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愚行
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「なぁ、田中。昨日一日中オナってたみてぇな顔してんぞ。ほどほどにしとけよ~」
「覚えたてじゃないんだから・・・・・・普通に寝不足です」
いつも通りの日常。いつも通りのバイト先に、いつも通りの奥様方の夕飯の支度しなきゃラッシュを乗り切り、閉店後のスタッフルームで西山先輩のボケをツッコむ。確かに昨日の夜、僕はパラレルワールドへ行く方法を試した。結果から言おう。六芒星を書いた紙に「飽きた」という文字を書く方法では、パラレルワールドに行く事はできなかった。真剣に金髪巨乳エルフのいる世界に行きたいって書いた僕は本当にアホだった。でも、パラレルワールドへ行く事が一番の目的ではなかったし、はなから行けるとも思っていなかったから期待を裏切られたという喪失感はない。むしろ、熟睡できなかったことが辛い。いつもより早く寝始めたという要因もあるが、カメラでずっと撮られている緊張と本当に連れていかれたらどうしようという不安で恐らく寝付くのに二時間はかかっただろう。その間、親にお別れの手紙を書いておけばよかったな~、PCに保存してある秘密のデータを消しておけばよかったな~と何度考えたことか。結局、本当に行けるはずないんだからと思い、それらを行動に移しはしなかったが。
5時頃、目がぱっと覚める。その後、録画した動画を巻き戻して見てみたが怪奇現象は一切起きておらず、寝付けないがためにベッドの上をゴロゴロと移動する自分が映っているだけだった。だが、いつ何が起こるかわからないという緊張感は視聴者に感じてもらえるはずだ。
「まぁ、食レポよりはましかもな」
ポチっと、編集完了の文字を押し、サイトへアップロード。タイトルは、「都市伝説検証シリーズ第一弾!紙に書くだけで異世界へ行ける!?まさかの結末に!」ぐらいにしておこう。文字タイトル詐欺にはなってないはずだ。サムネイルは、六芒星に書かれた飽きたをズームアップしたやつにしよう。動画を投稿し終えたのは6時頃、10時からのバイトに向けて二度寝をしようと思ったが、猛烈におなかが減り、寝るのは諦め、近くの牛丼屋へ向かったのだった。
そして、バイトが終わり、西山先輩と共に休憩室でエプロンと帽子を外す。店長を含めた喫煙者組は店舗の裏へ出ているようで、パートのおばちゃんや女子校生のバイトの子はお疲れ様でしたー!と声を掛けながら帰っていく。
「しかし、最近、暖かくなってきたと思ったらまた寒くなってきたな」
「そうですか?」
「あっごめんごめん。家でずっとおかず探ししてるやつにはわかんねえよな」
「本当に違うんですって!」
「へへっ」
隙あらば人いじり。こういう西山先輩のトークスキルにはあこがれる。
「まぁ、俺が言いたいのは、わざわざ寒い所へ行ってまでタバコが吸いたいのかね~ということだよ」
「また店長の悪口ですか?」
「店長だけじゃないさ。タバコを吸う上司を持ってる世の中の人はみんな思ってるよ~へへっ。肺炎にほぼ百パーなるわ、無駄に税金はとられるわ、副流煙でみんなに害をおすそ分けするわでいいことなんか何一つ無いのに・・・・・・。ちっちゃな部屋に集められて、肩をガタガタ震わせながらスコスコと吸ってる姿は実に滑稽だとは思わんかね田中!」
「いいえ」
「えっ、急に冷たいな田中~。まさか・・・・・・はぎゃっ!」
西山先輩の後ろに両腕を組んだ店長が鬼の形相で睨みつけていた。西山先輩はやっとそれに気づく。僕はとっくの内に知っていたがおもしろそうだから黙っておいた。
「てててっ店長いつからそこに~」
「ついさっきだが、話しの内容的にまぁた俺の陰口だな」
「いえっそのっ・・・・・・」
「お前のあごをガタガタいわせてやろうか!」
「ひぃ~!」
僕はいつも通り、お疲れさまでしたー!と声をかけその場から退却した。
