何十年もの間、お嬢様を殺した悪人どもを殺し続けてきましたが、私の心は限界を迎えようとしています。

白い黒子

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狂気の夜の前触れ

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 とある豪邸の庭。黒髪でロングスカートのメイド服を着たセラは洗濯物を干し終わり、温かい日差しのもとでボーっと庭の景色を眺めていた。

 ここはブルース邸。このあたりの地域では最も豪華な屋敷。大きな扉がついた玄関が正面にあり、真っ白な壁にカーテンを閉めていなければプライベートが丸見えではないかと心配になるほどの大きな窓だ。屋敷と檻の間にはびっしりと花と芝生が咲き乱れ、数人の召使が今まさに世話をしている。丘の上に建てられたこの邸宅は見晴らしが大変素晴らしく、目の前には湖が広がる。顔を少し引かなければすべてを見通せないほどの大きさだ。湖の東には村があり、子どもたちが走り回っているのを確認できた。日当たりもよく、洗濯物もすぐに乾くだろう。ここは本当に住み心地が良い。だが、住み心地がよいのはこの屋敷の立地だけではない。ここに住むもの達もお日様のように暖かいのだ。
 
 主人のブルースは鉄鋼会社を経営しており、莫大な富を得てこの場所に移住してきた。妻とは死別し、現在は娘のエミリーと多くの召使とともに生活をしている。ブルースは湖の東にある村の発展に協力的であり、実際にその村の住民からは大変好かれている。セラが雇われる前、山火事によって家や畑を失った住民たちのために、屋敷を解放したり、食事を分け与えたりしたことがあったらしい。そのためか何か月に一回のペースで貢物として町で取れた農作物を持ってくる者がいたり、ブルースの元で働きたいと申し出る若者が押し寄せ、毎回ブルースが忙しそうに対応しているのを目にする。確か一か月前、村一番の美人をブルースに差し上げようとした者が現れたときのブルースの対応はかっこよかった。

「愛した妻の娘がいるだけで私は十分です。お引き取りください」

 私がブルースのお嬢様だったら間違いなく父を好きになるだろう。お嬢様は残念ながらその場にはおらず、いつこのことを話してあげようか秘かに考えている。

「セラさん。今よろしくて? 私は少し出かけるのでエミリー様と共にいてあげてくださいな」

 後ろから声を掛けられた。お嬢様の教育係だ。名前は・・・・・・なんだったっけ。そろそろ覚えないとな。

「わかりました」

 ここに来て4か月。ブルース様が私を雇ったのは、お嬢様の話し相手、遊び相手が必要になったという目的があるからだ。もちろん、家事の手伝い、掃除なども行うが日頃、ご主人が仕事で出かけ、お嬢様を一人にしてしまうことを気にかけておられ、年が出来る限り近い私を呼んだとのことだ。そのため、この屋敷にすむ召使と会話することよりも、お嬢様と会話する方が多い。実際、庭を清掃する召使とはまだ話したことがない。

「ふふっ、あなたが来てから、お嬢様はより勉強熱心になられたのよ。きっとブルース様がいなくても安心して生活を送れるようになった証拠だと思うわ。それではいって参ります」

「いってらっしゃいませ」









「でね!その物語の主人公は愛する人と結ばれるの!」

 セラとエミリーは狩りたての芝生の上でシーツを敷き、日に当たりながら会話をしていた。今の時間帯は召使たちが朝の仕事を終え、昼食の準備をする者以外は趣味の読書を読んだり、仮眠をとったりする時間。見渡す限り、芝生の手入れを終えた召使が日陰で寝ているだけで、そのほかの召使はいない。幸いといってよいかわからないが押し掛ける客もいなかった。

