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お披露目
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「さて話をしようか」
とあるホテルのレストランだろうか、天井には教会にあるような絵が描かれており、部屋に置かれている物すべて一級品であるかのように光を反射している。長方形のテーブルに僕とフォルネウスは座る。テーブルの上には真っ白なクロスが敷かれ、目の前にはトマトスープとパンが並んでいる。ここに来るまでに逃げるタイミングはあったのかもしれない。しかし、ジルドゥさんがこの男に何か良くないことをされてしまったのなら僕の責任だ。走って僕だけ逃げる訳にはいかない。いらない正義感だと思うけど、フォルネウスと話をしなければ。
「君はどうしてここにいるのかね?洗脳を受けていないようだが」
「そっちが僕の質問に答えてくれるなら、答えてやってもいいですよ。ジルドゥさんはどこですか」
「君は、そればかりだな・・・・・・」
フォルネウスはパンを小さくちぎり、口に入れる。
「昼も近い。おなかが空いただろう?食べなさい」
「あなたの洗脳方法がわかっていない以上、僕がのこのこ食べるとでも」
「ほう。賢いな。だが杞憂だ。私には洗脳をかける力はない」
「えっ?」
口を滑らさぬよう考えながら言葉を発していたが、この男の発言に思わず考えるよりもさきに口にでてしまった。ゔゔんっと咳払いをし、あくまで冷静であるという振りをする。
「洗脳ができるのは私の弟だ。私はこうやって・・・・・・」
天井のシャンデリアに向けて手を伸ばす。
「無機物を自由に動かすことだ」
シャンデリアが僕の方に向かって傾き始める。非現実的な出来事に、思わず声も出なかった。
「私がいた世界では、このような力を得ることは当たり前だ。この世界に住んでいる君たちには全く見られないようだがね」
フォルネウスが手をぱっと下ろすとシャンデリアはブランコのようにギーギーと揺れだした。飾りがしゃらしゃらと鳴る。
「嘘だ。何かの手品だろ?」
「なるほど、愚かなのは自分たちであると気づかないのか・・・・・・それならば、これを見てもらった方が早いな」
フォルネウスは席を立ち、ずっと閉じていたカーテンを勢いよく引っ張った。
日の光が薄暗い部屋に慣れていた僕の目を刺激する。一瞬何も見えなくなったが、次第に目が慣れ、窓ガラスの外の景色を映し出した。が・・・・・・。
「うっ!!」
ガラス一面に広がる赤。一番最初に目に映ったのは、赤色。真っ赤な赤色。そして人の顔、それも一人じゃない!何千、何万もの人の顔や手足がまるで粘土で混ぜ、こねられたかのように重なり合っていた。その物体はここからでは全体を見ることは出来ないが、恐らく空に向かって伸びていることは確かだ。
「ゔぇぇぇ!」
思わず、吐く。
「吐くほどひどいものじゃないだろう?本当に、私の作品に対する世間の目はいつも冷たい」
フォルネウスは再び席に戻り、トマトスープをすする。よく、こんなおぞましい物を目の前にしてトマトスープなんて飲んでいられるな!
「なんだよこれ!」
僕は悠々とその物体を眺めているフォルネウスを睨む。
「私の作品だ。いや、弟と私の作品と言った方がいいかな。作り方はいたってシンプルだ。弟の力で全世界の人間に、この場所へ集まるよう洗脳をかける。始めはテレビやネットワークなどというおもちゃに弟の暗示を流す予定だったがやめた。この世界は私が住んでいた世界より格差がひどいようだったからな。結局、各国のラジオや放送器具をハッキングしなければならなくなったし、弟にも不慣れなことをさせてしまった。だが、私は無事にそれを成し遂げた。そうして、集められたもの達を私が自由に操れるよう、セメントに混ぜていく。本当はいろんな塗料を混ぜる予定だったが、彼らの皮膚同士が擦れることによって流れ出た血のおかげで、この塔に不規則な模様がついたのはうれしい誤算だった・・・・・・」
目の前の狂人は僕の目など見ずに、この塔のすばらしさ、芸術性などについてべらべらと話している。後半は彼がなにを言っているのか聞き取れたとしても理解はできないだろう。
「違う!そうじゃない!作り方なんてきいてない。なんでこんなひどいことを・・・・・・」
男の話を遮り、話す。このまま奴の話を聞いていてもろくなことはないだろう。
「ひどいこと・・・・・・?」
フォルネウスは僕の目をやっとみる。僕は思わず体が固まる。バイト先の店長に叱られたときとは違う緊張感。
「君も、私の作品を不潔、気味が悪い、人でなし、と卑下するのだな。その作品に込められた意味をくみ取ろうとせずに・・・・・・」
フォルネウスは席を立ち、窓際へ歩く。そして、窓一面に写る人肉たちに向かって話しかけるかのように語った。
