11 / 30
11
しおりを挟むその海竜をどうにかすれば、私に王国内の対する評価も上がるのではないだろうか、と頭の片隅に妙案が浮かぶ。
海竜を手懐けて、王国の海運を再興させる。
海運と流通が盛んになれば、王国経済も不況を脱することができる。
そうしたら、私の手柄ということで‥‥‥。
王国民の私に対する評価――もとい、帝国への好感度も上がるに違いない。
と、そんな浅薄な考えは、顔に出ていたのか。
いや、出した覚えはないのだけれど。
「そなたは行かなくて良いぞ。王室の者がこんな惨事に関わるのは間違いだ」
「あっ……いいえ、そんな気は‥‥‥」
あっさりと見破られてしまった。
王国の騎士たちよりは竜とつながりが深いのですが、私。
そこは認めて頂けないのでしょうか、陛下?
薄っすらと浮かべた作り笑いを看破したのか、ヴィルス様はにやにやとほほ笑んでいた。
まるで、小娘の浅はかな知恵を見抜いた、とでもいいたいように。
「王妃もそなたも若い。そんな無謀なことをする必要はどこにもない。そうだろう?」
「はっ、はい。陛下。そうですね。そうですが、そのために二週間も王宮を開けていらしたのですか」
「二週間だけしか開けられないのだ。国益に関する問題だというのにな」
「ではっ、側妃が陛下の代わりにその難題に手を挙げる、というのはいかがでしょうか」
「はあ?」
陛下が胡乱な顔をして訝し気に目を細めた。
そこにはどれほどの私的な好奇心があるのだ、と言われそうだった。
いやいや、ここで引くべき理由はないでしょう?
危険どうこうなんてことよりも、竜ですよ、竜。
そしてそれを手懐けることができれば、王妃様の冷たい仕打ちも多少はまともになるはず。
まあまだ一度しかその洗礼を受けていないけれど、二度は三度。三度は四度と続くだろうから。
先手を打って陛下の覚えを良くしておくのも、ここは一つの良策、ということにしておく。
「いえ、はあ、ではなくてですね。これは竜と長く親交を深くしてきた我が帝国の。いいえ、帝国出身である私にこそ相応しい役柄ではないか、と。そう思いまして」
「例え相応しいとしてもそれなら帝国出身の元竜騎士を雇う方が正しいと、私は思うな」
「……」
「正論だろう?」
ぐうっ、の音も出ない正論である。
まさしく百点満点に近い模範解答のような気がする。
ただし、そんな竜騎士が都合よくいるとすれば、の話だけれども。
帝国は竜騎士たちを厚遇している。
引退しても他国に移住したりしないよう、家族を帝都に置かせ、人質として扱いことも多い。
一度、竜騎士になれば貴族として平民から成り上がることもできる、出世への第一歩とも言える。
そこで試しに質問してみた。
「陛下の思し召しに明るい元竜騎士など、この王国にはいるのでしょうか?」
「む‥‥‥っ」
ちょっと意地悪なその問いかけに、陛下の顔は渋くなっていた。
10
お気に入りに追加
225
あなたにおすすめの小説
記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
安らかにお眠りください
くびのほきょう
恋愛
父母兄を馬車の事故で亡くし6歳で天涯孤独になった侯爵令嬢と、その婚約者で、母を愛しているために側室を娶らない自分の父に憧れて自分も父王のように誠実に生きたいと思っていた王子の話。
※突然残酷な描写が入ります。
※視点がコロコロ変わり分かりづらい構成です。
※小説家になろう様へも投稿しています。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
リアンの白い雪
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
その日の朝、リアンは婚約者のフィンリーと言い合いをした。
いつもの日常の、些細な出来事。
仲直りしていつもの二人に戻れるはずだった。
だがその後、二人の関係は一変してしまう。
辺境の地の砦に立ち魔物の棲む森を見張り、魔物から人を守る兵士リアン。
記憶を失くし一人でいたところをリアンに助けられたフィンリー。
二人の未来は?
※全15話
※本作は私の頭のストレッチ第二弾のため感想欄は開けておりません。
(全話投稿完了後、開ける予定です)
※1/29 完結しました。
感想欄を開けさせていただきます。
様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。
ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、
いただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。
申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。
もちろん、私は全て読ませていただきます。
※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
【完結】巻き戻りを望みましたが、それでもあなたは遠い人
白雨 音
恋愛
14歳のリリアーヌは、淡い恋をしていた。相手は家同士付き合いのある、幼馴染みのレーニエ。
だが、その年、彼はリリアーヌを庇い酷い傷を負ってしまった。その所為で、二人の運命は狂い始める。
罪悪感に苛まれるリリアーヌは、時が戻れば良いと切に願うのだった。
そして、それは現実になったのだが…短編、全6話。
切ないですが、最後はハッピーエンドです☆《完結しました》
完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
公爵閣下に嫁いだら、「お前を愛することはない。その代わり好きにしろ」と言われたので好き勝手にさせていただきます
柴野
恋愛
伯爵令嬢エメリィ・フォンストは、親に売られるようにして公爵閣下に嫁いだ。
社交界では悪女と名高かったものの、それは全て妹の仕業で実はいわゆるドアマットヒロインなエメリィ。これでようやく幸せになると思っていたのに、彼女は夫となる人に「お前を愛することはない。代わりに好きにしろ」と言われたので、言われた通り好き勝手にすることにした――。
※本編&後日談ともに完結済み。ハッピーエンドです。
※主人公がめちゃくちゃ腹黒になりますので要注意!
※小説家になろう、カクヨムにも重複投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる