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ジェラード博士の歴史学講義

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「トヨミは教会についてどこまで聞いてるかな?軽く話したと、ドーソンから聞いているけど」

そういえば。
ドーソンさんそんなこと言ってたな。
と2回相づちを打つ。

【教会とお狐様は対立しているのですよね?】
「そうだね。今のブリーズベリー大司教だいしきょうのせいで、よりいっそう溝ができたと言えるんだ」
【ブリーズベリー大司教ですか?】
「うん。ブリーズベリーというのは、この国のことでね。パティンソン、地図取ってくれる?」
「承知致しました」

敬礼で答えたジェフさんが。
ギャルロンさんの差し出している地図を受けとって。
持ってきてくれた。

「ここの教区を担当しているのが、その名の通りブリーズベリー大司教だいしきょうでね。正確には大主教だいしゅきょうだけど、大司教のが定着してしまっているから、ブリーズベリー大司教と呼んであげて。彼、オキツネサマの子孫なんだけど、ありがとうパティンソン、こっちに置いてくれ」

教区というのは、宗教的な区切りのことで。
たとえば。
市区町村の区切りみたいなそんな感じの。

重要な地区には。
ローマカトリックなら大司教だいしきょう
アングリカンチャーチ聖公会なら大主教だいしゅきょう

がそれぞれ責任者として置かれていた覚えがある。
好きなイギリスの小説に。
そんなようなことが書いてあったはず。

国の名前が教区の名前になってたかは覚えてないけど。
有名どころはカンタベリー大司教だいしきょうだろう。
カンタベリーも本当は大主教だいしゅきょうだったような気がする。

ジェラード君いわく。
ブリーズベリー大司教だいしきょうはお狐様の子孫なのに教会に居るらしい。

どういうことだ?
お狐様のこと教会は毛嫌いしてるって昨日聞いたけど。

と思っていたら。
ジェフさんが机に地図を広げてくれた。
ジェフさんとギャルロンさんに一礼してから地図をのぞきこむ。

そして。
絶句した。

大航海時代前の地図かな?
と思うぐらい簡素な地図だったから。

世界は四角くて。
最果てに行くと滝になってて。
落ちたら二度と戻って来れないよって思われてた時代のヤツ。

真ん中にドンッとある大陸以外。
大陸がまったくない。

よくよく見ると。
大陸のまわりに細かく島がえがかれている。

大小さまざまで。
北のほうにはフィヨルドみたいなのがある。
南のほうもかなりの島が点在している。

南のほうなんか。
海上に散らばる島々の上に難解な文字がある。
国の名前だろうか?

簡素かんそえがかれた地図に見えるが。
海上に描かれた大小さまざまな島が。
大陸と海の境界線海岸線緻密ちみつさが。

この地図の正確さをものがたっている。
つまりこの世界は。
1つの大陸とその周りの島によって形作られている。

現在の地球とは異なる世界に来てしまった。
ということだ。

初めて見る地図に見入っていると。
ジェラード君がクスクスと笑っていた。

ごめん。
周りに人が居るの完全に忘れてたわ。
恥ずかし。

「初めて見る大陸かな?」

コクコクとうなずく。
すると。
ジェラード君は子供に見せるような優しい笑顔で説明してくれた。

「ここが私たちの居るブリーズベリー」

ここ、と言って大陸の一番西。
真ん中より少し北にある出っぱり部分を指さした。

半島全体が1つの国になっているようだ。
トルコみたいな感じの国だ。

ジェラード君の指がある辺りに。
よくわからない言語で国名が書かれていた。

なんだこれ?
アルファベットではない。
ギリシャ文字っぽくもあるけどなんか違う。

えーと。
ブリーズベリーだから。
この長靴とか音楽記号のフラットっぽい文字がBなのか?

「わかったかな?で、ここに、このブリッジフェアパレスがある」

ベリー都市とかパレスとか言ってるのを聞くに。
ここは地球でいうイギリスにあたる国のようだ。

ここ、と指し示したのは。
横に出っぱった半島の一番先。

大陸の最西端の。
通常であれば灯台が建ってそうな場所だ。

へぇ。
ジェラード君は港町の領主さんなのか?

「昨日のバーミンプトンパレスがほんの少しこっち」

こっち。
と指がほんの少しだけ東へ動いた。
地図上では白い○が2つ並んでいる。

向かって。
右がブリッジフェア。
左がバーミンプトン。

と書かれているのだろうが。
例によって読めない。

「バーミンプトンには、パレスの他にも重要な施設がひしめき合っていて、メイフォード地区にあるブリーズベリー大聖堂もその一つ」

あーなるほど。
ブリーズベリー大聖堂はここ一帯の教会の総本山だろう。
つまり。

ケモノの耳のついた俺が教会を刺激しないようにするには。
少しでもバーミンプトンから離れるべきだった。
ということか。

「でだ。ここの大司教だいしきょうがオキツネサマの子孫として、ニセモノの耳をつけて鳴り物入りで教会に入ったはいいけど、交配が進みすぎてオキツネサマのオハライができなかったのさ。教会も大司教もそれを認めないけどね」

ん?
交配?
なんか言い方なかったのかな?

「どうかしたかな?ああ、オキツネサマの子孫でもオハライはできていたんだよ。数代前までは、ね。でも、数代前からオキツネサマ特有の目や耳の形が失われてから、オハライはできなくなってしまってね」

いや。
引っかかったのはそこじゃないんだ。
はらいがなにを意味するのかもわからんし。

目と耳が独特?
尻尾があるのは普通なのか?

そもそも。
俺がお狐様ってなんなんだ?

俺はしがないサラリーマンであって。
お狐様ではないぞ。

さまざまな疑問に苛まれる俺を無視して。
ジェラード君の話は進んでいく。

「教会はオハライもできないオキツネサマもどきを、最初から、よりによってブリーズベリー大司教だいしきょうに据えてしまってね」

ジェラード君は手を叩いて面白そうにケラケラと笑う。
バカだよねぇと。

「のっぴきならなくなって、今に至るのだけど。昨日」

ジェラード君は俺を見据みすえた。

「トヨミが来て一変した。オハライのできる本物のオキツネサマが来てしまったのだから」

ジェラード君にじいっと見つめられてたじろぐ。
だから俺お狐様じゃないから。

それに。
はらいなんて手順知らないし。
期待されても困る。

「王家に囲われる前に、オキツネサマを傀儡かいらいにしたい教会から、トヨミを隠す必要があって、こっちに連れてきたんだ」

あー。
俺声が出ないから。
なにも訴えれないとみなされて。

大司教だいしきょうのゴーストライター…じゃないや。
モノ書きじゃないからライターじゃない。
教会は俺に大司教の代わりにおはらいして回らせようとしているってことか。

その功績を大司教だいしきょうの功績として発表することによって。
教会がけがれはらったと喧伝けんでんすることができる。

そうすれば。

教会の権威は上がり。
信徒は増え。
教会の発言力が増す。

というシナリオか。
わーややこし。

もう一度言うけど。
けがれはらうなんて中二病じみたことできないからな。

ましてや。
お狐様じゃない。
ケモミミと尻尾生えたけど。

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