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第1話 5回目の夢
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「・・・・・・・」
自分は目が覚めた。というより、目が冴えたという感じだろうか。今まで寝ていたのかと疑うほど視界がはっきりとし、遠くで男女が会話している声が耳に入ってくる。
「~~さん。一人でトイレは危険っていったでしょ」
「すみません。皆さん忙しそうにしてたから・・・」
自分には関係がない話だということがわかり、興味は失せた。次に身の回りの状況を確認する。
天井は白色に小さい穴がぶつぶつと空いたよな模様だ。どこかで見たことがあるような模様だ。
右を見る。窓からは空が見え、窓にはガラスが入ってはいないのでは? と錯覚するほど透き通った青色をしていた。日差しが足元に差し込んでいることが、ベッドのぬくもりで察することが出来た。
左を見る。ベッドの横には床頭台とテレビがあり、ご丁寧に、「テレビカードはエレベーター横で販売しています」という紙が立ててある。やっぱりそうだ。
「びょう・・・いん?」
床頭台の手前に点滴スタンドが置いてあり、なにか透明な液体が入った袋がぶらさげてある。そして、そこから伸びたチューブは自分の腕に繋がっていた。
「は・・・えぇ?」
まさか、自分は入院しているのか? なんで? いつから?
ここに来るまでの記憶がないし、自分は・・・誰だ?
あれ? 自分の名前が思い出せない、思い出せない!
「なぁっ・・・どうなってる!?」
体を起こしつつ、この状況が読み込めないことに不安といら立ちを感じ、ベッドから飛び出ようと思った時。
「起きたか―」
自分の足先から、男性の声が聞こえる。
聞いただけで、相手がどれだけ年をとったかわかるほどの枯れた声。
自分の正面に誰かがいることに初めて気が付く。
「えっ・・・」
思考が停止する。向かい側に人がいたのか。気づかなかった。
「はっはっはっ、おまえさんちっともおきんかったからなぁ・・・。 体のほうはどや。」
声の主は、初老を迎えた60から70代ほどのおじいさんで、自分と同じように点滴のチューブが腕に刺さっている。ベットの頭を上げていたため上体がよく見えた。
顔色はよさそうで、青色の患者衣から除く腕や首は細いものの、肩幅は縮こまっておらず、頼りがいがありそうな印象を受けた。
「とりあえず、大丈夫な感じです」
嘘だ。絶対に大丈夫じゃない。名前も思い出せないし、点滴を受けているということは何かしらの理由があるはずなのに。
「そうか。よかった、よかった」
老人は頷く。
「あの、すみません。僕っていつからここに? ここにくるまでのことをあまり覚えてなくて」
「うーん、おまえさんも記憶がないんじゃな」
お前さんも?
「あの、僕は昨日ここに来たんですかね?それとも、今日?」
「うーん、わしもわからん。わしが起きたときにお前さんがおったからの、きっと同時に入院したんじゃろて」
「はぁ?」
ぼけてんのか、このじいさん。同時に入院? じいさんも記憶がない?そんな偶然があるのだろうか。ありえない。
そのとき部屋に誰かが近づいてくる音が聞こえる。
「おおつちさーん」
うまく聞き取れなかったが、おそらく目の前の老人の名前を呼んだのだろう。
白い服を着た看護師らしき女性が、老人の方を見ながら入ってくる。
「あれ、今日は部屋で大人しく待っててくれたんですね」
看護師は目をぱちくりさせて言った。
その後すぐに、看護師が僕をみて、いかにも死人が起き上がったようなリアクションとともに
「あっ、目が覚められたのですね! よかったです!体調は大丈夫ですか?」
と聞いてきた。
「あっはい・・・。お世話になってます」
どういう処置を受けてお世話になったのかはわからないけれど、とりあえず、いまもこうして生きていること、寝させてもらっていたことに感謝すべきだろう。
「さっそくですみませんが、佐名木さん。目が覚めたら、主治医のところへ連れていくこという約束がありますので、今から大丈夫ですか」
ん? さなぎ? それが、おれの名字?
