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しおりを挟むレイラが1人ビュッフェを楽しんでいたところ、
数人の令嬢達がこちらの方へやってきた。
こんなに美味しいお菓子だもの、きっと食べにいらしたのね。長いこと独り占めにしてしまっていたわね。
レイラは小さなプレートにケーキをサーブすると端の方で食べるよう少し移動した。
しかし、令嬢達はお菓子に手を伸ばす訳でもなく時折こちらをチラチラと見ては扇子で口元を隠しながらクスクス笑っている。
なんだか嫌な気持ち。
まるで王都に来た時の街や劇場、茶会での時を思い出すわ。
レイラが下を向き俯くと、令嬢達は調子付いたのかレイラに聞こえる様な声でクスクスと小馬鹿にする。
「ご覧になって?どこの田舎からいらしたのかしら?」
「お菓子ばかりお召しになっていらっしゃるからあのようなだらしのない体でいらっしゃるんだわ」
「まるで子豚のようね」
扇子で口元を隠しながらひそひそと囁かれる陰口にレイラの心は沈んでいく。
さっきまであんなに美味しかったケーキもまるで砂を噛んでいるように味気ないものになってしまった。
何も言い返しもせず、レイラがもそもそと残りのケーキを食べていると、令嬢達の中で中央にいる令嬢が話しかけてきた。
亜麻色の瞳に少し霞んだ淡い金の髪をした令嬢は、
「素敵なドレスをお召しですね。
どちらで取り扱っているのか私に教えてくださいませんか?」
「えぇ。こちらはフェアリーテイルというシルクで東方の島国で作られているのです。まだ、ブランシェット領でしか取り扱ってはいませんが。
デザインと縫製は…」
「あら、勘違いさせてしまったかしら。生地の取り扱い先はお聞きしたつもりだけれどデザインと縫製は王都のお店でお願いしますわ。だって辺境の田舎まではとても行けませんもの。」
と扇子で口元を隠しながらクスクスと笑いながら続けた。
この令嬢は生地は美しいが、王都の流行りではない形のドレスを着ていることを馬鹿にしているのだ。
レイラが言い返しもせず黙り込んだことを受けて周りの令嬢達もこぞってレイラのドレスを貶め始めた。
流行のドレスを着ないだなんてセンスが悪くてらっしゃるのね。あら、失礼よ。きっと目が悪くていらっしゃるからドレスの形の違いが分からなくていらっしゃるのではなくて?とクスクス笑う。
自分が太っていることを馬鹿にされるのは悲しいけれどただの事実。それはいい。だって美味しいお菓子が大好きだもの。
けれど、このドレスはレイラに似合うとみんなが作り上げてくれたものだ。みんなの思いを馬鹿にされるのは許せない。
今まではレイラが悲しくて泣いたなら両親やお姉さま達が慰め、守ってくれていた。
王都に来た時だって、レイラは何を言われてもいい返すこともできず、子どものように自分の殻に引きこもって自分を守るだけだった。
けれど今日私はもう社交界にデビューしたのだ。
いつまでもみんなに守ってもらうなんて大人のレディとして恥ずかしいことはしたくない。
もうこの前みたいには逃げない。レイラはギュッと奥歯を噛みしめると令嬢達に立ち向かう覚悟を決め、令嬢と目を合わせて向き合った。
「私は家族が愛情を込めて仕立ててくれたこのドレスが大好きです。自分に1番似合っているとも思います。
私は母から自分らしくいなさいと言われて育ってきました。だから私が私らしくいるために、自分の好きな物を着ます。
それを止めることも馬鹿にする権利もあなた方にはありません。
それに流行に乗ることが全て正しいのでしょうか。
あなたの綺麗な亜麻色の瞳。
その薄い金の髪は染め粉で染めていらっしゃるのね。それにダンスホールの熱気のせいで御髪の根本が少し弛んでいらっしゃるわ。
元々亜麻色の巻き毛でいらしたのでしょう。
髪は染め粉で染められても瞳は嘘がつけないわ。
確かに月の女神様はお美しいわ。私もあのようになりたいと王都に来てから思ったもの。
あなたは大地の女神様をご存知?私は子供の頃から神話の女神様の本が大好きなんです。
だから何度も読んだわ。大地の女神様のページも何度も。
あなたの亜麻色の瞳は大地の女神ガイア様と同じ色。
染め粉と、コテで伸ばされて傷んでしまっていなければきっと女神様のように亜麻色の美しい御髪だったのでしょうね。
月の女神セレーネ様は美しいけれど大地の女神様だって他の女神様だってみんな美しいわ。
どうして自分の美しさを捨ててセレーネ様に似せなければならないのですか。」
ーーーー
アーカー侯爵家令嬢であるオリヴィアはレイラのことが嫌いだった。憧れの女性であるオリアーナ様の娘であり、その稀有な髪と瞳の色を受け継ぎながら、胸もお尻も大きく張り出した身体は見っともないと思う。
それに少し馬鹿にしたくらいで家に引きこもって社交も行わないなんて、令嬢失格だとも思っていた。
デブだと馬鹿にされたくないのなら女神セレーネ様を讃え細く美しい姿にして貰えばいいのにそれもしない。
少し嫌味を言っただけで目も合わせず逃げていく弱者。そう思っていたはずなのに。
ここにいるのは誰?
最高級のサファイアの瞳には覚悟と焔が浮かびこちらと闘う意思がビリビリと空気が震えるほどに伝わってくる。あの気弱だった娘がこんなに美しく見えてしまうのはなぜ?
こんな娘に言われなくたって大地の女神ガイア様の美しさは私が1番分かっている。
国内有数の穀倉地帯であるアーカー侯爵領は大地の女神ガイア様の加護を受ける地だ。
ガイア様の血を引くと言われているアーカー家のものは皆美しい亜麻色の髪と瞳をもつのだ。
私も子どもの頃からこの髪が大好きで自慢だった。
それなのにいつから亜麻色の髪が美しく見えなくなってしまったの?大事な髪も染めてしまうなんて。どうして?何も分からない。
レイラの瞳の焔を見た瞬間頭の奥底に澱のようにこびり付いていた黒い靄が急に消えてしまった。
そしてどうしてレイラを嫌い虐めていたのかも分からなくなり呆然としてしまう。
その時、私に付き従っていた子爵令嬢が
「何を言っているの⁈世界で1番美しいのはセレーネ様のみよ!そこに並ぶものなんているわけがないわ!」と叫ぶと
「っやめ…!」
駆けつけようと手を伸ばす。しかし、止めることは間に合わず突き飛ばされたレイラが後ろに倒れようとしている。
後ろはガラスの大きな皿がある。ぶつかってしまったら!
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