「私のいた世界でもそうだった。筆、絵の具、粘土などの道具を用いて作り出された作品は結局は過去の芸術家たちのマネごとになる。評価も人によって分かれ、いつしかその絵にどういう意味があるのか、どういう思いがあるのかをくみ取らず、誰が描いたのみで評価をされるようになった。それを嫌い、私は次の表現方法を探した。そして見つけたのだ。誰も使っていない材料を。人の血肉だ。弟に協力させて人間を集め、それを粘土やセメントで固め、数々の作品を作った。広場で初めて披露したときは、独創的だとそれはもう評価の嵐だった」
フォルネウスは窓ガラスに手を添える。
「だが、ある女が泣き叫んだ『私の娘の顔よ!そうにちがいない!』って。その時、ついに私の真の狙いに気づくものがいたのかとうれしかった。だが、違った。とたんに彼らの顔がこわばり、その作品を壊し始めた。私の許可なく、その材料を取り出し始めたのだ。私は取り押さえられ、裁判を受けた」
拳を握り閉め、フォルネウスは僕の方へ少しづつ近づいてくる。僕の口の中は乾燥しきり、息をするのも忘れていた。
「もちろん言ってやったさ。これは芸術だ!なぜ評価してくれないのかと。彼らは私の許可を得ずに、作品をすべて壊し、材料をどこかへやった。私は、いまだに泣いている人がいたり、怒っている人がいたりした理由がわからない。弟と共同で作り上げた作品だといったら、奴らは弟を強引に捕まえ、罰を与えた。おかげで、弟は支離滅裂な言葉を話すようになり、以前のように会話をすることも難しくなってしまった。そして、その世界で一番重い罰を兄弟は受けた。悪魔の名をつけられ、違う世界に追放されるという罰を」
フォルネウスは怒りを抑えつつ話し、僕のところまで来る。
「ついでにジルドゥ?とかいう女のことも教えてやろう。あいつはお前に嘘の名を教えたんだろう。あいつの本当の名前はドゥルジだ。奴も悪魔の名をもらい、この世界に追放された悪人だ」
「えっ・・・・・・」
僕はさらに動けなくなってしまった。
とあるホテルのレストランだろうか、天井には教会にあるような絵が描かれており、部屋に置かれている物すべて一級品であるかのように光を反射している。長方形のテーブルに僕とフォルネウスは座る。テーブルの上には真っ白なクロスが敷かれ、目の前にはトマトスープとパンが並んでいる。ここに来るまでに逃げるタイミングはあったのかもしれない。しかし、ジルドゥさんがこの男に何か良くないことをされてしまったのなら僕の責任だ。走って僕だけ逃げる訳にはいかない。いらない正義感だと思うけど、フォルネウスと話をしなければ。
「君はどうしてここにいるのかね?洗脳を受けていないようだが」
「そっちが僕の質問に答えてくれるなら、答えてやってもいいですよ。ジルドゥさんはどこですか」
「君は、そればかりだな・・・・・・」
フォルネウスはパンを小さくちぎり、口に入れる。
「昼も近い。おなかが空いただろう?食べなさい」
「あなたの洗脳方法がわかっていない以上、僕がのこのこ食べるとでも」
「ほう。賢いな。だが杞憂だ。私には洗脳をかける力はない」
「えっ?」
口を滑らさぬよう考えながら言葉を発していたが、この男の発言に思わず考えるよりもさきに口にでてしまった。ゔゔんっと咳払いをし、あくまで冷静であるという振りをする。
「洗脳ができるのは私の弟だ。私はこうやって・・・・・・」
天井のシャンデリアに向けて手を伸ばす。
「無機物を自由に動かすことだ」
シャンデリアが僕の方に向かって傾き始める。非現実的な出来事に、思わず声も出なかった。
「私がいた世界では、このような力を得ることは当たり前だ。この世界に住んでいる君たちには全く見られないようだがね」
フォルネウスが手をぱっと下ろすとシャンデリアはブランコのようにギーギーと揺れだした。飾りがしゃらしゃらと鳴る。
「嘘だ。何かの手品だろ?」
「なるほど、愚かなのは自分たちであると気づかないのか・・・・・・それならば、これを見てもらった方が早いな」
フォルネウスは席を立ち、ずっと閉じていたカーテンを勢いよく引っ張った。
日の光が薄暗い部屋に慣れていた僕の目を刺激する。一瞬何も見えなくなったが、次第に目が慣れ、窓ガラスの外の景色を映し出した。が・・・・・・。
「うっ!!」
ガラス一面に広がる赤。一番最初に目に映ったのは、赤色。真っ赤な赤色。そして人の顔、それも一人じゃない!何千、何万もの人の顔や手足がまるで粘土で混ぜ、こねられたかのように重なり合っていた。その物体はここからでは全体を見ることは出来ないが、恐らく空に向かって伸びていることは確かだ。
「ゔぇぇぇ!」
思わず、吐く。
「吐くほどひどいものじゃないだろう?本当に、私の作品に対する世間の目はいつも冷たい」
フォルネウスは再び席に戻り、トマトスープをすする。よく、こんなおぞましい物を目の前にしてトマトスープなんて飲んでいられるな!
