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終わらない夜

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セラは前回の反省を踏まえ、ブルースが昼食を取っている間に持ち場を離れ、拳銃を回収する。ちゃんと弾倉に弾をフルに詰め、自室に一旦持ち帰る。

今回で終わりにする。すべての男どもを殺す計画を入念に頭の中でシュミレートし4回目の夜を迎える。








「おい。ロン、もう一度聞くけど、本当に屋敷の主はいるのか?留守なんてことはねぇよな」

「安心してくれ、今日は休日だっていっただろ」

ロンを先頭に7人の男たちが庭の端をこそこそと進む。雨に打たれ、足音がかき消される。

「資産を全部奪う。その金を使って俺とエミリーは違うところで幸せに暮らす。俺の目的はそれだけだ。邪魔するなよ」

「あぁじゃましないよ!」

男たちは作戦通りに屋敷の配置につく。
ロンを含めた3人は書斎にいると思われるブルースを第一に殺す。書斎にある電話で、外に助けを呼ばれることを防ぐためだ。ベランダに登り、玄関に向かった4人の合図を待つ。合図と同時にライフルを持った奴が全線に出てブルースを撃つ。もしブルースがいなければ電話線を切って捜索。あとは中にいるメイドたちを捕まえるだけだ。ロンは別行動を取り、エミリーを迎えに行く。簡単な作戦だ。実際に、玄関で待機する4人は頑丈にロックされた扉を爆破させるだけであとは自由に荒らすだけだ。

雨の量は強くなる。玄関に回った4人は濡れない位置で、爆弾を準備する。男たちの中には炭鉱で働いていたものがおり、今回のような場合に備えて爆弾をくすねていた。

ベランダに回る3人は、ロープをひっかけ大雨の中、一生懸命に上る。一人が先行し、したから投げられてくるライフルと斧を受け取る。その後にロンともう一人が続く。

書斎の部屋は暗く、雨で窓が濡れていることもあり、中の様子が見えない。明かりがついていないということはこの部屋にブルースはいないだろう。しかし、電話線を切る目的を果たすため、侵入経路は変えない。

3人が全員登れたのを見届け、玄関の方へ男が走って戻ってくる。さぁ、楽しい時間の始まりだ。

「いくぜ!」

男は勢いよく爆弾に火をつけた。


ドォォォォン!

この音を聞き、3人は部屋の中へ侵入する。窓を蹴破る。中には予想通り誰も居なかった。

「電話はそこだ」

「あぁ、俺も見えた」

明かりがなく暗い書斎。何とか電話の場所はわかり、黒い線をぶちっと切る。ロンは部屋を出て廊下に出ようとする。しかし、開かない。

「なんだ?」

ロンは力任せに扉を開けようとするが、びくともしない。
それもそのはず、彼らには見えないが、扉の向こう側には書斎においてあったソファが置かれ、扉が開くのを邪魔していた。

「なんか扉の前にあるぞ!?」

「これじゃ、入れないぞ!」

「外から回ろう!」

男たちはUターンをし、ベランダから降りようとした。

「ロープがない!」

「!」

降りるようにそのままにしておいたロープがそこにはなかった。

「どうしよう!こっから飛び降りちまったら足怪我するかもしれない~」

「おい!ロン!」

ライフルをもっている男はロンの胸元を掴み、どなる。

「俺たちが屋敷を襲うってばれてるんじゃねえのか?!」

「そんなはずわ・・・・・・」

だが、ここを出る時に意味深なことを言っていたメイドがいた。

「あの・・・・・・くそ・・・・・・メイドォ・・・・・・」









一方玄関。扉を爆破し、中に侵入するもの達、4人はバラバラに散らばりメイドたちと、ついでに金目の物を探す。

キッチンに向かったものが一人。

「うっほーそこらじゅうピカピカじゃねえか」

鍋や冷蔵してある品々、壁に掛かっている時計などを見る。

「こういうもんていくらぐらいするんだろうか?」

男は気づかなかった、本来、そこにあるべき物。料理の必ず必要ともいっていい包丁だけがないことを。

男が物色を始めたとき、後ろから近づいてくる音に気が付かなかった。

「? ふぁっ!」

男が振り勝った瞬間、包丁が男の頭に刺さる。後ろから近づいていたのは先ほどまで外に行っていたセラであり、返り血で手を汚さなくて済むようモップでリーチを長くし、そのさきに包丁を括り付けていた武器を使用していた。カッパを着る時間がなかったらしく、メイド服が濡れている。