「ごめんなさい おおつちさん、違うナース呼んできますね」
看護師は顔の前に手を合わせ、老人にかるく頭を下げた。
「わかった、わかった。若い子を頼むよ」
「それってわたしが若くないってことですか? あはははっ」
「ふぇっふぇっ!」
3人しかいない部屋に笑いがこだまする。いったい自分はなにを見せられているんだ。
「それじゃあ行きましょうか、私の後ろについて歩いてきてください」
そういうと看護師は自分をベットから離床させ、点滴スタンドを持たせてくれた。
いきなり歩いて大丈夫なのかと思ったが、足には何も問題はなさそうだった。じゃあますます入院している理由について知りたくなってきた。これから主治医さんの説明を受けることで、これからどうすればいいのかを含めたあらゆる不安から解放されるだろうという思いだけが足取りを軽くする。
「またな青年」
看護師と一緒に部屋を出ようとしたとき、後ろからおじいさんの声が聞こえたが、振り返りもせず、返事も特にしなかった。
「それではこの部屋に入ってください」
看護師は部屋の前で立ち止まり、扉を開く。
ここに来るまでの間、看護師にいろいろな質問をした。
ここはどこなのか、いつからここにいるのか、入院した原因は、などなど。
どうやら自分が入院したのは昨日の夜らしく、ここは市内で一番大きい病院だそうだ。しかし、何が原因で入院しているのかについては
「すみません。主治医から聞いてくださいな」
と言われ、知ることは出来なかった。
エレベーターを使い自分がいた3階から1階へ。昼時の時間なため、1階に下りてきている患者も多く、自動販売機の前に立っている老人、テレビを見ている子どもと父親、売店でおにぎりを買っている成人男性などを見ながら、点滴スタンドを倒さないように歩いてきた。
主治医がいると考えられる部屋の前には人通りが少なく、どこにも何の部屋であるかが書かれていなかった。
「主治医の説明を受けた後は、自由に過ごしてもらって構いません。6時ぐらいには夕食があるので帰ってきてくださいね」
私はうなずき、少しでも扉を抑えている看護師の手を休ませてやろうと思いそそくさと部屋の中に入った。
「それでは」
と言い、点滴スタントが最後まで入り切ったのを確認した後、看護師はバタンとドアを閉める。
自分の主治医が居ると思われる部屋には、デスクと椅子が二つ、きっと背もたれがついている方が主治医が使うのだろう。窓がなく空気が澱んでいる感じがして、長居はしたくはないと思った。照明が定期的にチカチカしている。
「すみません・・・・・・えっと、佐名木ですーー」
部屋に入ったのはいいものの、主治医が居ない。もしかしたら、向こうも扉の奥で待機しているのかもしれないと思い、自分の名前だと思われる佐名木という名字を口に出して呼んでみる。
「すみませーーん」
誰も、来ないのか?そうだ、廊下へ出てあの看護師を追いかけよう。きっと部屋を間違えたのだろう。だって、こんな狭くて暗い場所を普段から使っているとは考えにくいしな。そうだ、そうに違いない。そう思いドアノブをひねって部屋をでようとする。
「開かない?」
閉じ込められている?おいおい、いよいよおかしいぞ。なんで内鍵がないんだ?!
その事実に気づいたとたん、部屋のあらゆるところから、シューッと空気が流れてくる音が聞こえた。
「うおっ!」
驚いた拍子にそのガスを大きく吸い込んでしまった。
「ごほっ、ごほっ、すみません。誰か!?」
慌てて反対側の扉へ、点滴スタンドなんて気にしてられるか! きっと主治医が座るであろう椅子と点滴スタンドを倒しながら、何とか反対側へ。しかし、どれだけ力を込めてドアを押しても開かない!
ガスのせいなのか、手の握力が弱くなり瞼が重くなってくる。
「なっなんだよ・・・・・・これ」
そのまま自分は気を失ってしまった。
「ウアアアア!」
「助けて!!」「やめ・・・・・・」
グシャア!
ドスンドスン キュィィィ!キュイイイ!