バイト先のスーパーから家の間にあるコンビニでハンバーグ弁当を買い、帰宅。第一にPCの電源を入れる。PCが起動するのを待つ時間を利用して、コップに麦茶を流し込み、ハンバーグ弁当のラベルをはがす。コンビニで弁当を温めてもらっていたので、蓋が空くのと同時に、肉の香ばしい香りが顔に沿って立ち上る。そうしているうちにPCも立ち上がる。PCを立ち上げる目的は二つ、今日の朝に投稿した動画がどれぐらい見られているかを確かめるためと、好きな動画をみながらごはんを食べるためだ。
カチカチッ
「えっ?」
6000回?いや見間違いだろう。600回だとすれば平均よりも断然多い数だ。目をこすってもう一度0の数を数える。疲れ目だと0の数見間違えるよね~
「都市伝説検証シリーズ第一弾!紙に書くだけで異世界へ行ける!?まさかの結末に!」ー 6000回視聴
「うえぇぇっ!」
伸びている。僕の動画が・・・・・・。なぜだ?男が金髪巨乳エルフのいる世界を目指して寝返りを打ち続ける動画だぞ。編集で6分ぐらいには縮めてるけど。
急いで動画を開き、下のコメント欄を読むぱっと見、10人ぐらいのユーザーがコメントを書いてくれているようだ。
「こんなことは初めてだぞ・・・・・・」
やっと自分の代表作ともいえる作品を作ることが出来たのかもしれない。だが、ただ、つまらない動画だと半ば炎上して伸びた可能性は捨てきれない。ここのコメント欄をしっかり見て分析しないとな。
ーーーーーーーーーーーーーー
12件のコメント
ーーーーーーーーーーーーーー
進撃の信玄:この動画はどこがおもしろいの? 7時間前
↪サムサム:ほならね・・・・・・。4時間前
マルチーズ:俺は幼女しかいない国へ行ったぜ。5時間前
↪動画投稿せずに登録数1万人:悪いな、俺もそこにいる。3時間前
↪ああああああああ:いや、俺が先。3時間前
↪ぽこちん:名前草 3時間前
↪ゼロ:ぽこちん、お前も草 2時間前
hyodou:やっぱり結果は読めるけどこういう動画は最後まで見てまうわ。5時間前
かなこ:この子かわいい(笑)私好みかも 4時間前
↪帰れおじさん:帰れおっさん 3時間前
ayaka:この動画を観て気分が悪くなりました。早く消した方がいい。変な物が映ってます。1時間前
↪oshima:同感です。このまま続けるとろくなことになりませんよ 15分前
上のコメントはほとんど僕の動画に関係ないものだったが、それでもこういった風にコメント欄がにぎやかになることは今までなかったので、口元を緩ませながら見ていた。
しかし、ayakaというユーザーは、気分が悪くなったのか。それに同感する人も。もしかして、僕が気づいていないだけでこの動画の中で何かが起こったのだろうか・・・・・・。いや、人気動画配信者になるきっかけを掴んだんだ。いちいち気にしてはいられない。きっと、この人たちは僕を煽ろうとしてコメントを打ったに違いない。だってこの動画で僕の身に何かが起こったのだとしたらなにかしら変化が出るはずだ。でもいつも通りごはんは食べれたし、バイトだって行けた。事故にもあってない。ただの迷信。都市伝説だったんだ。動画でもそう結論づけている。
「ようし・・・・・・」
湯気が立たなくなっていたが、まだ中は温かいハンバーグに勢いよくかぶりつく。今日はパラレルワールド編第二弾を実行しよう。鏡を使った方法は時間が決まっているため、それまで仮眠をとろう。そう僕は思い、フォローしている配信者の動画をクリックした。
そして、深夜2時20分。僕はお風呂場にある鏡の前へ、手には手鏡。動画撮影に使うように買った物だったが普段は使わないため、物置の底の方に沈んでいたのを引っ張りだしてきた。
僕の背中側に、合わせ鏡をしているのがわかるようにカメラをセットし、少し早いがいつものあいさつ。
「どーもー皆さん。かじやんですっ~」
深夜2時ということもあり、いつもより声のトーンを落とす。動画を撮っていて隣の住民から苦情が来たことは無いので、大丈夫だとは思うが念のために。有名配信者になるには一度でも好感度を落としてはならぬのだ。
「時間が迫っているのでさっそくやっていきましょう!」
手鏡を両手で持ち上げ、合わせ鏡を作る。無数の僕とカメラが映し出され、回数を重ねるほどその姿はどんどん小さくなっていく。
「10秒前、9、8、7、6、5、4、3、2、1! いでよ!」
手順2:手鏡とお風呂場の鏡で合わせ鏡を作ります。お風呂場の鏡越しに見える手鏡の中に悪魔が現れます。
