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閑話1
しおりを挟む「あなたはラクーンをご存知ですか?
ラクーンをお好きな方もいらっしゃるとは思いますが私はラクーンよりも獅子の方を好むのです。」
と言ったのは絵画を取り扱っている豪商の娘だったか、生地と共に毛皮も商っている商人上がりの男爵家の娘だったか。
はるか東方にのみ生息するという珍獣ラクーンをよく知っているなと教養の深さに思わず感心してしまった。
婉曲に自分の童顔と冴えない焦げ茶色の髪に母譲りのくるりとした瞳を詩的に貶められているのを聞いて怒りよりも上手いなという感情が湧いてしまう。
ブランシェット辺境伯家は建国時より続く由緒ある家柄だ。数代前には王家の姫君ですら降嫁してきたほどの。まず、商人や男爵家の娘とお見合いをしていることがおかしいのだ。
この国では癒しと美を司る月の女神を至上神とし、それに続いて太陽神を主に信仰している。
我が家は海沿いの領土で貿易を軸として成り立っているため、海と愛、豊漁の女神であるテティスを信仰しているが、それは特殊なパターンだろう。
月の女神は白銀の月兎を守護獣とし、女性の儚さ、可愛らしさを美徳とするのに対し、
太陽神は太陽を背負う朱金の焔獅子を守護獣としている。勇ましく、逞しい身体を持った雄々しい男性こそが女性の理想像となっているのだ。
つまり、令嬢は童顔でラクーン顔の垢抜けない男よりも太陽神のようなかっこいい男性がいいのでこのお見合いはお断りしたいですと言いたいのだろう。
父が母とのんびり過ごしたいからと勝手に爵位を譲渡して、母のために建造した巨大な帆船で諸外国を巡るクルーズに出てしまったため、
ブランシェット領を守るため伴侶を得ようとお見合いをするも、はるか格下の令嬢相手の見合いでさえ惨敗続きでため息も付ききり、口からは空気も言葉ももう出てこない。
せめてくるりとした瞳だけでも誤魔化そうと伊達眼鏡をかけて見合いに臨んだが、意味はなかったようだ。
焦げ茶の髪に瞳だが海の男らしい豪快で色香溢れるタイプの父は非常にモテたし、母はつぶらで深い海のような蒼く美しい瞳をしていて我が母ながら美しい女性だ。
2人ともからなんとも見事にモテない要素を引き継いでしまったようで女性たちからの評価は冴えない、男らしくない、しまいには腹が出ているわけでもないのにラクーンに似てますねだ。
来月には女王陛下に交易品をお見せするために謁見しなければならないというのにこのままでは。とは思うものの、この状況にドミニクは困り果てていた。
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