「おもしろい話ですね」

「それでね~」

 いつもと同じ、特に深い意味のない会話。ただ、この時間だけがセラがもっともリラックスできる時間。昔、教育係のひとからこう言われたっけ。

「サラさんってすごいわね。ずっとエミリー様のお話について行けるなんて。私だったらこの時間はしっかり休みたいって思うんだけど。若さってすごいわね」

 それはあなたが面倒臭いと思っているからではないですかと心の中で思っているが、ぎすぎすした関係になるのは嫌なので言ったことは無い。私自身、お嬢様と時間を共にすることは苦ではないし、お嬢様と会話しているときだけが私の存在価値を感じることが出来る。
 生まれは貧しい農家で、知らないうちに親から売り飛ばされていた。たまたま、ブルース様のお目にかかったことで雇っていただき、セラという名前から洋服まで私のために準備して頂いた。だから私にはこの屋敷以外に帰るところはなく、ここが生涯生活する場所であると考えている。きっとそれは現実になる。

「そうそうセラ!新しく覚えた言葉なんだけど・・・・・・」

 必要最低限の言葉は召使仲間から教えてもらった。それ以降はメアリーとの会話で補っている感じだ。最近の流行の小説、劇なども彼女から伝えられた。今年で12歳を迎え、年頃であろうか、恋愛ものに興味があるようだ。

「親の反対によって結婚が出来ないカップルが、一緒に親の元を離れて結婚することを、駆け落ちって言うらしいわ!実にロマンティックじゃない?」

「そうでしょうか・・・・・・私なら親の許可が得られるまで粘るかもしれません。それに二度と親と会うことは出来なくなってしまいませんか?」

 実際、セラには親がどんな性格をしていたかあまり覚えていない。むしろ、ブルース様が親がわりのような感覚であり、ブルース様の反対を押し切って結婚するなどセラには考えられなかった。

「え~?!セラって本当にまじめね。確かに、お父様と会えなくなってしまうのは悲しいかも・・・・・・」

「そもそも、ブルース様なら理解してくださるはずです。駆け落ち?をする必要もないでしょう」

「確かにそれはそうね!」

 2人は、優しい風が吹く芝生の上で笑う。空の雲も楽しそうに浮いていた。

 突然、暖かい日差しが人影によって遮られる。シルエットが日よけの帽子の形になる。

「おっ・・・・・・おはようございますエミリー様」

「んっ?あなたは、確かお庭の人?」

 セラも全く知らない顔。それはそのはず、彼はここに来てまだ一か月も経っていなかった。

「そうです!お庭の管理をさせていただいています!ロンと言います」

 ロンと名乗る男性はエミリーの方のみを見る。その目はギラギラと輝き、自然と肩があがり、手も落ち着きがないように体の横で浮いている。顔は見るからに私たちよりも年上で、口元が緩んでいる。庭よりも髭の処理をもっと丁寧に頑張った方がいいと思ってしまった。

「ロンさんいつもありがとうね」

「はい!ありがたきお言葉。それで・・・・・・お話が変わるのですが・・・・・・」

 男は急にもじもじし始め、視点が定まらなくなる。さらに腕が体の前に入ってくる。男は少し沈黙していたが、突然話せるようになったかのように切り出した。

「そろそろ、ぼっ僕の・・・・・・手紙の返事は・・・・・・聞けますか?」

「?」

 エミリーもセラも男が何を言っているのか理解できなかった。エミリーは限りある記憶を巡らせ考えようとしていたが、セラはこの男から感じる怪しさを感じ取った。セラはすかさず、男のエミリーに向けた視線を遮り、話す。

「すみません、お嬢様の昼食の時間が近づいて参りましたので、失礼させていただきます。天気も怪しくなってきたようですし」

「あぁ・・・・・・すみません・・・・・・」

「いきましょうお嬢様」

「あっうん・・・・・・またね、ロン」

 シーツを適当にたたみ、エミリーの手をしっかりとつかみ、できるだけ早くこの男と離れた。ロンは何かポツリと話していたが声が小さすぎてなにも聞き取れなかった。ただ、セラとエミリーを背中を手を振って見送っていたのは確か。取り残されたロンは肩をがっくりと落とし、自身の持ち場に帰っていった。雲が切れ目なく並び、日の光が庭に差し込まなくなってしまった。







