12 / 30
12
しおりを挟むテレンス様、と後ろからイリヤが小さく声を掛けてくる。
か細いその声は不安で包まれていた。
あら、私はこの程度でおしかりを受けるとは思ってないんだけどな。
だって、陛下は困ったという感じにかおをちょっとだけしかめただけだもの。
未成年の側妃が我がままを言っている。
そう受け止めて貰えるようにこちらは語っているだから、相手の反応は予測できたものだ。
「どうしてそんな嫌味を思いつく」
「別に嫌味などではありません」
つまり、この王国には、彼の条件に見合う竜騎士はいないわけで。
答えを導き出すには時間がかからなかった。
では、と国王陛下は思案していた。
私の興味が、単に竜に向けられている幼い憧れのそれなのか、もっと別の思惑があるのかを計っているようだった。
私より色の深い赤毛を片手で掻きあげると、私より深い青の瞳の片方を閉じ、ちらちらとこちらと周囲の反応を気にしている。
どうやら、騎士たちの体面があるからこれ以上は口を慎むように、そんな指示のように思えた。
「騎士たちは帝国の竜騎士のように、竜に慣れていない。この王国には竜そのものの数が少ないからな‥‥‥王国の騎士団から指南係を招いてはいるが、さて」
「指南係? そんなものがいるのですね」
「いるんだよ、これが。しかし、海竜をうまく手なずける前に帰国を考えておられるようでな」
「帝国から派遣されているというのに、勝手にそんなことができるはずが」
「ない、と思うだろう? しかし、人は何でもかんでも、王の命令に従うということはないのだよ。何か理由をつけて待遇を変えさせたり、自分から都合よくなるように動く人間もいる。戻ると言うものを無理に引きとめても仕方あるまい」
「だけど、それでは帝国の‥‥‥皇后陛下の面目が保てないことに」
「そうだな?」
と、陛下はにんまりとほほ笑んで私を見た。
どうにかしてみろ、できたら竜と遊んでもいい。
そう言っているように聞こえる。
いやいや、それは私の仕事ではないでしょう? それこそ国王陛下の采配が――いえ、待って。
たかだか一指南役の帰国に、王国の最高責任者、自らが動くというのも変な話じゃない?
戻ったなら、任務放棄を帝国に訴えて、新たな指南役を派遣して貰えばいいわけだし。
そうなるとそこにこそ、私の助言が活かされてくるわけだから‥‥‥。
「陛下、どうして内々の視察に赴かれたのですか」
自然とそんな質問が私の口を突いて出た。
陛下は「さてな」と会話の主導権を握ったように片頬を上げる。
どうやら、王国内で帝国の人間が何やら悪さをしているようだった。
11
お気に入りに追加
232
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

愛する旦那様が妻(わたし)の嫁ぎ先を探しています。でも、離縁なんてしてあげません。
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
【清い関係のまま結婚して十年……彼は私を別の男へと引き渡す】
幼い頃、大国の国王へ献上品として連れて来られリゼット。だが余りに幼く扱いに困った国王は末の弟のクロヴィスに下賜した。その為、王弟クロヴィスと結婚をする事になったリゼット。歳の差が9歳とあり、旦那のクロヴィスとは夫婦と言うよりは歳の離れた仲の良い兄妹の様に過ごして来た。
そんな中、結婚から10年が経ちリゼットが15歳という結婚適齢期に差し掛かると、クロヴィスはリゼットの嫁ぎ先を探し始めた。すると社交界は、その噂で持ちきりとなり必然的にリゼットの耳にも入る事となった。噂を聞いたリゼットはショックを受ける。
クロヴィスはリゼットの幸せの為だと話すが、リゼットは大好きなクロヴィスと離れたくなくて……。

【完結】巻き戻りを望みましたが、それでもあなたは遠い人
白雨 音
恋愛
14歳のリリアーヌは、淡い恋をしていた。相手は家同士付き合いのある、幼馴染みのレーニエ。
だが、その年、彼はリリアーヌを庇い酷い傷を負ってしまった。その所為で、二人の運命は狂い始める。
罪悪感に苛まれるリリアーヌは、時が戻れば良いと切に願うのだった。
そして、それは現実になったのだが…短編、全6話。
切ないですが、最後はハッピーエンドです☆《完結しました》

公爵令嬢は嫁き遅れていらっしゃる
夏菜しの
恋愛
十七歳の時、生涯初めての恋をした。
燃え上がるような想いに胸を焦がされ、彼だけを見つめて、彼だけを追った。
しかし意中の相手は、別の女を選びわたしに振り向く事は無かった。
あれから六回目の夜会シーズンが始まろうとしている。
気になる男性も居ないまま、気づけば、崖っぷち。
コンコン。
今日もお父様がお見合い写真を手にやってくる。
さてと、どうしようかしら?
※姉妹作品の『攻略対象ですがルートに入ってきませんでした』の別の話になります。
婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。
国樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。
声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。
愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。
古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。
よくある感じのざまぁ物語です。
ふんわり設定。ゆるーくお読みください。


【完結】恋を失くした伯爵令息に、赤い糸を結んで
白雨 音
恋愛
伯爵令嬢のシュゼットは、舞踏会で初恋の人リアムと再会する。
ずっと会いたかった人…心躍らせるも、抱える秘密により、名乗り出る事は出来無かった。
程なくして、彼に美しい婚約者がいる事を知り、諦めようとするが…
思わぬ事に、彼の婚約者の座が転がり込んで来た。
喜ぶシュゼットとは反対に、彼の心は元婚約者にあった___
※視点:シュゼットのみ一人称(表記の無いものはシュゼット視点です)
異世界、架空の国(※魔法要素はありません)《完結しました》
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる