お飾りの側妃となりまして

秋津冴

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「反対するものだと思っていたわ」
「断れば帝国から追放されますから。やっぱりそれはちょっと‥‥‥」
「わかっているならそれでよろしい。お前の夫になる相手は、テイラー国王その人です」
「は?」
「何よ。四十越えた男が相手では不満だというの?」
「いえ、そんな話じゃなくて‥‥‥王子と皇女の。そういう話ではなかったのですか」

 王族と皇族との結婚だし。
 格式と家柄だけ高いけれど武力がない王国が、帝国のそれをあてにしていることは明白で。
 そうなったらやっぱり、年下の王子との婚姻が普通‥‥‥じゃない?

「お前を側妃として迎えたいそうよ」
「嘘」
「本当です。翌月には向かわせますから支度をして待ちなさい」

 側妃とは第二夫人。ある意味、愛人ということで。
 王国と帝国は対等の同盟を結ぶにはいかなくなったということだろう。
 だけれどもそうしなければいけない理由は一つだけあって。
 それは足元にある、大陸の火種。
 ボッソ公国がゆっくりと大陸制覇を目指して動き出しているからだった。


「おばあ様の不機嫌だった原因がこれだったのね」

 挨拶をして謁見の間を退出する。
 まさか王国の方が上位で帝国の方が風下に立つなんて、軍事力でも国力でも優位なのはこちらなのに‥‥‥皇后陛下が弱者から見下された気分になったことは想像に難くない。
 後ろからイリヤが心配そうな声で話しかけてくる。

「どうされるのですかお嬢様。まさかこのまま隣国の国王の側妃になるなんて」
「皇后陛下のお考えだから。変えられるわけがないでしょ」

 それくらい理解しなさいよ。
 私より頭一つ背が低いから、イリヤの足はどうしても遅くなる。
 ある意味八つ当たりをされた気分になっていたから、私は早歩きに。
 そうして宮殿内を歩いていたら、どんどんと距離が開いてしまう。
 だけど、この建物の中でパタパタと音を立てて走ると、はしたない侍女を連れていると、他の皇族や家臣から物笑いの種にされてしまう。

「もう少しだけ頑張って早く歩きなさい」
「はいっ」

 飛竜に乗るための装備――分厚い革製の上着や、激しい乱降下で内臓を痛めないための胴衣、気温が低い大空を飛ぶための手袋に帽子‥‥‥その他もろもろ。
 男の下男に持たせても重たいだろうそれをまとめて抱えるイリヤが遅くなるのは、道理かもしれない。
 後二つ三つほどの角を曲がったら私の部屋にたどり着く。
 それまでしばらく頑張りなさい、と声をかけて私はまだ見ない結婚相手が四十代か~と、混乱したまま部屋に向かったのだった。
 
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