをし、臍までを一気に舐めあげる。
 しかし、大事な部分には触れもせず、ようやく求めていた秘部にそっと手を置かれ、リオーネははっ、と息を呑む。

 目を向けたらふっ、と柔らかな息を吹きかけられ、薄い布こしにくすぐられてリオーネはくうっ、と息を呑んだ。
 薄布をはぎとられ、淡い恥毛を指先でさらさらと弄られる。

「久しぶりのリオーネだ」
「やっ、ばか……」
「柔らかくて、熱くてとても小さい。なのにもう僕を迎えたように豊潤になっている」
「やめっ……あ」

 今までの愛撫がやみ、小さな蕾を吸い上げられると、花弁の間からとろとろとしたものがとめどなくあふれ出る。
 甘くどことなく酸っぱいもののような匂いが、天幕のなかに充満したような気分になり、リオーネは恥ずかしさと心地よさで頭がぼうっとしてしまう。

「いつもより濡れているよ、リオーネ」
「やめ、どうしてこんな……ごめんなさい、わたし、どうして」

 愛する男と再会できた安心がそうさせたのだろう。
 今は彼を求めることにだけ夢中になっている自分がいた。
 そして、優越感も。

――女神ラフィネ、あなたは彼をこうして愛せない。絶対に譲らない!

 そうかたく誓った瞬間、「リオーネ、君が欲しい」と耳元でささやかれ、思わず軽く達してしまう。
 求められている事実だけが、いまは価値のあるものだった。

「わたしも、ライオネル様が、欲しい」

 口にした瞬間、尊いものを見るような眼差しでライオネルはリオーネにうなづくと、彼の剛直したものが下腹部にこすりつけられ、秘裂へとあてがわれた。
 ぐっと挿入される力強さに、ライオネルが生きていたことの喜びをかみしめる。

「あっ、ああ、あああっ……ライオネル! 大好き、貴方が好き」
「僕もリオーネが大好きだ! 愛している、リオーネ!」

 彼の肉棒が膣奥を行き来するたびに、リオーネはいままでに感じたことのない絶頂を味わっていた。
 しばらく愛し合い時間をもたせた二人を待っていたひとびとは、天幕の外で微妙な雰囲気を作っていた。
 不思議がるリオーネにリンシャウッドが「元気ね」と一声かける。
 それだけで天幕の遮音魔法が作動していなかったことを悟り、二人して顔を真っ赤に染め上げた。

「殿下、ヴェルディ侯爵がはせ参じております」
「侯爵が?」

 いぶかしむライオネルの腕を引き、リオーネは自分が侯爵ラモンとした取引を語った。
 皇弟殿下の危機に際して真っ先に動いたのはリオーネではなく、ラモンといったことにするなど、取り決めたことを語る。

 なるほど、と合点がいったライオネルはここへ呼ぶように、と部下に伝え天幕へと戻った。

「陛下に対抗する虫をあぶりだすいい機会かもしれない」

 と、作戦室で彼はにまり、と笑う。それは戦に長けた優れた戦士だけができる、陰謀と策略に長けた笑みだった。

「ライオネル様、黒竜の騒動で大変でしたな。ヴェルディ駆けつけましてございます」
「ご苦労だった、侯爵。そして、遅いな」
「は……?」
「モンテファン女伯爵は昨夜のうちに来てくれた。少数精鋭で駆けつけ、この僕の窮地を救ってくれたんだ」

 と、ライオネルは隣に座るリオーネを手で示して褒め称える。彼女が薄い笑みとともに「侯爵閣下のご命令がお先にありましたから」と功績は侯爵のものだ、と告げるとライオネルはそうかといい、「陛下にはそうお伝えする」と約束した。

「ところで、ミネルバ公女は誰の推薦でこの作戦に?」
「は。それは我が侯爵家とアーバンクル公爵家の両家による推薦でして」

 ヴェルディ侯爵はミランダが犯した罪を知らない。
 公女は皇弟を救えず、別の女神の信徒であるリンシャウッドが結果として彼を救った。
 その上、公然の婚約者であるリオーネを皆の前で侮辱し、あまつさえ暴力まで振るった。
 その罪は許されるものではない。上司にもお咎めはあるべきだ。

「黒竜退治はもう終わった。しかし、問題がひとつある」
「と、いいますと? 後始末ということでしたら、我が軍で処理を……」
「そんなことじゃない。神殿に関係する名家の者が、帝室の血を絶たせようとしていることについてだ」
「いえ、そんなはずは――ミランダ様! ミランダ様はどこにおられるのですか!」
 場に姿が見えないことにようやく気付いた侯爵が叫ぶも、ライオネルは冷たく答えた。
「この陣屋にはいない。もう帝都に送還した。ミランダ殿は僕の窮地を救えず、功労者であるモンテファン女伯爵家を侮辱し、暴力まで振るった。これは許されることではない。侯爵にも、是非、罪を問いたいものだ」
「し、そ――そんな話は……。この国は帝国の貴族は法で守られております。貴族院が勝手なことを許すはずがない……」