「一人」

セラはそういい、頭に包丁が刺さったままの男を厨房に残し、部屋を移動する。

メイドの休憩室に居たメイドたちが捕まりだした頃。ロビーのほうで彼女たちの声がする。


「きゃぁあ!」

「なんだお前ら! 離しやがれ!」

「へへっ前、市場で見かけたときから、このでかい胸を触りたかったんだ~」

「いやっ触らないで!」

「おい!キャミイにひどいことしてみろ!私がぶっとばしてやるからな!」

「うっせーよメガネ!」

バァン!バァン! 二発の銃声。セラは両手でしっかり銃を持ち、放つ。弾丸は男たちの体を貫き、男はその場でうずくまる。キャミイとモルガンには弾は当たらずその場に立ち尽くす。

「うぉっ!」

「いってぇ!」

「・・・・・・セラ?」

「セラちゃん?」

拳銃を隠し持っていたセラはうずくまる二人に近づき、確実にとどめを刺そうと包丁を握りしめる。

「おい?セラやめろ!」

「セラちゃん!」

「構わないでください」

二人の声に耳を貸さず、包丁で首を斬る。さすがに切断まではいかないが死なせるのには十分な出血量だ。

「これで3人」

「なっ・・・・・・なにも殺さなくたって」

モルガンは私のことを信じられないような目で見、キャミイはペタリと座り込み言葉もでない様子。

「ごめんなさい。でも私はやらなくちゃ」

呆然する二人を置いて、次の部屋へ。

「そのまま玄関にいたらあぶないですよ。お嬢様の部屋か違う部屋へ避難してください」





玄関から侵入した4人の内、最後の一人は入浴室に来ていた。

「てっきり、金とかで塗装されていると思ったけどそうでもねえな」

男は湯がはってあるバスタブを横目に、石鹸に目をやる。

「いい香りだ~女みたいな~」

石鹸を嗅いで、ここに入浴する女たちの妄想をする。

「・・・・・・こんなことやってねぇで早くいかねえと、雷の音も聞こえたし、早く帰れるようにしないとな」

炭鉱で働いていた男はまさにこの男で、拳銃の音を雷の音だと誤認していた。セラの計画ではなかったがうれしい誤算だった。おかげで、拳銃の音に気づいてロビーに戻ってくるわけでもなく、後ろから近づくセラに気が付くこともなかった

セラはその男を湯をはったバスタブに突っ込む。

「ごぶっうう!!」

湯という表現は正しくないかもしれない。それは熱湯であり、事前にセラが炊いておいたものだった。

「がぼぼぼぼぁ」

男は熱湯の熱さと息苦しさに耐え兼ね、首を挙げようとする。
しかし、セラは全体重を腕に乗せてそれを妨害する。男が暴れることによってメイド服に熱湯が飛び散り、指先にも熱湯が浸かっていた。だが、セラにあるのは復讐の殺意のみで、熱湯の熱さは不思議と我慢が出来ていた。

