”オマケ”の狐～番外

花咲く桜の木の枝

２

昼休み。
秋津あきつ専務と共にやってきたのは。
今日の対価とおぼしき桜餅とよもぎ餅。

桜餅は俺の大好物で。
よもぎ餅は。
一度食べたいとこぼしたことのある老舗しにせ和菓子店のもの。

俺が和菓子好きだからって。
和菓子買ってきすぎだと思う。

今日みたいに。
毎週金曜夜運動するせいで。

何食っても太らない俺じゃなきゃ。
今ごろまるまると太ってるぞ。
ボンレスハムみたいになってるぞ。

そんな。
俺の機嫌を取りたいと丸わかりの手土産。

それと共にもたらされた。
１９時に宙そらの字ホテルという通告召集礼状。

引きつりそうな頬を。
なんとか笑みの形に整え。
笑顔で了承した。

専務命令だ。
俺みたいなヒラには。
イエス以外の選択肢はない。

昼食を抜いて。
ホワイトボードに直帰と書いて早退して。

家で腹の中をキレイに洗って。
待ち合わせのホテルへ向かった。

毎週金曜は。
秋津あきつ専務について外回り。
秋津専務がそんなふうに同僚に話をいいふらしているらしい。

それが理由かは知らんが。
毎週金曜の早退は。
表面上はすんなり受け入れられている。

これから起こることに憂鬱ゆううつになりながら。
ロビーで連絡を待っていると。

｛３００１、２０００桜の下｝

と無料通話アプリの通知が入った。

２０階の桜が活いけてある花瓶の下。
そこに３００１号室のキーがあるから早く来い。

そういう通知だ。

緊張をやわらげるために。
軽く深呼吸をして。
２０階を通るエレベーターに向かう。

幸さいわい。
ボタンを押して数秒で空からのエレベーターが来た。

エレベーターホールに人は居らず。
乗るのは俺だけだったのも幸運だ。

もし２０階で下りる人が居たら。
やり過ごさなくてはならないから。

エレベーターに飛び乗って。
閉まるボタンを押してから。
２０階を押す。

ふー。
と一息ついて。
身だしなみを整える。

乱れた髪を直し。
ネクタイを整え。
襟えりを正す。

袖そでを引っぱったところで２０階に着いた。

２０階のエレベーターホールに出ると。
壁側に置かれている壷が目に入った。
桜が活いけてある壷だ。

その裏に手を伸ばすと。
紙に手が触れた。

宙そらの字ホテル。
と書かれた紙だ。

紙を開くと。
３００１号室のキーが出てくる。

エレベーターを振り返り。
３０階の表示を探す。

えーと。
見つけた。

どうやら。
今日は一般の客室らしい。

エレベーターの上ボタンを押して。
再びエレベーターを待つ。

無料通話アプリで。
秋津あきつ専務へキーを見つけたことを報告してから。
ニュースアプリを確認する。

桜が満開だ。
という情報が手に入った。

今度は１分ほど待っただろうか。
嬉しいことに。
今度も無人のエレベーターだった。

扉が閉まったことを確認して。
３０階のボタンを押す。
キーが必要なのは３５階からのようだ。

専務にしては不用心だなぁと思いつつ。
３０階に到着するのを待つ。

ピローン。
という音と共に扉が開く。

３０階にも人は居らず。
無事３００１号室にたどり着けた。