 くくっ、と冷血皇弟の名に恥じず、ライオネルは冷酷な笑い方をして見せた。
 味方であれば力強く、敵であれば死を予期する。そんな笑みだ。

「面白いな、侯爵。ここでは僕が司令官だ。どんな行為も、軍規によって裁かれる。君には帝室への反逆罪を問うことにしよう。あのような部下を持っただけで大罪だ」
「ば、ばかな。ここにいるのは我が軍が優勢で――」
「それは戻れれば、の話だろう?」
「な……」

 と、そこでヴェルディ侯爵は声を止めた。いや、出せなくなったというのが正しい。瞬きする間もなく鞘から引き抜かれたライオネルの聖剣が、彼の首を刎ねていたからだ。

「さて。これで静かになるだろう。しばらくは、な」

 婚約者がとった凄まじい行動に、リオーネは呆然となる。
 だが、女伯爵としてのプライドが彼女を奮い立たせた。

「ヴェルディ侯爵軍の管理を配下であったわたしが引き継ぎます。意義のある者はこの場で挙手を」

 しかし、手は上がらない。
 事情を知らない侯爵軍は、黒竜を数体打ち倒した英雄が命じたとあって、静かにリオーネの麾下へと下ったのだった。



 三ヶ月後。
 約束通り芸術の都ラズで二人は再会した。
 ライオネルは帝都で後始末があったし、リオーネは侯爵領を暫定的に統治するという雑務に追われてしまい、なかなか時間が合わなかったからだ。
 再会した船上でライオネルは報告がある、と告げた。

「女神ラフィネと話しができるようになった」
「えっ、それって――」

 ライオネルは女神の寵愛を取り戻し、みごと、聖騎士への復帰を果たしたのだった。
 さらに、「ミネルバが投獄になった」と告げる。
 次期聖女だと目されていた彼女だが、公爵家と侯爵家を含む反皇帝派の先鋒として担がれていたこともあり、ライオネルを治癒できなかったことで罪に問われたのだった。

「帝城の塔に幽閉された。もう二度と出てくることはないだろう」
「そう……残念ね」
「ああ見えて自分のお気に入りの騎士を聖騎士にしようとしていたらしいんだ。末恐ろしい女だよ」
「そうなの? だから癒さなかったとか――?」

 さあ、それはどうだろう? とライオネルは口元を緩める。
 もし、そうだったとしても必ず運命に抗ったと言いそうだ。

「ラフィネは呪いを嫌がっていたんじゃない。伯爵に侯爵家が命じたあることを嫌がっていたんだ」
「命じたこと? 特になにか命じられたことはないけれど?」
「君の前夫君たちのことさ。彼等は異なる業種で功績をあげ、陛下に近づくことを狙っていた」
「まさか?」
「そう。陛下の暗殺を命じらえていたのさ。だから、ラフィネは呪いを与えた。彼等にね、ただ――君を巻き込んでしまった。逆行転生は女神が君に与えた恩寵だったんだ」

 肌をくすぐる南国の海風に髪をもてあそばれながら、なら、どうしてわたしたちの婚約は認められなかったの? と問いたいリオーネにライオネルは言葉を続ける。

「僕たちの結婚は、ヴェルディ侯爵が邪魔をして僕が死ぬ危険性があった。でも、黒竜の一件は、女神にも予想外だったらしい」
「神々のお考えはよくわからないわ。だって、あの子だって聖女の血を引いているのに」
「分からないかい? 女神ラフィネは恩著を与えた。僕にも君にも。それは四度目の死で世界を変えるために必要な事だった」

 はっとなる。
 ないかを悟った気分だ。
 彼が死に、自分が逆行転生し、危機を回避して――反皇帝派を叩き潰す。
 そのために利用されたのだと分かると、女神ラフィネに対して無性に腹立たしい気分になった。

 しかし、ここは異国。
 女神も関係ない。

「まあ、いまとなってはどうでもいい。それより、来春の結婚のことだけれど」

 リオーネは自分も報告があると、と伝えた。

「結婚はもう少し早い方がいいと思うの。でないとお腹が大きくなってドレスが着れなくなるわ、ライオネル」
「え? 嘘だろ、本当か、リオーネ!」
「ええ、そうよ。あなたはもう孤独じゃないの。新しい家族がここにいるのよ、ライオネル」

 リオーネはそういうと、彼の手を取りそっと自分のお腹に当てて見せた。
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