「ぶぶぶ」

男は次第に動きがのろくなっていく、熱湯を吸い込んだことによる窒息と重度の火傷。バスタブには血が浮き始める。

「はぁ・・・・・・4人目。これが終わったら責任もって洗わないと」



「聞いたか今の音?」

「あぁ、銃声だ」

書斎に取り残されていた3人はここから出る手段を考えていた。

「どちらにしろ!ここにいたら捕まっちまう!飛び降りよう!」

1人の男がベランダから飛び降りようとする。

「まて!逃げる気か!」

男は振り返りもせず、一直線にベランダの柵へ。

「うっあああああああ」

ぐしゃり。

「これはまずいな・・・・・・おいロン、あいつが足折ったところ見にいってやろうぜ。ロン?」

ロンは一人うつむいて動かない。

「くそっ!くそ!なんで俺がこんな目に」

ロンは爪を噛む。

「ロン!うなだれている場合か?どっちみち俺ら捕まっちまうぞ!幸い、俺たちは顔がばれてねぇ逃げるが勝ちだ!」

ライフルを持った男の必死な訴えにも関わらずロンは動かない。

「おお。それじゃ、ずっとそうしてろよな!俺は降りるぜ!」

そういい、ベランダの方へ駆け寄り、下で倒れている男を見る。
仰向けに倒れ、立つことが出来ない様子。

「あぁ、かわいそうに。今助けるからな!」

そういい、ライフルを持った男はジャンプ。運よく骨折はしなかったものの着地の衝撃で倒れこむ。

「ううっ、よかった。おい起きろ!」

「うう足が~」

ライフルを持った男は這いずりながら彼の元へ行く。

「ほら肩をかすぜ」

「ありがとう~」

ライフルを持った男が倒れている男を起こし、助け起こした瞬間。

ゴン!大粒の雨ではなく、ロンが二人を踏みつけるように飛び降りてきた。

「おえっ!」

二人とも地面に押し付けられる。打ち所が悪く、二人は立ち上がることが出来なくなった。

「てめーらは邪魔だ!銃を貸せ!」

意識が朦朧としている二人には関心を示さず、ライフルだけを乱暴に奪う。

「全員殺してやる!」





ロンは玄関に回り、中に入ったとたんライフルを一発天井に向けて撃つ。

バキューン!

「こんちきしょうがー!!誰がやったか知らないが、邪魔しやがって!どうせお前だろ!くそメイド!」

ロビーで死体となった二人に目もやらず、もう一度発砲。

バキューン!

「俺をバカにしやがって!出てこい!」

ロンは目的を忘れ、怒鳴り散らかす。

「くそメイドって私のことかな~」

「しっ余計にしゃべんな撃たれるぞ」

「神よお守りください、神よ。神よ!」

「セラはどこにいったの!?ねぇ、お父さん?怖いよ・・・・・・」

「エミリー大丈夫だ。私が行って交渉する」

「それはだめです!それならキャミイが行ってくれます!」

「え~モルガン、私がくそメイドっていいたいの?」

「すまんすまん。おまえはバカメイドだったな」

「こら二人とも!セラさんが危険な目にあっているかもしれないのにふざけている場合ですか!」

セラ以外の人々はみな、セラの勧められた通りにエミリーの部屋に集まっていた。

「やはり、私が行くしかない。私は彼の雇い主だったからな」

ブルースはメイドたちを振り切って部屋を飛び出し、階段を降りる。

「まっていかないで!お父さん!」

エミリーはそのあとを続いて追いかけようとするが、バーバラに止められる。

「離して!」

「大丈夫です。ブルース様が何とかしてくれるはずです。セラさんもきっと大丈夫」

メイドたちはただ祈るだけだった。一人のメイドを除いては。






「文句があるのだろう!話し合いで解決しようじゃないか!」

ブルースは階段から、ロビーで銃を構えているロンに話しかける。

「あぁ、あんたはいまおよびじゃないなぁ~」

カチッ、バキューン!

「ううっ!」

ブルースのすぐ横を銃弾が通る。

「今すぐあのくそメイドを呼べ!お前を殺すのはあいつを殺してからだ!」

「待て!落ち着かないか!あのくそ・・・・・・くそメイドとは誰のことだ?」

「あぁ?セ、ラ、だったかな~。あいつのせいで今晩はボロボロだ・・・・・・。大人しくしていればよかったのによ。ブルース。お前が指示をしたのか?俺の仲間を殺すように命じたのか?」

ロンは銃をブルースへ向ける。ブルースは階段を降りるのを止め、両手を挙げるポーズはそのままに、困惑した状態で話す。

「セラが?この人たちを殺した?私は命令などしていない・・・・・・きっとそれは、セラがひとりでにやったことだ・・・・・・。なぜだ?」

ブルースは内からあふれる怒りを感じた。セラは幼いころから我が子のように接してきたつもりだ。エミリーと年が近いだけではない。風貌や仕草にそれとなく亡くなった妻の姿を重ねていたのだ。そんな子が、子どもが人を殺すなど・・・・・・。