何かが噴き出す音。誰かが叫んでいる。何かが歩いているかのような地響き。そして不気味な声。
自分は朦朧とした意識の中でそれらの音を聞いていた。
「うぅ・・・・・ここは?」
見る限り、自分が意識を失った部屋ではないようだが、相変わらず澱んだ空気が流れているような気がする。
どうやら椅子に座っているらしかったが、手足ともに椅子に縛られており動ない。
右手についていた点滴は無くなっており、針が刺さっているという違和感は無くなったが、紐で縛り付けられている部分の痛みがある。
「なんなんだよ!」
もううんざりだ。記憶は治っていないし、眠らされるしおまけに縛り付けられるなんて。
もうこの病院から出ていくしかないと思った。
一生懸命手足を動かし、何とかして椅子からの脱出を試みるが、だめだ、まったく切れそうもない。
「あぁ、起きましたか。あまり動かないでください。舌でも噛んで死なれたら困りますし」
声の方のする方を向くと、白衣を着た男性がこちらを見ている。手にマグカップを持ち、中から湯気が立っていた。
男性は長身ですらっとした体形であり、髪がぼさぼさで、左目は隠れていた。
「思ったよりも早いお目覚めですね。あまりガスの効果が出なかったのでしょうか」
白衣を着た男性はぼつぼつとつぶやきながら、マグカップをデスクの上へ置きこちらに近づいてくる。
「ええと、芝生さん。あぁ、今は佐名木さんでしたっけ。気分はどうですか」
「さっ最悪に決まってる! ここはどこなんだよ説明しろよ!」
「あぁ、そうですか。いいでしょう説明します。まぁ、今したところであなたの記憶には残らないのですがね・・・・・・」
そう言い、男は背中を向け、話が長くなると思ったのか椅子に座る。
「私は、この世界で一般的に言われている・・・・・・いわゆる異世界人です」
「はっ?」
まったく予想外の説明が来た。手足を動かすのを忘れるほどに。
「異世界人?」
「ええそうです」
目の前の異世界人はマグカップを取り、液体をすする。
「ここへ研究といいますか、育成といった方がよいのかわかりませんが、上からの命令を受けてここに来ています。こうやって経過を見守っているのです」
男のデスクには監視カメラのモニターや、放送用だと思われるマイクもあった。
「上の者たちはいずれこの地球という世界の侵略に繋がると私の研究結果に期待しているそうです。私は出世とかに興味はないのですがね」
「待ってくれ、あんたまじめに答えているのか?」
「ええ、私は冗談は得意ではないのでいつもまじめに答えますよ」
異世界人だという男は、今起きている状況に不釣り合いなほど冷静に答えている。それがいかにも不気味さを際立たせる。その時またどこかでドスンドスンと地響きが鳴る。
「あぁ、あなた以外の人間を食べ終わったようですね」
「なにっ?」
そういうと異世界人は空になったマグカップをデスクの上に置き、自分の後ろにある窓のブラインドを開けた。
自分も体をひねり窓から外を見る。
まず目に入ったのは暗闇と月光、もう夜なのか。とおもった瞬間、そこには横に大きな口をもち、眼は赤黒く鼻は尖っているまるで、ねずみのような顔をして鬼のような体格をした化け物が窓からこちらを覗いているのが確認できた。大きく膨らんだ手を窓にあてており、口からはおそらく悲鳴をあげていただろう患者たちの血がべったりとついている。
「ギュイイイイイ!」
ドン!! ドン!! 化け物が窓を割ろうと体をぶつけ始めた!
「うわぁぁぁぁぁあ!」
驚いた勢いで、椅子ごと倒れる。 ドンドン!! ピキリと窓にヒビが。
「せんせーい、今回の捕食終わった感じですー」
聞いたことがある声の方を異世界人と自分は振り向く。あの看護師だ、こうしている間にも化け物は窓をドンドン!!と叩く。
「その先生呼びはやめろ」
「えーっ、こういう医者とナースプレイもいいじゃな~い。実際にこのシチュエーションもあと6回しかできないし」
なんだ、この状況を見て不思議に思わないのか?もしかしてこの女性も?
