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しおりを挟むその海竜をどうにかすれば、私に王国内の対する評価も上がるのではないだろうか、と頭の片隅に妙案が浮かぶ。
海竜を手懐けて、王国の海運を再興させる。
海運と流通が盛んになれば、王国経済も不況を脱することができる。
そうしたら、私の手柄ということで‥‥‥。
王国民の私に対する評価――もとい、帝国への好感度も上がるに違いない。
と、そんな浅薄な考えは、顔に出ていたのか。
いや、出した覚えはないのだけれど。
「そなたは行かなくて良いぞ。王室の者がこんな惨事に関わるのは間違いだ」
「あっ……いいえ、そんな気は‥‥‥」
あっさりと見破られてしまった。
王国の騎士たちよりは竜とつながりが深いのですが、私。
そこは認めて頂けないのでしょうか、陛下?
薄っすらと浮かべた作り笑いを看破したのか、ヴィルス様はにやにやとほほ笑んでいた。
まるで、小娘の浅はかな知恵を見抜いた、とでもいいたいように。
「王妃もそなたも若い。そんな無謀なことをする必要はどこにもない。そうだろう?」
「はっ、はい。陛下。そうですね。そうですが、そのために二週間も王宮を開けていらしたのですか」
「二週間だけしか開けられないのだ。国益に関する問題だというのにな」
「ではっ、側妃が陛下の代わりにその難題に手を挙げる、というのはいかがでしょうか」
「はあ?」
陛下が胡乱な顔をして訝し気に目を細めた。
そこにはどれほどの私的な好奇心があるのだ、と言われそうだった。
いやいや、ここで引くべき理由はないでしょう?
危険どうこうなんてことよりも、竜ですよ、竜。
そしてそれを手懐けることができれば、王妃様の冷たい仕打ちも多少はまともになるはず。
まあまだ一度しかその洗礼を受けていないけれど、二度は三度。三度は四度と続くだろうから。
先手を打って陛下の覚えを良くしておくのも、ここは一つの良策、ということにしておく。
「いえ、はあ、ではなくてですね。これは竜と長く親交を深くしてきた我が帝国の。いいえ、帝国出身である私にこそ相応しい役柄ではないか、と。そう思いまして」
「例え相応しいとしてもそれなら帝国出身の元竜騎士を雇う方が正しいと、私は思うな」
「……」
「正論だろう?」
ぐうっ、の音も出ない正論である。
まさしく百点満点に近い模範解答のような気がする。
ただし、そんな竜騎士が都合よくいるとすれば、の話だけれども。
帝国は竜騎士たちを厚遇している。
引退しても他国に移住したりしないよう、家族を帝都に置かせ、人質として扱いことも多い。
一度、竜騎士になれば貴族として平民から成り上がることもできる、出世への第一歩とも言える。
そこで試しに質問してみた。
「陛下の思し召しに明るい元竜騎士など、この王国にはいるのでしょうか?」
「む‥‥‥っ」
ちょっと意地悪なその問いかけに、陛下の顔は渋くなっていた。
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