お飾りの側妃となりまして

秋津冴

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 砕石運搬船の乗組員達と別れる。自分がこれから乗る予定だった船に移動した。
 気をつけて行ってらっしゃいと、砕石運搬船の乗組員たちが大きく手を振ってくれる。

 私たちの船は、ようやく到着したある人物たちを同乗させると、ゆっくりと港を離れた。
 帝国の派遣した指南役の竜騎士達だった。

「どのあたりかしら。ここからでは見えないわね」

 そうは言っても海面は遠い。
 ここからは何かがバシャバシャとはしゃいでいるようにしか見えない。

「これでご覧になられますか?」
「ありがとう船長」

 今乗っている船は、王室御用達の船で、マストが4本もある巨大な軍艦。
 外洋を守っていたのを、わたしがこの港に来るということで、陛下が先回りして待機させていたのだという。

 港にあった商船よりもふた回りほど大きく、しかしその足はどの国よりも早い。
 船の操舵室に設置されている双眼鏡というよりかは望遠鏡。
 それで賑わっている海面部分をじっと見つめたら、真っ青な羽を持つ水竜が、二頭。

「あれ、あれれ? 飛竜がいる?」

 もう一頭は紅の羽をもつ飛竜だった。
 二頭は体格が小さくオス。

 飛竜の方はメスで体格が大きい。
 竜はメスの方が身体が大きいのだ。人間とは大違いである。

「三頭、いるように見受けられます。このまま近づいたものかどうか。指南役様はいかがですか?」
「ぶるるるっ、近づくなんてとんでもない。船底が損傷し、座礁してしまいます! 王妃様が乗船されているというのに、とんでもないことです!」

 指南役――竜騎士はみんなほっそりとした鍛え上げた肉体をしている。
 彼が後に従えている四人の若い竜騎士たちもそうだ。誰もが戦士に相応しい風格を携えている。

 しかし、彼はどうだろう。
 ぼよんと突き出たお腹、たるんだ頬、あごの周りには生やしてはならないはずの髭まで生やしている。

「随分とだらしない格好された、指南役様ですこと」
「なっ、なんと! 私は王妃様の心配をしてですな!」

 竜に乗るとき、肉体を守るため、多くの防具を身に付けなければならない。
 顔に被るヘルメットなどはその良い例で、顎下で紐を金具で止める。

 だけど、万が一、怪我をしてヘルメットを脱がせるときに、ヒゲがあっては絡まって脱がせるのが手間な時があるのだ。
 その意味で、帝国の定めた規定に背く彼は、もはや指南役でも、竜騎士でもなんでもなかった。

 ただの旅行にきた貴族である。

「帝国の規約では髭を生やすことを禁止しています。私も飛竜に良く載っていましたから、法規はよく知っています。水竜に乗り、水中や海中で彼らに命じて作業をしたこともあります」
「そっ。それは……はい、存じ上げております。この竜騎士ガルド、僭越ながら姫君だったご自分に教鞭を――」
「あなたに教えを受けた覚えはありません。私の教師は竜であり、帝国の竜騎士でも飛竜を駆り大空を飛ぶことができる者は少ない。水竜と共に潜ることができる者など、それこそ数えるほどです。あなたのような人物なんて、私は存じ上げませんし、あなたの能力は私よりも低い!」
「なっ、なんと無礼な! それではこの竜騎士ガルドの能力がまるでないような、お言葉ではありませんか!」

 ええ、ええ。そうですとも。
 あなたは無能の上に、愚かな竜騎士だわ、ガルド。

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