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ホールの中央ではダンスが始まっている。
デビューの王子様とのダンスは勿体ないことなのでと断ってしまった。


一生に一度のことだけれど、今王子様と踊っている令嬢は有力な伯爵家令嬢でスレンダーで妖精の様な可憐な美人だ。
今回デビューする令嬢達の中では自分が1番身分が高い。きっと最初に踊っていたら次に踊っている彼女と比べられてまたクスクスと笑われるだろう。

王子様とお似合いな彼女との絵本の一幕の様なダンスをみてズキリと痛む身の程知らずなお肉の厚い胸のことは知らない振りをした。





ーーーー



クリスタルのシャンデリアの下、
大きくて優美なテーブルに飾られた沢山のチョコレートやケーキ。

国一番のショコラ店アンブロジオのチョコレートは人魚の贈り物というコンセプトで可愛らしいシェルの形をしている。様々な種類がありミルクやビター、ヌガーやナッツ入りのものなど一つ一つの貝の形毎に味の違うそれは見ているだけでも楽しい。
各地にアンブロジオの支店があり、ブランシェット領にもあるがこのテーブルにあるいくつかは王都限定のものだ。取れたばかりのミルクから作られた濃厚なガナッシュの入ったミルクトリュフ。王都店の店頭のカフェスペースでのみ食べることができるフォンダンショコラ。チョコレートケーキをフォークで割ると中からとろけ出す少しビターなチョコレートを絡めて食べるのだ。
レイラが大好きな小説の主人公が食べていたそれはブランシェット領にいた頃からずっとずっと食べたかったものなのだ。

「流石王宮主催の夜会だわ。とっても素敵。
こっちのチョコレートテーブルは海がテーマなのね」
深いブルーが基調のテーブルクラスにガラスの器。
様々なシェルの形のチョコレートやまるで本物の真珠の様に光沢を放つ丸くて小さなホワイトチョコレート。このテーブルはそれ自体が海の底に沈む宝石箱のよう。

チョコレートは海のテーマ。フルーツケーキはナパージュによりキラキラと宝石の様に煌めき、森の妖精達がテーマ。幻獣達の世界がテーマの焼き菓子のコーナーはパウダーシュガーで化粧され可愛らしく、そして美しい。
白く化粧された丸いクッキーは口の中に入れたらほろりと溶けてしまった。
焼き菓子はブランシェット領でも買えるが、クッキーが溶けるなんてこんなものは初めて。
こんなに綺麗で可愛いのに美味しいなんて…!
令嬢達に怯えて出席を辞退なんてしなくって良かった!


物語の妖精の纏うドレスの様に動くたびにひらりひらりと薄いシルクの裾がシャンデリアの光を浴びてキラキラと舞う。レイラはまるで本物の妖精の様にテーブルを移動しながらとろける笑顔を浮かべてビュッフェを1人楽しんでいた。



この国では珍しい意匠のドレスを身に纏い、
ひとつを食べる毎に目を丸くして驚いたり、チョコレートを口にしてうっとりととろける様な笑顔を浮かべるレイラは非常に愛らしく、この会場で非常に目立っていることにはお菓子に夢中なレイラは気づくことはなかった。



この会場中の男性達がレイラに声を掛けようと牽制しあっているのも、
それを見ている令嬢達が注目を浴びるレイラを悔しそうに見つめ、どうやってこの場から蹴落としてやろうかとギラリと獲物に狙いを定めている令嬢達の群のことも。



そんな中このお菓子皆様食べないのだったら家に持って帰りたいくらいだわ。
だってひとつひとつ丁寧に作られているのに誰にも見向きもされないなんてお菓子がかわいそうだわ。
けど、こんなにたくさんのお菓子を独り占め出来ることなんてきっと一生に一度のことよね。
とのんびり考えていたレイラは王都、王宮限定ケーキを端から端まで食べるという野望が達成できたことに満足し、ケーキビュッフェを楽しんでいた。





そんな中牽制を勝ち抜きレイラに声をかけたのは。



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