お飾りの側妃となりまして

秋津冴

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 竜が荒らしている漁場問題を解決するのは領主の役目。

 それを解決した後に、王妃が手柄を独り占めしたら、それはまるで、帝国の権勢を王宮で強めることに他ならない。
 祖母の皇后陛下は、公国からやってきた第一王妃の権力が強くならないように、王国で帝国の力を強めろとわたしに命じた。

 それは理解している。けれども今回の問題は土地の位置関係なのだ。
 指南役の竜騎士たちが、ここから直接帝都へ戻ろうとするくらい、ここは帝国の国境線から近すぎる。

 ここで問題を解決すれば陛下の覚えはさらに良くなるだろう。
 王国の海運問題だって、一気に解決する。

 王国の宮廷政争の中、公国と帝国の勢力図は大きく塗り変わる可能性がある。
 ついでに、公国本国を焦らせて、変な噂を立てられかねない。

 例えば――。

「帝国の姫が、帝国と商売をしている領主と手を組んだ。とか言われかねませんから」
「ご自身の身を案じていらっしゃいますか」
「そうね。私はただ、側妃としてきただけ。それ以上の地位は望んでいないわ。三国が争っているというのに、狭い宮廷の中でまで、毎日顔を突き合わせれば嫌味でも言い合うの? 相手を憎み合う? そんな人生楽しいと思われますか、伯爵」
「……自分には返事を致しかねますが」
「けれどわからないこともない、ですよね?」

 伯爵は返事をせず軽く目配せをした程度。
 それでもわたしの意図を汲んでくれるようだ。

 この一件がうまく落着したら、それは彼の手柄ということで、まず合意ができた。
 次にすることは、竜騎士たちをここに呼ぶことだ。

 でもその前に確認。

「お願いした通り、あれは船に積み込んでくれたかしら?」

 この件については、ジョブスが返事をした。

「いち早くご命令をいただきました。その内容にしたがって、二日ほど前の夜から、海へばらまいております」
「ありがとう。そちらにとっても不要なもの。上手く利用できればいいわね」
「しかし……」

 今度は伯爵がうーん、と考え込む。

「あのような廃材が本当に役立つのでしょうか? 魔石の搾りかすのようなただの砂粒。いわば、ゴミの山ですぞ」
「でも、処分に困っていた。でしょう?」
「確かに、もう採掘し終わった廃坑に埋め戻すことでしか、役立ちません。水はけが良すぎて、雪解けになると地下水が増え、河の増水まで起こり海が濁る。漁場が荒れる始末です」

 彼の言葉には不満がたくさんたまっている。それも今回の件で解決するだろう。
 これからは彼らに処分を依頼すればいいのだから。

「今度から、彼らが役立ってくださいますよ。竜たちが」

 わたしは伯爵に向かい、あくどい笑みを作ったのだろう。
 彼は弱冠引き気味に、「そうですか」と頬を引きつらせていた。
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