「あらせんせ、佐名木さんが起きてんじゃん?」
看護師は自分を指さしながら言った。
「あぁ、ガスの効果があまり効かなかったらしい」
「めずらしー。まあどうでもいいけどね」
自分は何とかこの二人の会話に割り込んでやりたいと思ったが、なにも思い浮かばず、後ろにいる化け物がいつ窓を破るかに恐怖を感じつつ震えているだけだった。
「おっお前らいったい俺をどうする気なんだ・・・・・」
「すみませんね。佐名木さん。あなたの夢を勝手にいじっていることは謝らせていただきます。ですが全11回のループの計画もあと少しです。そのあとは、改変した夢をすべてもとに戻して、私たちは去りますので協力お願いします」
「えっ、俺の夢?」
「えぇ、あなたが死ねば、夢の始まりに戻されます。ですからあなたは苦堕螺子が病院内の人間をすべて食べるまで生きてもらう必要があるのでここで待っていてもらいました」
「クダラネ?」
ちょっとまてなんだこの違和感は、俺の夢?なぜ病院の夢を俺は見ているんだ?
「では、また6回目で会いましょう」
パリーン ガシャーン!!と窓が割れる音。 嫌だ 嫌だ!
「助けてくれ!!うわぁぁぁぁぁ」
ねずみの化け物は大きな足で立ち上がり、空いた両手を伸ばす。
自分はねずみの化け物に椅子ごと持ち上げられそのまま頭から口の中へ・・・・・・
「そうだ、クラリス。お前はもっと日本語を勉強した方がいい」
「えっなんで?せんせー」
「佐名木という名字は滅多にみないぞ、芝生よりはましだが」
「えーじゃあ次は?」
「悩むぐらいなら、もう田中で十分だとおもうが」
異世界人2人と地球人1人と化け物しかいない部屋に地球人の叫び声がこだまする。白衣の男のいっていることが本当なのならば、いったい自分はなんてひどい夢を見せられているんだ。
自分は目が覚めた。というより、目が冴えたという感じだろうか。今まで寝ていたのかと疑うほど視界がはっきりとし、遠くで男女が会話している声が耳に入ってくる。
「~~さん。一人でトイレは危険っていったでしょ」
「すみません。皆さん忙しそうにしてたから・・・」
自分には関係がない話だということがわかり、興味は失せた。次に身の回りの状況を確認する。
天井は白色に小さい穴がぶつぶつと空いたよな模様だ。どこかで見たことがあるような模様だ。
右を見る。窓からは空が見え、窓にはガラスが入ってはいないのでは? と錯覚するほど透き通った青色をしていた。日差しが足元に差し込んでいることが、ベッドのぬくもりで察することが出来た。
左を見る。ベッドの横には床頭台とテレビがあり、ご丁寧に、「テレビカードはエレベーター横で販売しています」という紙が立ててある。やっぱりそうだ。
「びょう・・・いん?」
床頭台の手前に点滴スタンドが置いてあり、なにか透明な液体が入った袋がぶらさげてある。そして、そこから伸びたチューブは自分の腕に繋がっていた。
「は・・・えぇ?」
まさか、自分は入院しているのか? なんで? いつから?
ここに来るまでの記憶がないし、自分は・・・誰だ?
あれ? 自分の名前が思い出せない、思い出せない!
「なぁっ・・・どうなってる!?」
体を起こしつつ、この状況が読み込めないことに不安といら立ちを感じ、ベッドから飛び出ようと思った時。
「起きたか―」
自分の足先から、男性の声が聞こえる。
聞いただけで、相手がどれだけ年をとったかわかるほどの枯れた声。
自分の正面に誰かがいることに初めて気が付く。
「えっ・・・」
思考が停止する。向かい側に人がいたのか。気づかなかった。
「はっはっはっ、おまえさんちっともおきんかったからなぁ・・・。 体のほうはどや。」
声の主は、初老を迎えた60から70代ほどのおじいさんで、自分と同じように点滴のチューブが腕に刺さっている。ベットの頭を上げていたため上体がよく見えた。
顔色はよさそうで、青色の患者衣から除く腕や首は細いものの、肩幅は縮こまっておらず、頼りがいがありそうな印象を受けた。
「とりあえず、大丈夫な感じです」
嘘だ。絶対に大丈夫じゃない。名前も思い出せないし、点滴を受けているということは何かしらの理由があるはずなのに。
「そうか。よかった、よかった」
老人は頷く。
「あの、すみません。僕っていつからここに? ここにくるまでのことをあまり覚えてなくて」
「うーん、おまえさんも記憶がないんじゃな」
お前さんも?