「お嬢様に手紙? ロンという男から?」

「はい。今日、庭でお嬢様と二人でいるところを話かけられて」

 話し相手はメイド長のバーバラ。この道40年のベテランで新人だったセラを一から教育した人物でもある。ここはメイドの休憩所。私とバーバラ以外に2人のメイドがおり、ここで情報交換や役割分担を考える。セラはほとんどエミリーの相手であるためシフトも何もないが・・・・・・。

「あぁ~そういえば昨日見たかも~あまりにも字が汚いし誰からの手紙かわからなかったから、いたずらだと思って焼いちゃった~」

 声を上げたのはおっとりした話し方をする見習いキャミイ。余談だが4人のメイドのなかで一番胸が大きい。

「そういう細かなこともしっかり報告しなさいっていつもいってるでしょう!」

 バーバラはキャミイを叱る。

「ごめんなさい~」

「じゃあ、ロンという子がお嬢様に向けて手紙を書いたのね。これは面白くなりそう!うへへ」

 低音な声で粘着質な話し方をするモルガン。余談だが4人のメイドのなかで唯一メガネをかけている。

「今日お嬢様から、駆け落ちという言葉を習ったのですが・・・・・・モルガンさんが教えたんじゃありませんか?」

「ギクッ」

「駆け落ちだなんて!まったく毎回毎回、なんて言葉を教えているんですか!」

「ごめんなさい~」

 バーバラはモルガンをしかる。

「でもね、お嬢様には世の中の真実をしってもらいたいのですよ!真実の愛のカタチを!白馬の王子なんていませんよ!自分から探していかないと!」

 モルガンのスイッチが入ってしまった。

「はいはい、今はその話じゃないでしょ!」

 バーバラはこういう時に頼もしい。

「ロンがお嬢様を好きになるのは自由だけど、このブルース邸の風紀を乱されるのだけは防がないといけないわ。できる限り彼とお嬢様が2人だけになることがないようにしましょう」

「実際に~エミリー様には好きな人もいるもんね~」

「!」

 聞いたことのない話だ!

「えっ!?それは誰ですか!」

「いやいや、セラちゃん。私らよりも一緒にいる時間長いのに知らなかったの、じゃあ教えないとね」

 セラ以外のメイドはすでに知っている様子だった。セラはこういう話題に疎い傾向があり、そのたびにからかわれることもしょっちゅう。誰かに聞かれたらまずいかのように耳をモルガンの方へ近づける。

「ご主人の会社で一緒に働いてるダンテってナイスガイだよ。度々この屋敷で食事しに来てる人だよ」

「えっあの方ですか?お嬢様、そんな素振りはありませんでしたが・・・・・・」

「はぁ、ダメねセラちゃん。じゃあ、毎回食事の途中にあいさつしに来るのは?その後、彼の反対側の席に座って話をしているのは?帰るときに玄関までお見送りしているのは?」