「セラはこんなことが出来る子じゃない!なってしまったとしたら、それはお前のせいだロン!お前が異常なんだ!セラに何をしたんだ!なんで!セラはこんなことをしなければならないんだ!」

「申し訳ありません。ブルース様」

「セラ?」

「来たなくそメイド」

セラはロンの前に堂々と姿を現す。水を吸ったロングスカートはミニスカートのように切られ、動きやすそうな恰好になっていた。両腕は後ろで組んでいる。

「おまたせ。ロン。てっきり書斎で待ってくれてると思ったのだけど、その様子じゃ、スカートを切った意味はなさそうね」

「セラ下がっていなさい、お願いだから・・・・・・」

「いいえ、ブルース様。ここは私に」

セラはロンに近づいていく。

「ばかだな!俺は銃を持ってる!お前が死ぬかどうかは俺の気分次第だ!いまここで全裸になって土下座してくれたら気分がよくなるかもな!」

ロンはセラに向けて銃口を向ける。

「さぁ!俺の言う通りにしろ!」

カチャン!あとは引き金を引けばお前を打てるぞという合図。それに合わせてセラは立ち止まる。

「そうね。ロン。私もその気分次第っていう言葉をそっくり返すわ。そうね、あなたがこの世からいなくなってくれたら気分が良くなるかも・・・・・・ね!」

後ろに組んでいた腕を瞬時に前へ移し、隠していた拳銃を構える。一瞬の出来事。ロンはそれに対応できず、ただ見ているだけの結果になってしまった。セラの撃った銃弾はロンの心臓をうまく貫いた。しかし、それを確認し弾を節約できるほどセラには余裕がない。撃てる限りの弾撃ち尽くす予定だった。

「よせっ!セラ!やめろ!」

ブルースが銃を取り上げるまで、セラは撃ち続けた。
ロンは血だらけとなり、その場で支えを失ったゼリーのように崩れる。

「やった・・・・・・」

セラの心の中で達成感と安堵が広がる。

「なぜだ?なぜ殺したんだ!」

ブルースは笑顔のセラの肩を掴み揺らす。それはセラが見たことのない顔で、おそらくお嬢様も見たことがないだろう。

「ううっ~」

ブルースは泣き崩れる。

「えっ・・・・・・?」

セラは困惑する。私がやったことは正しい。故に今夜みんなは助かった。屋敷が全焼することも、メイドたちが乱暴されることもなく、平和な夜を過ごせるのだ。私もきっとこの忌々しい時間の流れから脱出することが出来る。

「セラ・・・・・・?」

お嬢様とメイドたちが階段を降りてくる。しかしみんなは口を開かない。命が助かったという感動で物が言えないわけではなかった。

「いやぁぁぁぁ!」

メアリーは叫ぶ。死体を見たからということもあるかもしれない、でも銃を持って服に男たちの返り血がついているセラの姿がショッキングだったのかもしれない。

なぜ、だれも喜ばない?この方法ではだめなのか?でも、どちらにせよ。もうこれいじょう悩む必要はない。きっとよく眠れるはず。

そう思っていた。しかし、ロンの死体の横に白い何かが通った。白い毛並みの猫。そうか、あれはオリビアだ・・・・・・。















「娘がかわいがっていた猫の首を斬って埋めた件だ!」

「・・・・・・は」

 ドン!! ブルースは机を叩く。叩いた振動で机の上のお茶が飛び、コップがガシャンと鳴る。かつて見たことのあるブルースの怒る姿に、セラは困惑する。えっ?どうして。また始まるのか?

「ブルース様・・・・・・」

「あぁすまないセラ。とりみ」


セラはテーブルに近づき、ドン!!と叩くつもりではなかったが、力がこもり、思った以上に音が出てしまった。ブルースの顔がぶつかりそうなほどに近づく。

「今、この目の前にいるものは?誰ですか!?私が殺したはず!!ロンは死んだはずですよね!?ねぇ!!」

復讐の夜は終わらなかった。
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