「あの、僕は昨日ここに来たんですかね?それとも、今日?」
「うーん、わしもわからん。わしが起きたときにお前さんがおったからの、きっと同時に入院したんじゃろて」
「はぁ?」
ぼけてんのか、このじいさん。同時に入院? じいさんも記憶がない?そんな偶然があるのだろうか。ありえない。
そのとき部屋に誰かが近づいてくる音が聞こえる。
「おおつちさーん」
うまく聞き取れなかったが、おそらく目の前の老人の名前を呼んだのだろう。
白い服を着た看護師らしき女性が、老人の方を見ながら入ってくる。
「あれ、今日は部屋で大人しく待っててくれたんですね」
看護師は目をぱちくりさせて言った。
その後すぐに、看護師が僕をみて、いかにも死人が起き上がったようなリアクションとともに
「あっ、目が覚められたのですね! よかったです!体調は大丈夫ですか?」
と聞いてきた。
「あっはい・・・。お世話になってます」
どういう処置を受けてお世話になったのかはわからないけれど、とりあえず、いまもこうして生きていること、寝させてもらっていたことに感謝すべきだろう。
「さっそくですみませんが、佐名木さん。目が覚めたら、主治医のところへ連れていくこという約束がありますので、今から大丈夫ですか」
ん? さなぎ? それが、おれの名字?
「ごめんなさい おおつちさん、違うナース呼んできますね」
看護師は顔の前に手を合わせ、老人にかるく頭を下げた。
「わかった、わかった。若い子を頼むよ」
「それってわたしが若くないってことですか? あはははっ」
「ふぇっふぇっ!」
3人しかいない部屋に笑いがこだまする。いったい自分はなにを見せられているんだ。
「それじゃあ行きましょうか、私の後ろについて歩いてきてください」
そういうと看護師は自分をベットから離床させ、点滴スタンドを持たせてくれた。
いきなり歩いて大丈夫なのかと思ったが、足には何も問題はなさそうだった。じゃあますます入院している理由について知りたくなってきた。これから主治医さんの説明を受けることで、これからどうすればいいのかを含めたあらゆる不安から解放されるだろうという思いだけが足取りを軽くする。
「またな青年」
看護師と一緒に部屋を出ようとしたとき、後ろからおじいさんの声が聞こえたが、振り返りもせず、返事も特にしなかった。
「それではこの部屋に入ってください」
看護師は部屋の前で立ち止まり、扉を開く。
ここに来るまでの間、看護師にいろいろな質問をした。
ここはどこなのか、いつからここにいるのか、入院した原因は、などなど。
どうやら自分が入院したのは昨日の夜らしく、ここは市内で一番大きい病院だそうだ。しかし、何が原因で入院しているのかについては
「すみません。主治医から聞いてくださいな」
と言われ、知ることは出来なかった。
エレベーターを使い自分がいた3階から1階へ。昼時の時間なため、1階に下りてきている患者も多く、自動販売機の前に立っている老人、テレビを見ている子どもと父親、売店でおにぎりを買っている成人男性などを見ながら、点滴スタンドを倒さないように歩いてきた。
主治医がいると考えられる部屋の前には人通りが少なく、どこにも何の部屋であるかが書かれていなかった。
「主治医の説明を受けた後は、自由に過ごしてもらって構いません。6時ぐらいには夕食があるので帰ってきてくださいね」
私はうなずき、少しでも扉を抑えている看護師の手を休ませてやろうと思いそそくさと部屋の中に入った。
「それでは」
と言い、点滴スタントが最後まで入り切ったのを確認した後、看護師はバタンとドアを閉める。
自分の主治医が居ると思われる部屋には、デスクと椅子が二つ、きっと背もたれがついている方が主治医が使うのだろう。窓がなく空気が澱んでいる感じがして、長居はしたくはないと思った。照明が定期的にチカチカしている。
「すみません・・・・・・えっと、佐名木ですーー」
部屋に入ったのはいいものの、主治医が居ない。もしかしたら、向こうも扉の奥で待機しているのかもしれないと思い、自分の名前だと思われる佐名木という名字を口に出して呼んでみる。
「すみませーーん」
誰も、来ないのか?そうだ、廊下へ出てあの看護師を追いかけよう。きっと部屋を間違えたのだろう。だって、こんな狭くて暗い場所を普段から使っているとは考えにくいしな。そうだ、そうに違いない。そう思いドアノブをひねって部屋をでようとする。
「開かない?」
閉じ込められている?おいおい、いよいよおかしいぞ。なんで内鍵がないんだ?!