手順3:お風呂場の鏡越しに悪魔と目を合わせると、別の世界へと吸い込まれます。
これが正しいとすれば、悪魔が姿を現し目を合わせたとたん僕は異世界へいく。固唾をのんで見守るが、何も起こらず、悪魔らしき姿も見えない。オーバータイムだ。これは、またなにも起こらなかったですねというオチだな。だが、これだけでは全体の動画時間は4分とないだろう。この手順についてもっと詳しく説明したり、合わせ鏡にまつわる都市伝説をいくつか編集で挟んで伸ばすしかない。最低でも5分にはしたい。
「ん?」
お風呂での光景を何度も反射し、小さくなってしまった手鏡の中に、何か・・・・・・うごめいているものがある。それは、僕というより全人類が目視で確認できる最小サイズの大きさだった。真っ黒なシルエットが右に左にと動いているようだ。
「なん・・・・・・だ?」
コショコショ、さわさわ、さわさわ、こしょこしょ。
隣人の声量レベルで聞こえる。そのうごめいているものの声は少しずつ大きくなっているような気がする。それに、シルエットも大きくなってきている?なんだ?なんだこれは・・・・・・。
間違いない。うごめいているものはどんどん、こっちに近づいてきているようだ!
「ふっ!」
僕は勢いよく手鏡をお風呂場の鏡の前から遠ざける。するとさっきまで聞こえていた声は聞こえなくなる。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・なんだ今の」
カメラは相変わらずお風呂場の鏡を写しており、僕も、お風呂場の鏡になにも変化がないことを確認した。
「まさか・・・・・・」
恐る恐る、汗かいた手で握った鏡をのぞく。そこには・・・・・・なにも写ってはいなかった。正確に言えば、額に汗をかき、眉間にしわを寄せた童貞大学生の怯えた顔が写し出されていた。
「きっ気のせいか・・・・・・」
「お疲れ様ーっす」
「あれ西山先輩今日シフト入ってましたっけ?」
生まれつきの平均よりもやや高めの身長を生かして食品棚を陳列しているときに、今日は来るはずのなかった西山先輩が、お菓子の箱を抱えてやってきた。
「店長の機嫌をそこねた・・・・・・無理やり入れさせられた・・・・・・」
涙目で先輩は訴える。
「さすがに、連続して愚痴ってるところ見られましたもんね」
「昨日のは防ぎようがあっただろ!田中!仲間だと思ってたのにぃ!」
「すっすみませんね・・・・・・」
「それよりも田中。昨日の夜にあった怖い話聞いてくれよ」
「怖い話?」
僕は、西山先輩の方へ体を向けた。先輩はお菓子の陳列を行っていてこっちは見ずに話しを続けた。
「昨日の夜、同じサークルの子と飲みがあってさ、家を9時ぐらいに出たんだよ。それでさ、いつもエレベーター使うんだけど、俺がボタン押す前に、たまたま、エレベーターが下から上がってきたんだよ。降りてくる人いるだろうなって思って道を開けてたんだけど、チーンて扉は空いたのに中には誰も乗ってなかったんだよ。怖いのはこれだけじゃないぜ、中に入ってみたら2のボタンが押されたままになってたんだよ。誰も乗ってないのにだぜ?いやあ~久しぶりにびっくりしたなぁ」
「へぇ~」
先輩の家には一度いったことがある。立派なマンションで、部屋も広かった。しかし、エレベーターが誰も乗せずに動くことはよくある話じゃないか。
「きっと誰かがイタズラでいっぱい押したんですよ。本人は下の階で降りたんですよきっと」
「なんだよ。冷静に突っ込まないでくれよ。友達もビビらなかったし・・・・・・でも、あの時間帯でそんな悪戯しようってやつは珍しいけどな」
「珍しいんですか?」
「ああ、9時以降になって同じマンションに住んでる人とすれ違ったことはないぐらいに人通りはないぞ」
「ええっと、先輩のマンションて何階建てでしたっけ?」
「ん?10階だけど」
田中舵夜は一つの作戦を思いつく。
「それがどうした?」
賞味期限が近いお菓子を手前に設置しつつ、先輩は僕をちらりと見る。
「いえ、なんでもないです」
商品棚に補充し終わり、立ち去った僕の口角は上がっていた。
先輩の言うことが正しいならば、先輩のマンションでパラレルワールドへ行く方法を試すことが出来るかもしれない!