「・・・・・・」

 思考が停止。てっきりお父様と一緒に居たいが故の行動だと思っていたが、すべてダンテという男を思っての行動だったという新事実を頭に少しずつインプット。

「セラちゃん~鈍感過ぎ~」

「うっ」

 キャミイに言われるとは思わなかった。

 リンリンと玄関の方で扉が開く音がする。

「さぁメイドたち、ご主人のお帰りだよ」

 バーバラの言葉に背中を押され、メイドたちは立ち上がる。

「はい」
「は~い」
「え~もっと話したかったな~」

 おのおの返事を返し、休憩室を出る。





 メイドたちはブルース様のカバンやコートを持ちに玄関へ向かう。主人が扉を開けた瞬間、外から強い風が吹きこみ、セラのロングスカートがなびく。

『おかえりなさいませ』

 セラとバーバラはお辞儀の角度と声のタイミングを合わせる。そして上げるタイミングもばっちり合わせる。これは勤務初日でマスターした。

「あぁ、ただいま。今日は久しぶりにお客さんを連れてきたよ」

 セラが顔を上げた目線の先に、噂のプリンスがいた。ダンテだ。

「いつも、お世話になっております。急ですみません」

 男は長身でいかにもかっこいい風貌だ。風が強かったのか髪型が変になってしまったのは仕方がない。

「というわけだ、彼に夕飯を出してあげてくれ」

「かしこまりました」

 バーバラは返事をし、シェフのいる厨房へ向かった。セラはブルースのコート、カバンを預かりに行き、キャミイはダンテのコートと手に持っている小箱を持ちに行こうとした。ダンテはコートをキャミイに渡したが、箱は持たせなかった。モルガンは、よからぬ妄想をしているかのようににやにやしている。

「お父様!おかえりな・・・・・・さい」

 お嬢様が階段の吹き抜けから顔を出し、かわいらしくあいさつしようとしたが、隣にダンテがいることに気づき、顔を隠してしまった。なるほど、これが好いている仕草なのですね。

「お久しぶりです。エミリーお嬢様」

 ダンテは、顔を隠しているエミリーに優しく微笑みながら返事をする。

「ごきげんよう・・・・・・ダンテ様」

 きっと、子どもらしい自分の姿を彼に見られたくないのだろう。いつもならバタバタと階段を降り、ブルースに抱き着いてくるはずのお嬢様が、上品に階段を降りてくる。
 モルガンがお嬢様以上に耳を赤くしていたのは言うまでもない。



 その後、二人は夕食を共にし、例のごとくエミリーも一緒に食事に参加していた。メイドはお申しつけに対応するために交代で部屋にいる入るぐらいで、どんな会話をしているかを全体的に把握することはできないが、今後の会社のことであったりと今の私には理解できないものだった。
 時間は8時を回り、たまたま私の番の時にダンテは帰る支度を始めた。あの例の箱を机の上に置き、エミリーを呼ぶ。

「市場で見つけた子なんですが、気に入ってもらえるとうれしいな」

 そういいダンテは箱を開ける。

「わぁ!子猫さんね!かわいい」

 箱の中には子猫が入っており、大人しくフカフカのクッションの中で寝ていた。毛の色は白く毛並みはつるつるで凛とした目は綺麗なグリーンだった。

「気に入ってもらってよかったよかったよ!この子君と目がそっくりだなって思ってて、その・・・・・・うれしいよ」

「えぇ、大事にするわ・・・・・・」

 2人は目を合わせお互いの気持ちをまるでテレパシーで交換しあっているかのような雰囲気が流れる。

「ヴン!」

 ブルースが咳をする。今のは鈍感な私でもわかるほどわざとらしかった。

「すまないが、娘にプレゼントをするならばまず私に見せてほしかったかな」

「すっすみません、ブルースさん!気持ちが先走ってしまって・・・・・・」

「はははっ構わないさ。それよりも私にもよく見せてくれ」

 ブルースはにこやかにダンテとエミリーのもとへ。見ているこっちもうれしくなる。コンコンとキャミイが扉を開け、私のところへささっと近づく。

「交代だよセラちゃん。ってあれれ、猫?やだ~かわいい~!」

「ちょっと、ダメだよキャミイさん!」

 キャミイは猫につられて3人の輪に入っていってしまった。それでも3人は怒ったりせず、キャミイにも猫を持たせてあげる。本当にお人よしな人たちだ。

 軽く扉の前でお辞儀をし、にぎやかな食卓の間から出る。外の廊下は静かで、少しさびしさを感じた。

 だが、廊下の曲がり角で誰かが遠ざかっていく音が聞こえた。この時間帯は夕食に関する召使が行き来するだけでほかの召使は自宅や自室に戻っているのが普通だ。
 妙な胸騒ぎを感じ、廊下を早歩きで進み曲がり角の先を見る。すると彼がいた。