「なんだよこれ!」
僕は悠々とその物体を眺めているフォルネウスを睨む。
「私の作品だ。いや、弟と私の作品と言った方がいいかな。作り方はいたってシンプルだ。弟の力で全世界の人間に、この場所へ集まるよう洗脳をかける。始めはテレビやネットワークなどというおもちゃに弟の暗示を流す予定だったがやめた。この世界は私が住んでいた世界より格差がひどいようだったからな。結局、各国のラジオや放送器具をハッキングしなければならなくなったし、弟にも不慣れなことをさせてしまった。だが、私は無事にそれを成し遂げた。そうして、集められたもの達を私が自由に操れるよう、セメントに混ぜていく。本当はいろんな塗料を混ぜる予定だったが、彼らの皮膚同士が擦れることによって流れ出た血のおかげで、この塔に不規則な模様がついたのはうれしい誤算だった・・・・・・」
目の前の狂人は僕の目など見ずに、この塔のすばらしさ、芸術性などについてべらべらと話している。後半は彼がなにを言っているのか聞き取れたとしても理解はできないだろう。
「違う!そうじゃない!作り方なんてきいてない。なんでこんなひどいことを・・・・・・」
男の話を遮り、話す。このまま奴の話を聞いていてもろくなことはないだろう。
「ひどいこと・・・・・・?」
フォルネウスは僕の目をやっとみる。僕は思わず体が固まる。バイト先の店長に叱られたときとは違う緊張感。
「君も、私の作品を不潔、気味が悪い、人でなし、と卑下するのだな。その作品に込められた意味をくみ取ろうとせずに・・・・・・」
フォルネウスは席を立ち、窓際へ歩く。そして、窓一面に写る人肉たちに向かって話しかけるかのように語った。
「私のいた世界でもそうだった。筆、絵の具、粘土などの道具を用いて作り出された作品は結局は過去の芸術家たちのマネごとになる。評価も人によって分かれ、いつしかその絵にどういう意味があるのか、どういう思いがあるのかをくみ取らず、誰が描いたのみで評価をされるようになった。それを嫌い、私は次の表現方法を探した。そして見つけたのだ。誰も使っていない材料を。人の血肉だ。弟に協力させて人間を集め、それを粘土やセメントで固め、数々の作品を作った。広場で初めて披露したときは、独創的だとそれはもう評価の嵐だった」
フォルネウスは窓ガラスに手を添える。
「だが、ある女が泣き叫んだ『私の娘の顔よ!そうにちがいない!』って。その時、ついに私の真の狙いに気づくものがいたのかとうれしかった。だが、違った。とたんに彼らの顔がこわばり、その作品を壊し始めた。私の許可なく、その材料を取り出し始めたのだ。私は取り押さえられ、裁判を受けた」
拳を握り閉め、フォルネウスは僕の方へ少しづつ近づいてくる。僕の口の中は乾燥しきり、息をするのも忘れていた。
「もちろん言ってやったさ。これは芸術だ!なぜ評価してくれないのかと。彼らは私の許可を得ずに、作品をすべて壊し、材料をどこかへやった。私は、いまだに泣いている人がいたり、怒っている人がいたりした理由がわからない。弟と共同で作り上げた作品だといったら、奴らは弟を強引に捕まえ、罰を与えた。おかげで、弟は支離滅裂な言葉を話すようになり、以前のように会話をすることも難しくなってしまった。そして、その世界で一番重い罰を兄弟は受けた。悪魔の名をつけられ、違う世界に追放されるという罰を」
フォルネウスは怒りを抑えつつ話し、僕のところまで来る。
「ついでにジルドゥ?とかいう女のことも教えてやろう。あいつはお前に嘘の名を教えたんだろう。あいつの本当の名前はドゥルジだ。奴も悪魔の名をもらい、この世界に追放された悪人だ」
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