平行世界の人肉塔

白い黒子

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疑心暗鬼

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「あの檻からいなくなっちゃったから探してたんだよ!大丈夫?悪いことされてない?」

「えっええ、大丈夫です」

 ジルドゥ。いやドゥルジは僕の体に触れようとする。僕はそれを軽く拒否し、彼女から距離を話そうと体をよじる。

「まさか、フォルネウスがあなたを連れ去るなんて思ってなくてね、その後、弟さんには会えたんだけど、君のことについて話そうとしてもなかなか聞いてくれなくて・・・・・・」

「そうですか・・・・・・」

 彼女は相変わらず優しい笑顔で話をしている。もし、ここで僕が彼女の本当の名前、フォルネウスから聞いた内容について話せば、彼女はこの笑顔を維持するのだろうか。いや、今話してもいいことはないだろう。とにかくこのエレベーターが1階に着くまでの間、しらない振りをしよう。絶対それがいい。

 悪魔の名前をつけられ、この世界に送り込まれてくるのは、フォルネウス達がいた世界では一番重い重罪に値する。つまり、フォルネウスの話を信じるならば、彼女もかなりの罪を犯した罪人。きっと彼女にとって僕を殺すことは容易いことだろう。エレベーターの中では逃げる場所がない。エレベーターを降り、なんとか彼女と別行動して元の世界へ帰る。それしかない。

「でね、弟さんがフォルネウスはこのビルにいるって話になって急いでこっちに来たってわけ・・・・・・僕聞いてる?思い詰めた顔してどうしたの?」

「いっいえ!ちょっとおなかがすいて・・・・・・」

「そうよね。朝にパンを食べただけだものね。安心して!食料は確保してあるから」

「はい・・・・・・」

 自然な顔が出来ているだろうか。彼女の視線がとても気になる。

「でも、あなたはフォルネウスに会ったのよね。本当に大丈夫?君も見たと思うけどあの塔、いくら私でも見ていられないわ。あなたならなおさら辛かったでしょう?」

「はい、まさか変な力をもった人がいたなんて」

「人ね・・・・・・残念だけど、ここに来た奴らはみんな悪魔って言った方がふさわしいかもしれないわね。それぐらいイカれた奴らばかりだもの」

 現在は5階。はやく、1階についてくれ!

「そうだ。舵夜くん。私も元の世界へ帰る方法を試してみてもいいかしら?あいつのせいで人がいなくなって暇になっちゃって。こんな退屈な世界にはもう居たくないし・・・・・・一緒に行ってもいい?」

「そっそうですね。それもいいかもしれません」

 彼女を連れていっても大丈夫なのだろうか?もし、彼女も奴らと同じように僕の世界で暴れ始めるかもしれない。

「ねぇ、パラレルワールドの行き方詳しく教えてよ。昨日の夜は詳しく話してくれなかったじゃない」

 僕が話したのはエレベーターを使ったというところまでで、実際にどうボタンを押して移動したかまでは話していない。

「そうですね・・・・・・言葉で説明するのは少し難しいのでまた後で・・・・・・」

 現在3階。

「え~まぁ、楽しみにしとこ。もしかして・・・・・・フォルネウスに言っちゃったりしてないよね」

「方法は言ってないです」

「よかったー!あんな奴が来たら舵夜くんの世界滅茶苦茶になっちゃうしね~」

 相変わらず、彼女はニコニコしている。

「でも、方法はってことは、あなたが違う世界から来たっていうのはバレちゃったのか・・・・・・フォルネウスはなんか言ってた?」

「なんか宗教染みたこと言ってましたよ・・・・・・。元の世界でたくさんの人を殺して悪魔の名前をつけられてここに来たって。弟さんも無理やり連れてこられたみたいで・・・・・・」

「へぇ~、じゃあ私の現在の名前についても?」

 現在2階。

「えっ・・・・・・?」

 ニコニコしていた笑顔が突然なくなる。ライトの電球が切れたかのように。その遠くを眺めるような生ぬるい視線は僕の目を見つめていた。

「ねぇ、私の名前いってごらん?もしかしてフォルネウスが嘘ついてるかも」

「ジッ・・・・・・ジルドゥさんでしょ?」

「そう。私の能力を教えてあげる。自分から切り離した細胞、皮膚とか髪とかが受けている刺激を私は感じることができるの。つまり、誰かに私のアカを飲ませれば、アカがその人体内にとどまっている間、聞いている音、振動を感じることができるの。ふふっ、昨日食べたカップ麺覚えてる?」

「カップ麺・・・・・・」

 まさか・・・・・・

「汁まで飲まなくて良かったね~。だけど、あんたが誰と話しているのかを聞き取れるぐらいには取り込んでくれた。そうね、だいたいあなたの~」

 彼女はそう言って、僕の右肩を指差す。

「そこらへんにあるね。まあ、ちょっとしかないから、数日で皮膚から剥がれ落ちちゃうと思うけど、その度に私の組織を食べさせてあげる」

「なっなんで、こんなこと・・・・・・」

 僕は絶望に染まった顔をする。これがドッキリ番組だったとしたら、きっとスタジオにいる人たちはチンパンジーのおもちゃの様に手を叩き大声で笑っていることだろう。むしろ、この現実に向き合うよりは、ドッキリ番組であったほうが何十倍も嬉しい。

 彼女は僕の顔を見て、突然、叫び出す。

「アッ!ヴゥゥッ!そっそれヨォ!その顔ァ!サイコー!」

 クネクネと体をくねらせ、髪を振り、エレベーターの天井に釘付けになったかの様に見つめる。口を大きく開き、息ができないかの様に喘いでいる。下半身をガタガタと震わせ、膝から崩れ落ちるのではないかと思うほどだ。

「な、なんだっ」

 僕は思わず後ずさる。
チーン。1階に着いた!

 僕は扉の前に行き、無意味なのは分かっているが、扉を手でこじ開けるように手を添える。

「はっはぁ!ははぁ!その、信頼していたァ人に裏切られた人の顔ってぇ!本当にゾクゾクするゥゥッ!」

「なんなんだよ!」

 僕は詳しく分からないけど、こういう状態になってしまった女性をどう言うのか知っている。彼女はオーガニズムに達しているのだ。

 扉が開いた!

「よし!」

 ロビーに飛び出る。しかし、そのロビーは白い煙で充満しており、その煙は僕の鼻に入り込んできた。

「うっごほっ!ごほ!」

 かなりの量の煙を吸い込んでしまった!体と目蓋が重くなってくる。これは、睡眠ガス?

「だけど、私が本当に見たいのは、フォルネウスのあの貴族ぶった顔が崩れるところよ。だから、あなたにはまだ活躍してもらわないと」

 意識が薄れる中、彼女が床から立ち上がらなくなった僕のところへ来る。彼女はガスマスクをつけており、このガスの影響を、全く受けていない様だ。

「私の鞄の中っていろんなものがあるのよ」

 そして僕は力尽き、眠ってしまった。
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