その事実に気づいたとたん、部屋のあらゆるところから、シューッと空気が流れてくる音が聞こえた。
「うおっ!」
驚いた拍子にそのガスを大きく吸い込んでしまった。
「ごほっ、ごほっ、すみません。誰か!?」
慌てて反対側の扉へ、点滴スタンドなんて気にしてられるか! きっと主治医が座るであろう椅子と点滴スタンドを倒しながら、何とか反対側へ。しかし、どれだけ力を込めてドアを押しても開かない!
ガスのせいなのか、手の握力が弱くなり瞼が重くなってくる。
「なっなんだよ・・・・・・これ」
そのまま自分は気を失ってしまった。
「ウアアアア!」
「助けて!!」「やめ・・・・・・」
グシャア!
ドスンドスン キュィィィ!キュイイイ!
何かが噴き出す音。誰かが叫んでいる。何かが歩いているかのような地響き。そして不気味な声。
自分は朦朧とした意識の中でそれらの音を聞いていた。
「うぅ・・・・・ここは?」
見る限り、自分が意識を失った部屋ではないようだが、相変わらず澱んだ空気が流れているような気がする。
どうやら椅子に座っているらしかったが、手足ともに椅子に縛られており動ない。
右手についていた点滴は無くなっており、針が刺さっているという違和感は無くなったが、紐で縛り付けられている部分の痛みがある。
「なんなんだよ!」
もううんざりだ。記憶は治っていないし、眠らされるしおまけに縛り付けられるなんて。
もうこの病院から出ていくしかないと思った。
一生懸命手足を動かし、何とかして椅子からの脱出を試みるが、だめだ、まったく切れそうもない。
「あぁ、起きましたか。あまり動かないでください。舌でも噛んで死なれたら困りますし」
声の方のする方を向くと、白衣を着た男性がこちらを見ている。手にマグカップを持ち、中から湯気が立っていた。
男性は長身ですらっとした体形であり、髪がぼさぼさで、左目は隠れていた。
「思ったよりも早いお目覚めですね。あまりガスの効果が出なかったのでしょうか」
白衣を着た男性はぼつぼつとつぶやきながら、マグカップをデスクの上へ置きこちらに近づいてくる。
「ええと、芝生さん。あぁ、今は佐名木さんでしたっけ。気分はどうですか」
「さっ最悪に決まってる! ここはどこなんだよ説明しろよ!」
「あぁ、そうですか。いいでしょう説明します。まぁ、今したところであなたの記憶には残らないのですがね・・・・・・」
そう言い、男は背中を向け、話が長くなると思ったのか椅子に座る。
「私は、この世界で一般的に言われている・・・・・・いわゆる異世界人です」
「はっ?」
まったく予想外の説明が来た。手足を動かすのを忘れるほどに。
「異世界人?」
「ええそうです」
目の前の異世界人はマグカップを取り、液体をすする。
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「ええ、私は冗談は得意ではないのでいつもまじめに答えますよ」
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「なにっ?」
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「ギュイイイイイ!」
ドン!! ドン!! 化け物が窓を割ろうと体をぶつけ始めた!