いつするか・・・・・・今日でしょ!
「覚えたてじゃないんだから・・・・・・普通に寝不足です」
いつも通りの日常。いつも通りのバイト先に、いつも通りの奥様方の夕飯の支度しなきゃラッシュを乗り切り、閉店後のスタッフルームで西山先輩のボケをツッコむ。確かに昨日の夜、僕はパラレルワールドへ行く方法を試した。結果から言おう。六芒星を書いた紙に「飽きた」という文字を書く方法では、パラレルワールドに行く事はできなかった。真剣に金髪巨乳エルフのいる世界に行きたいって書いた僕は本当にアホだった。でも、パラレルワールドへ行く事が一番の目的ではなかったし、はなから行けるとも思っていなかったから期待を裏切られたという喪失感はない。むしろ、熟睡できなかったことが辛い。いつもより早く寝始めたという要因もあるが、カメラでずっと撮られている緊張と本当に連れていかれたらどうしようという不安で恐らく寝付くのに二時間はかかっただろう。その間、親にお別れの手紙を書いておけばよかったな~、PCに保存してある秘密のデータを消しておけばよかったな~と何度考えたことか。結局、本当に行けるはずないんだからと思い、それらを行動に移しはしなかったが。
5時頃、目がぱっと覚める。その後、録画した動画を巻き戻して見てみたが怪奇現象は一切起きておらず、寝付けないがためにベッドの上をゴロゴロと移動する自分が映っているだけだった。だが、いつ何が起こるかわからないという緊張感は視聴者に感じてもらえるはずだ。
「まぁ、食レポよりはましかもな」
ポチっと、編集完了の文字を押し、サイトへアップロード。タイトルは、「都市伝説検証シリーズ第一弾!紙に書くだけで異世界へ行ける!?まさかの結末に!」ぐらいにしておこう。文字タイトル詐欺にはなってないはずだ。サムネイルは、六芒星に書かれた飽きたをズームアップしたやつにしよう。動画を投稿し終えたのは6時頃、10時からのバイトに向けて二度寝をしようと思ったが、猛烈におなかが減り、寝るのは諦め、近くの牛丼屋へ向かったのだった。
そして、バイトが終わり、西山先輩と共に休憩室でエプロンと帽子を外す。店長を含めた喫煙者組は店舗の裏へ出ているようで、パートのおばちゃんや女子校生のバイトの子はお疲れ様でしたー!と声を掛けながら帰っていく。
「しかし、最近、暖かくなってきたと思ったらまた寒くなってきたな」
「そうですか?」
「あっごめんごめん。家でずっとおかず探ししてるやつにはわかんねえよな」
「本当に違うんですって!」
「へへっ」
隙あらば人いじり。こういう西山先輩のトークスキルにはあこがれる。
「まぁ、俺が言いたいのは、わざわざ寒い所へ行ってまでタバコが吸いたいのかね~ということだよ」
「また店長の悪口ですか?」
「店長だけじゃないさ。タバコを吸う上司を持ってる世の中の人はみんな思ってるよ~へへっ。肺炎にほぼ百パーなるわ、無駄に税金はとられるわ、副流煙でみんなに害をおすそ分けするわでいいことなんか何一つ無いのに・・・・・・。ちっちゃな部屋に集められて、肩をガタガタ震わせながらスコスコと吸ってる姿は実に滑稽だとは思わんかね田中!」
「いいえ」
「えっ、急に冷たいな田中~。まさか・・・・・・はぎゃっ!」
西山先輩の後ろに両腕を組んだ店長が鬼の形相で睨みつけていた。西山先輩はやっとそれに気づく。僕はとっくの内に知っていたがおもしろそうだから黙っておいた。
「てててっ店長いつからそこに~」
「ついさっきだが、話しの内容的にまぁた俺の陰口だな」
「いえっそのっ・・・・・・」
「お前のあごをガタガタいわせてやろうか!」
「ひぃ~!」
僕はいつも通り、お疲れさまでしたー!と声をかけその場から退却した。
バイト先のスーパーから家の間にあるコンビニでハンバーグ弁当を買い、帰宅。第一にPCの電源を入れる。PCが起動するのを待つ時間を利用して、コップに麦茶を流し込み、ハンバーグ弁当のラベルをはがす。コンビニで弁当を温めてもらっていたので、蓋が空くのと同時に、肉の香ばしい香りが顔に沿って立ち上る。そうしているうちにPCも立ち上がる。PCを立ち上げる目的は二つ、今日の朝に投稿した動画がどれぐらい見られているかを確かめるためと、好きな動画をみながらごはんを食べるためだ。
カチカチッ
「えっ?」
6000回?いや見間違いだろう。600回だとすれば平均よりも断然多い数だ。目をこすってもう一度0の数を数える。疲れ目だと0の数見間違えるよね~
「都市伝説検証シリーズ第一弾!紙に書くだけで異世界へ行ける!?まさかの結末に!」ー 6000回視聴
「うえぇぇっ!」
伸びている。僕の動画が・・・・・・。なぜだ?男が金髪巨乳エルフのいる世界を目指して寝返りを打ち続ける動画だぞ。編集で6分ぐらいには縮めてるけど。