「こんな夜遅くに何をしているのですかロン。てっきり泥棒かと思いましたよ」

 ロンは廊下の真ん中で立ち止まる。

「まさか、夜の間もお仕事をされていたのですか?」

 ロンは何気ない笑顔で振り返る。昼間と同じ格好をしているのがまた不気味だった。

「ええ、昨日、庭にモグラが出ましてね。今晩罠にかかっていないか確かめないといけなかったんです。でも、もう大丈夫です」

 ロンは振り返るのを止めてまた歩き出した。

「いまさっきモグラを見つけましたから・・・・・・」













「あはははっ顔ばっかり舐めないで!オリビア!」

 お嬢様は芝生の上に転がり、オリビアと名づけられた猫と遊んでいる。私はそれを眺める。すこし、話す回数が減りさびしい気持ちになったが、猫とじゃれている彼女は新鮮で、これを題材に絵を描けばよい作品になるなとしみじみ思っていた。メイドの役割分担の中に猫の世話が追加されることになり、モルガンはうぇ~と嘆いていたが、キャミイはやる気満々だった。猫に変な技を覚えさせないようにとバーバラに念を押されつつ、キャミイは猫の世話係に任命された。さっそく今朝から猫の餌と入れ物を探しに出かけている。キャミイがいない分の仕事は他のメイドで分担した。いつもより早く終わったことはキャミイ本人には伝えないでおこう。

「ねぇ、セラ。あなたは猫は嫌い?」

「いや、見たことがなかったので、嫌いでも好きでもありません」

 エミリーはうふふっと笑うと、猫を抱えながら立ち上がりセラのところへ詰め寄る。

「このオリビアちゃんは私と似てかわいいから、きっとセラも好きになるよ!」

 ポンと渡される。

「おとと」

 慣れない猫の動きに驚く。オリビアはいごこちが悪そうにごそごそと動いたが、安定した体位が見つかったらしく動きを止める。ゴロンと偉そうに私の腕の上で仰向けになり、オリビアの綺麗な目が私を見つめる。