「うわぁぁぁぁぁあ!」
驚いた勢いで、椅子ごと倒れる。 ドンドン!! ピキリと窓にヒビが。
「せんせーい、今回の捕食終わった感じですー」
聞いたことがある声の方を異世界人と自分は振り向く。あの看護師だ、こうしている間にも化け物は窓をドンドン!!と叩く。
「その先生呼びはやめろ」
「えーっ、こういう医者とナースプレイもいいじゃな~い。実際にこのシチュエーションもあと6回しかできないし」
なんだ、この状況を見て不思議に思わないのか?もしかしてこの女性も?
「あらせんせ、佐名木さんが起きてんじゃん?」
看護師は自分を指さしながら言った。
「あぁ、ガスの効果があまり効かなかったらしい」
「めずらしー。まあどうでもいいけどね」
自分は何とかこの二人の会話に割り込んでやりたいと思ったが、なにも思い浮かばず、後ろにいる化け物がいつ窓を破るかに恐怖を感じつつ震えているだけだった。
「おっお前らいったい俺をどうする気なんだ・・・・・」
「すみませんね。佐名木さん。あなたの夢を勝手にいじっていることは謝らせていただきます。ですが全11回のループの計画もあと少しです。そのあとは、改変した夢をすべてもとに戻して、私たちは去りますので協力お願いします」
「えっ、俺の夢?」
「えぇ、あなたが死ねば、夢の始まりに戻されます。ですからあなたは苦堕螺子が病院内の人間をすべて食べるまで生きてもらう必要があるのでここで待っていてもらいました」
「クダラネ?」
ちょっとまてなんだこの違和感は、俺の夢?なぜ病院の夢を俺は見ているんだ?
「では、また6回目で会いましょう」
パリーン ガシャーン!!と窓が割れる音。 嫌だ 嫌だ!
「助けてくれ!!うわぁぁぁぁぁ」
ねずみの化け物は大きな足で立ち上がり、空いた両手を伸ばす。
自分はねずみの化け物に椅子ごと持ち上げられそのまま頭から口の中へ・・・・・・
「そうだ、クラリス。お前はもっと日本語を勉強した方がいい」
「えっなんで?せんせー」
「佐名木という名字は滅多にみないぞ、芝生よりはましだが」
「えーじゃあ次は?」
「悩むぐらいなら、もう田中で十分だとおもうが」
異世界人2人と地球人1人と化け物しかいない部屋に地球人の叫び声がこだまする。白衣の男のいっていることが本当なのならば、いったい自分はなんてひどい夢を見せられているんだ。
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グミ食べたい
ファンタジー
疲れ切った現実から逃れるため、VRMMORPG「アナザーワールド・オンライン」に没頭する俺。自由度の高いこのゲームで憧れの料理人を選んだものの、気づけばゲーム内でも完全に負け組。戦闘職ではないこの料理人は、ゲームの中で目立つこともなく、ただ地味に日々を過ごしていた。
そんなある日、フレンドの誘いで参加したレベル上げ中に、運悪く出現したネームドモンスター「猛き猪」に遭遇。通常、戦うには3パーティ18人が必要な強敵で、俺たちのパーティはわずか6人。絶望的な状況で、肝心のアタッカーたちは早々に強制ログアウトし、残されたのは熊型獣人のタンク役クマサンとヒーラーのミコトさん、そして料理人の俺だけ。
逃げるよう促されるも、フレンドを見捨てられず、死を覚悟で猛き猪に包丁を振るうことに。すると、驚くべきことに料理スキルが猛き猪に通用し、しかも与えるダメージは並のアタッカーを遥かに超えていた。これを機に、負け組だった俺の新たな冒険が始まる。
猛き猪との戦いを経て、俺はクマサンとミコトさんと共にギルドを結成。さらに、ある出来事をきっかけにクマサンの正体を知り、その秘密に触れる。そして、クマサンとミコトさんと共にVチューバー活動を始めることになり、ゲーム内外で奇跡の連続が繰り広げられる。
リアルでは無職、ゲームでは負け組職業だった俺が、リアルでもゲームでも自らの力で奇跡を起こす――そんな物語がここに始まる。
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