急いで動画を開き、下のコメント欄を読むぱっと見、10人ぐらいのユーザーがコメントを書いてくれているようだ。
「こんなことは初めてだぞ・・・・・・」
やっと自分の代表作ともいえる作品を作ることが出来たのかもしれない。だが、ただ、つまらない動画だと半ば炎上して伸びた可能性は捨てきれない。ここのコメント欄をしっかり見て分析しないとな。
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12件のコメント
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進撃の信玄:この動画はどこがおもしろいの? 7時間前
↪サムサム:ほならね・・・・・・。4時間前
マルチーズ:俺は幼女しかいない国へ行ったぜ。5時間前
↪動画投稿せずに登録数1万人:悪いな、俺もそこにいる。3時間前
↪ああああああああ:いや、俺が先。3時間前
↪ぽこちん:名前草 3時間前
↪ゼロ:ぽこちん、お前も草 2時間前
hyodou:やっぱり結果は読めるけどこういう動画は最後まで見てまうわ。5時間前
かなこ:この子かわいい(笑)私好みかも 4時間前
↪帰れおじさん:帰れおっさん 3時間前
ayaka:この動画を観て気分が悪くなりました。早く消した方がいい。変な物が映ってます。1時間前
↪oshima:同感です。このまま続けるとろくなことになりませんよ 15分前
上のコメントはほとんど僕の動画に関係ないものだったが、それでもこういった風にコメント欄がにぎやかになることは今までなかったので、口元を緩ませながら見ていた。
しかし、ayakaというユーザーは、気分が悪くなったのか。それに同感する人も。もしかして、僕が気づいていないだけでこの動画の中で何かが起こったのだろうか・・・・・・。いや、人気動画配信者になるきっかけを掴んだんだ。いちいち気にしてはいられない。きっと、この人たちは僕を煽ろうとしてコメントを打ったに違いない。だってこの動画で僕の身に何かが起こったのだとしたらなにかしら変化が出るはずだ。でもいつも通りごはんは食べれたし、バイトだって行けた。事故にもあってない。ただの迷信。都市伝説だったんだ。動画でもそう結論づけている。
「ようし・・・・・・」
湯気が立たなくなっていたが、まだ中は温かいハンバーグに勢いよくかぶりつく。今日はパラレルワールド編第二弾を実行しよう。鏡を使った方法は時間が決まっているため、それまで仮眠をとろう。そう僕は思い、フォローしている配信者の動画をクリックした。
そして、深夜2時20分。僕はお風呂場にある鏡の前へ、手には手鏡。動画撮影に使うように買った物だったが普段は使わないため、物置の底の方に沈んでいたのを引っ張りだしてきた。
僕の背中側に、合わせ鏡をしているのがわかるようにカメラをセットし、少し早いがいつものあいさつ。
「どーもー皆さん。かじやんですっ~」
深夜2時ということもあり、いつもより声のトーンを落とす。動画を撮っていて隣の住民から苦情が来たことは無いので、大丈夫だとは思うが念のために。有名配信者になるには一度でも好感度を落としてはならぬのだ。
「時間が迫っているのでさっそくやっていきましょう!」
手鏡を両手で持ち上げ、合わせ鏡を作る。無数の僕とカメラが映し出され、回数を重ねるほどその姿はどんどん小さくなっていく。
「10秒前、9、8、7、6、5、4、3、2、1! いでよ!」
手順2:手鏡とお風呂場の鏡で合わせ鏡を作ります。お風呂場の鏡越しに見える手鏡の中に悪魔が現れます。
手順3:お風呂場の鏡越しに悪魔と目を合わせると、別の世界へと吸い込まれます。
これが正しいとすれば、悪魔が姿を現し目を合わせたとたん僕は異世界へいく。固唾をのんで見守るが、何も起こらず、悪魔らしき姿も見えない。オーバータイムだ。これは、またなにも起こらなかったですねというオチだな。だが、これだけでは全体の動画時間は4分とないだろう。この手順についてもっと詳しく説明したり、合わせ鏡にまつわる都市伝説をいくつか編集で挟んで伸ばすしかない。最低でも5分にはしたい。
「ん?」
お風呂での光景を何度も反射し、小さくなってしまった手鏡の中に、何か・・・・・・うごめいているものがある。それは、僕というより全人類が目視で確認できる最小サイズの大きさだった。真っ黒なシルエットが右に左にと動いているようだ。
「なん・・・・・・だ?」
コショコショ、さわさわ、さわさわ、こしょこしょ。
隣人の声量レベルで聞こえる。そのうごめいているものの声は少しずつ大きくなっているような気がする。それに、シルエットも大きくなってきている?なんだ?なんだこれは・・・・・・。
間違いない。うごめいているものはどんどん、こっちに近づいてきているようだ!