「かわいい・・・・・・」

 ふと言葉が漏れた。こういう経験は初めてかもしれない。

「でしょ!でしょ!よかったねオリビア」

 エミリーは笑顔で言い、オリビアを撫でる。

 このとき、私は気づいていなかった。庭の木の陰からロンが悔しそうに私たちを見る姿を・・・・・・。




 夕食時、ブルースとエミリーは食事を済ませ、エミリーは部屋に戻ろうとする。そこで事件が起こる。キャミイがどたどたと食卓の間に入ってくる。

「はぁはぁ、すみません!オリビアちゃんいませんか!」

 その声は下の階でお風呂の準備をしていた他のメイドたちも聞きつけた。

 玄関の横に設置されている主人のいなくなった籠の前に全員集合する。

「なぁに~まさか逃がしたのキャミイ?でかいおっぱいのせいで足元見えてなかったんじゃないの~」

 モルガンが茶化す。

「こら!こんなときに下品な言葉はやめなさい!」

 バーバラが絞める。

「おかしい。ごはんの前にしっかり戻してあげたはずなのに・・・・・・」

 エミリーは不安がり、セラの袖をつかむ。

「たまたま鍵がかかっていなくて、出て行ってしまった可能性があります。一緒に探しましょう」

 セラが提案する。

「夜分遅くにすまないね。私も少し手伝うよ」

 ブルースは仕事で疲れているのにも関わらず、協力をしてくれるようだ。しかし、努力むなしく、なかなか見つからない。探し始めて10分後、セラはふと外を見る。外は雨が降っており、猫が扉を開けて逃げていくことはまずないと思ったが、可能性をつぶして置きたい性格かつ、ブルースやエミリー、先輩メイドたちに探させるのは酷だという思いやりから外で探すことを決意した。
 レインコートを着て、ランタンに火を灯す。夜に庭に出るのは先月行った星の鑑賞以来だ。とは言っても今回は雨が降り、夜空を見上げている場合でもない。できる限り早く中に入りたいという思いもあり、屋敷の裏側から、玄関に続く長いストリートまで順々とランタンで照らしていく。そして、いつもエミリーと過ごす庭に回る。雨が強くなり、レインコートで耳を覆っていることもあり聴覚が活かせなくなってきた。視力に頼るが雨で視界は悪く、ランタンの火もか弱い。まるで真っ暗闇を歩いているかのような・・・・・・

「!」

 誰かがいる。ランタンの光で、木の後ろに誰かがうごめいているのが確認できる。
 屋敷の中へ戻ってみんなを連れてくるべきか、それとも私よりも先にここへ調べに来ている人か。雨の音がより強くなり、思考を遮る。そうこうしている内に、木の後ろにいた人物がのそりと立ち上がる。

「止まりなさい! あなたは誰ですか!」

 声を張り上げ、ランタンを高くする。そのランタンの先に現れたのは、傘も持たずレインコートも着ていない男性。雨に打たれているのにも関わらずニコニコと何かをやり切ったかのような顔をこちらにゆっくりと見せる。こいつは昨日みたぞ。

「ロン・・・・・・」

「こんばんわ、メイドさん。何かをお探しですか」

 よく見るとロンの服には泥がついており、木には大きなスコップが立てかけられている。肩をすくませ、手をおなかのあたりで組み、ニヘラとしている。

「いやはや、今度はモグラの巣を見つけましてね。へへへっ早いとこつぶしておこうと思いまして、まさか、こんな遅くまでかかるとは思わなかったですし、ひひっ雨が降り出したときは最悪だと思いました・・・・・・でももう大丈夫です。もう終わりました」

「おつ・・・・・・かれさま」

 なんだろう。この男は嘘をついている。なぜかわからないが確信に近い。

 ロンはせっせとスコップを担ぎ、この場から立ち去ろうとする。
 セラの隣を通り過ぎようとした瞬間、ロンはグイっとセラの顔を覗き込む。目には光が灯っておらず、思わずセラは後ずさる。

「メイドさん。しばらくこの付近に立ち入らない方がいいですよ。モグラは退治しましたが、モグラの穴のせいで地盤が崩れる可能性がありますから。入れるようになったらお伝えしますので、それまで絶対にここに入っちゃいけませんよ」

「わかりました・・・・・・ご苦労様です」

 ロンは荷物を倉庫の前へ置きに行ったのだろう、セラはロンが視界から消えるまで動くことが出来なかった。しかし、セラの頭の中で否定したい最悪の結末が浮かび上がってくる。もしかすると、もしかすると・・・・・・。今さっきの光景を思い出す。あのスコップに付いていたのは土だけだったのだろうか・・・・・・。


 いそいで屋敷に帰り、籠の前で泣いているエミリーには聞こえないように、ブルースと他のメイドたちにさっきの出来事を伝える。

 そっから先は、詳しく言わない。というか言えない。生まれて初めて感じた不快感と恐怖は忘れない。ロビーにエミリーとバーバラとキャミイを残し、私とモルガンとブルースがスコップを握り、掘り返す。暗闇からロンが帰ってくるかもしれないという恐怖を感じながら、木の下の恐怖を掘り起こす。こうしているうちにエミリーがオリビアを見つけて喜んでいるのではないかという希望を持ち、結局モグラの巣後しかなくて無駄な苦労だったなと笑い話になり、女性みんなで温かい風呂に入るとい願望を持ちながら掘り進める。そして見つけた、見つけてしまった。無残な姿となったオリビアを・・・・・・。
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