「ふっ!」
僕は勢いよく手鏡をお風呂場の鏡の前から遠ざける。するとさっきまで聞こえていた声は聞こえなくなる。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・なんだ今の」
カメラは相変わらずお風呂場の鏡を写しており、僕も、お風呂場の鏡になにも変化がないことを確認した。
「まさか・・・・・・」
恐る恐る、汗かいた手で握った鏡をのぞく。そこには・・・・・・なにも写ってはいなかった。正確に言えば、額に汗をかき、眉間にしわを寄せた童貞大学生の怯えた顔が写し出されていた。
「きっ気のせいか・・・・・・」
「お疲れ様ーっす」
「あれ西山先輩今日シフト入ってましたっけ?」
生まれつきの平均よりもやや高めの身長を生かして食品棚を陳列しているときに、今日は来るはずのなかった西山先輩が、お菓子の箱を抱えてやってきた。
「店長の機嫌をそこねた・・・・・・無理やり入れさせられた・・・・・・」
涙目で先輩は訴える。
「さすがに、連続して愚痴ってるところ見られましたもんね」
「昨日のは防ぎようがあっただろ!田中!仲間だと思ってたのにぃ!」
「すっすみませんね・・・・・・」
「それよりも田中。昨日の夜にあった怖い話聞いてくれよ」
「怖い話?」
僕は、西山先輩の方へ体を向けた。先輩はお菓子の陳列を行っていてこっちは見ずに話しを続けた。
「昨日の夜、同じサークルの子と飲みがあってさ、家を9時ぐらいに出たんだよ。それでさ、いつもエレベーター使うんだけど、俺がボタン押す前に、たまたま、エレベーターが下から上がってきたんだよ。降りてくる人いるだろうなって思って道を開けてたんだけど、チーンて扉は空いたのに中には誰も乗ってなかったんだよ。怖いのはこれだけじゃないぜ、中に入ってみたら2のボタンが押されたままになってたんだよ。誰も乗ってないのにだぜ?いやあ~久しぶりにびっくりしたなぁ」
「へぇ~」
先輩の家には一度いったことがある。立派なマンションで、部屋も広かった。しかし、エレベーターが誰も乗せずに動くことはよくある話じゃないか。
「きっと誰かがイタズラでいっぱい押したんですよ。本人は下の階で降りたんですよきっと」
「なんだよ。冷静に突っ込まないでくれよ。友達もビビらなかったし・・・・・・でも、あの時間帯でそんな悪戯しようってやつは珍しいけどな」
「珍しいんですか?」
「ああ、9時以降になって同じマンションに住んでる人とすれ違ったことはないぐらいに人通りはないぞ」
「ええっと、先輩のマンションて何階建てでしたっけ?」
「ん?10階だけど」
田中舵夜は一つの作戦を思いつく。
「それがどうした?」
賞味期限が近いお菓子を手前に設置しつつ、先輩は僕をちらりと見る。
「いえ、なんでもないです」
商品棚に補充し終わり、立ち去った僕の口角は上がっていた。
先輩の言うことが正しいならば、先輩のマンションでパラレルワールドへ行く方法を試すことが出来るかもしれない!
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